乳がんの手術と乳房切除について
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乳がんの手術と乳房切除について

乳がんは、日本人女性が生涯でもっとも多くかかるがんであり、国立がん研究センターの最新統計では、女性の約9人に1人が一生のうちに乳がんと診断されるとされています。

乳房を失うかもしれないという不安は、女性にとって非常に大きなものです。しかし近年は、センチネルリンパ節生検の普及、乳頭乳輪を温存できる術式、人工乳房(インプラント)や自家組織による乳房再建、遺伝性乳がんに対するリスク低減手術など、「手術で命を守りつつ、整容性も保つ」選択肢が広がっています。

本記事では、乳がんの手術方法、乳房再建、手術後の生活についてわかりやすく解説します。

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目次

乳がんの手術の目的と位置づけ

乳がんの手術には大きく2つの目的があります。

  • がんを取り除くこと(局所制御)
  • 切除した組織を病理検査で調べ、がんの性質やサブタイプを確定し、その後の薬物療法や放射線療法の計画を立てること

近年の乳がん治療は、手術・放射線療法・薬物療法(ホルモン療法、化学療法、抗HER2療法など)を組み合わせる「集学的治療」が基本です。手術だけで完結することは少なく、手術前後に薬物療法や放射線療法が加わるのが一般的です。

乳房に対する手術の種類

乳がんの手術は、大きく「乳房部分切除術(乳房温存手術)」と「乳房全切除術」に分けられます。

2つの方法においての選択基準は一般的に以下のような理由から判断されます。

  • がんの大きさ・広がり・数
  • 乳房内での位置
  • 乳房の大きさに対するがんの割合
  • 患者さんの希望(整容性、再建の希望、放射線治療を受けられる状況かなど)
  • 遺伝性乳がん(BRCA1/BRCA2病的バリアント)の有無

乳房部分切除術(乳房温存手術)

がんとその周囲の乳腺を部分的に切除し、乳房の大部分を残す術式です。術後は乳房内の再発を防ぐため、原則として放射線治療(全乳房照射)を行います。生存率は乳房全切除術と変わらないことがわかっており、早期乳がんの標準治療の1つです。

切除範囲が広いと乳房の変形や左右差が生じる場合があるため、事前に形成外科的な工夫(部分再建、オンコプラスティックサージャリー)を含めて担当医と相談することが重要です。

乳房全切除術(全摘術)

乳腺全体を切除する術式で、以下のような場合に選択されます。

  • がんが広範囲に広がっている、複数箇所にある
  • 部分切除では整容性が保てない(小さな乳房に対して大きな腫瘍がある)
  • 放射線治療が行えない、または患者さんが希望しない
  • BRCA遺伝子の病的バリアントがあり、リスクを下げたい

従来の「胸筋温存乳房切除術」に加え、近年は乳頭・乳輪・皮膚を残して乳腺のみを切除する「乳頭乳輪温存乳房切除術(Nipple-Sparing Mastectomy: NSM)」や、皮膚を可能な限り残す「皮膚温存乳房切除術(Skin-Sparing Mastectomy: SSM)」も広く行われるようになりました。これらは乳房再建と組み合わせることで、高い整容性を得やすくなります。

わきの下のリンパ節に対する手術

乳がんは進行に伴い、わきの下(腋窩)のリンパ節に転移することがあります。腋窩のリンパ節をどこまで切除するかについての考え方は、以前と比べ大きく変わりました。

センチネルリンパ節生検

センチネルリンパ節とは、がん細胞がリンパ管に入り、最初にたどりつくリンパ節のことです。術前の検査で腋窩リンパ節への転移が確認されていない場合、手術中にセンチネルリンパ節だけを採取して調べる「センチネルリンパ節生検」を行います。

乳癌診療ガイドライン2022年版では、センチネルリンパ節に転移がない場合、あるいは微小転移(2mm以下)の場合、腋窩リンパ節郭清を省略することが強く推奨されています。また、センチネルリンパ節に2mmを超える転移(マクロ転移)があっても、一定条件を満たせば郭清を省略できることがガイドラインで示されています。

腋窩リンパ節郭清

リンパ節への転移がはっきりしている場合や、センチネルリンパ節生検で多数の転移があった場合には、わきの下のリンパ節を周囲の脂肪組織ごと切除する「腋窩リンパ節郭清」を行います。郭清を行うと、腕のリンパ浮腫、感覚の鈍さ、肩の可動域制限などの後遺症が生じる可能性があるため、適応は慎重に判断されます。

手術後の放射線療法と寡分割照射

乳房部分切除術を受けた方の多くは、術後に温存した乳房全体への放射線治療(全乳房照射)を受けます。

従来は1回2グレイを25回、5週間かけて行う方法が標準的でしたが、近年は1回線量を増やして回数を減らす「寡分割照射」が標準治療として推奨されるようになりました。

全乳房照射において「寡分割照射は通常分割照射と同等の治療として推奨される」とされており、たとえば40~42.56グレイを15~16回に分けて照射する方法や、さらに短期間で完了する5回法(FAST-Forward試験の26グレイ/5回/1週など)の長期成績も報告されています。日本でも2020年から一部の寡分割照射に対して保険点数上の加算が認められており、通院期間を短縮できる選択肢として広がっています。

