胃がんは再発しやすい?胃がんの再発を防ぐためにできることとは

胃がんは再発しやすい?胃がんの再発を防ぐためにできることとは

厚生労働省が発表した2021年の「人口動態統計」によると、日本では男性が約2万7,000千万人、女性が約1万4,000千人の方が胃がんで命を落としています (※1)

胃がんは患者数も多く、『平成31年(令和元年)全国がん登録罹患数・率 報告』によれば、2019年の1年間の胃がんの患者数は男性が約8万5,000人、女性が約3万9,000人 に上ります(※2)

胃がんを克服した方が次に気にかかること、それは再発しないかということです。

胃がんは再発しやすいのでしょうか。そして、胃がんが再発した場合、どのような治療法が取られるのでしょうか。

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目次

胃がんの再発率

まずは、胃がんは再発しやすいがんなのかというところを見ていきましょう。国立がん研究センターが2008年にがん診療病院240施設の約24万件のデータを用いて解析 した(※3)、がんの部位ごとの10年生存率調査によると、胃がんの10年生存率は全ステージ平均で66.0%でした。

全がんの10年生存率である59.4%よりも高い生存率であることから(※4) 、胃がんはとりわけ再発しやすいがんというわけではないと考えられるでしょう。

一方で、前立腺がん(10年生存率は98.7%)、乳がん(同87.5%)、子宮頸(けい)がん(同(70.7%)などと比べると、再発しやすいと考えられます(※5)

なお、10年生存率の数字は、がん以外で亡くなった要因を取り除いて計算されたものです。

胃がんの再発で多いのは腹膜播種

胃がんの再発で多いのが、腹膜播種(はしゅ)です。

播種とは、種がばらまかれるようにがん細胞が広がる様を指しています。がん細胞が胃を突き破って、腹膜に広がった状態が腹膜播種です。腹膜播種の予後は、がんの種類によって異なります。

例えば、胃壁を厚くして染み込んでいくように広がるタイプの胃がんであるスキルス胃がんの腹膜播種は、進行が速く、抗がん剤も効きにくいため、予後不良といわれています。

胃がんの再発は5年以内が多い

大半の胃がんの再発時期は、5年以内です。

胃がんの再発の90~95%は治療後5年以内に、80~85%は治療後3年以内に見つかっています (※6)

がんの中には、治療後10年以上が経過した後も再発するがんもありますが、胃がんでは稀です。そのため、胃がんの経過観察期間は少なくとも5年が原則となっています(※7)

再発しやすい臓器

胃がんの再発で多いのは、肝臓、腹膜、リンパ節です。

胃と近い場所にある臓器への転移が多いことがわかります。また、がん細胞が血管やリンパ管に入り込んで転移する遠隔転移により、肺や骨、脳への転移も少なくありません。

胃がんの再発・転移の種類

胃がんの再発には、いくつかの種類があります。一つは、血行性転移 です。

血液を介してがんが全身に転移することを指します。主な例には、肺転移、肝転移があります。

二つ目がリンパ行性転移 です。リンパ液を運搬するリンパ管の流れに乗ってがんが転移していきます。左鎖骨の上のくぼみにあるリンパ節への転移、女性では卵巣への転移が主な例です。

三つ目が、腹膜播種転移 です。胃壁の一番外側にある漿膜を破ってがん細胞が腹膜内に飛び散る転移であり、主な例として腹膜播種、がん性腹膜炎 、膀胱や子宮への転移があります。

胃がんの再発・転移の予防法

胃がんに限らず、ほとんどのがんは再発や転移の可能性があります。そして、再発や転移を100%防ぐことは残念ながらできません。

しかし、再発や転移の可能性を少しでも低くすることや、再発や転移から命を守ることは可能です。どのようにして、自分の命を守っていけばいいのでしょうか。

術後補助化学療法

「がんが転移した」と聞くと、手術で取りきれなかったがん細胞が転移したと考える方も多いのではないでしょうか。もちろん、そのケースもありますが、手術でがんが取りきれたと思っていても転移するケースがあります。

それは、目には見えないほど小さいがん細胞が血管やリンパ管を通じてほかの臓器に流れ込んで増大するケースです。それを防ぐのが術後補助化学療法です。

手術後に内服抗がん剤を服用し、目に見えない微小ながん細胞を死滅させます。

なお、術後化学療法は、必ず行われるものではありません。

患者さんの年齢や併存疾患、栄養状態などを加味し、内服抗がん剤の量を減らしたり、術後化学療法自体が行われなかったりすることもあります。

定期検査

胃がんの再発や転移から命を守るためにとても大切なのは、定期検診を行うことです。原発がんも再発がんも共通していることですが、がんの進行度と生存率には密接な相関関係があります。

