がんが遺伝する確率はどれくらい?遺伝しやすいがんの特徴や遺伝を予防するには

がんが遺伝する確率はどれくらい?遺伝しやすいがんの特徴や遺伝を予防するには

がんは、日本人の2人に1人が生涯のうち一度はかかると言われるほど一般的な病気です(※1)。そのため、家族の中にがん患者さんがいるという方は珍しくありません。

家族にがん患者さんがいる方の中には、「がんは遺伝しないの?」と不安に思う方もいるでしょう。がんは遺伝するのでしょうか。この記事では、がんと遺伝の関係を詳しく解説します。

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目次

がんは親から子へ遺伝するのか?

結論から言えば、多くのがんは親から子へ遺伝することはありません。

とはいえ、「がんは遺伝する」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。まずは、がんと遺伝の関係を正しく把握していきましょう。

勘違いしやすい遺伝子と遺伝の関係性

「遺伝」とは、親から子へと受け継がれる生物としての特徴のことです。一方、「遺伝子」とは遺伝情報を伝える設計図を指します。

がんと遺伝の関係を考える際は、「遺伝子」と「遺伝」とを分けて考える必要があります。

がんの遺伝は遺伝子の変化が原因

がんは、何らかの原因で遺伝情報の設計図である遺伝子が変異することによって引き起こされるものです。

大半のがんの原因は、遺伝子が後天的に変異することであるため、親ががんになったからと言って、それが次の世代に遺伝することは基本的にありません。

ただし、生まれながらにして遺伝子に変異がある場合、それが次の世代に遺伝する可能性もあります。次の世代に遺伝する可能性のあるがんを「遺伝性腫瘍」と呼びます。

遺伝性腫瘍について

遺伝性腫瘍とは、生まれつき持つ遺伝子の変異を原因としてできるがんの総称です。

人間の体には、2万種類以上の遺伝子がありますが(※2)、その中にはがんの発症に関わる遺伝子もあります。どの遺伝子が変異するかによって、発症しやすいがんの種類や発症率が異なります。例えば、原因遺伝子が「BRCA1」「BRCA2」の場合、発症しやすいのは乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんといったがんです(※3)

原因遺伝子が「APC」の場合、大腸がんやデスモイド腫瘍といったがんが発症しやすくなります(※3)

遺伝しやすいがんの種類には何がある?

次に、遺伝しやすいがんの種類と特徴について見ていきましょう。なお、がんの発症率について詳しく知りたい方は、下記の記事を参照してください。

大腸がん

大腸がんは、結腸や直腸にできるがんの総称です。大腸の正常な粘膜ががん化するケースと、大腸にできた良性のポリープががん化するケースとに大きく分けられます。

大腸がんのうち、5%程度で遺伝が関係していると言われています(※4)。遺伝性のある大腸がんを引き起こす可能性のある疾患は、「リンチ症候群」「家族性大腸腺腫症」などがあります(※5)

家族にこれらの病気にかかっている方は、若いうちから大腸がん検査を受けることをおすすめします。

乳がん

乳がんは、主に乳腺にできるがんのことです。乳がんの主な初期症状は、乳房のしこりやただれのため、自分で乳房を触ることで気づくことも少なくありません。

乳がん患者のうち、約1割で遺伝が関係していると言われています。乳がんの発症に関わりのある遺伝子に「BRCA1」と「BRCA2」があり(※3)、生まれつきいずれかの遺伝子に変異がある場合は乳がんになりやすいと考えられています。

前立腺がん

前立腺がんとは、膀胱の下に男性のみにある前立腺という臓器に発症するがんです。

前立腺がんや膀胱がんといった泌尿器系のがんの発症には、遺伝が関係していると言われています。例えば、父親や兄弟に一人でも泌尿器系のがんを発症している人がいる場合、発症リスクは約2倍、2人以上いる場合には発症リスクは5~11倍になる可能性があることがわかっています(※6)

脳腫瘍

脳腫瘍とは、頭蓋骨(ずがいこつ)内にできる腫瘍の総称です。

脳腫瘍の多くが遺伝子の後天的な突然変異のため、遺伝の可能性は高くありません。しかし、脳腫瘍を引き起こす可能性のある遺伝性の疾患があることもわかっています。

フォンヒッペルリンドウ病やカウデン症候群、結節性硬化症などの疾患は、親から子どもへ遺伝しやすいことがわかっています。

がんの遺伝を予防、対策するには?

