がん治療を始めると、痛みや倦怠感など苦痛な症状が出現する患者さんも少なくありません。それらの症状の緩和に有効なのがマッサージです。
がん治療は入院治療から外来治療へとシフトチェンジしてきているため、患者さん本人のほか、家族の方も苦痛を取り除くためのマッサージ方法を知りたいという方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事ではがん治療の苦痛を取り除くためのマッサージ方法を詳しく解説します。
一部、マッサージや圧迫療法を行ってはならない症状があります。圧迫療法やマッサージをしても問題ないか自己判断はせず、事前に医師に確認をしてからおこなってください。
目次
がんによるむくみに大きく関係するリンパ浮腫
がんの進行とともに、出現することがあるのが手足や体幹などのむくみです。
むくみは痛みやしびれを伴うこともあるため、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させてしまいます。まずは、がんが進行するとなぜむくみが出現するのかについて見ていきましょう。
リンパ浮腫とは?
がん治療におけるむくみの主な原因はリンパ浮腫です。
リンパ浮腫とは、がんの治療部位に近い腕や足などの皮膚の下にある、動脈や静脈以外のリンパ管に回収されなかったリンパ液がたまってしまっている状態を指します。
がん治療後すぐにリンパ浮腫が発症するケースもあれば、がん治療から10年以上が経ってから発症する場合もあります。(※1)。
リンパ浮腫はなぜ起こるのか?
リンパ浮腫は、リンパ液の流れが悪くなることで起こります。
リンパ液の流れが悪くなる原因としては、がん治療で行ったリンパ節の切除、放射線治療や一部の薬物療法の副作用などがあります(※1)。
つまり、がん治療を行ったことを原因として、リンパ浮腫になることが多いのです。そのため、多くのがん患者さんがリンパ浮腫の症状に苦しんでいます。
リンパ浮腫の症状
リンパ浮腫が起こると、むくみ、むくんだところが重くなる、関節が曲げづらくなるなど、患者さんのQOLを低下させるさまざまな症状が引き起こされてしまいます。
リンパ浮腫は適切な治療が行われないと、その症状が徐々に悪化してしまいます。
そのため、リンパ浮腫が起こった場合、できるだけ早めに受診し治療を行いましょう。
がんによるむくみを解消するにはマッサージが有効
リンパ浮腫を原因とするむくみの治療にはさまざまな方法がありますが、手軽にできるのがマッサージです。
ここでは、がんによるむくみの解消に有効なマッサージ方法を見ていきましょう。また開始する場合は、かかりつけの担当医やリハビリの理学療法士・作業療法士などに確認しながら行いましょう。
リンパドレナージ
リンパドレナージとは、皮膚をこすることで、流れが滞っているリンパ液の流れを良くしていくというものです。ドレナージとは「排液」という意味です。
まず、皮膚をこすってリンパ液の流れを活性化し、体の中の老廃物を集めます。集められた老廃物はリンパ液とともに静脈から排出されることでむくみが解消します。リンパドレナージを行う前に、肩回しを10回、腹式呼吸を5回の準備運動を行いましょう。
乳がんや皮膚がんの手術後に腕のリンパ液が流れにくくなった場合は、以下の方法でリンパドレナージを行います。
- 手術をしていない方の脇の下をマッサージする
- 前胸部は手術をしていない方の脇の下に向けてリンパ液を流す
- 二の腕は肩先に向けてリンパ液を流す
- 手首から肘に向けてリンパ液を流す
- 指先から手首に向けてリンパ液を流す
婦人科系のがんの手術などで足のリンパ液が流れにくくなった場合は、以下の方法でリンパドレナージを行います。
- むくんでいる足と同じ側の脇の下をマッサージする
