膵臓がんと診断され、手術をすべきかどうか迷っている方もいるでしょう。方針を決めるうえで、具体的な治療法や完治の可能性を正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、手術をしない方がいいと言われる理由や手術をしない選択肢が検討されるケース、術後の再発予防について解説します。
目次
膵臓がんで「手術しない方がいい」と言われるのはなぜ?

膵臓がんは「手術しない方がいい」と言われる場合があります。
それは、身体的負担の大きさや再発リスク、手術の適応外となるケースがあるといった理由が背景にあると考えられます。
膵臓がんの手術は身体への負担が大きい
膵臓がんの手術は、消化器外科の手術の中でも特に身体への侵襲(ダメージ)が大きいことで知られています。
中でも「膵頭(すいとう)十二指腸切除術」は、手術時間が10時間に及ぶこともあり、患者さんの体力を著しく消耗する大きな手術です(※1)。膵頭部に加え、十二指腸・胆のうと胆管の下部・周囲のリンパ節を切除し、状況によっては血管や胃の一部を切除することもあります。
また、手術後は合併症を生じることも少なくありません。感染や腹膜炎を引き起こしたり、胃の動きが低下したりすることもあり、追加の処置が必要になるケースもあります。
手術しても再発するケースがある
手術で切除できたとしても、膵臓がんは再発リスクが高いがんです(※2)。
膵臓は重要な血管や臓器に囲まれているため完全切除が難しく、早期からリンパ節や肝臓などに微小な転移を起こしやすいことが理由として挙げられます。そのため、手術後にも抗がん剤治療が必要になるケースが少なくありません。
また、「完治」と判断できるかどうかは、病状や経過によって異なる点を理解しておきましょう。再発リスクや手術の利点と注意点を担当医に確認し、治療を検討するのが賢明です。
手術が適さないケースもある
手術で切除できる可能性が高い場合は、開腹手術(お腹を開ける手術)や内視鏡を使っての切除が優先されます。しかし、発見時点ですでに進行していることが少なくありません。以下のケースは手術の適応外となります。
- 肝臓や肺などの臓器に転移している
- お腹の中にがんが広がっている
- 大きな血管にがんが広がっている
手術が可能な割合は、膵臓がん全体の3割から4割にとどまるとされています(※2)。
また、腹部大動脈などの重要な血管に注意しながら手術をしなくてはならないため、手術自体の難易度も非常に高くなっています。
膵臓がんで手術しない選択が検討されるケース
膵臓がんの治療法は、がんのステージ(病期)や患者さんの身体の状態、価値観を踏まえて検討されます。状況によっては手術以外の方法が選択されることもあります。
高齢者の場合
個人差はあるものの、高齢の方は体力や心肺機能が低下していることが多く、治療の影響を受けやすい傾向があります。特に手術後のQOL(生活の質)は、若年の方と比べて低下しやすい点に注意が必要です。
しかし、手術によって生存期間が延びる可能性も残されています。80歳以上と80歳未満では、術後の合併症の発生率も大きく変わらないとの報告もあります。全身状態や持病を踏まえて治療方針を決めることが重要です。
「切除できない」と診断された場合
がんが膵臓周囲の重要な血管を巻き込んでいるケースや、他の臓器へ転移しているケースでは手術の適応にはなりません。手術での根治が難しい場合があるためです。
抗がん剤などの薬物療法(化学療法)、化学療法と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法が選択肢となります。がんの進行や痛みなどを和らげる効果が期待できます。
QOLを重視する場合
治療で延命を目指すよりも、QOLを保つことを優先する選択肢もあります。その具体的な方法の一つが、緩和ケアであり、がんの症状や治療による副作用を軽くするために行われます。メンタル面の落ち込みに対してもサポートを受けられます。
こうしたケアを受けるためには、がんの診断時から医療者やがん相談支援センターに相談しておくことが重要です。
痛みに対しては、痛み止めや医療用麻薬などを使って、症状を和らげます。黄疸が発生した際は、たまった胆汁を排出するための管を胆道に挿入する「胆道ドレナージ」を行うこともあります。
膵臓がんで手術が難しい場合の余命と経過
膵臓がんで手術できない際の予後は、ステージや全身状態、治療への反応により個人差があります。手術なしでも延命が見込めるケースや経過について見ていきましょう。
薬物療法で延命できるケース
切除不能な膵臓がんでも、抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤などで進行を抑え、生存期間を延長できるケースがあります。
薬物療法は、切除後の再発に対しても用いられる標準治療です。ゲムシタビン塩酸塩の単独療法や、ゲムシタビン塩酸塩とエルロチニブ塩酸塩との併用療法について、有効性が示された報告があります。
ただし、化学療法は食欲不振・吐き気・倦怠感・脱毛といった副作用を伴うことがあるため、体力や全身状態を踏まえたうえで、継続の判断をすることが大切です。
治療しない場合に起こりうる症状
膵臓がんは進行すると、主に以下の症状が見られます。
- 体重減少
- 腹痛
- 食欲不振
- 腹部膨満感(お腹の張り)
- 腰や背中の痛み
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
このほか、膵臓から分泌される「インスリン」と呼ばれるホルモンの減少により、糖尿病を発症する方もいます。
膵臓がんは完治できる?生存率と再発防止の重要性

