ステージ4と診断されたら―完治の可能性と治療法

ステージ4と診断されたら―完治の可能性と治療法

ステージ4 のがんとは、多くは末期がんのことです。がんの告知とともに、ステージがすでに「4」であると診断されたら、患者さんとそのご家族は大きな衝撃を覚えます。

末期がんと聞くと、多くの人は「もう完治できない」と思うかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか。

この記事では、ステージ4のがんの完治率や治療法、がんがステージ4の段階だと告知されたときに忘れてはいけないことなどをお伝えします。

ステージ4のがんと診断された患者さんはもちろん、そのご家族の方もぜひ参考にしてください。

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目次

ステージ4のがんの完治率

ステージ4のがんは、完治率が低いというイメージを持っている方が大半だと思いますが、実際のところはどうなのでしょうか。まずは、ステージ4のがんの完治率を見ていきましょう。

全がんの5年生存率は約16%

公益財団法人がん研究振興財団 の「がんの統計 2023(2023年)」によると、全がんの10年相対生存率は60.2%でした。

ステージが進むごとに生存率は下がり、例えば、ステージ1の胃がんの10年相対生存率は91.3%ですが、ステージ4では6.6%です。

また、ステージ4のがんの生存率は、がんの種類によっても大きく異なり、10年相対生存率が80%以上の甲状腺がんのようながんもあれば、1%台の肺がんのようながんもあります(※1)

つまり、一口にステージ4のがんといっても、命を落としてしまうリスクや完治のしやすさはがんの種類によって大きく異なるのです。

ステージ4の肺がんの完治が難しい理由

ステージ4のがんの中でも、肺がんの5年生存率が際立って低いのはなぜなのでしょうか。

末期の肺がんの5年生存率が低いのは、肺から全身に転移・再発したがん細胞を完治させるための確実な方法が少ないからだと言われています。

手術ができないステージ3Bやステージ4の治療方法の選択肢は薬物療法のみです。抗がん剤を投与しながら、がんと付き合っていくことになります。ただ昨今は日進月歩で分子標的治療薬などがん治療の研究も進んでおり、現状は大きく変わっている可能性があるため主治医とも確認しましょう。

ステージ4のがんの治療法

ステージは同じでも、がんの種類によって治療法は異なります。ここでは、ステージ4のがんの種類別の治療法を見ていきましょう。

肺がん

ステージ4の肺がんの治療では、基本的に手術以外の治療法が取られます。治療の中心となってくるのが、がんができている部位だけではなく全身に対して行われる薬物療法です。薬物療法は全身の状態が良好な患者さんに対して行われます。

胃がん

胃がんのステージ4でも肺がん同様、基本的に根治のための手術は行われません。化学療法、放射線治療、痛みなどの症状を緩和するための手術、対症療法がメインとなります。胃がんのうち、10~20%でHER2(ハーツー)というタンパク質ががんの増殖に関わっていると言われています(※2) 。その場合、HER2をターゲットとした分子標的薬 が投与される可能性が高くなります。

大腸がん

大腸がんは早期発見できれば、大半のケースで完治させることのできるがんです 。しかし、進行すると転移の可能性が高いことから、治療は難しくなってしまいます。ステージ4の大腸がんでは抗がん剤治療や放射線治療が行われます。全身の状態などで、これらの治療法を選択できなかった場合、症状を緩和させるための対症療法が行われることになるでしょう。

肝臓がん

ステージ4の肝臓がんの治療法のメインは化学療法 となります。抗がん剤を用いた治療法が中心となり、抗がん薬を肝動脈に直接注入して、がん細胞を攻撃する肝動注化学療法や全身化学療法といった治療法が用意されています(※3)

食道がん

ステージ4の食道がんで手術が難しい場合は、放射線療法、抗がん剤治療、治療による副作用などの症状を軽くするための支持療法などを組み合わせた集学的治療 と呼ばれる治療を行う可能性が高いでしょう。放射線治療は体の外側から放射線を治療する(外照射) のが一般的ですが、食道がんの場合、放射線を照射できる物質を食道内に挿入して、内側から放射線を照射する方法(腔内照射)も開発されています(※4)

乳がん

ステージ4の乳がんの治療の中心となるのは、薬物療法 です。手術が可能な場合は手術も選択肢の一つとなりますが、ステージ4まで進行してしまうと、乳房を温存することは難しくなる可能性が高いでしょう。また、放射線治療や緩和ケアも検討されます。

前立腺がん

がんの中でも、進行のスピードが緩やかで5年生存率もほかのがんより高い前立腺がん(※1)。 ステージ4まで進行し、手術ができないと判断された前立腺がんに対しては、ホルモン療法が行われることになります(※5) 。前立腺がんの進行には、男性ホルモンが関わっていることがわかっています。ホルモン療法は、男性ホルモンの分泌を抑えることによって前立腺のがん細胞の増殖を抑制する治療法です。

