直腸がん手術後の生活のポイントは?体の変化とケアについて解説

直腸がん手術後の生活のポイントは?体の変化とケアについて解説

「直腸がんで手術が必要」と診断された方は、病気や今後の生活など、さまざまな不安を抱いている方も多いでしょう。また、ご家族もどのようにサポートして良いかわからず、戸惑うこともあるかもしれません。

この記事では、直腸がんの手術を受ける方やそのご家族に向けて、術後の体調や生活の変化、注意点について解説します。

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目次

直腸がん手術後に体に起こる変化と生活への影響

直腸がんの手術後は、傷の痛みや排便の変化など、さまざまなことが起こる可能性があります。手術後に起こり得る変化や状態について詳しく見てみましょう。

術後の傷の痛み

手術後には、傷口周辺に痛みを感じる方も少なくありません。これは皮膚や筋肉を切開した影響によるものであり、通常は数日から数週間のうちに症状が和らぐのが一般的です。なお、痛みが強い場合には、痛み止めによって症状をコントロールすることもあります。

排便の性状やリズムの変化

直腸がんの手術後は、腸の切除や癒着によって、排便の性状やパターンが変化しやすくなります。具体的な症状は下痢、お腹の張り、便失禁、便秘などです。

一般的に、排便頻度は2~3日に1回または週3回であれば正常であるとされており(※1)、多くのケースでは手術後1~2カ月程度で改善すると言われています(※2)

また、人工肛門(ストーマ)の造設が必要なケースは、排便方法そのものが変化します。

排尿機能障害

直腸がんの手術後には、残尿感や尿の出しにくさ(尿閉)を実感することがあります。これは、がんが肛門の近くにあり、手術部位周囲の自律神経が一時的に働きにくくなるためです。

時間の経過とともに回復していくとされていますが、症状の程度によっては導尿やカテーテルの留置が必要になることがあります。

性機能障害(男性)

男性の場合、手術によって自律神経に傷が入ると、勃起障害や射精障害が生じることがあります。開腹手術の場合、約68%の方に性機能障害が見られるという報告もあるため、術式やがんの進行度によっても差が出るとされています(※3)

直腸がん手術後に起こる可能性のある合併症

直腸がんの手術後には、合併症が起こる可能性があります。あらかじめ症状やサインを知っておくことで、早期発見・早期対応につながるでしょう。

直腸がんの手術による合併症

腸管を切除やつなぎ合わせによって、以下の合併症が起こり得ると言われています。

腸閉塞便やガスの通り道が狭くなり、吐き気やお腹の張りなどが見られる
縫合不全腸と腸のつなぎ目に出血や炎症が起こり、発熱や腹痛が見られる
創部感染手術部位に細菌が感染し、発熱、創部の痛み・赤み・腫れが見られる
出血手術操作による血管損傷で出血が止まらないことがある

これらは全ての方に該当するものではありませんが、気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。

手術や全身麻酔にともなう全身的な合併症

全身麻酔の影響で吐き気や頭痛、挿管の際に歯の損傷などが生じる可能性があります。また、以下のような全身的な合併症も見られるでしょう。

  • 肺炎や喘息などの呼吸器障害
  • 血圧の変動や血栓塞栓などの循環器障害
  • 糖尿病のある方では血糖値の乱れや電解質異常

年齢や持病、体力などによってリスクが異なるため、術前に医師と相談しておくことが重要です。

直腸がん手術後の排便コントロール

直腸がんの手術後は、排便のリズムや性状が変化し、コントロールが難しくなることがあります。まずは排便のパターンや状態を把握し、下痢がある場合はこまめな水分補給で脱水を防ぎましょう。

排便の悩みには、薬の服用や骨盤底筋の体操といったセルフケアや保存的療法が行われます。肛門周囲の筋肉や神経の働きを整えることで、症状が落ち着くこともあります。これらの方法で改善が見られない場合は、外科的治療も検討されます。

