がん治療と漢方薬の関係、漢方薬に期待される効果とは

がん治療と漢方薬の関係、漢方薬に期待される効果とは

がんの標準治療は、手術などの外科治療、エックス線照射などの放射線治療、抗がん剤投与などの化学療法の3つです。これらの標準治療に漢方を併用した治療法が取られることも少なくありません。

漢方とはどういったもので、がん治療にどのように取り入れられるのでしょうか。

そして、どのような効果が期待できるのでしょうか。がん治療における漢方のメリット・デメリットとともにお伝えします。

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目次

漢方とは

漢方という言葉はテレビなどでよく聞かれるため、言葉自体はなじみのある方が多いと思います。しかし、「漢方とは何か」と聞かれると多くの方が困ってしまうのではないでしょうか。まずは、漢方とはどういったものかを見ていきましょう。

漢方とは鍼灸や食養生も含めた医学

漢方とは、中国を発祥とする伝統医学のことです。古代中国を起源とする漢方は、5~6世紀ごろ日本に伝来したといわれています。そして、日本人の特性に合わせて独自の発展を遂げました。

漢方と漢方薬を混同している方も少なくないと思います。漢方は、鍼灸(しんきゅう:はりとお灸)や食養生(しょくようじょう:食によって体を健康に保つ健康法)を含めた医学全般を指す言葉です。一方、漢方薬は漢方医学の理論に基づいて処方されます。

漢方薬と西洋薬の違い

漢方薬と西洋薬の最大の違いは、薬の原料にあります。

漢方薬の原料は植物の葉や茎、根、動物の一部などの生薬です。生薬を加工して漢方薬が作られます。一方、西洋薬の原料は科学的に合成した成分です。例えば解熱鎮痛剤には、イブプロフェン、ロキソプロフェン、アセトアミノフェンなどの成分が使われています。

処方の目的も漢方薬と西洋薬とでは異なります。漢方薬は人間の体が本来持つ働きを高め、体を正常な状態に戻すことを目的としたものです。局所的な治療というよりは、全身状態を上向かせる総合治療のための薬です。

西洋薬は本来体がするべき役割を薬が代わって行うことを目的として処方されます。例えば、胃の働きが悪い場合、胃薬を飲むことによって、弱っている胃の機能を助けます。

漢方と健康との関係

漢方における健康とは、病気になっていない状態のことではありません。「何となくだるい」「食欲がわかない」「いつもより調子が悪い」、こういった状態で病院を受診しても、何の診断もつかない可能性もあるでしょう。

しかし、漢方ではそうしたちょっとした症状も体からの重要なサインと考えられています。

漢方ではまだ病名がつかない軽微な症状のことを「未病(みびょう)」と呼んでいます。未病も含めて心身の不調を整え、真の健康を目指していくのが漢方の考え方です。

漢方はがん治療にどのように取り入れられる?

全身の不調を癒やし、真の健康を目指す漢方は、がん治療にどのように取り入れられるのでしょうか。

がん治療における漢方の役割やどのような漢方薬が使われるのか、詳しく見ていきましょう。

がん治療における漢方の役割

がん治療における漢方の役割は、あくまでも標準治療を補うものです。

手術療法も放射線治療も化学療法も、体に大きな負担をかけるものです。人によっては重い副作用や体力の低下に悩まされる人もいます。手術をきっかけに感染症にかかってしまう可能性も少なくありません。

このような、標準治療を行ったときに生じる副作用の軽減、体力回復、治療効果の増強、感染症の予防が期待できるのが漢方です。また、末期のがん患者のQOL(生活の質)を上げるために漢方が取り入れられることもあります。

がん治療に使われる主な漢方薬の特徴

日本で治療薬として認められている漢方薬は294種類、医療保険が適用されているものが148種類です。その中でがん治療に使われる主な漢方薬とその特徴は、以下の通りです。

進行したがんや治療が長期になったときに処方される漢方薬

四君子湯(しくんしとう )
食欲不振、無気力、手足のだるさが著しい場合に用いられます。

六君子湯(りっくんしとう)
胸の気持ち悪さや吐き気、食欲不振など消化器官の症状がある場合に用いられます。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
消化機能の低下や手足の脱力感があるときに処方されます。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
放射線治療の副作用を抑えるときに用いられます。

