なぜNucleolin(ヌクレオリン)を標的とすることが、がん治療として注目されているのか
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なぜNucleolin(ヌクレオリン)を標的とすることが、がん治療として注目されているのか

がん治療では、がん細胞だけに多く存在する分子や、がん細胞が生き残るために利用している分子を見つけ、それを治療標的とする研究が進められています。

その中の一つが、

Nucleolin(ヌクレオリン:NCL)

です。

Nucleolinは本来、主に細胞の「核小体」という場所に存在するタンパク質で、

  • リボソームの形成
  • RNAの代謝
  • 細胞増殖
  • 細胞生存

など、細胞にとって重要な働きに関わっています。

ところが、がん細胞ではNucleolinの量が増えるだけでなく、本来いるはずの核内だけではなく、

細胞質や細胞表面にも多く現れる

ことがあります。

この「がん細胞の表面にNucleolinが多く存在する」という特徴が、がん治療の標的として注目されている大きな理由です。

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目次

Nucleolinが多いがんでは予後が悪いという報告

2022年に報告されたメタ解析では、8種類のがん、12研究、合計1,221人の患者さんについてNucleolinと予後の関係が解析されました。

その結果、Nucleolin全体の発現量が高い患者群では、全生存期間の悪化との関連が認められました。

特に興味深いのが、

細胞質に存在するNucleolin(cytoplasmic Nucleolin)

です。

細胞質Nucleolinが高い患者群では、

  • 全生存期間の悪化:HR 4.32
  • 無病生存期間の悪化:HR 3.00

との関連が報告されています。

つまりNucleolinでは、「どれくらい存在するか」だけでなく、
細胞のどこにNucleolinが存在しているのか

も、がんの性質を考える上で重要である可能性があります。

参考:Yangngam S, et al. Cellular localization of nucleolin determines the prognosis in cancers: a meta-analysis. J Mol Med (Berl). 2022;100(8):1145-1157. PMID:35861882 DOI:10.1007/s00109-022-02228-w

Nucleolinそのものを抑えるとどうなるのか

「Nucleolinが多いがんほど悪性度が高い」という関連だけでは、Nucleolinががんの原因の一部なのか、単なる結果なのかは分かりません。

そこで研究されているのが、

Nucleolinそのものを抑える実験

です。

上咽頭がん細胞を使った研究では、Nucleolinをantisense oligonucleotideによって低下させると、

がん細胞にアポトーシス(細胞死)が誘導

されました。

一方、正常粘膜細胞では同じような強いアポトーシスは認められませんでした。

つまりNucleolinは単なる「がん細胞の目印」だけではなく、

がん細胞が生存するために利用している分子の一つ

である可能性があります。

参考:Nucleolin antisense oligodeoxynucleotides induce apoptosis and may be used as a potential drug for nasopharyngeal carcinoma therapy. PMID:21956494 DOI:10.3892/or.2011.1476

DNAアプタマーでNucleolinを狙う

Nucleolin研究で特に注目されているのが、

AS1411というDNAアプタマーです。

AS1411は26塩基からなる、グアニンを多く含むDNAオリゴヌクレオチドです。

「G-quadruplex」と呼ばれる特殊な立体構造を形成し、Nucleolinに高い親和性で結合します。

アプタマーとは、簡単にいえば、

特定のタンパク質を見つけて結合するよう設計された短い核酸

です。

抗体が特定のタンパク質を認識して結合するのと、少し似た考え方です。

AS1411は、がん細胞表面に存在するNucleolinへ結合した後、がん細胞内へ取り込まれると考えられています。

そのためNucleolinアプタマーには、

1.Nucleolinそのものの働きを阻害する

ことに加えて、

2.Nucleolinを目印としてがん細胞へ選択的に入り込む

という二つの意味があります。

参考:Bates PJ, et al. Discovery and development of the G-rich oligonucleotide AS1411 as a novel treatment for cancer. Exp Mol Pathol. 2009;86(3):151-164. PMID:19454272 DOI:10.1016/j.yexmp.2009.01.004

