甲状腺乳頭癌は、甲状腺にできるがんの中でもっとも多いタイプです(※1)。比較的ゆっくり進行し、予後が良いとされているものの、「手術は本当に必要なの?」「転移や再発は大丈夫?」と不安を感じる方も少なくありません。
この記事では、甲状腺乳頭癌の特徴や症状、原因をはじめ、検査・治療法、手術後の生活までわかりやすく解説します。
目次
甲状腺乳頭癌とは?

甲状腺は、のどぼとけの少し下に位置し、蝶が羽を広げたような形をした小さな臓器です。気管を包むように位置し、身体の新陳代謝を整える「甲状腺ホルモン」を分泌しています。このホルモンは、体温のコントロールやエネルギーの消費、心臓の働きなど、生きていくうえで欠かせない役割を担っています。
甲状腺がん全体の約90%を占める乳頭癌は、女性に多く発症する傾向がありますが、進行が緩やかなため命に関わる状態になることはごくまれです(※1)(※2)。
甲状腺乳頭癌の症状と原因

ここでは、甲状腺乳頭癌がどのような症状で現れるのか、そして原因として指摘されている要素について見ていきましょう。
気づきにくい?主な症状
甲状腺乳頭癌は進行が比較的遅く、初期には自覚症状がほとんど現れません。主な症状には、次のようなものがあります。
- 首の前側のしこり
- 声のかすれ
- 飲み込みにくさ・息苦しさ
多くの場合は健康診断や人間ドックの超音波検査で偶然見つかります。首に気になるしこりを感じた際は、早めに内分泌内科・甲状腺内科がある医療機関を受診しましょう。
甲状腺乳頭癌の原因となりやすい人
甲状腺乳頭癌が発生する原因は、完全には特定されていません。生活習慣との関連性もはっきりわかっていないため、「特定の行動が原因で発症した」と特定できないのが現状です。
リスクを高める要素として、過去の首周りへの放射線治療や幼少期における大量の放射線被ばく、家族に甲状腺がんの既往歴があるといった遺伝的な要素も指摘されています。しかし、これらに該当する方すべてが発症するとは限りません。
甲状腺乳頭癌の検査とステージ分類
甲状腺にしこりが見つかったら、それが乳頭癌かどうかを調べる検査が行われます。
ここでは、診断までの流れと、がんの進行具合を示す「ステージ」について解説します。
甲状腺乳頭癌で行われる検査
検査は、まず「超音波(エコー)検査」から始まるのが一般的です。機器を首に当て甲状腺の中を画像で確認し、しこりの大きさや形、性質を調べます。痛みもなく、身体への負担が少ない検査です。
超音波検査でがんの疑いがある場合は、「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」を行います。これは細い針をしこりに刺して細胞を少量採取し、顕微鏡でがん細胞かどうかを確認する検査です。この結果によって、乳頭癌の診断が確定します。
ステージ(病期)の分類と特徴
がんの大きさや広がり、および転移の有無に基づいて決定されるステージ(病期)は、治療方針を立てるうえでの重要な目安となります。
甲状腺乳頭癌のステージ分類には、他のがんにはない大きな特徴があり、患者さんの年齢が進行度の評価に大きく関わってきます。
一般的に若い人ほど予後が良好なため、55歳を境に分類の基準が変わります(※3)。55歳未満の方は、遠隔転移(肺や骨などへの転移)がない限りはすべて「ステージⅠ」となり、遠隔転移があっても「ステージⅡ」と分類されます(※3)。これは、若い世代では転移があっても適切な治療で良好な経過をたどることが多いためです。
甲状腺乳頭癌の治療法