人参養栄湯(にんじんようえいとう)治療の副作用で咳などの呼吸器症状が見られるときに処方されます。

下痢や嘔吐が伴う副作用が認められるときに処方される漢方薬

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
治療の副作用による下痢症状が見られるときに処方されます。

小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
治療の副作用による吐き気症状が見られるときに処方されます。

精神症状が伴うときに処方される漢方薬

加味帰脾湯(かみきひとう)
不眠や食欲低下が見られるときに用いられます。

加味逍遙散(かみしょうようさん)
精神状態が不安定でイラつきが見られるときに処方されます。

がん治療における漢方のメリットとデメリット

がん治療に漢方を取り入れるべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。

治療法を決める際に重要なのは、きちんとメリットとデメリットを把握することです。がん治療における漢方薬のメリットとデメリットを見ていきましょう。

メリット

メリットとして挙げられるのは、現在の治療法を中断することなく、漢方薬を併用できる点にあります。漢方薬は西洋薬と比べると、副作用が少ないため、現在服用している西洋薬と併用することが可能です。ただし、漢方薬を併用する場合は必ず担当の医師に確認してください。

また、がん治療の副作用の緩和が期待できる点もメリットとして挙げられます。

がん治療の副作用には、吐き気や食欲低下、だるさ、口内炎、下痢などのほか、脱毛や手足のしびれ、皮膚の異常などさまざまな症状があります。副作用が重いと患者さんのQOLは大きく低下してしまいます。中には、副作用の重さから治療に前向きになれないという方もいるでしょう。漢方薬には、副作用を低減する効果があります。

デメリット

漢方薬には多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。がん治療に漢方を取り入れるかどうかはデメリットもきちんと把握した上で検討しましょう。

漢方薬を取り入れることの最大のデメリットは、副作用が出る可能性がある点です。

西洋薬に比べると副作用の少ない漢方薬ですが、副作用が出る可能性はゼロではありません。動悸や血圧上昇、腹痛、下痢、のぼせ、めまい感などの副作用が出る可能性があります。そのため、漢方薬を服用する際は、必ず担当の医師に確認してください。

また、西洋薬と比べて即効性が低いという点も念頭に置いておく必要があります。例えば、発熱したときにすぐに解熱の効果が見られるのは西洋薬です。さらに、漢方薬はがんそのものを治療するものではないということも覚えておきましょう。

がん治療と漢方薬の関係【まとめ】

漢方薬は、がんそのものを治療するものではありませんが、がん治療における苦痛を取り除いてくれる効果が期待できるものです。

また、日常的に漢方を取り入れることによって、がんをはじめとするさまざまな病気の予防も期待できます。何となく調子が悪いという状態で病院に行っても、「異常なし」と診断されるケースが多いでしょう。

しかし、それは体が発する重要なシグナルなのかもしれません。そうした未病の段階から体の調子を整え、病気を予防するというのが漢方の考え方です。がんの治療中はもちろん、がんの予防のために漢方を取り入れてみてはいかがでしょうか。ただし、現在治療中の病気がある方が漢方薬を取り入れる際は、必ず担当の医師に確認してください。

1.|癌の漢方治療|
2.専門病院 神奈川県立がんセンター
3.新井五行堂醫院|がんの漢方治療
4.クラシエ|漢方とは?
5.セレンクリニック(がん免疫療法セレンメソッド外来)|三大がん治療(いわゆる「標準治療」)とは
6.Hello! TSUMURA|漢方Q&A 生薬とは?漢方薬の違いとは?よく分かる質問集
7.健康へのお手伝い|薬日本堂
8.非営利型一般社団法人 あきらめないがん治療ネットワーク|【特集記事】がん治療と漢方薬――がん患者さんを支える漢方
9.クラシエ薬品 医療関係者向けサイト|癌の漢方治療
10.LIFULL 介護|【図解】漢方薬のメリットがわかる!正しい飲み方と未病への効果
11.雨宮クリニック|漢方療法
12.DMMオンラインクリニック|漢方薬のメリット・デメリットについて
参照日:2023年2月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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