AS1411自体にも抗腫瘍作用が報告されている

AS1411は単に、薬をがん細胞まで運ぶための「目印」として研究されているだけではありません。

さまざまながん細胞を使った基礎研究では、AS1411自体にも選択的な増殖抑制作用が報告されています。

例えば神経膠腫(glioma)の研究では、AS1411によって、

  • がん細胞の生存率低下
  • 細胞周期停止
  • アポトーシス増加
  • 細胞移動の低下
  • 浸潤の低下

などが認められました。

さらに、

  • p53上昇
  • Bcl-2低下
  • Akt1低下

など、がん細胞の生存に関係するシグナルの変化も報告されています。

動物モデルでは腫瘍増殖抑制や生存期間延長も認められています。

参考:AS1411-Induced Growth Inhibition of Glioma Cells by Up-Regulation of p53 and Down-Regulation of Bcl-2 and Akt1 via Nucleolin. PMID:27907160

Nucleolinが多いほどAS1411が効きやすい可能性

さらに興味深い研究があります。

Nucleolinの発現量を増やすと、

AS1411に対するがん細胞の感受性が高くなる

ことが報告されています。

つまりAS1411の作用は、単なる非特異的なDNAの作用ではなく、

Nucleolinとの結合に依存している可能性

を支持する結果です。

参考:Sharma VR, et al. Nucleolin Overexpression Confers Increased Sensitivity to the Anti-Nucleolin Aptamer, AS1411. Cancer Invest. 2018;36(9-10):475-491. PMID:30396283 DOI:10.1080/07357907.2018.1527930

Nucleolinは抗がん剤耐性にも関係する

Nucleolinが注目されているもう一つの理由が、

抗がん剤耐性

との関係です。

子宮頸がんの研究では、シスプラチン耐性を持つがん細胞でNucleolinが増加していました。

Nucleolinを増やすと、

  • がん細胞の増殖増加
  • シスプラチン感受性低下
  • MDR1増加
  • 薬剤排出増加

が認められました。

反対に、siRNAによってNucleolinを低下させると、

シスプラチンへの感受性が改善

しました。

研究では、Nucleolin→YB1→MDR1→抗がん剤を細胞外へ排出→薬剤耐性、という仕組みが示されています。

参考:Ke J, et al. Nucleolin Promotes Cisplatin Resistance in Cervical Cancer by the YB1-MDR1 Pathway. 2021. PMID:33976698 DOI:10.1155/2021/9992218

血液がんでも「抗がん剤を効きやすくする」可能性

2023年には急性リンパ性白血病(ALL)を対象とした興味深い研究も報告されています。

B細胞性ALLでは、Nucleolin高発現が、

  • 再発
  • 予後不良

と関連していました。

さらにNucleolinを標的とするAS1411を使用すると、細胞実験だけでなく、患者由来がん細胞を移植した動物モデルでも、

抗がん剤に対する感受性が高まり、マウスの生存期間が延長

しました。

つまり、Nucleolinを阻害→薬剤耐性を弱める→抗がん剤を効きやすくする、という治療戦略が考えられます。

参考:Chen Y, et al. Targeting nucleolin improves sensitivity to chemotherapy in acute lymphoblastic leukemia. Cell Oncol (Dordr). 2023;46(6):1709-1724. PMID:37486460 DOI:10.1007/s13402-023-00837-2