乳房再建

乳房全切除術を受けた方、あるいは部分切除でも大きな変形が生じる方を対象に、「乳房再建」が選択肢となります。乳房再建は、手術と同時に行う「一次再建」と、後日改めて行う「二次再建」があり、再発の発見を遅らせることはないとされています。

再建方法

  • 人工物(インプラント)による再建
    エキスパンダーで皮膚を伸ばし、シリコンゲル充填のブレスト・インプラントを入れる方法。乳房以外に傷がつかず入院期間が短いのが利点。2013年に保険適用。
  • 自家組織による再建
    自分の腹部(腹直筋皮弁・深下腹壁動脈穿通枝皮弁など)や背中(広背筋皮弁)の組織を移植する方法。自然な感触が得やすいが、乳房以外にも傷が残り、入院期間はやや長めとなる。

皮膚の状態、がんの広がり、体型、放射線治療の有無などによって、どの方法が適しているかが変わります。形成外科医と乳腺外科医が連携し、納得できる方法を選択することが大切です。

人工乳房(インプラント)とBIA-ALCL

人工乳房による再建について知っておきたい事項として、「ブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)」があります。これは、表面がざらざらした「テクスチャードタイプ」のインプラントで報告されている、きわめてまれな悪性リンパ腫です。

日本形成外科学会によると、国内で流通していたアラガン社のテクスチャードタイプのエキスパンダー・インプラントは、2019年7月にFDA(米国食品医薬品局)の指導を受けて自主回収・販売停止となりました。現在は、同社のスムーズタイプや、シエントラ社、エスタブリッシュメント・ラブス社のスムーズタイプ/マイクロテクスチャードタイプのインプラントが保険診療で使用されています。

BIA-ALCLの発生はきわめてまれで、発生した場合もインプラントと被膜の摘出で治癒が期待できるとされます。既に再建を受けている方は、定期検査(年1回程度の診察と2年に1回程度の画像検査)を継続することが推奨されています。

遺伝性乳がんとリスク低減手術

乳がん全体の5~10%は、BRCA1またはBRCA2という遺伝子の病的バリアント(変異)を原因とする「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)」に該当します。

2020年4月から、BRCA1/2病的バリアントが確認された乳がん患者さんに対する以下の検査・手術が日本でも保険適用となりました。

  • BRCA1/2遺伝学的検査
  • リスク低減乳房切除術(対側または未発症側の乳房切除)
  • リスク低減卵管卵巣摘出術
  • 再発・転移がんに対するPARP阻害薬(オラパリブなど)

遺伝学的検査を行うかどうか、検査後にどのような対応を取るかは、認定遺伝カウンセラーや遺伝診療科の医師とともに、十分に情報を得て検討することが大切です。

手術後の生活と心のケア

乳がんの治療は手術だけで完結することが少なく、術後の放射線治療や、数年にわたる内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法、分子標的治療などが続く場合があります。手術という大きなイベントを終えた後、どのように過ごすかは、その後の治療の質にも影響します。

無理をしない、周囲に頼る

多くの女性は家事、育児、仕事など多くの役割を担っています。手術後しばらくは、腕を大きく動かす動作や重い物を持つ動作が制限されます。家族や周囲に協力を仰ぐことは恥ずかしいことではなく、治療後の回復をスムーズにするうえで欠かせません。

不安との付き合い方

治療の節目ごとに、「再発しないか」「副作用は大丈夫か」といった不安を感じる方は少なくありません。国立がん研究センターの「がん相談支援センター」や、各自治体・患者会など、相談できる場所は多くあります。不安が強いときは、主治医だけでなく、がん看護専門看護師や心療内科・精神腫瘍科の受診も選択肢です。

健康的な生活を整える

適切な食事、適度な運動、十分な睡眠は、手術後の回復だけでなく、その後の治療による副作用の軽減にも役立ちます。急に大きく生活を変える必要はなく、できることから少しずつ整えていきましょう。

長引く症状やしこりに気づいたら

手術後、切除範囲や術式によっては、痛み・違和感・倦怠感・リンパ浮腫などの症状が続くことがあります。手術前にあらかじめ主治医に「起こり得る後遺症」を確認しておくと、過度に不安にならずに済みます。一般に、1か月以上続く症状や、新しく気づいたしこりがある場合は主治医へ相談しましょう。

おわりに

乳がん治療は、ここ10年で手術・放射線治療・薬物療法のいずれも大きく進歩し、治療の選択肢は広がりました。一方で、選択肢が多いぶん「自分にとって何がよいか」を考える時間や情報が必要になっています。

乳がんは、ほかの多くのがんと比べて進行が比較的ゆるやかな場合も多く、診断から手術までに少し時間をかけて治療方針を検討することも可能です。主治医の説明を十分に聞き、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、自分が納得できる治療を選んでいきましょう。

日本乳癌学会|乳癌診療ガイドライン2022年版
国立がん研究センター がん情報サービス|乳がん 治療
国立がん研究センター がん統計|乳房
国立がん研究センター東病院|乳がんの手術について
日本乳癌学会|BIA-ALCL(ブレストインプラント関連未分化大細胞型リンパ腫)の発生について
日本形成外科学会|乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の要点
日本乳癌学会|乳癌診療ガイドライン2022年版 放射線療法CQ1(寡分割照射)

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