がんは全身のあらゆる場所に発生する可能性があるものです。胃や肺、肝臓などの臓器はもちろん、血液に発生するがんもあります。
本記事では、血液がんの種類や特徴、主な血液がん(代表的なのは白血病)の生存率、治療方法など、血液に発生するがんについて詳しく解説していきます。
血液がんと診断された方、家族が血液がんと診断された方はぜひ参考にしてください。
目次
血液がんとは何か
血液は、異物の侵入に対しからだを守る働きをする「白血球」 、酸素を肺から全身に向かって運ぶ「赤血球」、 出血を止める「血小板」 などの血液細胞からなっています。
これらの血液細胞が何らかの原因でがん化して起こるのが、血液がんです。細菌やウイルス、抗がん剤のような薬剤など血液がんの主な原因として考えられています。
主な血液がんの種類
主な血液がんは、以下の3種類です。
- 白血病
- 悪性リンパ腫
- 多発性骨髄腫
それぞれのがんの特徴を以下から見ていきましょう。
白血病
白血病とは、血液細胞のもととなる造血幹細胞や血液細胞になる前の細胞に異常が起こり、白血球系細胞が異常増殖する病気です。
白血病細胞が骨髄で異常増殖することにより、正常な白血球、赤血球、血小板 が作られにくくなります。酸素を運ぶ赤血球の働きが弱くなることで貧血が起こったり、感染症から体を守る役割の白血球が減少することで普通はかからない感染症にかかりやすくなったりなど、さまざまな症状が引き起こされます。
白血病の多くは健康な人に発症し、原因は不明ですが、環境要因として放射線の被ばく、小児期の感染などが考えられます。
日本では、年間で約1万4,000人の方が白血病と診断され(2019年)、死亡数は約9,000人(2020年)。人口10万人に対する罹患(りかん)率は11.3例 で、男性が13.7例、女性が9.1例です(※1)。
悪性リンパ腫
白血球の中に含まれるリンパ球ががん化するものを悪性リンパ腫といいます。
リンパ球は免疫にかかわる細胞で、血液とリンパ液を行き来しながら体内に異物や病原体が侵入してこないかをパトロールする役割があります。
主な症状は、首やわきの下、足の付け根といったリンパ節に出現する腫れやしこりです。発熱や発疹、皮膚の腫瘤(しゅりゅう、こぶのこと)などの症状が出現することもあります。
なお、リンパ腫は、腫瘍内に大型腫瘍細胞がある「ホジキンリンパ腫」と、腫瘍内に大型腫瘍細胞がない「非ホジキンリンパ腫」に大別されます。 遺伝が深く関与し、20代から30代の若い世代の患者が多い点がホジキンリンパ腫 の特徴です(※2)。 一方、悪性度がより高い非ホジキンリンパ腫の罹患は高齢の患者が多く(※3) 、原因はウイルス感染が多いと考えられています。
日本で年間に悪性リンパ腫と診断されるのは、約3万6,000人(2019年)。死亡数は、約1万4,000人(2020年)です。人口10万人に対する罹患率は29.0例で、男性が31.4例、女性が26.8例となっています(※4)。
多発性骨髄腫
血液細胞の一種である形質細胞ががん化したのが多発性骨髄腫です。体内に侵入してきたウイルスや病原体などから体を守る抗体を作るのが形質細胞の役割です。
形質細胞ががん化した骨髄腫細胞は、体のさまざまな場所で異常増殖し、腎障害、過粘稠度(ちょうど)症候群、感染症、骨病変などの合併症を引き起こします。また、がん化した形質細胞は、体のあちこちで無秩序に増殖するため、さまざまな臓器の働きを阻害します。
異常な形質細胞の増殖によって、正常な血液細胞をつくる機能が低下し、免疫機能の低下、貧血、高カルシウム血症、腰の痛み、圧迫骨折などの症状が出現します。多発性骨髄腫の原因はいまだに明らかになっていませんが、遺伝することはないと考えられています。
日本では年間約7,500人の方が多発性骨髄腫と診断され(2019年)、死亡数は約4,000人(2020年)。人口10万人に対する罹患率は6.0例(男性6.6例、女性5.5例)と、3種類の血液がんの中では最も希少ながんです(※5)。
血液がんの余命は?生存率をご紹介
血液がんと診断された方が最も気になるのは、「自分は治るのか」ではないでしょうか。そこでここでは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の生存率を詳しく見ていきましょう。
白血病の生存率
白血病は、白血病細胞が未分化な段階で増殖する急性型と、成熟血球が増殖する慢性型とに分かれます。さらに、種類も骨髄系細胞ががん化する骨髄性と、リンパ球系細胞ががん化するリンパ性の2種類があります。どのタイプかによって、予後が大きく異なるのが白血病の特徴の一つです。
急性型は症状が強く、進行も急速なため、無治療だと数カ月以内に命を落としてしまうことも少なくありません。一方、慢性型は初期の症状が軽いことが一般的で、年単位で進行します(※6)。
