AYA世代のがんとは?がんの特徴や問題点を解説

AYA世代のがんとは?がんの特徴や問題点を解説

AYA世代とは、主に思春期(15歳)から30歳代までの世代のことです(※1)

AYA世代は、就学、就職、結婚、出産、子育てなど、さまざまなライフイベントが集中する時期です。がんは年齢を重ねるほど、罹患しやすくなるのが一般的ですが、AYA世代のがん患者も少なくありません。

この記事では、AYA世代のがんの特徴やAYA世代のがんがもたらすさまざまな問題について詳しく解説します。

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目次

AYA世代とは

AYA世代のAYAとは、「Adolescent and Young Adult」の頭文字を取った略語で、日本語では「思春期・若年成人」などと訳されます。
主に、15歳ほどの思春期から39歳までの世代を指す言葉で、主に医療分野で用いられます
(※1)

時期的にAYA世代は、就学、就職、結婚、出産、育児など、人生のターニングポイントとなるライフイベントが立て続けに訪れるのが特徴です。と同時に、生殖器系の発達などの生物学的な成長(第二次性徴)、それに伴う精神的な成長、社会的な役割の変化など、人生の中でも大きな転換点を迎える重要な時期です。そのため、このような時期にがんと診断されてしまうと、社会的あるいは心身的にさまざまな悪影響を受けることがあります。

例えば、将来的に妊娠をしたい患者さんのためには、妊娠をするための力、妊孕性(にんようせい)に配慮した治療が必要になるでしょう。

一方で、AYA世代のがんは希少がんであるうえ、臨床試験が少ないため、がん患者さん向けの情報が少ないというのが現状です(※2)

AYA世代のがんの特徴

AYA世代のがんと他の世代のがんとでは、どのような違いがあるのでしょうか。

ここではまず、AYA世代のがんの特徴を見ていきましょう。

発症率

日本においては年間で2万人のAYA世代ががんを発症すると推計されています(※3)

年間の発症率は100人あたり2人程度であり、年代別では、15歳~19歳が約900人、20歳代は約4,200人、30歳代は約1万6,300人(2017年)です(※3)

全世代では年間で約94万5,000例が新たにがんと診断されているため(2020年)、数値的にもAYA世代のがんは希少であるといえるでしょう(※4)

また、AYA世代の中でも15~19歳、20~29歳、30~39歳で発症しやすいがんが異なります。

15~19歳で多いのが白血病、胚細胞腫瘍、性腺腫瘍、リンパ腫、脳腫瘍、骨腫瘍といった小児期にも多いがんです(※3)
20~29歳では胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、甲状腺が多く、30~39歳では乳がん、子宮頸がん、大腸がん、胃がんといった成人でも罹患率が高いがんが多数を占めます(※3)

生存率

これまでAYA世代のがんは症例件数が少なかったため、生存率を示すまとまったデータは存在しませんでした。2024年に国立がん研究センターが小児がん、AYA世代のがんの10年生存率を初めて集計しました(※5)

それによると、AYA世代のがんにおける脳・脊髄腫瘍は5年実測生存率83.5%、10年実測生存率77.8%。

一方、子宮頸部・子宮がんは5年実測生存率88.6%、10年実測生存率87.2%と、がんの種類によって10年実測生存率はさまざまであることがわかりました(※5)

なお、実測生存率とは全ての死亡を計算に含めた生存率で、がん以外の死因による死亡も含まれます。

原因

AYA世代のがんの原因の多くは、いまだ不明です。しかし、多くの遺伝性腫瘍の原因は、がんの増殖を抑制する遺伝子の生まれつき異常によるものと明らかになっています。

AYA世代のがんと他の世代のがんとの違い

AYA世代のがんと、他の世代のがんとの一番の違いは診療体制です。一般に、小児がんは小児科医が、成人のがんは各がんの専門医が診療にあたります。

しかし、AYA世代は小児がんと成人のがんの両方が発症する可能性があるため、医師には両方の知識・経験が必要です。小児がんと成人のがんの両方の知識・経験を持った医師が少ないという問題があります。