膵臓がんの症状は、ステージや治療の状況によって個人差があります。完治が期待できるケースや5年生存率の意味、再発予防の重要性について確認しましょう。
完治が期待できるのは早期発見の場合
がんが比較的早い段階で発見されたときは、外科的手術によって根治を目指せる可能性があります。例えば、がんの大きさが小さく、膵臓内にとどまっている(非浸潤がん)場合などです。手術のみ、手術と薬物療法を組み合わせた治療が行われます。
膵臓がんは初期症状がほとんどありません。糖尿病発症や糖尿病治療中の急激な悪化により発見されることもあります。
膵臓がんの5年生存率
2025年11月に国立がん研究センターが公表したデータ(2012年から2015年の診断症例)によると、膵臓がんの5年生存率は、男性が10.7%、女性が10.2%でした(※3)。この数値は、部位別のがんの中で最も低い水準であることが示されています(※3)。
ただし、これらは個々の患者さんの状態により異なるため、必ずしもすべての膵臓がん患者さんに該当するとは限りません。一つの目安として捉えましょう。
手術後の再発予防
膵臓がんの手術後は、再発予防のために「補助化学療法」が行われることもあります。手術ができる段階の膵臓がんであっても、手術の前後に薬物療法を組み合わせることで、より再発を抑えられることが明らかになっているためです。
退院後は、定期的な通院が欠かせません。手術後少なくとも5年間は医師の診察・検査を受ける必要があります。消化の良い食事をバランス良く摂取し、適度な運動や睡眠といった生活習慣を整えることも重要です。
手術以外の膵臓がん治療法

膵臓がんの手術が難しい場合でも、薬物療法や放射線療法を組み合わせることで、病状をコントロールすることも可能です。また、身体や心のつらさを和らげる緩和ケアも同時に行われます。
なお、膵臓がんの治療や副作用について詳しくは、「膵臓がん治療と副作用について」をお読みください。
膵臓がんの治療に迷ったときは専門家へ相談を
ご家族が膵臓がんと診断された場合、まずは患者さんの意思を尊重することが大切です。医療や治療に関する情報は溢れているため、正しい情報を取捨選択しましょう。
膵臓がんの治療方針は、年齢・ステージ・体調・本人の希望などを考えて、総合的に判断して決まります。手術ができない場合でも、何もできないわけではありません。目標を主治医と十分に話し合い、納得できる方法を選ぶことが重要です。
また、「自分に合う治療法がわからない」、「セカンドオピニオンについて相談したい」といった場合には、無料のがん相談窓口を利用するのも方法の一つです。
(※1)独立行政法人国立病院機構大阪医療センター|膵臓がん(消化器科外科)
(※2)一般社団法人日本膵臓学会|膵臓の治療(外科的治療)
(※3)国立研究開発法人国立がんセンター|全国がん罹患モニタリング集計 2012-2015 年 生存率報告
















