脳腫瘍になりやすい人の特徴や原因リスクについて

脳は体を動かしたり言葉を発したり、全身の調節を行う重要な臓器です。脳は神経の集まりなので、脳に腫瘍ができたら痛いだろうと思うかもしれませんが、実は脳の中には痛みを感じる神経はありません。脳は頭蓋骨に囲まれていることから、表面から触って変化を感じることもできません。脳腫瘍は疑って画像検査を行わないと診断ができない厄介な病気なのです。

ここでは脳腫瘍がどんな病気なのか、脳腫瘍になりやすいのはどんな人なのか、そして脳腫瘍の予防について紹介します。

目次

脳腫瘍とは

脳では「がん」という表現を使わず、「脳腫瘍」という表現をします。「がん」は臓器の表面を構成する「上皮細胞」から発生したものだけにつけられる名称です。脳の中の細胞は「上皮細胞」ではないので、「脳腫瘍」と呼びます。(しかし、患者さんに分かりやすいように、「脳がん」と表現する場合もあります)

脳とは

脳は頭の頭蓋骨に囲まれた部分です。脳と頭蓋骨の間には外部からの衝撃を和らげるために髄液という液体があり、頭蓋骨の内側には髄膜という膜があります。

脳は大きく分けると大脳・小脳・脳幹・脊髄に分けられます。
さらに大脳は前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉に分けられます。
脳はそれぞれの部位で異なった役割があります。

脳の各部位の主な役割

前頭葉 手足を動かす
言葉を発する
やる気を出す
考える
感情のコントロール
側頭葉 見たものを認識する
音を認識する
言葉を理解する
海馬は記憶に関与している
頭頂葉 痛みや温度、触った感じなどを感知して統合する
物の距離感や場所の理解
後頭葉 見たものの情報を統合する
小脳 体のバランスをとる
筋肉の動きを制御する
下垂体
視床下部
ホルモンの調節を行う

脳や脊髄は神経細胞(ニューロン)と神経線維、そしてこれらのすき間を埋めている神経膠(こう)細胞(グリア細胞)から成り立っています。

脳腫瘍の種類

脳腫瘍は頭蓋内から発生した「原発性脳腫瘍」と、他の臓器から脳に転移した「転移性脳腫瘍」の2つに分類されます。

原発性脳腫瘍

原発性脳腫瘍は良性と悪性に分類されます。一般的には脳実質から発生した腫瘍は悪性が、髄膜や血管、末梢神経から発生した腫瘍は良性であることが多いです。

脳腫瘍の分類はかなり細かく、現在は130種類以上に分類されています。

主な原発性脳腫瘍
  • 神経膠腫(グリオーマ)
    さらに膠芽腫・星細胞腫・上衣腫などに分類される。
  • 神経鞘腫
  • 髄膜腫
  • 下垂体腺腫
  • 神経鞘腫
  • 頭蓋咽頭腫
  • 中枢神経系原発悪性リンパ腫

頻度として多い脳腫瘍はグレードⅠ髄膜腫(22.8%)、膠芽腫(11.1%)、非機能性下垂体腺腫(10.4%)、神経鞘腫(10.1%)があります。

脳腫瘍の主な原因とリスクファクター

N-ニトロソ化合物

胎児期もしくは早期小児期にN-ニトロソ化合物に曝露すると脳腫瘍が増加するという報告があります。

動物実験では胎盤を介してN-ニトロソ化合物を投与すると脳腫瘍が増加することが証明されています。母体がN-ニトロソ化合物を摂取する要因として、妊娠中の抗ヒスタミン剤、利尿剤の服用とする考えもありますが、

これらの薬剤の関与を否定する報告もあり、関与は明らかではありません。

その他に燻製肉に含まれる亜硝酸塩はN-ニトロソ化合物の生成を促進すると考えられています。また、ゴム製のおしゃぶりはN-ニトロソ化合物を含んでいることがあり、注意が必要です。

受動喫煙

タバコに関しては母親が喫煙した影響よりも、父親が喫煙して母親や子供が受動喫煙したほうが、脳腫瘍のリスクが高いという報告があります。

これはタバコの主流煙(自分でタバコを吸う)よりも副流煙(他人が吸っているタバコの煙)の方がN-ニトロソ化合物の1種であるニトロサミンの含有量が多いためと考えられています。

放射線

頭部に放射線を当てると脳腫瘍が増加したという報告もあり、高線量の放射線は脳腫瘍のリスクを増やすと考えられています。また、若年発症の脳腫瘍は妊娠中に母親が浴びた放射線の量が多いと増加するという報告もあります。

携帯電話

16歳以下が1日30分以上、10年間携帯電話を耳に当てて会話すると聴神経腫瘍や神経膠腫の発生が2倍になるというWHOの報告があります。

極低周波電磁波

高圧電線や変電設備の近くに住んでいる子供に脳腫瘍が多いという報告があり、そのリスクは2倍程度の増加とされています。極低周波の電磁波が原因と考えられていますが、その関与があるかどうかはまだ明らかにはなっていません。

