運動をしないとがんになりやすい?がんと運動の本当の関係とは

運動をしないとがんになりやすい?がんと運動の本当の関係とは

今や、「日本人の2人に1人がかかる」といわれているがん。

多くの人ががんにかかる可能性があるわけですが、さまざまなことに気を付けて生活することで、がんを予防できることがわかっています。その一つが運動です。

運動をすることで、がんの予防が期待できます。日常的に運動をする人としない人とでは、がんの発生率にどのくらい差があるのでしょうか。また、どのような運動をどれくらいすれば、がんの予防が期待できるのでしょうか。

本記事では、がんと運動の関係について詳しく解説していきます。

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目次

がん予防には運動が重要?

運動ががん予防に効果があるといわれても、信じられない人もいるのではないでしょうか。そこで、まずはがんと運動の関係性を見てみましょう。

がん予防に重要な6つの要素

がんの原因はさまざまですが、生活習慣による影響は非常に大きいことがわかっています。国立がん研究センターなどからなる研究グループは、がんの予防において重要な要素を挙げています。それは、禁煙、節酒、食生活、身体活動、適正体重の維持、感染 の6つ。感染以外は生活習慣に関わるもので、身体活動と適正体重の維持は運動に関わるものです。

国立がん研究センターの研究によると、身体活動が活発な人ほどがんの罹患リスクが低下しています。また、日本人を対象にした研究では男性がBMI値21.0~26.9、女性が21.0~24.9 で、がんを含む全ての原因による死亡リスクが最も低下することがわかっています。

運動している人ほどがんのリスクが低下

国立がん研究センターの「多目的コホート研究 」によると、男女ともに身体活動が多い人の方が、身体活動が少ない人よりもがんの罹患リスクが低下しています。

男性では身体活動が多い人と少ない人を比べると、身体活動が多い人のがん全体の罹患リスクは0.87倍 、死亡リスクは0.80倍 。女性ではがん全体の罹患リスクは0.84倍 、死亡リスクは0.69倍 という結果になりました。

つまり運動をする人は、がんの罹患リスクが約20~30%下がるということです。

運動で予防できるがんの種類

運動ががんの予防につながることはわかっていますが、全てのがんのリスクを下げるわけではないといわれています。

がん予防を啓蒙する機関である世界がん研究基金は、運動で予防できるがんの一つとして、結腸がんを挙げています。可能性大と評価されているのは、閉経後の乳がんと子宮体がん。可能性が示唆されているのは肺がん、肝臓がん、閉経前の乳がんです。

日本人を対象とした10万人規模の追跡研究によると、運動することで罹患リスクが低下したのは、男性が結腸がん、肝臓がん、すい臓がん。女性が胃がんでした。

がん予防における運動のメリット

運動することでがんの罹患リスク、死亡リスクともに低下することがさまざまな研究から明らかになっています。

運動すると、なぜがんのリスクが低下するのでしょうか。がん予防における運動のメリットを見てみましょう。

高インスリン血症の予防

「糖尿病の人はがんになりやすい」といわれていましたが、つい最近までそのメカニズムは明らかになっていませんでした。

2020年に京都大学の研究グループが、高インスリン血症になるとがん細胞を排除する「競合細胞」という細胞がうまく働かなくなることを突き止めました。高インスリン血症とは体内のインスリン量が異常に増加した状態のことで、生活習慣が原因の2型糖尿病や肥満の人によく見られます。

食べ過ぎたりや運動不足になったりすると、内臓脂肪が蓄積されます。内臓脂肪が増え過ぎると、脂肪から放出されるアディポカイン と呼ばれる生理活性物質の量と種類が変化します。アディポカインは、インスリンの働きを阻害するので血糖値が上昇。上昇した血糖値を下げようと、すい臓はさらにインスリンを分泌。このとき、すい臓はインスリンと同時にインスリン様成長因子(IGF)という物質も分泌します。IGFには細胞を増殖させる作用があるので、がん細胞の増殖に有利であると考えられています。

運動することによって筋肉への血流が増えるとブドウ糖が細胞に取り込まれやすくなり、インスリンの効果は高まります。その結果血糖値は下がりやすくなり、余計なインスリンは不要になります。結果的にIGFの量が増えないため、がん細胞の増殖も防止できるというわけです。

