がんは在宅でも治療できる?通院治療と在宅療養のメリット・デメリット

がんは在宅でも治療できる?通院治療と在宅療養のメリット・デメリット

「がん治療」と聞くと、多くの人は入院しての治療を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、最近では通院治療や在宅療養も広まってきており、「できれば自分も入院せずにがん治療を行いたい」という方は増えています。

そこで、この記事ではがんの通院治療や在宅療養のメリット・デメリットを詳しくお伝えします。通院治療と在宅療養のそれぞれに向いている人も解説しますので、治療方法に迷っている方はぜひ参考にしてください。

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目次

がんの治療は入院が必須?

がん治療は入院しなければならないと思っている方も多いのではないでしょうか。

一昔前まではがん治療といえば入院治療が当たり前でしたが、最近では通院治療や在宅療養が増えてきています。今や、がんの治療は入院が必須というものではありません。

がんの平均入院日数は短くなっている

厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査」によると、がんの平均入院日数は、18.2日でした。

がんの平均入院日数は下がり続けており、1996年には約46日でしたが、2005年には29.6日と1カ月を割り込み、2014年には19.9日になっています。1996年から2020年までの20数年で、がんの平均入院日数は、約28日も短くなっています。

また、がんは入院治療と通院治療でどちらが多いかといえば、実は通院治療の方が多いことはご存じでしょうか。

2020年にがんの入院治療を行った患者さんは約12万6,000人でした。一方、外来治療は約24万7,000人に上ります。外来患者数が入院患者数を上回ったのは2005年からですが、今やがんの治療は通院治療や在宅療養などの外来治療にシフトしているといってもいいでしょう。

通院治療の種類

がんの標準治療は、「手術(外科治療)」「薬物療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」です。その中で、通院治療で行われるのは、「薬物療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」の2つです。

薬物療法は、1週間もしくは2週間単位で、抗がん剤の投薬や点滴を行います。はじめの1クールだけ入院治療で行い、2クール目以降から通院治療に切り替えるパターンのほか、最初から通院治療で行うケースも少なくありません。

放射線治療は、多くの医療機関で通院治療に対応しています。例えば、平日の5日間の治療が何週間かにわたって行われます。通院治療で働きながら、放射線治療を行っている患者さんも多くいます。

がんの在宅療養とは

在宅療養とは、病院ではなく自宅で療養することです。がんの在宅療養では、定期的に医師が訪問診療を行うほか、緊急時にも対応します。

がんの在宅療養の中心を担うのは、「在宅療養支援診療所」という専門の医療機関です。

在宅療養支援診療所は、24時間連絡を受けて、訪問診療、訪問看護ができる医師または看護職員が配置されている医療機関のことです。がんの在宅療養を選択したい方は、お住いの近くに在宅療養支援診療所があるかどうかを確認してみてください。

通院治療のメリット・デメリット

通院治療と在宅療養のどちらを選ぶべきか迷っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、通院治療と在宅療養のそれぞれのメリット・デメリットを比較してみましょう。まずは、通院治療のメリット・デメリットを解説します。

メリット

通院治療の一番のメリットは、自宅で治療を受けられる点でしょう。あらかじめ決められたスケジュールに沿って生活しなければならないなど、入院生活は少なからずストレスのかかるものです。相部屋になると、ほかの患者さんが気になる人も少なくありません。また、家族は面会のために移動する負担もあります。

通院治療であれば、慣れ親しんだ自宅で家族に囲まれながら治療を行えます。体調がよければ仕事をするなど、生活の質(QOL)を保てる点も大きなメリットでしょう。また、入院治療に比べると、経済的な負担も軽減します。

デメリット

通院治療の一番のデメリットは、高度な医療行為を行えないという点でしょう。陽子線治療や強度変調放射線治療(IMRT)、粒子線治療といった先進医療は行えません。

通院治療で行えるのは、薬物療法と放射線治療だけです。手術を行う場合には、入院しなければなりません。

さらに、入院治療の場合は食事を含めて、医師や看護師が健康状態を管理してくれますが、通院治療の場合、健康状態は自己管理することになります。健康管理ができなかったがために、病態が悪化してしまうということも考えられるわけです。