甲状腺乳頭癌の治療では、患者さん一人ひとりの状態に応じて、手術や放射線治療、薬物療法を組み合わせて適切な治療法を選択します。ここでは、それぞれの治療法について見ていきましょう。
手術
甲状腺乳頭癌の治療の基本は手術です。甲状腺の一部(がんのある側)だけを切除する「片葉切除(へんようせつじょ)」と、甲状腺をすべて取り除く「全摘(ぜんてき)」があり、がんの大きさや広がり、転移の有無などに基づいて選択されます。
また、首のリンパ節に転移がある場合や、転移が疑われる場合には、リンパ節を取り除く「リンパ節郭清(かくせい)」を同時に行うこともあります。
放射線治療
放射線治療には、大きく2つの方法があります。
| 方法 | 内容 | 主に行われるケース |
|---|---|---|
| 放射性ヨウ素内用療法 (内照射) | 放射性ヨウ素の入ったカプセル などを飲み、体内に残った 甲状腺の細胞やがん細胞に 取り込ませて、 内側から放射線でダメージを与える | ・全摘手術後の再発予防 ・転移した細胞の治療 |
| 外照射 | 体外から放射線を照射する | ・手術で取り切れない場合に行う |
薬物療法
薬を使った治療には、いくつかの種類があります。状態に応じて、次のような薬が使われます。
| 薬の種類 | 特徴・目的 |
|---|---|
| TSH (甲状腺刺激ホルモン) 抑制療法 | ・TSHによるがん細胞の増殖促進を防ぐ ・甲状腺ホルモン剤を服用してTSHを低く抑え、再発・進行を防ぐ ・全摘後のホルモン補充を兼ねることもある |
| 分子標的薬 | ・再発や転移があり、他の治療が難しいと判断された場合に使う ・がんの増殖に必要な分子をピンポイントで狙う ・副作用が出ることもある |
| 細胞障害性抗がん薬 (化学療法) | ・一般的な抗がん剤 ・甲状腺乳頭癌では効果があまり高くなく、使う機会は少ない |
甲状腺乳頭癌の転移・再発と予後
甲状腺乳頭癌は、首周りのリンパ節に転移することが比較的よく見られます(※4)。ただし、リンパ節への転移があっても、適切に治療すれば経過が良好である場合が多く、過度に心配する必要はありません。なお、遠隔転移は少ないとされています。
甲状腺乳頭癌の生存率は、がんの中でも高い部類に入り、予後の良いがんとして知られています。
ただし、再発の可能性がゼロというわけではありません。手術から何年も経ってから再発することもあるため、治療後も定期的に検査を受け、長期的に経過観察することが何より大切です。
甲状腺乳頭癌の手術後に気をつけたいこと

手術が無事に終わっても、身体には少なからず変化が起こることがあります。ここでは、手術後に起こりうる後遺症と、日頃の体調管理のポイントを紹介します。
手術後に起こりうる後遺症
甲状腺は発声や身体の調整機能を担う神経・臓器の近くにあるため、手術後に次のような症状が出ることがあります。
| 起こりうる後遺症 | 主な原因と症状 |
|---|---|
| 声のかすれ (嗄声:させい) | 声帯を動かす神経の近くを操作することで発生し、一時的なことが多いが長引く場合もある |
| 血液中の カルシウムの低下 | 甲状腺の裏にある「副甲状腺」の働きが低下すると起こり、手足のしびれなどが生じることがある |
| 乳び漏 (にゅうびろう) | リンパの管から液がもれることがある |
全摘した場合は、不足する甲状腺ホルモンを薬で補う必要があります。
手術後の体調管理
手術後は再発の有無を確認するために、定期的に通院し、血液検査や超音波検査による経過観察を続けます。特に全摘した方は、甲状腺ホルモン剤を毎日飲み続けることが大切です。飲み忘れると、だるさや冷え、むくみなどの不調が生じることがあります。
体調が落ち着けば、日常生活は手術前とほぼ変わらず送れることがほとんどです。特別な食事制限も、基本的にはありません。気になる症状があれば自己判断せず、担当医に相談しながら、無理のないペースで過ごしていきましょう。
甲状腺乳頭癌の治療に迷ったときは専門家へ相談を
甲状腺乳頭癌は予後の良いがんとされますが、「本当に手術が必要?」「転移や再発が心配」「この治療法が自分に合っているの?」など、不安や迷いを抱える方は多いものです。
そうしたときは一人で抱え込まず、医師などの専門家に相談することをおすすめします。診断や治療方針についてのセカンドオピニオンも含め、納得して治療を進めるための相談窓口を活用してみてください。
(※1)国立研究開発法人国立がん研究センター|甲状腺がんについて
(※2)順天堂大学医学部附属順天堂医院|甲状腺がん
(※3)国立研究開発法人国立がん研究センター|甲状腺がん 治療
(※4)国立研究開発法人国立がん研究センター|甲状腺がん 全ページ表示


















