2021年2月9日22時からの「ガイアの夜明け」で「独占取材!がんに立ち向かう ニッポンの最新技術」というタイトルで国産ロボット手術「ヒノトリ」と楽天の「光免疫治療」の特集が組まれました。
テレビでこういった内容のものが放送されると弊社に多くの問い合わせが殺到します。そのうち特に「光免疫治療」については反響が大きいので、この記事である程度説明しておきたいと思います。
目次
小林久隆先生
この治療方法は日本人医師の小林久隆先生によるものです。アメリカのオバマ大統領が演説でこの治療に触れたことで、爆発的に知名度が上がった治療になります。
小林先生は学生時代はがんの遺伝子治療に興味があったみたいですが、遺伝子よりも生成物であるたんぱく質に興味が移り、光免疫治療に行きついたみたいです。
光免疫治療
すごく画期的で最新技術の様に感じるのですが、実は「ケミカルサージェリー」という治療の一種です。さらに言うと、20年以上前から日本で行われています。
代表的なものは京都大学で長年行われていて、最近頭頚部で保険認可されたBNCT(ホウ素中性子補足療法)や食道がんや肺がんの一部などで保険認可されているPDT(光線力学的療法)などがそれにあたります。
「光免疫治療」はそのPDT(光線力学的療法)の一種という認識で良いと思います。
光免疫治療の効果
光に過剰に反応する薬を入れて、それに光を当ててがんを死滅させることを期待した治療になります。
この治療のポイントは「光に過剰に反応する薬をがん細胞だけに届ける」ということと「体の奥まで光を届かせる」という2点になります。
IR700 「ナノ・ダイナマイト」
この光に過剰反応する薬は「フタロシアニン」という物質が主成分のIR700という薬になります。この「フタロシアニン」は新幹線の塗料にも使われる色素で、これに6つの硫酸基を結合させたケイ素を加えて水溶性にしたものがIR700という薬です。
このIR700に近赤外線を当てるとがん細胞が風船のように膨らみ、「ポン」と破裂するみたいです。
IR700の開発によって「光免疫治療」は生まれました。
このIR700が「がん細胞だけに届いて、普通細胞に届かない状態」でなければ意味がありません。
普通細胞にも薬が届くと普通細胞も死んでしまう可能性があるからです。
この薬ががん細胞だけに届くように、抗がん剤の分子標的薬で使われている様に抗体にIR700を引っ付けて使う様にしています。この抗体付きのIR700を「ナノ・ダイナマイト」と名付けているみたいです。
現状は肺がんなどでターゲットになっているEGFRというたんぱく質をターゲットにしているみたいです。なので遺伝子検査でEGFR陽性でないと現状は使えないと思いますが、今後は他のターゲットも増やした「ナノ・ダイナマイト」を作っていき、より多くのがんに対して使える治療にしていけるようにしていく展望のようです。
近赤外線
薬ががん細胞に届いたとしても、それに光が届かないとがんが死滅しないということになります。
光免疫治療は「近赤外線」という光を使っています。
この近赤外線はテレビのリモコンなどに使われている光で、非常に安価に使えるということと、紫外線よりも深くまで光が届くという面でも大きなメリットがあります。
光免疫治療は690~740ナノメートルの範囲内の近赤外線を使うことで、皮膚から2.5センチの深さまで届くとのことです。
この2.5センチの深さだと肝臓や肺などには届かないですが、近赤外線は安価で小型化が容易なので、今後は内視鏡などの先に取り付けることや手術の後、開腹したお腹の中に当てるなどといったことが出来るようになってくることで様々な臓器にも対応できるようになってくる可能性はあると思います。
なぜ免疫治療なのか。
「ナノ・ダイナマイト(IR700付き抗体)」は抗体を使うとは言え、がん細胞に届けるために抗体を使うのであって、直接がんを死滅させることには免疫は関与していません。
それなのに何故免疫なのでしょうか。
2016年に出した論文に「免疫原性細胞死」というのがあります。
細胞が「ポン」と破壊されるという死滅方法によって、がん細胞の中身が噴出され、従来持っている免疫ががんを異物と認識してがん細胞を死滅に導くということを期待したものです。光免疫治療はその「免疫原性細胞死」という死滅方法を使っています。
それに対して、普通の治療でがんが死滅するときは、細胞の核の中にあるDNAや細胞内のたんぱく質の機能が障害されて死滅します。つまりがん細胞の中の水分を徐々に外に排出し、最後に干からびたような状態にして死滅させます。「免疫原性細胞死」との死滅方法と違い、免疫が働かないとのことです。
よく似た治療方法であるPDT(光線力学的療法)などと光免疫療法の違いはこの辺りにあるのだと思います。
光免疫治療の問題点、デメリット
デメリットの部分で行くとほとんどないと思います。効かないということはあっても、抗がん剤の様に副作用がある訳ではないので、お金だけの問題だと思います。
ただ、PDT(光線力学的療法)ほどではないみたいですが、EGFRは皮膚の表面にもあるたんぱく質なので、日光を避ける必要はあるみたいです(数日間)。
問題点としては、現状だと使えるがんがほとんどないだろうという点になります。
まず、近赤外線が最大2.5センチしか届かないという点とEGFR陽性でないと使えないという2点です。
EGFR陽性でないと使えないという点は、今後HER2など他のターゲットにも拡大してくであろうから10年以内に解決される可能性はあると思います。
問題は2.5センチしか届かないという点です。まず、転移先で多い肺や肝臓、脳などに使う場合は開腹手術が条件になると思います。
内視鏡などの先に近赤外線をつけて食道や胃、大腸に使う場合も、穿孔(穴があく)の可能性があるので、粘膜上に存在する小さながんにしか使えない可能性が高いです。
舌がんなどには良いかもしれませんが、免疫部分がきちんと働くかどうかは検証不足でしょうから、局所的に見えているがんを消すという治療方法に対して使うことになるでしょうが、EGFRというたんぱく質をターゲットにしているので、手術などに比べて再発の可能性が高くなることが考えられます。
手術などの取り残しに対しての補助的な使い方が一番良いと思うのですが、今後の使い方に注目して行きたいです。
光免疫治療を受けるには
現状だと保険で認可されているのは、頭頚部のがんだけになります(2021年2月8日現在)。また、「切除不能な局所進行がんかもしくは局所再発のがん」に限られています。
いづれにしても局所治療ということになります。
転移したがんには使えません。
治験などの結果を見る限りでは局所治療の中では治療成績は思ったほど良くはないと思います。手術などの代用としては考えにくいとは思いますが、副作用がないというのがメリットとして大きいと思います。
仮に光免疫治療を行って寛解した場合に於いても、免疫の作用が不確定な状態なので再発が懸念されます。なので、抗がん剤などの全身治療が必須でセットになると思います。
保険以外の自由診療では現状行っていないと思いますが、よく似た治療を行っているクリニックがいくつかあるので、そのあたりは医療機関に確かめてみて下さい。