毎日健康状態をチェックし、何らかの異変が見られた時にはすぐに医療機関に連絡をして、担当医の指示を仰ぐということも通院治療の場合には必要です。

通院治療に向いている人

  • 薬物療法か放射線治療を選択したい方
  • 仕事を続けながらがん治療を行いたい方
  • 自分で健康管理をしっかり行える方

在宅療養のメリット・デメリット

次に、在宅療養のメリット・デメリットを見ていきましょう。

メリット

在宅療養の大きなメリットは、通院の負担がなくなる点です。

在宅医療の場合、医師や看護師が自宅まで来てくれますし、全ての医療行為が基本的に自宅で行われます。

そのため、通院にかかる時間や手間がかからなくなり、通院にかかる交通費も必要なくなります。中には、家族の介助なしには通院が難しいという方もいるでしょう。在宅療養になれば、通院にかかる家族の介助負担もなくなります。

また、これは通院治療のメリットと同様ですが、在宅医療の場合、入院生活のストレスなしに治療が行える点も大きなメリットです。普通の暮らしを送りながら、家族とともにがん治療を行えます。

デメリット

在宅療養の最大のデメリットは、急変時に医師や看護師がすぐに駆け付けてくれるわけではないという点です。

入院していれば、万が一、急変した時にも病院内に医師や看護師がいるため、すぐに駆け付けてくれます。

しかし、通院治療の場合は、家族が医療機関に連絡を取り、来てもらわなければなりません。

また、入院治療の場合、看護師さんなど病院スタッフが看護や介護をしてくれますが、在宅療養の場合はその役割を家族が担うことになります。当然、家族の介護負担は大きくなります。

もし患者さんが自分ではトイレも入浴も難しいとなったら、家族が介助しなければならず、その負担は決して小さくありません。病院や介護施設のショートステイを利用するなどして、家族の負担の軽減も考える必要があります。

向いている人

  • 24時間訪問看護サービスを受けられる方
  • 病院や介護施設のショートステイを利用できる方

ホスピス型有料老人ホームという選択肢も

自宅のような環境で、看護や介護を受けたいという末期がん患者にとって「第3の居場所」の選択肢に加わった「ホスピス型有料老人ホーム」。ホスピス型有料老人ホームでは、患者とその家族を支えながら、24時間体制で看護や介護を提供しています。

入居資格を持つのは、「要介護認定を受けた方」であり、主に以下の疾患に該当する方々が対象となります。

  • がん
  • 厚生労働大臣が定めている特定疾病
  • 障がい者総合支援法対象の難病

通常の有料型老人ホームでは緩和ケアが不十分な可能性があります。老人ホームの入居を検討する場合はホスピス型有料老人ホームについて調べてみるとよいでしょう。

通常の有料型老人ホームでは、緩和ケアが十分に提供されない場合があります。看護や介護をしっかり受けつつ、療養を続けたい時はホスピス型有料老人ホームについて調べてみることもおすすめします。

参考:末期がん患者が選べる療養施設とは?緩和ケアや問題点について解説|ケアスル介護

【まとめ】通院治療と在宅療養について

「がん治療は入院しなければいけない」と思っている方も多いでしょうが、今やがん治療は通院治療や在宅療養などの外来治療が主流です。10年以上前から入院治療より外来治療を受けている患者さんの方が多く、医療の発展もあり、今後、より外来治療は増えていくと考えられています。

外来治療を選択すれば、自宅で過ごしながらストレスなく治療を受けられます。また、一定期間入院するよりも外来治療の方が経済的負担も少なくて済みます。

とはいえ、通院治療にも在宅療養にもメリットがある一方で、デメリットもあります。メリットだけではなく、必ずデメリットも把握した上で治療方法を選択しましょう。

1.保険市場|増加しているがんの通院治療
2.厚生労働省|退院患者の平均在院日数等
3.厚生労働省|令和2年(2020)患者調査の概況
4.厚生労働省|推計患者数
5.がん情報みやぎ|自宅療養について
6.地域におけるがん患者の緩和ケアと療養支援情報 普及と活用プロジェクト|ご家族のための在宅療養ガイド
7.公立昭和病院|通院治療センター
8.エフェメールホームクリニック|在宅医療のメリットデメリット|解消方法や費用も解説
9.抗がん剤の種類と副作用|日帰り治療のメリット、デメリット
10.免疫療法コンシェルジュ|先進療法とは?
参照日:2022年10月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

プロフィール詳細

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