家族に遺伝性のがん患者がいる方の多くは、「もしかしたら自分も」と不安に思っていることでしょう。全てのがんのうち、遺伝性のがんの割合は5~10%ほど高く(※7)、決して無視できるほど低い数値ではありません。ここでは、遺伝性のがんの予防方法や、万が一かかってしまったときの対策をご紹介します。

遺伝子検査を受ける

遺伝性のがんを100%防止できる方法は残念ながらまだ確立されていません。しかし、早期発見、早期治療によって、遺伝性のがんから命を守ることはできます。

どのようながんにせよ、早期に発見できすぐに治療をスタートできれば、がんで命を落とすリスクを低減できます。遺伝性のがんの早期発見に有効なのが遺伝子検査です。

遺伝子検査とは、遺伝子の変異を見つけて遺伝性のがんのリスクを評価する検査です。血液検査で、遺伝性のがんのリスク評価や微細ながん細胞の発見を目的としています。費用は基本的には全額自己負担で数万円から数十万円ほどかかりますが、一部のがんにおいて医師が「遺伝子検査が必要」と判断した場合には保険適用(※8)となります。

遺伝カウンセリングを受ける

「自分が将来、がんにかかるか不安で仕方がない」「子どもが欲しいけれど、遺伝が心配」という方もいることでしょう。そういった方は、遺伝カウンセリングを受けることをおすすめします。

遺伝カウンセリングとは、遺伝や病気の正しい情報を提供し、がんをはじめとする遺伝性の病気に関する悩み、疑問、不安を解決するための場です。

臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーといった専門家に、遺伝性の疾患に関することであれば何でも相談できます。遺伝カウンセリングを行っている施設は、全国遺伝子医療部門連絡会議のホームページの「遺伝子医療実施施設検索システム」から検索できます。また一般的に遺伝子検査を受ける場合は事前に遺伝カウンセリングが必要です。

がん保険に加入する

万が一、がんにかかってしまったとき、金銭面が心配という方もいるでしょう。そういった方は、がん保険に加入することをおすすめします。

がん保険とは、がんという疾患に特化した保険で、加入するとがんと診断されたときや、がんで入院または通院するときなどに給付金が支給されます。特に、がんと診断されたときの「診断給付金」は、50万円から200万円などといったまとまった額が給付されるため、金銭的な不安が少ない状態でがん治療に臨めます。

十分な額の貯金がない方や、子どものために貯蓄を治療に使いたくない方、先進医療など治療の選択肢を広げたい方は、がん保険の加入を検討してみてはいかがでしょうか。

がんと遺伝の関係について【まとめ】

「がんは遺伝する」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。

遺伝するがんもありますが、全てのがんのうち5~10%です(※9)。とはいえ、実際に家族にがん患者がいる方にとって5~10%という確率は決して低い数値ではないでしょう。

中には「がんになってしまわないかと不安で眠れない」という方もいるのではないでしょうか。遺伝性のがんのリスクを完全になくすことはできませんが、将来的なリスクを評価することはできます。また、不安な気持ちを専門家に話すことで楽になることもあるでしょう。

遺伝性のがんが不安な方は、遺伝子検査や遺伝カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。遺伝性のがんについての正しい情報を知ることで不安が軽減されることもあります。

(※1)厚生労働省
(※2)愛知県がんセンター|医学研究のはなし
(※3)大阪国際がんセンター|遺伝性腫瘍関連情報
(※4)がん研有明病院|がんと遺伝
(※5)J大腸癌研究会|遺伝性大腸癌診療ガイドライン
(※6)兵庫県医師会|PSAが高いといわれた
(※7)日本遺伝性腫瘍学会|遺伝性腫瘍とは
(※8)国立がん研究センター|がんゲノム医療とがん遺伝子検査
(※9)厚生労働科学研究成果データベース|リー・フラウメニ症候群患者への遺伝カウンセリング
参照日:2023年11月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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