肺がん手術後は、息苦しさや咳、胸の痛み、体力低下などの症状が残ることがあります。症状や回復期間には個人差があるため、不安を抱く患者さんもいらっしゃいます。
本記事では、肺がん手術後に後遺症が起こる理由や、注意点、日常生活で気をつけたいポイントを中心に解説します。
目次
肺がん手術の前に知っておきたいこと
肺がんの治療には、手術以外にも身体の状態や病気の進行具合に合わせて、放射線治療や抗がん剤治療などが選ばれることがあります。
早期に発見されたがんや、手術で切除可能な場所にあるがんの場合は、すべて取り除くことを目指して、手術が推奨されるケースも少なくありません。
ただし、主治医は手術によって得られる効果と、身体への負担のバランスをじっくりと考えたうえで手術をするかしないかを判断します。気がかりなことがあれば、事前に詳しく話を聞くことが重要です。
肺がん手術後の後遺症とは?起こる理由を解説

肺がんの手術後は、息切れや痛み、咳などの症状が残ることがあります。ここでは、手術後に後遺症が生じる理由や、起こりやすい症状について解説します。
肺がん手術後に後遺症が起こる原因
肺がん手術後に後遺症が起こる主な原因の一つは、肺の一部または全体を切除することで、呼吸機能が低下することです。肺は酸素を取り込む役割があるため、手術後は息が上がりやすくなったり、疲れやすさを感じたりする場合があります。
また、手術では胸の周囲にある肋骨や筋肉、神経の近くを扱うため、胸の痛みやしびれ、違和感が残りやすいのも特徴です。
特に、開胸手術は身体への負担が大きくなりやすい一方で、胸腔鏡(きょうくうきょう)手術は傷が小さく、比較的負担を抑えられるのが特徴です。
ただし、手術後の後遺症は手術方法だけで決まっているとは限りません。肺葉切除・区域切除・全摘など、肺を切除する範囲によって異なります。
肺がん手術後に起こりやすい後遺症
肺がん手術後に起こりやすい主な後遺症は、以下のとおりです。
- 息苦しさ
- 咳や痰が続く
- 胸の周りの痛み
- 食欲不振
- 体力低下
- 胸やわき腹のしびれ・違和感
肺を切除すると、手術前よりも一度に吸い込める空気の量が少なくなります。そのため、階段の上り下りや少し長めのウォーキングといった日常の動作でも、息切れや疲れを感じやすくなることもあります。
さらに、一時的に食欲が減退したり、ベッドの上で過ごす時間が長かったために体力が落ちてしまうことも珍しくありません。胸やわき腹のしびれや違和感は、手術の際に神経の通り道の近くに触れたことが原因として考えられます。
回復のペースや症状の感じ方は人それぞれですが、日常生活の中でつらいと感じたら、医師に相談しましょう。
肺がん手術後の息苦しさはいつまで続く?
肺がん手術後の傷の痛みは通常2か月から3か月で和らぎますが、肋間神経への刺激により、チクチク感や違和感が1年ほど続く場合もあります(※1)。
その一方で、呼吸に必要な筋肉の衰えや、術後の炎症で胸に水(胸水、次章に詳細説明あり)がたまって肺が広がりにくい場合は、息苦しさが続いてしまうこともあります。
肺がん手術後に肺に水がたまる原因とは
手術後に主治医から「肺に水がたまっている」と告げられると驚くかもしれませんが、その多くは、肺の外側にある空間に水がたまる「胸水(きょうすい)」という状態を指しています。この胸水は、実は健康な状態でも存在し、大切な役割を果たしていますが、手術のダメージによる胸の中の炎症や、身体の水分バランスの変化によって、一時的に増えてしまうことがあります。
水の量が少ないと、基本的に時間の経過とともに自然と身体へ吸収されていくため心配ありません。ただ、胸水の量がさらに増すと、その水が邪魔をして肺が十分に広がらなくなり、胸の重苦しさを感じるようになってしまいます。
つらい症状が続く、もしくは胸水が思うように減らない場合は、お薬で調整したり、針を用いてたまった水を排出する処置をしたりと、呼吸を楽にする治療が検討されます。
肺がん手術後の合併症と注意点

肺がん手術後に見られる代表的な合併症と、高齢者の方が特に気をつけたいポイントについてお伝えします。
代表的な術後合併症
肺がん手術後に起こる代表的な合併症には、主に以下のようなものが挙げられます。
- 無気肺(むきはい)
- 肺炎
- 血栓症(けっせんしょう)
- 肺瘻(はいろう)
- 膿胸(のうきょう)
- 乳び胸(にゅうびきょう)
無気肺とは、肺の一部に空気が行き届かなくなり、しぼんでしまう状態のことです。手術後は傷口が痛むため、深い呼吸がしづらくなり、痰を上手に吐き出せないことがあります。そうなると、肺に詰まった痰によって細菌が増えて肺炎を起こしやすくなるため、注意が必要です。
さらに、ベッドの上で長時間横たわっていると血液の流れが悪くなり、血の塊ができる血栓症を起こす危険性もあります。肺から空気が漏れ出てしまう肺瘻(はいろう)については、治まらない場合に追加の治療を行うこともあります。他にも、胸の中に膿がたまる「膿胸(のうきょう)」や、食事から吸収された脂肪分を含むリンパ液(乳び)が、胸の中に漏れ出てたまってしまう「乳び胸(にゅうびきょう)」が起こるケースも見られます。
発熱や強い息苦しさ、胸の痛みがある場合は、肺炎や膿胸などの合併症が関係している可能性もあるため、気になる症状がある場合は自己判断せず、早めに医療機関へ相談しましょう。
高齢者が注意したいポイント
肺がんを手術した高齢の方は体力や筋力が落ちやすいため、若い方と比べると回復までに時間がかかってしまうものです。特に入院生活の中ではベッドで横になる時間が長くなりやすいため、歩く力や立ち上がる力、自分で何かをしようとする筋力が衰えてしまうことがあります。そのような状態が続いてしまうと、食事や着替え、トイレ、入浴などの毎日を過ごすうえで大切な動作がスムーズにいかなくなり、ADL(日常生活動作)が低下してしまう原因にもなりかねません。
また、飲み込む力が弱くなると、食べ物や唾液が誤って気管に入り、誤嚥性肺炎を起こすリスクも高まります。術後の回復を支えるためには、無理のない範囲で身体を動かし、呼吸や歩行のリハビリを続けることが大切です。筋力低下を防ぐことは、退院後の生活を安定させるうえでも重要なポイントです。
肺がん手術後の生活|仕事復帰や日常生活への影響