また、人工肛門(ストーマ)を造設した場合は、新しい排便スタイルに慣れる必要があります。不安があるときは「ストーマ外来」を活用しましょう。

直腸がん手術後の食生活

手術前後の食生活は、体調の回復や合併症予防においてとても重要です。

術前

がんの状態や場所によっては、腸が狭くなっていることも考えられます。腸閉塞のリスクが上がるため、食物繊維が多い食品や、腸を刺激する食品、油分の多い食事は控えましょう。

手術前に摂取を控えたほうが良い食品は、以下の通りです。

  • 豆腐
  • 海藻類
  • ごぼう
  • ラーメン
  • 揚げ物など

手術直前の食事の内容や期間は、手術の時間や術式によっても異なります。医師の指示に従ってください。

術後

手術後の食事は、2~5日ほど経過し医師の許可が出てから再開されます(※4)。おかゆなど消化の良いものから始め、徐々に通常の食事へ戻していきます。回復時にはタンパク質の摂取も大切です。

退院後は特別な制限がないことも多いですが、腸への刺激が強い食材は術後1カ月ほどかけて少しずつ慣らしていくと安心でしょう(※2)

以下の表に、直腸がん手術後に摂取が推奨される食品と、控えた方が良い食品の一例をまとめました。

好ましい食品控えた方が良い食品
主食おかゆ、白米、うどん、食パンなど玄米、雑穀米、冷たい麺、ラーメンなど
タンパク質豆腐、白身魚、鶏ささみ、レバー、はんぺんなど大豆、脂身の多い肉、加工肉など
野菜よく煮た野菜、かぼちゃ、かぶ、キャベツ、大根、ほうれん草などごぼう、れんこん、きのこ、漬物など
飲み物白湯、麦茶、薄めたスープなどコーヒー、炭酸飲料、アルコール、濃いめのお茶など
調味料うす味のだし、塩など唐辛子、カレー粉、ラードなど

退院後の生活で気をつけたいこと

退院してからすぐに手術前の生活に戻るのは難しいと言われています。そのため、体力の回復や排便の調整など、少しずつ日常生活に戻ることが大切です。

少しずつ体を動かして体力を取り戻す

直腸がんの一般的な入院期間は7〜14日程度とされています(※4)。術式や体の状態により個人差があります。退院後は無理をせず、ウォーキングやストレッチなど軽い運動から始め、徐々に体を慣らしましょう。腹筋に負担がかかる運動は、数カ月間控えるのが安心です(※2)

社会復帰は焦らず自分のペースで

術後の社会復帰のタイミングは、体調や精神面を踏まえて慎重に検討しましょう。主治医と相談しながら無理のないペースで進めることがポイントです。

心のケアも大切に

治療や今後の生活に不安を感じることもあるかもしれません。ひとりで抱え込まず、信頼できる人に相談しましょう。がん拠点病院には無料・匿名で使える「がん相談支援センター」もありますので、有効活用するのもおすすめです。

また、永久ストーマがある場合は、障害者手帳の申請で支援が受けられることがあります。

規則正しい生活が回復への近道

がん治療後の体調管理には、規則正しい生活が大切です。早寝早起き、バランスの取れた食事、十分な睡眠を意識しましょう。

手術後は体力が低下しやすいため、手洗いうがいによる感染予防も重要です。体調が良い日には無理のない範囲で軽い運動や、気分転換を心がけましょう。調子が悪い日は無理をせず、体を休めることが、結果的に回復への近道となります。

直腸がんの手術後は無理せずできることから

直腸がんの手術後には、体調や排便パターンの変化、気持ちのゆらぎなど、さまざまな不安に直面することがあります。その際に大切なのは、無理をせず、できることから少しずつ取り組むことです。

医療者や支援制度を活用し、家族や身近な方のサポートを受けながら、体と心の回復をゆっくりと進めましょう。

(※1)がん・感染症センター都立駒込病院 大腸外科
(※2)日本大腸肛門病学会|大腸がん手術後の生活
(※3)国立がん研究センター東病院 大腸外科

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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