前立腺癌は治療しなくても大丈夫?経過観察との違いを解説
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前立腺癌は治療しなくても大丈夫?経過観察との違いを解説

前立腺がんは男性の罹患率が高いですが、緩やかに進行する性質を持ち、年齢や病期によっては「治療しない選択」が検討されるがんの一つです(※1)(※2)

「本当に治療が必要なのか」「高齢の家族に治療を受けさせるべきか」と迷う方も少なくありません。

本記事では、前立腺がんを治療しない場合の経過や高齢者における治療判断、経過観察の仕組み、手術を行わない場合の生存率などについて詳しく解説します。

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目次

前立腺癌を治療しないとどうなる?

ここでは、前立腺がんを治療しない場合について、起こりうることと、転移の2つについて解説します。

治療しない場合に起こりうること

前立腺がんを治療しない状態が続くと、がん細胞が前立腺内で徐々に増殖します。腫瘍が大きくなると尿道を圧迫し、頻尿や排尿困難が現れる場合もあります。

さらに進行すると、前立腺の被膜を越えてがんが周囲の組織や臓器へと広がる「局所進行」と呼ばれる状態に至るケースも考えられます。リンパ節や骨への転移へと進む段階もあり、高リスク前立腺がんでは経過観察のみでは対応しきれないケースもあるため、泌尿器科の専門医による定期的な診察が欠かせません。

前立腺癌が転移するとどうなる?

前立腺がんは骨に転移しやすく、特に胸腰椎や骨盤骨に病巣が現れやすいのが特徴です。骨転移が進むと、腰痛やしびれといった症状が現れ、さらに進行すると下半身麻痺のリスクも高まります。

また、ホルモン療法を続けるうちに効果が得られにくくなる「去勢抵抗性前立腺がん」へ移行するケースもあります。この状態に至ると、がん細胞の性質が変化し、骨やリンパ節など複数部位への遠隔転移によって治療が長期化しやすく、日常生活にも影響を及ぼします。そのため、転移後は緩和ケアを含めた治療方針の見直しが重要です。

前立腺癌が進行すると現れる症状

前立腺がんは早期では自覚できる症状がほとんどないため、人間ドックやPSA(前立腺特異抗原)検査をきっかけに発見されるケースが少なくありません。

ここでは、進行期と転移後に現れる主な症状について解説します。

進行すると現れる症状

前立腺がんの初期は無症状で経過する場合が多いものの、腫瘍が大きくなって尿道を圧迫すると以下のような排尿関連の症状が現れる可能性があります。

  • 頻尿(夜間頻尿)
  • 排尿困難
  • 尿の勢いの低下
  • 残尿感
  • 血尿
  • 骨盤周囲や下腹部の痛み

これらの症状は前立腺肥大症とも共通するため、症状だけで見分けるのは難しいとされています。症状が続く場合は、医師の診察を受け、PSA検査や直腸診、MRI、および確定診断のための生検(組織採取)などを通して原因を確認しましょう。

転移後に現れる症状

前立腺がんが骨や他の臓器へ転移すると、以下の症状が現れる場合があります。

  • 骨痛や腰痛(夜間や安静時にも発生)
  • 歩行障害
  • 足のしびれや麻痺
  • 食欲低下
  • 体重減少
  • 倦怠感

骨転移の影響で骨がもろくなると、簡単な動作でも骨折する「病的骨折」のリスクが高まります。

また、脊椎に転移したがんが神経(脊髄)を圧迫すると、急に足が動かなくなったり、尿が出なくなったりする状態に陥ることがあります。気になる症状が現れた場合は、担当医へ速やかに相談しましょう。

高齢者は前立腺癌を治療しない選択もある?

前立腺がんと診断された方の中には、あえて「すぐには治療をしない」という選択をするケースもあります。ここでは、その選択がなされる理由や具体的な判断ケースについて解説します。

高齢者で治療方針が変わる理由

前述の通り、前立腺がんは進行が緩やかなため、高齢者の場合は平均寿命とのバランスを見ながら治療方針を決定していきます。例えば、持病や体力の低下がある方では、手術による合併症のリスクが高まり、術後の回復にも時間がかかりやすくなる傾向があります。

また、ホルモン療法や放射線治療による排尿障害や勃起障害、骨粗鬆症などの副作用が、日常生活へ影響を与える場合もあります。効果と負担を比較したうえで、患者ごとに方針を決定していくことが推奨されています。

経過観察が選ばれるケース

経過観察が選択されるのは、低リスクの前立腺がんで、以下の条件を満たす場合です。

  • がんが前立腺内に局在している
  • PSA値の上昇が緩やか
  • 自覚症状がない
  • 高齢または持病があり、積極治療のメリットが小さい
  • グリーソンスコアが低い(がん細胞の悪性度が低い)

低リスクで進行が遅い場合は、がんが悪化するよりも先に寿命を迎えるケースが多いため、治療を急ぐ必要はないと判断されることがあります。そのため、身体への負担が大きい治療はあえて行わず、定期的な検査で様子を見守る方針が採用されています。

治療が必要になるケース

年齢に関わらず積極的な治療が検討されるケースは、以下の通りです。

  • PSA値の上昇スピードが速い(PSAの倍加時間が短い)
  • 高リスク前立腺がんである
  • 排尿障害や骨の痛みなどの症状がある
  • リンパ節、骨などへの遠隔転移が疑われる
  • 生検でがんの悪性度が高いと判断された

