がん治療における口腔ケアとは?口腔ケアをすることのメリット

がん治療における口腔ケアとは?口腔ケアをすることのメリット

がん治療中に高い頻度で現れる口腔トラブル。

口の痛みが患者さんのストレスになることはもちろん、食事や会話を妨げたり、感染症のもとになったりなど、がん治療そのものを阻害してしまうことになりかねません。

がん治療時にはどのような口腔トラブルが起こるのでしょうか。

そして、がん治療の前や治療が始まってから、どのような口腔ケアを行えばよいのでしょうか。がん治療中の方や、これからがん治療を行う方はぜひ参考にしてください。

受付中がんの臨床試験、研究・治験広告のご案内

製薬企業や医療機関、研究グループから依頼を受け、治験審査委員会の審議で承認された臨床試験、治験を掲載しています。

がんワクチン療法がんワクチン療法

目次

がん治療に口腔ケアが欠かせない理由

アメリカではがん治療中の口腔トラブルを防止するために治療前に歯科治療を受けることが一般的になっています。そして、日本でも年々、がん治療前に口腔ケアを行うことが増えています。なぜ、がん治療に口腔ケアが欠かせないのでしょうか。

口腔ケアが不十分だと細菌の数は10倍に

口の中に、どれくらいの細菌がいるかご存じでしょうか。

口の中には、300~700種類もの細菌がいるといわれています。

そして、その数は、歯をよく磨き、きちんと口腔ケアを行っている人で1,000~2,000億個。あまり歯を磨かない人で4,000~6,000億個、ほとんど歯を磨かない人で1兆個もの細菌が口の中に生息しているといわれています。

口の中の細菌には、全身疾患の原因菌も含まれています。

がん治療中の患者さんは、ただでさえ免疫力が低下しがちです。きちんと口腔ケアを行うことで、細菌感染による病気のリスクを低下させることができます。

脳梗塞や心筋梗塞のリスクも上がる

口の中の細菌には、黄色ブドウ球菌、緑膿(りょくのう)菌、インフルエンザ菌など全身疾患の原因菌が含まれ、口腔ケアを行わないと、全身疾患のリスクが高まります。

加えて、歯周病を放置することによって、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上がることもわかっています。

歯周病菌は、歯周病の初期段階では口腔内での繁殖にとどまりますが、病気が進行すると血管を通じて、全身へと広がっていくようになります。

こうして引き起こされるのが、脳梗塞や心筋梗塞です。さらに、重症化した歯周病は誤嚥性(ごえんせい)肺炎や糖尿病などのリスクを上昇させることも報告されています。

がん治療中にさまざまな口腔トラブルが現れる

がん治療中によく現れるのが口内炎です。口内炎は、約40%の患者さんに現れます。

また、口内炎の重症化により、抗がん剤の投与量の減量や治療スケジュールの変更などを余儀なくされるケースもあります。

さらに、歯の感染症や口腔乾燥症、味覚異常などもがん治療中によく見られる口腔トラブルです。事前に口腔ケアを行うことによって、こうした口腔トラブルを防止できます。

がん治療時に起こる口腔トラブル

がん治療中は、さまざまな口腔トラブルが起こります。ここでは、抗がん剤治療時と放射線治療時に起こりやすい口腔トラブルをお伝えします。さらに、手術前に口腔ケアを行う意義についても見ていきましょう。

抗がん剤治療の副作用

アメリカの国立がんセンターは、一般的な抗がん剤治療を受ける患者さんの約40%、副作用の強いタイプの抗がん剤の場合は約80%の患者さんに何らかの口腔トラブルが現れると報告しています。

それは、抗がん剤が、がん細胞以外の正常な細胞にも影響を及ぼすからです。

さらに、抗がん剤の影響で、「口の中が乾く」、「口の中がネバネバする」などの症状が現れる口腔乾燥症も起こります。口腔乾燥症により、口の中の不快感だけではなく、食事がしづらい、会話がしづらい、味覚が変化するなどさまざまな症状が出ます。

