おしりのしこりは肛門がんの可能性あり?肛門がんと痔との違いは?

おしりのしこりは肛門がんの可能性あり?肛門がんと痔との違いは?

肛門(こうもん)がんとは、直腸と肛門を結ぶ肛門管や肛門周囲にできるがんの総称です。日本では年間約1,100人が罹患(りかん)しており、がんの中でも希少がんの一つとして位置づけられています(※1)。

肛門周りのしこりが肛門がんの代表的な症状であり、すでに肛門がんと診断されている患者さんの中には、しこりの症状に悩まされている方もいるのではないでしょうか。

また、「肛門にできたしこりががんと関係あるか心配」という方もいるでしょう。そこでこの記事では、肛門がんとしこりの関係や肛門がんと痔(じ)の違いなどを詳しく解説します。

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目次

肛門がんとしこりの関係性

肛門がんの代表的な症状として肛門のしこりが挙げられます。なぜ、肛門がんになるとしこりが出現するのでしょうか。まずは肛門がんとしこりの関係性を見ていきましょう。

肛門がんによるしこりの原因

しこりとは、皮膚や皮下組織にできる腫瘤(しゅりゅう)の総称です。しこりは、良性(良性腫瘍)と悪性(良性腫瘍)の2つあり、肛門にできた悪性のしこりが肛門がんとなります。

肛門にしこりを生じる原因として考えられる疾患は、肛門がんのほか、細菌や真菌への感染による肛門周囲膿瘍(のうよう)、痔瘻(じろう)、慢性膿皮(のうひ)症などの疾患、直腸にできるポリープやがんです。

しこりが悪性ですぐに治療を開始しなければならないものなのか、良性で放置しても問題ないものなのか自分で判断することは難しいため、肛門にしこりの症状が出た際には早めに肛門科などの専門医を受診しましょう。

出血への注意

排便時に肛門から出血した場合には要注意です。

肛門からの出血で最も多いのは、痔ですが肛門がんの可能性も考えられます(※2)。

出血を確認した場合の対処法

肛門からの出血を確認した場合にはできるだけ早く専門医を受診しましょう。

出血を伴うしこりには、良性のものと悪性のものがあります。良性でも治療が必要となるケースがあり、肛門がんや直腸がんといった悪性であればすぐに治療を開始する必要があるでしょう。

「痔だと思って放置していたら肛門がんだった」ということにならないように、早めに専門医を受診してください。

肛門がんと痔の違い

肛門がんと痔は、肛門にしこりや出血を伴う代表的な疾患であり、排便時の出血で病気を発見することが少なくありません。それでは、肛門がんと痔はどう違うのでしょうか。ここでは、肛門がんと痔の見分け方をお伝えします。

肛門がんの場合

肛門がんと痔では自覚症状として現れる痛みの感じ方が異なるケースがあります。

肛門がんの場合、強い痛みが長い間続くという特徴があります。それと同時に、肛門の奥の狭い管状の部分である肛門管や肛門付近に硬いしこりが生じることも少なくありません。また、肛門がんの自覚症状として肛門が狭くなってきた感じがするというものもあります。これらの症状が出てきた場合には肛門がんの疑いが強くなるでしょう。

痔の場合

肛門がんは、長い痛みが長く続く傾向にありますが、痔の場合、鋭くて頭に響くような痛みが多くなるともいわれています。出血の色も肛門がんと痔では異なる場合もあります。

痔で多いのが鮮血です。痔は鮮血がトイレットペーパーについたり、真っ赤な血が便器を汚したりしますが、肛門がんの場合は鮮血より赤黒い血液が分泌物と同時に出るケースもあります。

肛門がんの診断方法

肛門がんはどのような検査を行って、診断を下すのでしょうか。肛門というデリケートな部分を調べるだけに、事前にどのような検査が行われるか知っておきたい方も多いことでしょう。肛門がんの検査方法と検査に臨む心構えをお伝えします。