「高齢だから治療しない」と判断するのではなく、リスク分類・全身状態・本人の希望を踏まえた治療方針を考えましょう。何よりも担当医とよく相談して決めることが大切です。

前立腺癌の経過観察(監視療法)とは

「経過観察」と聞くと「がんを放置しているのでは?」と心配する方もいますが、経過観察は監視療法(Active Surveillance)と呼ばれ、医学的に放置とは区別されます。

監視療法はがんが前立腺内にとどまる限局性で、悪性度や進行リスクが低いと判断された患者を対象に行われる治療法です。一般的には、T2以下・グリーソンスコア7以下・PSA値とPSA密度(前立腺の体積でPSA値を割った指標)が一定の基準を満たした方などが対象になります(※3)

直腸診やMRIを6カ月ごとに行い、PSA値は最初の2年間は3カ月ごと、以降は6カ月ごとに測定します。さらに、ケースバイケースにはなりますが、前立腺の組織を採取してがんの状態を調べる生検を1・4・7・10年目に実施し、それ以降は5年ごとに継続することで、がんの性質に変化がないかを定期的に確認します(※3)

一方、PSA倍加時間が短縮され、生検でがんの悪性度が高くなったと判断された時点で、速やかに手術や放射線治療など積極的な治療へ切り替えが検討されます。

前立腺癌生存率|手術しない場合は?

国立がん研究センターの院内がん登録(2025年2月公表)によると、2012年に前立腺がんと診断された患者の10年生存率(ネット・サバイバル)は、全病期合計で84.0%、ステージⅠでは93.8%、ステージⅡでは95.1%、ステージⅢでは86.2%、ステージⅣでは35.9%と報告されています(※4)

転移を伴う進行性がんでは予後が大きく異なるため、生存率は病期・年齢・原発巣の悪性度・全身状態などによって個人差があります。

また、手術や放射線治療を行わず、監視療法を続けた場合の成績についても、国内で報告があります。日本人1,274名を対象とした研究では、前立腺がんによる死亡はわずか1名にとどまった一方、10年継続できた割合は約23%であり、多くの患者は途中で手術や放射線治療へ移行しています。

つまり監視療法は「治療をあきらめる選択」ではなく、定期的な検査で治療を始めるタイミングを見極めるための、医学的な治療方針といえるのです。

前立腺癌の主な治療法と副作用

前立腺がんの主な治療法は、手術・放射線治療・ホルモン療法(内分泌療法)・経過観察の4種類です。各治療法の詳細は別ページにて詳しく解説しているため、ここでは特徴と主な副作用を簡単に紹介します。

治療法主な対象や特徴主な副作用
手術
(前立腺全摘除術)
限局性〜局所進行性が対象。
開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット支援手術がある。
尿失禁、勃起障害、射精不能、鼠径(そけい)ヘルニア(※脱腸を指す)
外部放射線治療限局性〜局所進行性。
強度変調放射線治療(IMRT)や粒子線治療などがあり、中間〜高リスクではホルモン治療を併用する。
排尿障害、頻尿、直腸出血、血便、性機能障害
組織内照射
(密封小線源療法)
低〜中間リスクの限局性一時的な頻尿・排尿痛、勃起障害
ホルモン療法
(内分泌療法)
進行がん・再発・転移性に対する薬物療法ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)、女性化乳房、骨粗鬆症、勃起障害
経過観察
(監視療法)   
低リスク・超低リスクの一部病勢悪化の見落としリスク
参照:国立研究開発法人国立がん研究センター|前立腺がん治療

副作用や合併症の頻度、回復までの期間は治療法によって異なります。例えば、外部放射線治療では、晩期の副作用として血便や血尿が現れるケースがあり、血便は治療終了後1年から3年の間によく見られると報告されています(※5)

各治療法の詳しい情報は関連記事をご覧ください。

前立腺癌の治療選択で大切なこと

前立腺がんの治療選択では、根治を目指すことに重点を置くのではなく、QOL・年齢・生活背景を含めて総合的に判断することが大切です。

  • 根治を優先する場合:手術または放射線治療
  • 副作用を抑えてQOL(生活の質)を保ちたい場合:監視療法やホルモン療法
  • 年齢や持病により積極的な治療が難しい場合:緩和ケアを含めた選択

家族や担当医と話し合い、患者本人が納得したうえで治療方針を決めることが、治療開始後の生活を安心して過ごすための大切な土台になります。

前立腺癌で治療するか迷ったときは専門家へ相談を

治療を受けるかどうか迷ったときは、一人で抱え込む必要はありません。まずは現在のリスク分類・PSA値の推移・今後の見通しなど、気になる点を整理してから、担当医に相談してみましょう。

別の医師の意見を聞きたい場合はセカンドオピニオン外来の利用も有効です。不安を抱えたまま自己判断せずに、専門家のサポートを上手に活用し、患者さんご自身とご家族に合った治療選択をしていきましょう。

(※1)国立研究開発法人国立がん研究センター|最新がん統計
(※2)独立行政法人国立病院機構九州がんセンター|前立腺がん
(※3)国立研究開発法人国立がん研究センター|前立腺がん 治療
(※4)国立研究開発法人国立がん研究センター|院内がん登録 2012年10年生存率集計 令和7(2025)年2月
(※5)地方独立行政法人東京都立病院機構駒込病院 | 前立腺がんと放射線治療に関する質問にお答えします

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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