腹膜がんの余命はどれくらい?原因や症状、治療方法も解説

腹膜がんの余命はどれくらい?原因や症状、治療方法も解説

大網や横隔膜、腹膜核などに発生する腹膜がん。1年間で腹膜がんと新たに診断されるのは、10万人あたり6人未満と非常に希少ながんです(※1)。 そのため、どのような症状が現れた場合、腹膜がんを疑えば良いのかイメージが湧かない方も多いでしょう。

そこでこの記事では、特徴から症状、原因、治療方法まで腹膜がんについて詳しく解説します。

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目次

腹膜がんとは

胃がんや肺がん、大腸がんといった患者数が多いがんと違い、腹膜がんがどのようながんなのかイメージがつかない方も多いのではないでしょうか。そこでまずは、腹膜がんがどのようながんなのか、その特徴を見ていきましょう。

希少がんの一種

腹膜がんは、罹患数が少ない希少がんの一つで、日本産婦人科学会の調査によると、2017年に新たに腹膜がんと診断されたのはわずか約400人であり、 罹患率は人口10万人あたり6人未満となっています(※1)

腹膜がんに限らず希少がんは、患者数が少ないために得られたエビデンスが少なく、診療上の課題がほかの一般的ながんと比べて大きいという特徴があります。

卵巣がんと類似しているがん

腹膜がんの腫瘍の組織型(がんの顔つき)は卵巣がんの一種である漿液性(しょうえきせい)腺がんと非常に似ていることから、腹膜がんは卵巣がんの仲間と考えられています 。

ただし、腹膜がんの方が予後不良であるケースが多いなど、卵巣がんと異なる特徴もあります。

腹膜がんの余命

腹膜がんと診断された方が最も知りたいことの一つが、腹膜がんの余命ではないでしょうか。

近年の医療・医学の進歩でがんの余命は長くなる傾向にありますが、腹膜がんの5年生存率は平均50~60%で推移しています。

国立がん研究センターが2021年に公表した調査によると、胃がんの5年生存率は75.4%、大腸がんは76.8%、喉頭がんは80.4%でした(※2)

腹膜がんは、先に挙げたがんより5年生存率は短くなりますが、胆のう・胆管がん(5年生存率28.7%)、膵臓がん(12.1%)などのがんよりは予後が良いがんと言えるでしょう(※2)

腹膜がんの原因

がんは、肺がんや大腸がん、子宮頸がんなど原因がある程度特定されているものと、原因が明確になっていないものがあります。

腹膜がんは、現在のところ、具体的な原因は特定されていませんが、いくつかのリスク要因は指摘されています。

例えば、石綿(アスベスト)との長期的な接触、家族歴や遺伝などが要因として挙がっており、最近での研究ではBRCA1遺伝子の変異が腹膜がんの発症に関与しているとの指摘もあります 。

また、原発性の腹膜がんのほか、卵巣がんや胃がんといったほかの腹部のがんが転移することで腹膜がんが発症することもあります。

腹膜がんの症状

腹膜がんの初期の自覚症状は、ほとんどありません。

これは腹膜がんの大きな特徴で、希少がんだけに症例数が少なく、検診方法も確立していない現状にあります。そのため、気がついたときには進行がんに至っているケースが大半です。腹膜がんが疑われるさまざまな症状が出現した際には、画像検査、血液検査、腹腔鏡検査、経皮的生検などの検査が行われます。

腹膜がんから命を守るためには、症状がなくても定期的に検診を受け、気になる症状があればどんな些細な症状でも躊躇なく医療機関を受診することが重要です。

腹膜がんが進行すると、腹水がたまることによる腹部膨満感の症状が出現します。

健康な状態でも、臓器と臓器の摩擦を軽減するために50cc程度の腹水は存在しますが、 腹膜がんが進行すると、見た目にも変化がわかるほど腹部が大きく膨らみます。多量の腹水が腹部を圧迫することにより、腹部膨満感とともに呼吸困難や浮腫などの症状が出現することも。ほかにも、消化管機能の低下による吐き気・嘔吐や便秘などの症状が現れ、食事や排せつにも悪影響を及ぼす点にも注意しなければなりません。

腹水を抜く治療では、体にとって重要な栄養素が失われ栄養失調を招くリスクがあるほか、体が弱った結果、免疫力が低下しがん細胞が増殖する可能性があることも指摘されています。

腹膜がんの治療法

がんの標準治療は「手術」「薬物療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」の3つですが、治療の初期段階で進行度が高いことが多い腹膜がんにおいて、薬物療法、放射線治療を単独で行われることはありません。

それは、現在の医療では化学療法や放射線治療のみでは、治癒することはほぼ不可能だとされているからです。

腹膜がんの治療の基本は、手術と抗がん剤を使った薬物療法の組み合わせとなります。

手術

腹膜がんは人口10万人あたり6人未満が罹患する希少がんです(※1) 。現時点では腹膜がんに特化したエビデンスが集積されていないため、ステージⅢ期・Ⅳ期の漿液性腺がんのガイドラインに沿って治療が行われます。

腹膜がんの治療でまず行われるのが手術です。腹腔内にできたがんをすべて取り除くことを目的に、腹膜にできたがんだけではなく、その他の部位に広がったがんも同時に切除します。腹膜がんの原因が卵管の先端にあることが多く、子宮への播種が多いことから子宮や卵管、卵巣も切除していきます。手術後はがん細胞を攻撃し、最終的に死滅させるために抗がん剤治療を開始します。

ただし、腹膜がんは進行した状態で発見されることが多いため、全身状態の悪化により手術が難しいケースも少なくありません。その場合は、手術前に抗がん剤を投与し、がん細胞の縮小や全身状態の向上を図ったうえで手術が行われることもあります(※アジュバント療法とも言われています)。

薬物療法(抗がん剤治療、化学療法)

腹膜がんにおける薬物療法では、効果の最大化を狙って抗がん剤を腹腔に直接注入する「腹腔内化学療法」が行われるのが一般的です。

がんの進行度、患者さんの全身状態などによって、薬剤の種類や量、治療期間は異なります。なお、腹腔内化学療法の主な副作用には腹部膨満感があります。

放射線治療

高エネルギーの放射線をがん細胞に照射して、がん細胞を死滅させる治療方法です。手術が困難なケースで用いられるほか、手術後の再発予防で行われることもあります。

定期的な検診でできるだけ早期に腹膜がんを発見しよう

腹膜がんと診断された人は1年間でわずか約400人。腹膜がんは罹患率に換算すると10万人あたり6人未満と、非常に珍しいがんです(※1) 。初期症状がほとんどないのが特徴で、気がついたときにはステージが進行しているケースも少なくありません。腹膜がんは、希少ながんだけにエビデンスが少ないために検診方法も十分に確立していないなどもあり、早期に発見することが難しいともいわれています。

とはいえ、早期発見に最も有効なのは、検診であることは事実です。検診により腹膜がんの発見が早期であればあるほど、命を守れる確率は高くなります。気になるような症状がなくても定期的に検診を受け、腹部膨満感やお腹の張り、吐き気・嘔吐、便秘といった症状が出た場合にはできるだけ早く病院に行きましょう。

(※1)国立がん研究センター|腹膜がん
(※2)国立研究開発法人国立がん研究センター|全がん協加盟がん専門診療施設の5年生存率、10年生存率データ更新 グラフデータベースKapWeb更新
参照日:2024年5月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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