多発性骨髄腫(MM:Multiple myeloma)とは、血液のがんのうち約10%を占める病気で、10万人に6人が発症します(※1)(※2)。一般的な治療として化学療法が選択されますが、移植を行うなどの選択肢もあります。
ただし、さまざまな症状が起こりやすく、治療法も複雑なため、「どのくらい進行するのか」「本当にこの治療法で良いのか」と戸惑う方は少なくありません。
この記事では、多発性骨髄腫の治療法や治療方針について、詳しく解説します。また、高齢者の治療についてもわかりやすく解説します。治療方法にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
多発性骨髄腫とはどんな病気か
多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)とは、血液細胞の一種である正常な形質細胞ががん化し、異常細胞(骨髄腫細胞)となって、身体にさまざまな影響をもたらす病気です。
国内の発症率は、人口10万人あたり約6人であり、全てのがんの約1%、血液がんの約10%を占めています(※1)(※2)。染色体異常・遺伝子異常などが関わっていると考えられていますが、はっきりとした原因は解明されていません。
形質細胞は通常、体内に侵入してきた病原体・ウイルスなどと戦う免疫の役割を担っています。異物を排除するための抗体を作り出すことで、身体を守っています。
しかし、形質細胞ががん化すると、攻撃力のない「M蛋白」という異常なタンパク質を大量に作り出したり、骨髄腫細胞が増殖したりと、身体にさまざまな悪影響を及ぼすようになります。
主に以下の原因により、次のような症状が出現するとされています。
- 造血機能の抑制(赤血球・白血球・血小板の減少):貧血、息切れ、動悸、発熱、感染症など
- M蛋白の増加:感染症(尿路感染症、肺炎など)、むくみ、眼症状、神経症状
- 骨破壊に伴う高カルシウム血症:口渇(こうかつ)、意識障害、便秘、吐き気、高カルシウム血症
- 骨病変:肋骨痛、下肢麻痺、骨折
初期に症状が出現することは稀で、健康診断や人間ドックなどで異常を指摘され、発見されるケースも少なくありません。また、風邪のような症状が続いて見つかるケースもあります。
慢性的に進行していくと、貧血や骨折などで「病気」と気づく方も少なくありません。症状は個人差があるため、自分で病気に気づくことが難しいのが、この病気の特徴です。
多発性骨髄腫の主な治療方法

多発性骨髄腫の治療は、病気を「治す」よりも「長期的にコントロールする」ことを目的に実施されます。
患者さんの体力や合併症などを考慮して、無理のない治療計画を立てることが大切です。ここでは、主な治療の流れや治療方法について解説します。
初回治療(導入療法)
治療が必要になる適切なタイミングは、骨髄腫細胞の増加による臓器障害や腰痛などの症状が現れたときです。自覚症状や臓器障害がない意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症MGUS(エムガス)やくすぶり型などは、すぐに治療を行わず経過を観察することもあります。定期的な検査を継続し、常日頃から身体への変化に注意を払うことが非常に重要です。
初回治療は、診断されて症状が現れた際に行われる最初の治療であり、これを「寛解導入療法(かんかいどうにゅうりょうほう)」と呼びます。この療法の主な目的は、体内の骨髄腫細胞をできる限り減らすことです。一般的には、複数の薬を組み合わせた化学療法を、1コース(約3週間)を3〜4サイクル実施します(※3)。外来通院で治療を進められるのが大きな特徴です。
また、導入療法によりM蛋白の割合が一定程度以上減少すると「効果あり」と判定されます。治療の有効性があると判断された場合、その後の治療方針の選択肢が大きく広がります。
一方で、副作用が強く出た場合は、薬の量を調整して続けやすい治療に切り替え、継続的な治療な実施をすることが必要です。
このように導入療法は、その後の移植や維持療法の考え方の基盤になるため、効果と安全性のバランスを見ながら実施することが大切です。
移植治療(自家造血幹細胞移植)
自家造血幹細胞移植は、初回治療で効果があった患者のうち、体力や臓器機能に余裕がある方に適用される治療です。
具体的には、以下の条件に当てはまる必要があります。
- 基本的に臓器機能に問題がない65歳以下の患者(移植の同意が前提、医療機関によっては70歳以上でも移植を検討できる場合あり)
- 重い感染症がない
- 重度の肝機能・腎機能障害がない
- 心機能に問題がない(心不全や重篤な不整脈がない)
治療の流れとしては、初回治療の後に大量の抗がん剤を投与し、骨髄腫細胞をできる限り死滅させます。この際にあらかじめ採取・保存していた患者さん自身の造血幹細胞を戻すことで、造血機能を回復させます。
患者さん本人の造血幹細胞を用いるため、全身の負担が比較的少ない末梢血(血管中を流れる血液)から採取した幹細胞を移植するのが標準的な方法です。
維持療法
維持療法とは、移植後の再発予防、または移植を行わない場合の病勢コントロールのために継続して行われる治療です。
多発性骨髄腫の標準治療とされる、複数の薬物を調節し併用した化学療法を行います。副作用を考慮しながら、比較的少量の薬を継続的に使用して、症状を改善・コントロールしていきます。それにより、再発までの期間を延ばしながら、日常生活にも影響を少なくできる点が特徴です。
ただし、治療が長期間にわたるため、慎重に投与量や頻度などを調整する必要があります。患者さんの生活スタイルに合わせた治療設計が重視されるため、医師と相談しながら、目標を設定して治療を続けられるようにしましょう。
再発・難治性の治療
多発性骨髄腫は再発を繰り返しやすい血液の病気ですが、近年は治療の選択肢が広がってきています。メルファランやダラツムマブ、イキサゾミブ、ボルテゾミブ、サリドマイド、デキサメタゾンなどをはじめとする治療薬が登場したことで、再発後の有効な治療が可能になりました。
再発時には、これまで使用した薬や副作用の履歴を踏まえて、薬の組み合わせを切り替えられます。症状に応じた治療ができるように調整を行い、長期間にわたって病気と共存することが大切です。
完治しないからと治療を諦めるのではなく、段階的により良い選択肢を考える姿勢を大切にしてください。寛解期間に入っても、定期的に経過観察を行い、症状が進行しないよう気を配りましょう。多発性骨髄腫と長期にわたって付き合うことで、より良い状態を維持し、生存期間を延ばすことにつながります。
多発性骨髄腫の治療方法は何で決まる?