便通が良くなる

世界がん研究基金が、運動でリスク低下が明らかであると評価したのが結腸がんです。

日本人を対象とした追跡調査でも、結腸がんは運動することで罹患リスクが低下することがわかっています。結腸がんの罹患リスクを上げる要因の一つが、便通の悪さです。

便通が悪くなるということは、便が結腸に留まる時間が増えるということです。便には発がん物質が含まれていますが、便通が悪くなると発がん物質が結腸に長く留まることになります。その結果、結腸がんの発症リスクも上昇してしまうのです。

運動すると消化管が活発になり、便通が良くなります。便通が良くなれば、便に含まれる発がん物質が結腸に留まる時間が短くなり、結腸がんの発症リスクも低下するというわけです。

がん予防にはどんな運動をすればよい?

ここまでお伝えしたように、運動するとがんの予防が期待できますが、どのような運動を、どれだけの強度で行えばよいのでしょうか。

18歳から64歳

厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動基準2013 」が示す18歳から64歳の身体活動量の基準は以下の通りです。

「強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週行う。具体的には、歩行又
はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う」

メッツは身体活動の強さを表す単位で、座って安静にしている状態を1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。「メッツ・時」とは、運動強度の指数であるメッツに運動時間を掛けたものです。例えば3メッツの運動強度の活動を1時間行った場合は、「3メッツ×1時間」で3メッツ・時となります。

3メッツに相当する運動は普通歩行のほか、犬の散歩をする(3.0メッツ)、掃除をする(3.3メッツ)などがあります。より強度の強い運動は、自転車に乗る(3.5~6.8メッツ)、速歩きをする(4.3~5.0 メッツ)、子どもと活発に遊ぶ(5.8メッツ)、農作業をする(7.8メッツ)、階段を速く上る(8.8メッツ)などです。

65歳以上

「健康づくりのための身体活動基準2013」が示す、65歳以上の身体活動量は以下の通りです。

「強度を問わず、身体活動を10メッツ・時/週行う。具体的には、横になったままや
座ったままにならなければどんな動きでもよいので、身体活動を毎日40分行う」

18歳から64歳までとは異なり、65歳以上は運動の強度を問わないのが特徴です。とはいえ十分な体力がある人は、65歳以上であっても3メッツ以上の強度の運動が推奨されています。

3メッツ未満の身体活動には皿洗いをする(1.8メッツ)、洗濯をする(2.0メッツ)、立って食事の支度をする(2.0メッツ)、子どもと軽く遊ぶ(2.2メッツ)、時々立ち止まりながら買い物や散歩をする(2.0~3.0 メッツ)などがあります。

【まとめ】運動とがんについて

日本人の2人に1人が、生涯で一度はがんにかかってしまいます。

そのため、多くの人はがんを予防するために生活習慣に気を付けているでしょう。食生活の改善や禁煙、節酒などとともに重要なのが運動習慣です。

運動する人は運動しない人に比べて、がんの罹患リスクが10%以上低くなります。運動はがんの罹患リスクと死亡リスクを下げるといわれていますが、特に結腸がんの罹患とは強い因果関係があり、世界がん研究基金は運動で予防できることが明らかであると評価しています。日常生活に適度な運動を取り入れ、無理なくがん予防に取り組んでみてはいかがでしょうか。

1.がん情報サービス| 科学的根拠に基づくがん予防
2.NHK|運動不足とがん発症リスクの関係 日本人の調査結果と予防
3.公益財団法人長寿科学振興財団|がん予防の運動とは
4.国立開発法人国立がん研究センター|肥満指数(BMI)と死亡リスク
5.国立開発法人国立がん研究センター|多目的コホート研究の成果
6.ScienceDirect| Hyperinsulinemia Drives Epithelial Tumorigenesis by Abrogating Cell Competition
7.糖尿病ネットワーク|糖尿病の人はがんの発症リスクが高い メカニズムを解明 新たながん予防法や治療法に期待
8.運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書
9.厚生労働省|身体活動・運動の単位
参照日:2023年1月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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