Nucleolinの大きな特徴。実際にヒトで治験が行われている

ここまで紹介した研究の多くは細胞実験や動物実験です。

しかしNucleolinには、他の多くの核酸医薬標的とは少し異なる特徴があります。

それが、

Nucleolinを標的とするDNAアプタマーAS1411が、実際にヒトへ静脈投与され、Phase I・Phase II臨床試験まで進んでいる

という点です。

これは、Nucleolinをがん治療標的として考える上で重要な情報です。

転移性腎細胞がん35人を対象としたPhase II試験

転移性淡明細胞型腎細胞がんの患者さん35人を対象としたPhase II試験では、AS1411が実際に静脈投与されました。

投与量は、

40 mg/kg/日を4日間、持続静脈投与

という比較的高用量でした。

28日を1サイクルとして2サイクル行われています。

腫瘍量が84%減少した患者様が報告されています。

さらにこの患者さんでは、

治療終了から2年後にも病勢進行がみられない

という非常に長い反応が報告されています。

数回の点滴で一時的な阻害効果ではなく、Nucleolinの経路そのものを打ち壊したような興味深い結果が出ています。

安全性についても、AS1411関連有害事象は34%で認められましたが、この試験ではすべて軽度または中等度でした。

参考:Rosenberg JE, et al. A phase II trial of AS1411 (a novel nucleolin-targeted DNA aptamer) in metastatic renal cell carcinoma. Invest New Drugs. 2014;32(1):178-187. PMID:24242861 DOI:10.1007/s10637-013-0045-6

Nucleolinは「がん細胞への入口」としても研究されている

Nucleolinにはもう一つ興味深い特徴があります。

がん細胞表面のNucleolinに結合したAS1411は、がん細胞内へ取り込まれます。

そこでAS1411を、

がん細胞へ薬を運ぶための誘導装置

として利用する研究も数多く行われています。

AS1411と組み合わせる研究対象として、

  • doxorubicin
  • paclitaxel
  • siRNA
  • miRNA
  • nanoparticle
  • liposome
  • DNA nanostructure

などが報告されています。

つまりNucleolinアプタマーには、

1. Nucleolinそのものの機能を抑える

2.Nucleolin陽性のがん細胞へ選択的に取り込ませる

3. 他の薬剤や核酸をがん細胞へ運ぶ

という複数の研究上の意味があります。

Nucleolinという治療標的をどう考えるか

これまでの研究をまとめると、Nucleolinには大きく次の特徴があります。

1.多くのがんで過剰発現している

2.がん細胞では細胞表面にも多く存在する

3.Nucleolinそのものを抑えることで、がん細胞の増殖や生存を阻害できる可能性がある

4.DNAアプタマーAS1411自体に抗腫瘍作用が報告されている

5.抗がん剤耐性にも関与する可能性がある

6.Nucleolinを目印として、薬剤や核酸をがん細胞へ運べる可能性がある

という特徴があります。

特にNucleolinの興味深い点は、

「がん細胞そのものの機能を抑える標的」であると同時に、「がん細胞へ治療物質を届けるための入口」にもなり得る

ことです。

Nucleolinアプタマー治療への期待と、現在分かっている限界

Nucleolinは、基礎研究だけを見ると非常に興味深いがん治療標的です。

さらに、Nucleolinを標的とするDNAアプタマーAS1411については、

実際にヒトへ静脈投与され、Phase I・Phase II臨床試験まで行われている

という点も重要です。

したがってNucleolinは、単なる実験室レベルの仮説だけで研究されている標的ではなく、

実際のヒトへの治療応用まで検討された実績のある標的

ということができます。

一方で、AS1411のPhase II試験では、一部に非常に大きく持続的な奏効が認められたものの、患者全体としての奏効率は高く無く、標準治療として有効性が確立するところまでは至っていません。

現在、一部の自由診療医療機関では、Nucleolinを標的とするDNAアプタマーを利用した治療も行われています。

Nucleolinという標的そのものについては、細胞実験、動物実験だけでなく、AS1411によるヒト臨床試験まで行われていることから、がん治療標的として一定の科学的・臨床的研究基盤を持つ、興味深い分子と考えることができます。

しかも、自由診療で使用されているNucleolinアプタマーはAS1411のころよりも改良がされ血中での半減期が大幅に長くなっているものになっています。

腎臓がん以外の患者様の方が理論的には可能性がる標的ではあるものの、他のがんではどれくらい効果があるか立証されてはいません。

今後、どのようながん、どのようなNucleolin発現を持つ患者さんに効果が得られやすいのか、さらに臨床研究が進むことが期待されます。

竹内 規夫

がんメディカルサービス株式会社 代表取締役|がん治療専門コンサルタント

がん相談実績20,000件以上の実績を誇る、がん治療コンサルタント。
メディアにも多く取り上げられ、「産経ニュース」、「賢者グローバル」、「医療最前線」(千葉テレビ)、「AERA」(朝日新聞出版)、「FLASH」(光文社)、「現代ビジネス」(講談社)など出演多数。

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