肺がん手術後は体力の低下や息切れなどにより、これまでの日常生活に戻るまで時間がかかることがあります。無理をすると、疲労感が強くなったり、回復が遅れたりする場合もあるため注意が必要です。
ここでは、仕事復帰の目安や、日常生活で起こりやすい悩み、手術後に気をつけたいポイントについて解説します。
仕事復帰はいつできる?
肺がん手術後に仕事復帰できるタイミングは、手術内容や回復状況、そして仕事の内容によって異なります。例えば、デスクワークといった身体全体をあまり動かさない仕事であれば、早期の復帰を目指せる場合があります。
その一方で、重い荷物を運ぶ作業や長時間の立ち仕事、外回りなど、身体の負担が重い職種の場合は、どうしても息切れや疲れが出やすくなるものです。焦らずに、身体を休める期間を確保することをおすすめします。
仕事復帰の時期は自己判断せず、主治医に相談しながら決めましょう。復帰後も、時短勤務にする、業務量を調整するなど、段階的に身体を慣らしていくことが大切です。
日常生活でよくある悩みと気をつけること
肺がん手術後の日常生活では、「疲れやすい」「階段や坂道を上ると息が切れてしまう」「外に出るのが何となく不安…」といったお悩みを抱えることがあります。
切除した肺の機能や体力が元に戻るまでにはある程度時間がかかるため、こまめに休憩を挟みながら、ご自身のペースで少しずつ動く時間を増やしていきましょう。
体力が落ちている時期は、風邪や肺炎などの感染症にかかりやすくなります。帰宅後に手洗いやうがいをしっかり行う、体調が優れないときは人混みを避けるなど、普段から基本的な予防を心がけましょう。
また、医師や理学療法士の指導を受けながら、無理のない範囲で呼吸のリハビリや軽いお散歩を続けることも、息切れを軽くしたり体力を取り戻したりするための大きな助けになります。
肺がん手術後の抗がん剤治療|しない選択はできる?
ここでは、肺がん手術後の抗がん剤治療が行われる目的や、抗がん剤治療をしない選択を考えるケースについて解説します。
術後抗がん剤治療の目的
術後の抗がん剤治療は、手術で目に見えるがんを全摘した後に、将来の再発リスクをできるだけ低くするために行うものです。一般的に「補助化学療法」とも呼ばれています。
たとえ手術が成功してがんを取り除けたとしても、現在の検査では見つけられないほど小さな「がんの卵」のような細胞が、体内に残っているかもしれません。そうした小さながん細胞が、時間の経過とともに再び大きくなるのを防ぐために、お薬の力を借りるのです。
とはいえ、術後の抗がん剤治療がすべての方に適用されるわけではありません。がんのステージや再発の可能性、患者さんご本人の体力、他に抱えている病気などを考慮したうえで、治療を行うことで長生きできる可能性が高まると判断された場合に提案されます。
抗がん剤をしない選択を考えるケース
抗がん剤治療は、手術を受けたすべての方が必ず受けるものではありません。実際にこの治療を行うかどうかは、再発のリスクだけでなく、ご年齢や体力、他に抱えている持病、術後の回復具合などを総合的に考えたうえで決まっていきます。
特に高齢の方や体力が減退している方、心臓や腎臓などに持病がある場合は、副作用による身体への負担が大きくなる場合があります。また、「強い吐き気やだるさに襲われたらどうしよう」「ご飯が食べられなくなったり、髪の毛が抜けたりするのがつらい…」などと副作用を心配して、治療を受けるべきか迷う方も少なくありません。
「抗がん剤治療をしない」という選択肢を考える際には、治療により期待できるメリットと、副作用が日々の生活に与える影響を、整理することが大切です。QOL(生活の質)を何より大切にしたいという思いも含めて、主治医の先生とよく話し合い、ご自身の身体の状態や希望に合う治療方針を一緒に見つけていきましょう。
肺がん手術に不安を感じたときは専門家へ相談を

肺がん手術後に現れる後遺症や合併症は、どのような手術方法だったか、肺をどのくらい広く切り取ったか、そしてご本人の体力や残された肺の状態などによって、一人ひとり異なります。息苦しさや痛みが続いたり、なかなか体力が戻らなかったりすると、先のことをネガティブに考えてしまい、不安を抱くでしょう。
こうした症状は、早めに相談することで原因を確認しやすくなり、予防や生活の工夫につなげられる場合があります。また、手術前から治療のことやこれからの暮らしに不安がある場合も、一人で抱え込まずに、専門のスタッフを頼りましょう。
がんメディでは、肺がんの手術に関する疑問や、術後の暮らしの中での小さなお悩みについても、いつでもお気軽にご相談いただけます。
(※1)国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院|肺の手術を受けた患者様へ

