65歳以下の急性骨髄性白血病の5年生存率は約40%、急性リンパ性白血病の場合は約30%といわれています(※6)。
慢性骨髄性白血病は、有効な治療法が確立されていない頃は3~5年で命を落としてしまうこともありましたが、現在は分子標的療法を受けた患者の8年生存率は90%を超えるといわれています(※7)。
悪性リンパ腫の生存率
悪性リンパ腫の生存率は、病期(ステージ)や病勢(病気が進行するスピード)によって大きく異なります。
横隔膜より片側だけにがんがある限局期(ステージⅠ~Ⅱ期)の5年生存率は70~90%。横隔膜の両側(胸側・腹側)に病気がある進行期(ステージⅢ~Ⅳ期)の5年生存率は40~60%にまで低下します 。
また、病勢で見れば、無治療の場合の予後は高悪性度では週単位、中悪性度で月単位、低悪性度で年単位と報告されています。
多発性骨髄腫の生存率
多発性骨髄腫は、年々、生存率が上がっています。2006~2008年の診断例の5年生存率は36.4%(※8)、2009~2011年診断例では42.8%となっています(※5) 。
5年生存率を見れば、多発性骨髄腫は決して予後の良いがんとはいえませんが、医学・医療の進展により、年々治りやすいがんになっていることは事実です。
血液がんの治療法
「治療内容をあらかじめ把握しておきたい」という方も多いのではないでしょうか。そこでここでは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫の一般的な治療方法を見ていきましょう。
白血病の治療法
白血病の治療は、急性・慢性、骨髄性・リンパ性など病気のタイプによって異なります。急性骨髄性白血病の治療の基本は、複数の薬剤を用いた「多剤併用療法 」による治癒を目指した強力な化学療法です。
急性リンパ性白血病では、複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が行われます。また、白血病細胞を段階的に減らしていくための造血幹細胞移植 も検討されます。
慢性骨髄性白血病の治療の選択肢は、薬物療法と移植療法です。薬物療法には、分子標的治療薬、化学療法、インターフェロン-α療法があり 、患者の状態によってより最適な療法が選択されます。
慢性リンパ性白血病は、進行が緩やか で、なおかつ完全な治癒が難しい病気です。また、高齢の患者が多いという病気の特徴もあり、治癒ではなく(一部の若年層患者を除く)、長期生存の可能性を少しでも上げるのが治療の方針 となります。症状の緩和やコントロールが治療のメインとなります。
悪性リンパ腫の治療法
悪性リンパ腫の主な治療方法、化学療法と放射線治療の2つですが、病気のタイプによってメインとなる治療法が異なります。
ホジキンリンパ腫の場合、抗がん剤治療と放射線治療の組み合わせ、非ホジキンリンパ腫では化学療法がメインです。これらの治療の効果が十分でない場合、より強い薬剤による化学療法や造血幹細胞移植が検討されます。
多発性骨髄腫の治療法
多発性骨髄腫と初めて診断された患者さんの場合、がん化した形質細胞を減少させるためにまずは、薬物療法を行います。
そのうえで、条件が適合する患者さんには抗がん剤療法と造血幹細胞移植が検討されるのが一般的です。
また、病態によっては多発性骨髄腫より、すでに発生している合併症に対する治療を優先するケースもあります。
定期的に健康診断を受け、血液がんの早期発見につなげよう
どのがんにも共通していえることですが、がんから命を守るために最も重要なのが早期発見と早期治療です。血液のがんも早期に発見できれば、症状は軽度であり、治療効果も高くなります。とはいえ、血液のがんの初期の自覚症状は、発熱やだるさなど一見するとほかの病気と見分けがつきにくいため、診察を受けただけでは発見が難しいケースもあります。
血液のがんを早期発見するためには、特に血液検査が有効です。気になる症状が出現した場合に速やかに血液検査を行うのはもちろん、症状がなくても年に1度など定期的に健康診断を受け、血液検査を行いましょう。
(※1)国立がん研究センター|白血病
(※2) 久留米大学医学部 放射線医学教室|第7回 ホジキンリンパ腫の患者さんのこと
(※3)日本老年医学会|高齢者悪性リンパ腫の治療
(※4)国立がん研究センター|悪性リンパ腫
(※5)国立がん研究センター|多発性骨髄腫
(※6)埼玉医科大学|白血病の治療
(※7)特定非営利活動法人 成人白血病治療共同研究機構|6.慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)
(※8)公益財団法人がん研究振興財団|がんの統計’16
参照日:2024年2月