2023年に国が公表したデータによると、日本では年間10万人以上の女性が乳がんと診断されています(※1)。
乳がんの放射線治療は、手術後の再発リスクを抑える目的などで行われます。治療の必要性や照射範囲、治療期間は手術方法や病理検査の結果、リンパ節転移の有無などによって異なります。
本記事では、乳がんの放射線治療が必要になるケースや治療の流れ、照射回数、費用、副作用、仕事や生活の影響について解説します。
目次
乳がんの放射線治療とは?なぜ必要?
放射線治療は、がん細胞に放射線を照射して、細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする治療です。手術や薬物療法と並ぶ、がんの主要な治療法の一つです。手術のように病変を切除するのではなく、対象部位に放射線を当てる局所治療に分類されます。
乳房部分切除術(乳房温存手術)では、画像検査などで確認できる病変を切除しても、微小ながん細胞が残っている可能性があります。術後に放射線を照射することで、温存した乳房内での再発リスクを下げることを目的とします。
薬物療法は血液を介して全身に作用する治療であるのに対し、放射線治療は照射した部位を中心に効果を発揮するのが特徴です。どの治療をどのように組み合わせるかは、がんの種類や進行、組織の性質、患者さんの全身状態などを踏まえて決定されます。
乳がんの治療法や副作用の全体像を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:乳がん治療と副作用について
乳がんで放射線治療が必要になるケース

乳がんの放射線治療の必要性は、手術方法や病理検査の結果、ステージ、リンパ節転移の有無などをもとに総合的に判断されます。
乳房部分切除術(乳房温存手術)を受けた場合、原則として残った乳房の組織に術後照射を行うとされています。ただし、高齢でしこりが小さく、ホルモン療法が有効なタイプなど、乳房内での再発リスクが低いと判断された場合には、放射線治療の省略が検討されることがあります。
一方で乳房全切除術の後であっても、腫瘍の大きさやリンパ節転移の有無などの状況次第で、手術した側の胸壁や鎖骨上などに照射することも少なくありません。
「部分切除だから必ず放射線治療が必要」「全摘だから放射線治療は不要」と一律に判断できるわけではないため、ご自身の病理検査の結果や治療の目的、放射線治療を受けない場合のリスクについて、担当医に確認しましょう。
乳がんの放射線治療の流れ・期間

