がんの主な治療方法といえば、「手術」「「薬物療法(抗がん剤治療)」 」「放射線療法」のいわゆる3大治療法 がありますが、最近では「免疫療法」も注目されています。
「免疫療法」という言葉を耳にしたことがあっても、具体的にどのような治療法なのか知らないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、どのような治療法なのか、どのようなメリット・デメリットがあるのかなど、免疫療法について詳しく解説します。
目次
免疫療法とは
まずは免疫療法とはどのような治療法なのかといった基本的なところを見ていきましょう。
免疫療法とは、私たちの体にもともと備わっている免疫の力を使ってがん細胞を攻撃して死滅させる治療方法です。
自分の免疫を使ってがん細胞を攻撃するため、抗がん剤治療や放射線治療と比べると副作用が少ないのが特徴です。
免疫の力でがん細胞を攻撃する免疫療法は、「手術」「抗がん剤療法」「放射線療法」に次ぐ第4の治療法と呼ばれています。
がんと免疫の関係性について
がん細胞は健康な人の体にも1日約5,000個も発生することが、研究によって明らかになっています(※1)。 それではなぜ、私たちは毎日5,000個ものがん細胞が発生しているのにもかかわらず、健康な状態を保てるのでしょうか。それは、がん細胞ができるとその都度、免疫細胞ががん細胞を攻撃して死滅させているからです。
とはいえ、加齢などにより免疫の力が弱まってしまうと、がん細胞を攻撃しきれなくなります。免疫力が弱まったために生き残ったがん細胞が、やがて増殖し、それが塊(かたまり)となって成長し「がん」となっていくのです。
免疫療法が注目される背景
「手術」「薬物療法(抗がん剤治療)」 「放射線療法」の3つの標準治療は、高い効果が期待されるものの、いずれにも弱点があります。
血液や骨髄のがんは手術で取り除けず、著しく全身状態が悪化している患者さんは手術に耐えられないことも少なくありません。しかも薬物療法や放射線療法は強い副作用が現れることもあります。
一方、免疫療法は、手術のような外科処置が必要なく、ほとんどのがんに対応可能です。また、これまでの化学療法とは比べて副作用が少ないと言われており、近年、注目を浴びています(※「効果が証明された免疫療法」という扱いでも全身にさまざまな副作用が生じる場合あり)。
免疫療法のメリット
免疫療法の一番のメリットは、自分の免疫の力を使って治療を進める副作用が少ない点でしょう。
抗がん剤治療にあたる薬物療法は、がん細胞だけではなく健康な細胞にも効いてしまいますが、免疫療法は、免疫細胞を活性化しがん細胞だけに働きかける療法です。健康な細胞に悪影響を与えてしまう心配はありません。また、手術と違い、体にメスを入れることはないため、体への負担も少なくて済みます。
進行しているがん、転移などによって取り切れない場所にできたがんに対しては手術ができないことがありますが、免疫療法は進行がんや転移がんであっても有効であると言われています。
体への負担が少ない ため、全身状態が悪化して手術や抗がん剤治療に耐えきれないような患者さんでも免疫療法によって治療が行えるのは大きなメリットでしょう。
免疫療法のデメリット
現時点の免疫療法は他の治療法と比べると、エビデンス(科学的根拠)が不足しているため、免疫療法が、「確実に効果がある」という科学的根拠はまだ認められていません。
そのため、免疫療法のうち保険診療で対応できない治療においては、一部の民間の病院やクリニックでは、保険適用外の自由診療 です。経済的負担が大きい点は免疫療法の代表的なデメリットと言えるでしょう。
免疫療法の種類
免疫療法と一口に言っても、種類は一つではありません。ここでは、免疫療法の種類ごとの特徴について詳しく見ていきましょう。
免疫チェックポイント阻害薬による治療法
免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫ががん細胞を攻撃する力をキープするための薬剤です。
免疫細胞には、がん細胞など異物を攻撃する力が備わっていますが、この力が強まりすぎてしまうと、自分の体まで攻撃してしまい、自己免疫性疾患やアレルギー疾患などを引き起こしてしまいます。そのため、免疫細胞には免疫力を強めたり、抑えたりといった仕組みが備わっているのです。
このうち、免疫力を抑える仕組みが免疫チェックポイントです。一部のがんは、免疫チェックポイントの仕組みを利用して免疫細胞の力を抑えることで、免疫細胞の攻撃から逃れていることがわかっています。がん細胞が免疫細胞にブレーキをかけているのです。
このブレーキを解除して、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を回復させるのが免疫チェックポイント阻害薬です。
2024年4月時点、日本において免疫チェックポイント阻害薬による治療が行えるがんは、複数あります。メラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、悪性胸膜中皮腫、頭頸部がん、胃がんなどが、免疫チェックポイント阻害薬の対象です。
免疫チェックポイント阻害薬についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
エフェクターT細胞療法
がん細胞を攻撃する免疫細胞をT細胞と言います。患者さん自身のT細胞を取り出し、がん細胞を見分ける遺伝子を組み込んだT細胞がエフェクターT細胞です。
つまり、エフェクターT細胞は、がんを効率的に攻撃できるように改造されたT細胞というわけです。
T細胞を体の中から取り出し、エフェクターT細胞に改造しがんへの攻撃力を高めたうえで体の中に戻す治療方法がエフェクターT細胞療法です。
がん光免疫療法
がん光免疫療法とは、がん細胞だけに付着する薬剤を投与し、薬剤ががん細胞に行き渡ったところでレーザー光を当てて、がん細胞を死滅させるという治療方法です。
薬剤には、特定の光に反応する物質が含まれており、この物質にレーザー光が照射されると化学反応を起こして活性酸素が発生します。この活性酸素ががん細胞を攻撃。レーザー照射後、わずか1~2分ほどでがん細胞は死滅します。現在のところがん免疫療法の対象は、頭頸部の扁平上皮がんのみです。さらに、適応症は「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に限定されています。
がん光免疫療法についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
免疫療法を試したい方は担当医に相談しよう
免疫療法は、体力的に手術が不可能な患者さんや手術では取り切れなかったがん、抗がん剤治療や放射線治療が効かなかったがんにも高い治療効果が期待できる画期的な治療法と言われています。
こちらの療法は手術のように体に大きな負担をかけることもなく、抗がん剤治療や放射線治療よりも副作用が軽いため、「自分も免疫療法を試してみたい」などという方もいることでしょう。
免疫療法は、新たながんの治療法であり、まだエビデンスが集まっていません。そのような事情もあり、 一部のがん以外は保険適用外ではありますが、「免疫療法を試してみたい」という方は、まずは担当医に相談しましょう。
(※1)厚生労働省|がん対策推進企業アクション がん細胞が一日にできる数
参照日:2024年5月