多発性骨髄腫は、高齢になってから発症しやすい病気です。そのため、治療方針は患者さんの年齢だけでなく、体力や腎機能、骨病変の有無、副作用への耐久性など総合的に決定することが推奨されています。
移植が向いている人/向かない人の違い
前述の通り、自家造血幹細胞移植が向いているのは、全身状態が良好で、心臓や腎臓などの臓器機能が保たれている方です。年齢だけで判断はできませんが、一般的には体力があり、治療に耐えられると判断された場合の選択肢となります。移植を行うことで病気の進行を大きく抑え、体調が安定している期間を延ばせる可能性があります。
一方、高齢で体力が低下していたり、合併症があったりする方は、移植の負担が大きくなるため、向いていません。無理に移植を行った場合、合併症によりQOL(生活の質)が下がることも少なくありません。
ただし、移植が難しいと判断されたからといって、治療効果が期待できないわけではありません。薬物療法のみでも、状態を長期間安定させられるケースが増えています。
また、医学的要因だけでなく、「仕事を続けたい」「通院回数を減らしたい」などの生活面の優先順位も重視すべきポイントです。
高齢の患者さんの治療方針
多発性骨髄腫は高齢になるほど発症率が上がるため、高齢者の一般的な治療方針を押さえておくことが大切です。「どこまで治療を行うか」が大きな悩みになるかもしれませんが、年齢だけで治療を制限する必要はありません。
重要なポイントは、治療によって日常生活がどのように変わるのかを医師とともに見通しを立てることです。治療を行うことで、骨折や腎機能低下、寝たきりなどの高リスクを防げる可能性もあります。
一方で高齢になればなるほど、体力の低下や合併症などが問題になるケースも少なくありません。そのため、高齢者では副作用を避けるために薬を減らしたり、治療間隔を調整したりする工夫を行います。
また無理がかからないように、自宅での生活状況をイメージすることも大切です。転倒リスクや認知機能、ご家族のサポート体制なども把握したうえで、治療方針を決めましょう。身体の負担と患者さんの価値観や生活を尊重すれば、生活と治療を両立しやすくなります。
多発性骨髄腫の治療期間と費用
多発性骨髄腫の治療は、初回治療から維持療法まで数カ月から年単位に及ぶことが一般的です。短期間で治療が完結しにくい病気のため、症状をコントロールしながら長く付き合っていくことが大切です。
治療を継続することで、骨の痛みや貧血、腎機能低下といった症状の進行を抑えられ、日常生活を保ちやすくなります。
一方で、費用面の不安から診療や治療を中断してしまうと、症状がさらに進んでしまい、入院や介護が必要になるなど、身体的にも経済的にも負担が増える可能性があります。治療は高額な薬剤を用いることもありますが、日本の「高額療養費制度」を利用することで自己負担を抑えられます。
また、所得区分によっても負担額は調整されるため、長期の治療でも一定額以上の支出は避けられます。経済的な負担や不安を感じる場合は、医療ソーシャルワーカーやがん相談窓口へ相談しましょう。
まずは、利用できる支援制度を確認しておくことが大切です。費用の負担を抱え込まず、早めに相談することが、治療を無理なく続けるための一歩です。
多発性骨髄腫の治療方針に不安を感じたら専門家へ相談しよう

多発性骨髄腫のように治療が長期にわたって必要な病気の場合、治療方針に対して迷いや不安を感じることは当然のことです。
まずは現在の病状を把握したうえで、複数の専門医の視点から意見や説明を聞くことを検討してみてください。多角的な視点でアドバイスを受けることは、患者さん自身が納得して治療を選択するための大きな支えになります。一人で抱え込まず、まずは専門家に相談して適切な治療を一緒に考えましょう。
(※1)国立がん研究センター|多発性骨髄腫の原因・症状について
(※2)国立がん研究センター がん統計|多発性骨髄腫
(※3)国立がん研究センター|多発性骨髄腫の治療について

