乳がんの放射線治療は、担当医の説明から始まり、治療計画を立てたうえで、決められた回数を通院して照射を行います。
ここでは、治療開始までの流れと、照射回数・通院期間の目安を解説します。
治療開始から終了までの流れ
治療計画を立てるためのシミュレーションを行い、CTなどを用いて治療部位を撮影し、どの部分にどのくらいの線量を照射するかを決めます。
照射は治療計画に沿って専用の装置で行います。放射線を照射している間に痛みや熱を感じることは通常ありませんが、身体を動かさないように姿勢を保つ必要があります。
照射回数と通院期間
乳がんの放射線治療は、通常1日1回、月曜日から金曜日までの週5回の頻度で行います(※2)。乳房温存手術後の照射では、個人差や状況で異なりますが、約4週間から6週間かけて行うのが一般的です(※2)。ただし、追加照射やリンパ節への照射がある場合は、これより長くなることもあります。
照射のペースや期間は状況に応じて選ばれます。従来は、1回2.0グレイを23回から25回、総線量46グレイから50グレイを、約5週間かけて照射する方法が一般的でした。近年は、1回あたりの線量をやや増やし、15回から20回で照射する寡分割照射(かぶんかつしょうしゃ)も、従来の方法と同等の治療として推奨されています(※3)。
回数や期間は照射する範囲や治療施設の方針によっても異なります。治療開始前に、通院の予定表を確認しておくと安心です。
放射線治療と抗がん剤治療の副作用や費用、期間の違いを知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
関連記事:抗がん剤と放射線治療、どちらがつらい?副作用・費用・期間を比較
乳がんの放射線治療にかかる費用
放射線治療の費用は、治療内容によって異なります。ここでは、費用を左右する要素と自己負担の考え方、負担が大きくなった際に利用できる高額療養費制度について解説します。
費用を左右する要素と自己負担
放射線治療の費用は、照射回数だけで決まるわけではありません。照射する部位や線量、治療計画、使用する装置、診察・検査の内容などによって異なります。照射回数が少ないほど費用を抑えられるとは限らず、1回あたりの金額だけで単純に比較することはできません。
標準的な放射線治療は、公的医療保険の対象となる場合があります。ただし、保険適用の範囲や自己負担金額は、治療法や年齢、所得、加入している健康保険などによって異なるので、医療機関の相談窓口で治療前に見込み額を確認しましょう。
高額療養費制度を利用できる場合
医療機関や薬局で支払った医療費の自己負担額が、1カ月の自己負担限度額を超えた場合、超過分が支給される高額療養費制度があります。この限度額は年齢や所得区分などによって異なり、対象外となる費用も含まれます。
制度の利用方法や、窓口での支払いを限度額までに抑えられるかどうかは、加入している健康保険の窓口や医療機関の相談員に確認しましょう。
乳がんの放射線治療による副作用
放射線治療の副作用は、主に照射した部位に現れます。治療中や直後に出るもののほか、治療が終わってしばらくしてから現れるものがあり、その程度や出現する時期には個人差があります。ここでは、皮膚の変化、痛みやだるさ、時間が経ってから現れる副作用に分けて解説します。
皮膚炎や治療跡など皮膚の変化
放射線が照射された乳房や胸壁の皮膚に、赤みや乾燥、かゆみ、ひりつきなどの症状が現れることがあります。症状が強くなる時期や程度には個人差があり、治療終了後に皮膚がむけたり、水ぶくれのようになったりする場合も見られます。
治療後には、照射した部分の色素沈着や乳房の腫れ、硬さ、縮みなどが生じることがあります。ただし、すべての方に跡が残るわけではありません。照射方法や皮膚の状態によって経過は異なります。
痛み・だるさなどの症状と対処法
放射線治療中に、皮膚の痛みや全身の疲れ、だるさを感じる方もいます。症状が出る時期や強さには幅があるため、「いつまで続くか」を一律に予測することはできません。
皮膚を強くこすらず、指示された保湿剤を使用するなど、医療機関の案内に沿った対応が大切です。症状が強い時や皮膚がむけた場合は、自己判断で市販薬を使用せず、担当医師や看護師に相談するようにしましょう。
治療後しばらくして現れる副作用
放射線の副作用には、治療中や直後に起こるもののほかに、治療が終わってしばらく経過してから現れるものもあります。乳房への照射では、ごくまれに放射線肺臓炎を引き起こし、咳や微熱、息苦しさなどを伴うケースが挙げられます。頻度は約1%(100人に1人程度)とされています。
脇のリンパ節に照射した場合などには、腕がむくむリンパ浮腫が起こることがあり、頻度や程度は手術方法や照射方法によって異なります。なお、心臓への影響をできるだけ減らすため、照射方法や体位などが工夫されています。
放射線治療中の仕事・生活への影響
放射線治療では診察や位置確認で胸部を出す機会が多く、擦れによる皮膚への負担を減らすためにも、前開きで締め付けの少ない衣服を選ぶのが適切です。
治療は外来通院で行えるケースもあり、通院回数や副作用の程度によって、仕事への影響は異なります。休職が必要とは限らず、勤務時間の調整や在宅勤務などで対応できるケースもあります。疲れや皮膚症状がある場合は、放置せず担当医に相談してください。
放射線治療を受けない場合はどうなる?

乳がんの放射線治療を受けるかどうかは、年齢や病理検査の結果、腫瘍の性質、リンパ節転移、再発リスク、全身状態などを踏まえて決定します。治療を受けない場合の影響にも個人差があるため、インターネットの情報や治療回数だけで自己判断することは避けましょう。
特に乳房温存手術後に放射線治療を行わない場合、行った場合に比べて温存した乳房内での再発が増えることが示されています。
迷った場合は、以下の点について担当医に確認すると治療の必要性を整理しやすくなります。
- 放射線治療をすすめる理由
- 照射する部位と予定回数
- 治療を受けない場合に考えられるリスク
- 副作用が出た場合の対処法
- 費用と高額療養費制度の利用方法
説明を聞いても不安が残る場合は、放射線治療医への相談やセカンドオピニオン、がん相談支援センターの利用も検討できます。
乳がんのステージ別の生存率や再発リスクの考え方を知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
関連記事:乳がんのステージ別生存率と平均余命
乳がんの放射線治療に迷ったら専門家へ相談しよう
乳がんの放射線治療は、手術方法や病理検査の結果、照射範囲によって、必要性や回数、期間が異なります。照射回数や治療期間などのデータだけで、治療の良し悪しを判断することはできません。
治療の目的や副作用、費用、仕事への影響について疑問がある場合は、担当医や看護師に確認しましょう。自分に合った放射線治療の方法を知りたい場合は、一度相談してみるのもおすすめです。
(※1)国立研究開発法人国立がん研究センター|乳房
(※2)国立研究開発法人国立がん研究センター|乳がん 治療
(※3)一般社団法人日本乳癌学会患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版|Q35 乳房部分切除術後の放射線療法はどのように行われるのでしょうか


















