脳はさまざまな役割を担っているので、どの部分に腫瘍ができるかによって、現れる症状はさまざまです。麻痺で発症する場合もあれば、頭痛や性格変化だけということもあります。
通常の市町村検診では脳腫瘍を見つける検査は含まれていないので、脳腫瘍が気になる場合は症状があれば脳神経外科の受診を、症状がない場合は人間ドックで脳を調べるオプションを利用する方法があります。
ここではどのような時に脳腫瘍を疑って受診すべきか、そして脳腫瘍が疑われた場合どのような検査が行われるのかについて紹介します。
目次
脳腫瘍の主な初期症状
脳腫瘍は脳の中に腫瘍ができた状態なので頭が痛くなりそうですが、脳腫瘍の初期から頭痛がある人は2割程度、病状が進行しても頭痛がある人は7割程度であり、頭痛はかならずしも現れる症状ではありません。
脳腫瘍に特徴的な頭痛は、起床時にもっとも痛む点です。これは、明け方に頭蓋内圧(脳の圧)が一番上がるため、腫瘍によって圧迫されている脳や髄膜の症状が出やすくなるからです。
脳浮腫
腫瘍が大きくなると、脳浮腫がおこります。浮腫は「むくみ」という意味で、普段以上に水分が多くなる状態です。
脳腫瘍が大きくなり、さらに脳浮腫がおきると頭蓋骨の中の圧力が高まって、頭蓋内圧亢進状態が現れます。脳が圧迫されることで頭痛や吐き気、意識障害などがおきます。最初のうちは脳の圧が上がりやすい明け方に見られますが、病気が進行するといつでも起きるようになります。
水頭症
腫瘍が大きくなると脳の周りを循環している髄液の流れが悪くなり、一部に髄液が溜まってくることがあります。この状態を水頭症と言います。
局所症状(巣症状)
腫瘍ができた位置によって、本来その場所で行われていた脳の機能が障害を受けます。これらの症状を局所症状もしくは巣症状(そうしょうじょう)といいます。
出現した症状から、脳のどの部分に病気があるのかを推測することができますが、これらの症状は脳腫瘍に限られたものではなく、同じ部位に脳出血や脳梗塞などが起きても同じ症状が現れます。
脳は大きく分けると大脳・小脳・脳幹・脊髄に分けられ、さらに大脳は前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後頭葉に分けられます。
脳の部位別に現れやすい症状は以下の通りです。
前頭葉 | ・病気ができた部位と左右逆の手足の動きが悪くなる (右に腫瘍ができたら、左の手足の動きが悪くなる)。 ・左の前頭葉が障害された場合は言葉を発する部分が障害される (言葉の理解はできる)。 ・自発性や集中力、記憶力が低下する。 ・認知機能が低下し、日付や場所がわからなくなる。 ・感情のコントロールができなくなり、性格が変わる。 |
側頭葉 | ・腫瘍ができた位置と左右逆の場所が見えなくなる(半盲)。 ・左の側頭葉が障害されると言葉の理解が難しくなったり、言い間違いが増える。 ・実際にはない臭いを感じる(幻臭)。 |
頭頂葉 | ・腫瘍ができた位置と左右逆の感覚が障害される。 ・左右がわからなくなる。 ・計算ができなくなる。 ・読み書きができなくなる。 |
後頭葉 | ・腫瘍ができた位置と左右逆の場所が見えなくなる(半盲)。 |
小脳 | ・ふらつきやめまい、歩行障害がおきる。 ・細かな動きができなくなる。 |
下垂体・視床下部 | ・体温調節ができなくなる。 ・尿の濃度の調節ができなくなる(尿崩症)。 ・視力や視野が障害される。 ・意識障害。 |
脳幹 | ・顔や手足の動きが悪くなる。 ・感覚障害。 ・嚥下障害。 ・聴力障害。 |
また、てんかん発作はどの部分に脳腫瘍ができても起きる可能性があります。
脳腫瘍の自己診断チェック
脳腫瘍は病気の発生した部位により症状の出やすさや、症状の出る時期が異なります。とくに脳はさまざまな役割をしている臓器であり、同じ脳腫瘍でも部位によって全く違う症状が現れます。以下に記載した項目に当てはまる場合は、病院受診をお勧めします。
- タバコを吸っている(もしくは同居者がタバコを吸っている)
- 身内で脳腫瘍になった人がいる
- 頭痛がつづき、だんだんと痛みが強くなっている
- 明け方に強い頭痛がある