- 胴体は脇の下に向けてリンパ液を流す
- 太ももは腰骨の外側に向けてリンパ液を流す
- 膝の周辺は上に向けてリンパ液を流す
- 足首から膝に向けてリンパ液を流す
- つま先から上に向けてリンパ液を流す
圧迫療法
リンパドレナージを行って、リンパ液の流れが改善した後は、圧迫療法を行います。
圧迫療法とは、ストッキングや包帯を用いて足先からふくらはぎを圧迫することで静脈血を心臓に戻しやすくする治療法です。
治療には、専用の「弾性ストッキング」や「弾性包帯」を用います。ただし、合わないストッキングや包帯、無理な圧迫療法は症状を悪化させる可能性があります。そのため、圧迫療法は担当医の指導のもと行いましょう。
マッサージを取り入れることによって期待できる効果
がん治療にマッサージを取り入れることでどのような効果が期待できるのでしょうか。マッサージの具体的な効果については以下の通りです。
筋肉の緊張を弱め、痛みを緩和
痛いところがあると、血管は収縮し、筋肉は緊張してしまいます。血管が収縮してしまうと、投薬治療を行っても十分な効果が発揮できない恐れがあります。
マッサージを行い筋肉の緊張をほぐすことで、痛みの緩和だけでなく、投薬治療の効果を高めることも期待できるでしょう。
心身のリラクゼーション効果で痛みを緩和
痛みのある場所を人の手でさすったりこすったりすることは、脳の神経物質の分泌を促し、痛みを和らげたり、リラクゼーション効果で脈拍や血圧を安定させたりする効果があると言われています。
実際に、夜間に出現する疼痛(とうつう)で鎮痛剤や睡眠剤を追加しても快適な睡眠を取れなかった患者さんが、マッサージを取り入れることで痛みが和らぎ、快適な睡眠を取れるようになったというケースは少なくありません。
マッサージや圧迫療法が良くないとされる禁忌事例
がんの痛みの緩和には、マッサージや圧迫療法が有効ですが、一部、マッサージや圧迫療法を行ってはならない症状があります。
どのような症状が出た時にはマッサージや圧迫療法を行ってはならないのでしょうか。
絶対的禁忌
絶対的禁忌とは、絶対にマッサージや圧迫療法を行ってはならない症状のことです。主な接待的禁忌は、以下の通りです。
- 感染症による急性炎症(蜂窩織炎など)
- 心性浮腫(心筋梗塞や心筋炎を原因とした浮腫)
- 足の急性静脈疾患(深部静脈血栓症、静脈炎など)
これらの症状がある場合、絶対にマッサージや圧迫療法を行ってはなりません。なお、急性炎症の場合には症状が消失したら治療は行えます。
相対的禁忌
相対的禁忌とは、それほどの危険性はないものの、通常行ってはならない症状のことです。マッサージや圧迫療法の主な相対的禁忌は、以下の通りです。
- 気管支喘息
- 低血圧
- 慢性炎症(炎症部以外のリンパドレナージは可能)
- 月経障害
- 妊婦
また、腹部の手術や放射線治療後には腹部へのリンパドレナージは行えません。
がん治療とマッサージについて【まとめ】
多くのがん患者さんを苦しめる痛みやむくみ。痛みやむくみの主な原因となるリンパ浮腫は適切な治療を行わないと徐々に症状が重くなってしまいます。
リンパ浮腫を放置すると、強い痛みや関節が曲げられないなどで、日常生活にも大きな支障を来してしまうでしょう。また、痛みによる精神的苦痛やストレスは、治療効果を著しく下げてしまう要因にもなります。そのため、リンパ浮腫の症状が出た場合には、できるだけ早めに治療を行う必要があります。
さまざまな治療法がある中で、患者さん本人や家族でも気軽にできるのがマッサージです。がんの痛みやむくみでお悩みの方は、今回ご紹介した方法を参考に、ぜひがん治療にマッサージを取り入れてみてください。
(※1)国立がん研究センター|リンパ浮腫 もっと詳しく
参照日:2023年11月