子宮がん

子宮頸がんと子宮体がんの総称が子宮がんです。ステージ4の子宮頸がんの場合は、放射線治療、化学療法、症状を抑えるための緩和医療などが選択肢となります。 ステージ4の子宮体がんは、可能であれば手術が行われます。手術が難しい患者さんには抗がん剤治療、放射線治療が選択される可能性が高いでしょう。

先進医療とは?治療内容と費用

先進医療とは、厚生労働省が認めた高度かつ新たな医療技術のことです。手術や放射線治療、抗がん剤治療といった標準治療での根治が難しい、末期がんの治療にも効果が期待される先進医療はあります。

例えば、放射線の一種である陽子線をがんに照射して死滅させる「陽子線治療」、がん病巣に集中的に重粒子線という放射線を照射する「重粒子線治療」が一部のがんで高い治療効果が期待されています。なお、先進医療の技術料は保険適用の対象外で全額自己負担となります(※6)

陽子線治療、重粒子線治療ともに300万円ほどの費用が必要です(※6) 。先進医療の技術料以外の診察、検査、入院、投薬などの費用は保険適用の対象となります。

ステージ4のがんと診断されたら

がんの告知とともに、そのがんがステージ4まで進行していると聞けば、誰もが大きなショックを感じるでしょう。絶望してしまい、前向きな気持ちでがん治療に臨めないという方も少なくありません。ステージ4と診断されたとき、患者さん本人、あるいはご家族はどう向き合っていけばいいのでしょうか。

家族ができること

家族が末期がんと告知されたら、患者さんのご家族は無力感に襲われるかもしれません。

しかし、家族ができること、家族にしかできないことはたくさんあります。

急に自分が末期がんであることを知った患者さん本人の気持ちはとても苦しく、つらいものでしょう。その苦しく、つらい思いを受け止める場所を作ることは患者さんのご家族にしかできません。患者さんが「一人にしてほしい」と言わない限り、できるだけ孤独を感じさせないようにしてあげましょう。

また、ステージ4のがんだと告げられた時には誰もが大きなショックを覚え、抑うつ状態になる患者さんも少なくありません。しばらく見守っていても、抑うつ状態が改善しない場合は主治医に相談し、熟練した腫瘍内科医や精神科医を紹介してもらいましょう。

がんの状態を理解する

ステージ4のがんと告知された患者さんは、自分のがんの状態を理解しましょう。

ステージ4のがんと一口に言っても、がんの種類によって完治率は大きく異なります。また、ご自身の全身状態によっても、選択される治療法は異なるでしょう。

「がん細胞はどこにできていて、大きさはどれくらいなのか」「進行度はどれくらいなのか」といった情報と患者さんの全身状態と、希望するライフスタイルなどを組み合わせて治療法が決められます。より良い治療法を選択するためには、まずは自分のがんの状態を理解することが重要です。

あきらめない

ステージ4のがんと診断されたからといって、諦めてしまわないようにしましょう。現在は効果がないと判断された治療法でも、人によっては効果が出る可能性もあります。病院やクリニックでのがんの治療は、ガイドラインで推奨された以下のグレードに準拠して行われるのが一般的です。

グレードA:十分な科学的根拠があり、積極的に実践するように推奨する
グレードB:科学的根拠があり、実践するよう推奨する
グレードC1:十分な科学的根拠はないが、細心の注意のもと行うことを考慮してもよい
グレードC2:科学的根拠は十分とはいえずに、実践することは基本的に勧められない
グレードD:患者に不利益が及ぶ可能性があるという科学的根拠があるので、実践しないように推奨する

引用:J-STAGE|第57回昭和医学会総会教育講演②がん診療における医療の質の評価

このうち、グレードAかBの治療を終えると、医師から「治療法がない」と言われることがあるかもしれません。

しかし、グレードC1、C2、Dの治療法の中には、まだ診療実績や科学的根拠が集まっていないだけで、10年後にはスタンダードな治療法になっている可能性もあるでしょう。

グレードAやBの治療法で効果がなかったからと言って、諦めてしまうのは早すぎます。

信頼できる医師と相談した上で、自分が納得できる治療法を探してみましょう。

【まとめ】ステージ4と診断されたら

ステージ4のがんと告知されたら、誰もが絶望的な気持ちになってしまうでしょう。ステージ4だと診断されただけで、治療を諦めようという気持ちになる患者さんもいると思います。しかし、ステージ4のがんと一口に言っても、がんの種類や患者さんの全身状況などによって、生存率は大きく異なります。

また、現在のところは科学的根拠がないと言われている治療法でも、患者さんによっては大きな効果が得られる可能性もあります。余命宣告されてから回復し、元気になっている人も少なくありません。ステージ4のがんと診断されたからと言ってあきらめてしまわずに、少しでも可能性のある治療法を探してみましょう。

(※1)国立がん研究センター|がんの統計 2023
(※2)国立病院機構 横浜医療センター|胃がん
(※3)奈良県|病気に向き合うサイトなら
(※4)京都大学医学部附属病院|食道がん
(※5)九州大学病院 がんセンター|前立腺がん
(※6)公益財団法人 生命保険文化センター|先進医療とは? どれくらい費用がかかる?

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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