- 突然意識が飛ぶことがある
- 吐き気や嘔吐があるが、お腹の検査をしても原因がわからない
- ふらつきが続く
- 性格が変わってきた
- 筋肉の動きが悪くなったところがある
- 言葉が出にくくなってきた
検診と検査項目
脳腫瘍があるかどうかを確認するためにはCTやMRIの検査が必要となりますが、住民健診でこれらの検査は行なわれていません。無症状の人が脳腫瘍があるかどうか検査をしたい場合は、人間ドックのオプションとして「脳ドック」を申し込むのが一般的です。
脳ドックは脳腫瘍だけでなく、脳梗塞や脳出血といった病気のリスクを発見する目的もあるので、以下のような項目が含まれています。
- 脳CT/MRI:脳実質の状態をみる
- 脳MRA:脳の中の血管をみる
- 頸動脈エコー:脳に血流を届ける首の血管の状態をみる
- ABI:血圧や動脈硬化の程度をみる
- 血液検査:脳梗塞のリスクとなる脂質異常症や糖尿病の有無をみる
- 心電図:脳梗塞のリスクとなる不整脈の有無をみる
さらには認知症の検査としてVSRAD、認知度検査などの項目が入っている場合もあります。
脳腫瘍の有無だけを調べたいのであれば脳MRIだけで、ほとんどの場合判断が可能です。
脳腫瘍の疑いから確定診断まで
ファーストステップ(脳腫瘍の可能性があるかどうかを見る検査)
頭部単純/造影CT検査
放射線を用いて脳の形を見ます。血管や病変を見やすくするために血管から造影剤を注入する造影CTが行われることもあります。
頭部単純/造影MRI
磁気を用いて脳の形を見ます。血管を見やすくするために造影剤を用いた造影MRIが行われることもあります。
神経学的検査
手足の麻痺や口の動きなど神経の異常の有無を診察します。軽い麻痺の場合は普段の生活で気付くことができないので、以下のようなテストをすることがあります。
片足立ち試験
目をつぶって片方の足で立つ。麻痺側の足では片足立ちできない。
両上肢挙上試験
腕をまっすぐ前に伸ばし、手のひら上に向けて目をつぶる。麻痺側の腕が段々と下に下がってくる。
鼻指鼻試験(主に小脳や脳幹の機能を見る)
別の人に人差し指の位置を変えて差し出してもらいます。自分の人差し指でまず自分の鼻の頭を触り、その後相手の人差し指に触ります。この動作を繰り返して、スムーズにできるかどうかを見ます。
セカンドステップ(脳腫瘍かどうか確定診断する検査)
多くの脳腫瘍はファーストステップの検査で脳腫瘍であることや、その種類がおおよそ診断されますが、中には診断に苦慮するものもあります。その場合、病理検査を行なうことがあります。
病理検査
脳腫瘍が疑われる部位の一部を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認する検査です。
病変の一部を採取する方法としては、頭蓋骨に小さな穴をあけ、細い針を病変まで進めて細胞を採取する方法(低位生検術)と、開頭手術で大きめに病変を切除する方法(開頭生検術)があります。
サードステップ(脳腫瘍の状態を見る検査)
脳血管造影検査
足の付け根や腕などの血管からカテーテルとよばれる細い管を挿入し、先端を脳まで進めます。病変近くでカテーテルから造影剤を注入し、病変と血管の位置関係などを調べます。
PET検査
がん細胞が取り込みやすい物質に放射線物質をくっつけた検査薬を体内に注射して、その分布を調べる検査です。糖尿病で血糖値のコントロールが不安定な人はこの検査で正しい結果が出ないことがあります。
検査にかかる平均費用(★検診→検査)
保険適応で受ける検査(目安)
脳腫瘍が疑われる所見があれば、その後の検査はすべて保険診療で受けることができます。
- 頭部単純CT検査 3割負担 4500円、1割負担 1500円
- 頭部造影CT検査 3割負担 9000円、1割負担 3000円
- 頭部単純MRI検査 3割負担 6000円、1割負担 2000円
- 頭部造影MRI検査 3割負担 12000円、1割負担 4000円
- PET検査 3割負担 30000円、1割負担 10000円
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