肛門がんの検査方法

肛門がんと診断するためには、まずは肛門の状態を医師が診察する必要があります。

肛門管内のがんは、肛門内の触診を行うと硬いしこりとして確認できます。肛門周辺の状態をより詳しく診察するために、肛門鏡を使用することも少なくありません。

さらに、肛門がんの診断には大腸内視鏡検査が必須です(※3)。

大腸内視鏡検査でがんのある場所を確認し、組織検査(生検)を行います。組織検査の結果をもとに、肛門がんの組織型(がんの種類)を確定。CT、MRI、PET-CTなどによる画像検査で、肛門がんの進行度合いを確認します。

診断における医師の役割

肛門はデリケートな部分だけに、つらい症状があっても病院に行くのは勇気がいることです。しかし、恥ずかしくて病院に行くのをためらっているうちに肛門がんが進行してしまい、見つかったときには手遅れだったということになっては元も子もありません。

たとえ恥ずかしくても、受診して医師に症状を伝えることが大切です。

がんと告知された時の心構えをより知りたい方は以下の記事をご参照ください。

肛門がんのセルフケア方法

肛門がんを発症すると、さまざまな症状が出現するため、思うように日常生活が送れない患者さんも少なくありません。ここでは肛門がんを原因とした諸症状への対策方法やセルフケアの方法を紹介します。

日常生活での対策

肛門がんを手術療法で治療した場合、人工肛門(ストーマ)をつけることになる可能性があります。それまでの排便方法と大きく変わるため、最初のうちは戸惑う方も多いでしょう。

人工肛門をつけた日常生活を快適に送るためには、いくつかの工夫が必要です。例えば、装具は排せつ物が漏れないものを選ぶ必要があります。また、人工肛門の面板(接着部位)を剥がす際のリムーバーで皮膚がただれてしまう可能性がありますが、その場合はアルコールが含まれていない剥離剤を選ぶようにしましょう。

人工肛門をつけた場合でもお風呂に入ることは全く問題ありませんが、少しの工夫でより快適になります。入浴するのは、食前もしくは食後しばらく経過した、排せつの少ない時間帯を選びましょう。ストーマ装具をつけたまま入浴しても外して入浴してもどちらでも構いませんが、外して入浴できる方は装具の交換日には装具を取り外して入浴しましょう。ストーマ周辺の皮膚を空気に触れさせることのできる数少ないチャンスです。

銭湯や温泉施設では必ず、ストーマ装具をつけて入浴しましょう。また、最近ではオストメイト(ストーマ装具をつけている人)に対応している公共のトイレの設置が進んでいます。外出前にどこにオストメイト対応のトイレがあるかを確認しておくと、より安心して外出できるでしょう。

皮膚障害が起きた時のケア方法

ストーマ装具をつけることで、周辺の皮膚に障害が起きる可能性があります。

大前提として、皮膚に障害が起きた際には自己判断するのではなく、必ず医師に相談しましょう。

ステロイド軟膏(なんこう)は、塗布部位の皮膚萎縮(いしゅく)や皮膚感染症リスクの増加、ステロイドに対する接触性皮膚炎などの副作用を引き起こす可能性があります。そのため、必要な部位だけに塗るようにしてください。ストーマから出血する場合は、少量であれば経過観察で構いませんが、ストーマ袋にたまるほど大量な際には必ず早期に医師に相談しましょう。

肛門がんとしこりは関係について【まとめ】

おしりにしこりができたとしても、多くの方は「痔かな?」という程度で捉えてしまうことでしょう。もちろん、痔の可能性もありますが、肛門がんの症状としてしこりが現れたという可能性もあります。痔と肛門がんでは、出血の色や痛みが異なりますが、自己診断することは難しいでしょう。

「痔だと思って放置していたら肛門がんだった」ということにならないように、気になる症状が出た際には恥ずかしがらずに早めに専門医に相談しましょう。

(※1)国立がん研究センター がん情報サービス|肛門がん
(※2) 地域医療機能推進機構札幌北辰病院|医療の現場から『肛門外来について』 (2013.09.04)
(※3)国立がん研究センター中央病院 (東京都 築地)|肛門がん(こうもんがん)/ 肛門管扁平上皮がん(こうもんかんへんぺいじょうひがん)

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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