ウイルス感染

パポーバウイルスの1種であるSV40が脳の脈絡叢や上衣から発生した腫瘍の中に見つかったことから、このウイルスの感染によって脳腫瘍が発生したのでは、と考えられています。その他に脳内悪性リンパ腫にはEBウイルス、子供の髄膜腫の発生にはJCウイルスの感染が先行している可能性も報告されています。

遺伝

neurofibromatosis、von Recklinghausen病、Turcot症候群、Li-Fraumen症候群といった遺伝性疾患には脳腫瘍を発症しやすいことが分かっています。

脳腫瘍になりやすい人の特徴

脳腫瘍になりやすい身体的特徴としては高身長や高BMIの報告があります。

海外の調査ですが、身長が190cm以上の人は160cm未満の人と比較して髄膜腫が2倍発生しやすいという報告があります。BMIについては日本人の男性で、BMIが高いと髄膜腫が発生しやすい傾向が見られています。

そのメカニズムとして肥満に関連した慢性炎症や、肥満細胞から産生されるエストロゲンとの関連が推測されています。

BMIは体重(kg)を2回身長(m)で割ったもので、日本での正常値は18.5以上25未満です。
例)身長175cmで体重72kgの場合
72÷1.75÷1.75=23.5

また身内に脳腫瘍の人がいる場合は、脳腫瘍の発症リスクが3~10倍高いという報告もあります。

その他に脳腫瘍になった人の生活習慣を調査すると「過度に炭酸飲料や砂糖を摂取」「未治療のむし歯が3本以上」「生野菜を摂取しない」といった特徴があったと報告されています。

悪性腫瘍と良性腫瘍の違い

良性腫瘍は正常な脳との境界がはっきりしていて、大きくなる速度がゆっくりで、脳実質以外(髄膜、末梢神経、血管)にできやすいという特徴があります。悪性腫瘍は病気の境目がわかりづらく、大きくなる速度が早くて、脳実質にできやすいといった特徴があります。

脳腫瘍には他のがんのようにステージ分類はなく、かわりに悪性度を表すグレード分類があります。
※グレード2以上の脳腫瘍は経過中にグレードが進む(数字が上がる)事があります。

グレード1(良性腫瘍)

髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫、頭蓋咽頭腫

グレード2(悪性腫瘍)

星細胞腫(アストロサイト―マ)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)

グレード3(悪性腫瘍)

退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫

グレード4(悪性腫瘍)

膠芽腫(グリオブラストーマ)、胚細胞腫、中枢神経系悪性リンパ腫

予防と早期発見のコツ

脳腫瘍を予防する生活習慣

食べ物では砂糖や炭酸飲料を控え、生野菜を食べるようにすると脳腫瘍の危険性を減らせる可能性があります。また、脳腫瘍が大きくなる食事としては高たんぱく、高脂肪食が考えられているので、たんぱく質や脂肪を摂りすぎないように気をつけましょう。

コーヒーと脳腫瘍の関連の調査では、1日3杯以上飲むグループで脳腫瘍の発生が少ない傾向が見られました。機序としてはインスリン抵抗性の改善作用があるクロロゲ酸やトリゴネリンといった物質が脳腫瘍の発生を抑制していると推測されています。ただし、コーヒーを1日7杯以上飲むと脳腫瘍になりやすいという報告もあるので過剰摂取には注意が必要です。

その他にタバコは脳腫瘍が大きくなることに関連している可能性があり、自分自身が喫煙しなくても、受動喫煙は脳腫瘍の原因になりうると考えられているので、どのような形でもタバコの煙はできるだけ吸わないようにしましょう。

ビタミンCは脳腫瘍発生の原因となる内因性ニトロソ化合物の生成を抑えるため、食べ物やサプリなどで工夫しましょう。

早期発見のためには

基本的に脳腫瘍を発見するためには脳のCTやMRIといった画像検査が必要ですが、市民検診や標準的な人間ドックではこれらの検査は行なわれません。人間ドックではオプションとして脳ドックを申し込むと脳のCTやMRIが行なわれ、これらの検査では症状が出る前の脳腫瘍を見つけることができます。

医療法人社団東京石心会新緑脳神経外科|神経膠芽腫
東京医科大学病院 脳神経外科|脳腫瘍総論
日本獣医学会事務局|霊長類フォーラム:人獣共通感染症第50回
国立がん研究センターがん対策研究所|体格と脳腫瘍の罹患リスクとの関連について
株式会社医学書院|脳腫瘍のリスク因子 発生原因から遺伝子治療まで(2)
国立がん研究センターがん対策研究所|コーヒー・緑茶摂取と脳腫瘍罹患との関連について

春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医