いずれの症状も、治療後1週間ほどで現れ、10日から2週間ほどでピークを迎えます。

放射線治療の副作用

全身に影響が及ぶ抗がん剤治療と異なり、放射線治療時に起こる副作用は、放射線が照射された部分に限定されます。

そのため、口腔トラブルも口腔内に放射線が照射されたときに出現します。

最も多いのは、抗がん剤治療時と同様、口内炎と口腔乾燥症です。いずれの症状も治療開始後2週間ほどで現れ、症状が長期間持続するケースも少なくありません。

手術前に口腔ケアを行う意義

手術後に免疫力が大きく低下することは少なくありません。そういった場合、細菌が原因で誤嚥性肺炎を起こす可能性があります。

手術前に口腔ケアを行い、口内の細菌を減らしておくことで、誤嚥性肺炎のリスクを低下させられます。

さらに、全身麻酔を行う場合、グラついた歯や差し歯があると、歯が抜けてしまったり飲み込んでしまったりといった事故が考えられます。

手術前に口腔内をチェックすることで、そうした事故を防止することが可能です。また、事前の口腔ケアにより、口内炎や口腔乾燥症などの軽減も期待できます。

がん治療における口腔ケア

口腔ケアは、病院でも指導してくれるものですが、患者さん自ら行うことも重要です。

ここでは、治療が始まる前の口腔ケアと、治療が始まってからの口腔ケアを具体的にお伝えします。

治療が始まる前に行うこと

口腔ケアで、最も大切なのは歯磨きです。

毎食後と就寝前の歯磨きを徹底しましょう。歯ブラシは、毛先が広がっていると口の中を傷つけてしまう恐れがあります。がん治療前は、普段より小まめに歯ブラシを交換してください。

また、歯磨きでは取り切れない歯石を除去しておくことで、がん治療中の口腔内の細菌増殖を抑制できます。がん治療の前に、歯科医院で歯石クリーニングをしてもらいましょう。

口腔内の清潔を保つためには、歯だけではなく、舌のクリーニングも重要です。

専用の舌ブラシで、舌の汚れを除去しましょう。舌の汚れがひどいときには、2~10倍に希釈したオキシドールに舌ブラシを浸すと、舌の汚れが落ちやすくなります。

口腔内全体の汚れが気になるときには、消毒・抗菌効果のあるうがい薬を使ってうがいを行いましょう。なお、使用するうがい薬については、担当の歯科医師に相談してください。

治療が始まってから行うこと

口内炎や口腔乾燥症を防ぐために重要なのは、口腔内の保湿です。毎食後と就寝前の歯磨きに加えて、口腔用のリンスや保湿ジェルなどを使って常に口腔内を保湿するようにしましょう。

また、就寝中は特に口腔内が乾燥します。就寝前に歯磨きをした後に、口腔用の保湿剤を使用するのが効果的です。

なお、チューブや点滴など、口から食べていないときにも口腔ケアは必要です。口を使わないために、唾液量が減少して、口腔内で細菌が増殖しやすい環境になってしまうからです。体調の悪いときもあると思いますが、少なくとも1日に1回は歯磨きをするように心がけてください。

【まとめ】がん治療における口腔ケアについて

歯をよく磨く人に比べて、全く磨かない人の口腔内の細菌数は10倍にもなります。

口腔内の細菌は、虫歯など歯や口腔内のトラブルだけではなく、全身疾患も引き起こす可能性がある怖いものです。

特に、がん治療中や治療後は免疫力が大きく低下することも少なくないため、口腔内で細菌感染のリスクが増大してしまいます。さらに、口腔内のトラブルが起こると、口の痛みのほか、食事や会話がしづらくなってしまい、QOL(生活の質)も大きく低下してしまいます。口腔内のトラブルで治療が計画通りに進まなくなってしまったというケースも少なくありません。

QOLを低下させないためにも、効率よく治療を行うためにも、がんの治療前や治療中、さらに治療後もしっかりと口腔ケアを行いましょう。

1.一般社団法人千葉県歯科医師会|がん治療を受ける患者さんへ口腔ケアハンドブック
2.歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020|がん治療と口のケア
3.一般社団法人 日本訪問歯科協会|お口の中は細菌がいっぱい
4.公益社団法人 鹿児島県歯科医師会|歯のはなし
5.一般社団法人 日本訪問歯科協会|心筋梗塞と歯周病の関係
6.町田駅東どひ歯科口腔外科|歯周病が心筋梗塞や脳梗塞を引き起こすって本当?
7.SURVIVOR SHIP|がん薬物療法と口腔内トラブル
8.静岡県立静岡がんセンター|学びの広場 からだ編 放射線治療と口腔粘膜炎・口腔乾燥
9.社会医療法人 大道会|【歯科通信】全身麻酔で手術を受けられる方へ~口腔機能管理について~
参照日:2022年11月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

プロフィール詳細

受付中がんの臨床試験、研究・治験広告のご案内

製薬企業や医療機関、研究グループから依頼を受け、治験審査委員会の審議で承認された臨床試験、治験を掲載しています。

がんワクチン療法 がんワクチン療法

各がんの解説