胃がんが粘膜層にとどまる状態をステージIA期 と言います。がんの浸潤が粘膜下組織にとどまっている状態がステージIB期です。ステージIA期・IB期の5年生存率は95.6~96.3%といわれています。一方、ほかの臓器への遠隔転移が見られるステージIVまでがんの進行が進んでしまうと5年生存率は5.9~6.6%にまで下がってしまいます(※8)

定期検診を怠り、再発や転移したがんを見つけるのが遅くなれば遅くなるほど、再発したがんは進行していくのです。その結果、がんで命を落としてしまう確率が高まってしまいます。

胃がんの術後の定期検査で行われるのは、血液検査や内視鏡検査、CT、MRIなどの画像検査です。術後3年目までは、3カ月から半年に一度検査を行います。4年目から5年目は1年に1回にペースは減ります(※9)

再発したがんをできるだけ早期に発見し早期に治療につなげられるよう、医師の指導を守って定期的に検査を行いましょう。

再発した胃がんの治療法

誰しもがんを再発させたくはありませんが、万が一、再発したらどのような治療が行われるのでしょうか。

あらかじめ治療方法を把握しておきたいという方も多いでしょう。再発したがんの治療方法を詳しく見ていきましょう。

緩和ケア

再発した胃がんの症状を緩和するために行われるのが、緩和ケアです。

例えば、がんの主な症状に痛み、貧血などがありますが、それぞれの症状に対して効果が期待できる薬を服用したり、運動療法が行われたりします。また、身体的な苦痛だけではなく精神的な面もケアするのが緩和ケアの役割の一つです。

緩和ケアには、がんそのものを治療するというものではなく、がんに付随する心身の不調に対して行われる治療という特徴があります。

薬物療法

再発した胃がんは通常、手術は行われません。

治療方法の中心となるのは薬物療法です。抗がん剤や分子標的薬 、免疫チェックポイント阻害薬 などを用いてがん細胞をたたく治療です。

抗がん剤は、がん細胞の増殖を防ぎ、がん細胞を死滅させることを目的とした薬剤のことをいいます。

分子標的薬とは、がん細胞などの特定の細胞のみを攻撃する薬のことです。正常な細胞を傷つけずにがん細胞のみを標的にすることができるため、副作用が軽いというメリットがあります。

自分の体の免疫が、がん細胞を攻撃する力を保つための薬が免疫チェックポイント阻害薬です。抗がん剤が効かなくなった進行がんでも治療効果が得られる可能性があります。

症状緩和治療

原発がんの標準治療の一つに、放射線治療がありますが、根本治療以外にも放射線を用いることがあります。症状を緩和する目的としての放射線照射により、がんによる苦痛を和らげる治療が可能です。

放射線治療により、脳転移による 頭痛や吐き気などの神経障害、骨転移による痛み、まひやしびれ、気道や消化管が狭くなることなどの緩和が期待できます。

胃がんの再発について【まとめ】

部位別のがん罹患数でみると、男女ともに3番目に多いのが胃がんです。

年間で男性は約8万5,000人、女性は約3万9,000人の方が新たに胃がんと診断されています。患者さんの数が多いということは、再発や転移を心配する方の数も多いということです。多くの胃がん経験者の方が、胃がんの再発の不安を抱えながら日々を過ごしています。

胃がんに限らず、ほとんどのがんは再発のリスクがあり、現在のところ再発の可能性をゼロにする方法は見つかっていません。そうした中、再発した胃がんから命を守るために大切になるのが、定期検診を行って、できるだけ早期に発見することです。特に胃がんは治療後5年以内の再発が大半を占めます。治療後5年以内は医師の指導を守って、定期的に検診を行いましょう。

(※1)厚生労働省|表7死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)
(※2)厚生労働省|平成31年度(令和元年)全国がん登録罹患数・率報告
(※3)国立研究開発法人国立がん研究センター|各がん登録における⽣存率の統計について
(※4)国立研究開発法人国立がん研究センター|全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について 5年生存率、10年生存率データ更新 グラフデータベースKapWeb更新
(※5)国立研究開発法人国立がん研究センター|がん診療連携拠点病院等 院内がん登録 2008年10年生存率集計 報告書
(※6)NPO法人キャンサーネットジャパン|胃がんの再発 | NPO法人キャンサーネットジャパン
(※7)国立研究開発法人国立がん研究センター|胃がんについて
(※8)国立研究開発法人国立がん研究センター|院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
(※9)日本臨床外科学会|15.定期健診 ―定期検診について―
参照日:2023年5月

吉村 友希

神戸大学大学院医学研究科バイオメディカルサイエンス専攻 薬物動態学分野。分子標的薬の副作用に関係する研究について、研究・ディスカッションに参加。大手グローバルCROにて医薬品開発職に従事。

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