また、特に思春期に発症することの多い白血病、胚細胞腫瘍、骨軟部肉腫、脳腫瘍などはいわゆる希少がんで、多くの病院ではまれにしか診ることがありません。医療側の経験不足によって、診断や治療が難しくなることもあります。

AYA世代のがんがもたらす問題点

がんと診断されると、どの世代でもさまざまな懸念点が生じます。例えば、生活をどう維持するか、経済的あるいは体力的に治療に耐えられるかなど、多くの不安が伴うでしょう。AYA世代の場合、これらに加えて特有の問題が生じることが指摘されています。

妊孕性

先述でも触れていますが、妊孕性(にんようせい)とは妊娠をするための力のことをです。がんの治療によって妊孕性に悪影響を及ぼす可能性があると言われており、治療を受けることによって、将来、子どもができづらくなる、あるいはできなくなってしまうことがあるのです。

実際に、厚生労働省が発表した『思春期・若年成人(AYA)世代のがんの現状と課題』によると、AYA世代のがん患者の35.3%、AYA世代のがんサバイバーの45.5%が不妊治療や生殖機能に関して悩んでいると回答しています(※6)。妊孕性への影響はAYA世代のがんの大きな問題点と過言ではありません。

なお、妊孕性というと女性だけに関係すると捉えがちですが、妊娠には精巣機能も重要な役割を果たすので、男性も妊孕性の影響を受けます。

子育て

AYA世代は20歳代から30歳代が該当していることもあり、一般的に結婚や妊娠、出産、子育てなど人生における重要なイベントを経験する時期です。

この時期にがんを発症してしまうと、当人だけではなく家族にも大きな精神的・肉体的負担がかかってしまうでしょう。

また、小さな子どもを子育て中の時期にがんを発症してしまうと、子育てをしながらがん治療にあたる必要があります。精神的・肉体的負担のほか、経済的に困窮してしまうケースも少なくありません。

就学

AYA世代は、15歳から39歳の世代のことを指しますが、特に15歳から20歳までの「A世代」では、就学の問題もつきまとうことになります。

中学校、高校、大学、専門学校など学校の種類によって異なる支援が必要です。例えば、受験を控えた中学生や高校生に対しては、入院中や治療中の教育支援が求められるでしょう。

また、いずれの種類の学校においても共通する問題としては、入院によって同級生と長期間離れなければならない点も挙げられます。友人と長期間離れざるを得なくなった結果、孤立感を深め、ふさぎ込んでしまう患者さんも少なくありません。

就労

就労に関する問題点もしばしば指摘されることです。

AYA世代の中でも20歳から39歳までの「YA世代」の多くは就労し、自らの力で生活しています。そのような中、がんを発症してしまうと、「働かなければならないのに働けない」という状況に陥ってしまう恐れがあります。

その結果、収入が途絶えたり、減ったりすることで経済的に困窮してしまうことも考えられます。

健康習慣を身につけてがんから命を守ろう

AYA世代のがんの原因の多くは不明ですが、がんは健康習慣を身につけることで罹患リスクを軽減できることが分かっています。具体的には、禁煙、節酒、食生活の改善、適度な身体活動、適正体重の維持、感染症の検査の6つを実践することで、がんの罹患リスクが下げられると言われています(※7)

とはいえ、どれだけきちんとした健康習慣を身につけたとしても、がんを100%予防することはできません。ただし、がんから命を守る可能性を高めることはできます。それは、がんの早期発見・早期治療です。がんは早期発見であればあるほど、治療効果は高まり、命を落とすリスクを下げられます。気になる症状があるときはもちろん、自覚症状がない場合でも定期的に検診を受け、がんの早期発見につなげましょう。

(※1)国立がん研究センター|AYA世代の方へ(15歳から30歳代)
(※2)国立がんセンター|AYA世代(思春期・若年成人)と希少がん
(※3)国立がん研究センター|AYA世代のがんについて
(※4)国立がん研究センター|最新がん統計
(※5)国立がん研究センター|院内がん登録2011年10年生存率集計 公表 小児がん、AYA世代のがんの10年生存率をがん種別に初集計
(※6)厚生労働省|思春期・若年成人(AYA)世代のがんの現状と課題
(※7)国立がん研究センター|科学的根拠に基づくがん予防
参照日:2024年9月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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