すぐに治療をしない「監視療法」とは?メリットとデメリットを詳しく解説

すぐに治療をしない「監視療法」とは?メリットとデメリットを詳しく解説

がん治療の基本は「早期発見・早期治療」。がんはできるだけ早めに発見して、できるだけ早めに治療に取り掛かることが重要な病気です。

検診でがんが早期の段階で見つかった場合と、進行して自覚症状が出てから発見されたがんでは、5年生存率は大きく異なっていきます。とはいえ、がんのタイプや進行度によっては発見されてもすぐには治療に取り掛からないという治療方法もあります。

それが、「監視療法」です。この記事では、監視療法の概要やメリット、監視療法の注意点をお伝えします。

監視療法とは

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まずは、監視療法がどういった治療方法なのかをお伝えします。がんは、「早期発見・早期治療」が最善とされているため、治療時期を遅らせることに不安がある方もいるでしょう。

監視療法とはどのようながんに用いられる治療方法で、なぜこういった治療方法が用いられているのでしょうか。

前立腺がんで行われる!

監視療法は、がんを発見してもすぐには手術や抗がん剤投与などの治療をせずに、慎重に経過観察を行っていくことを指します。

ただ、監視療法はどのようながんにでも用いられる治療方法ではありません。

監視療法が行われるのは、ごく早期の段階で悪性度が低い前立腺がんが前立腺生検で発見されたときのみで、ほかのがんや進行した前立腺がんに対しては用いられません。

がん治療は早期発見・早期治療が基本

がん治療は「早期発見・早期治療」が基本と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。確かにそれは事実で、多くのがんは早期段階で治療を行った場合と、進行してから治療を行った場合と比べて5年生存率に大きな差が生じます。

すぐに命に影響がない緩やかながんもある

「早期発見・早期治療」が基本で、検診で発見された早期のがんと自覚症状が出てから発見された進行がんとでは、5年生存率に明らかな差が出ています。にも関わらず、なぜ前立腺がんでは早期治療を行わない、監視療法が行われているのでしょうか。

それは、前立腺がんのなかには、すぐに治療をしなくてもよいタイプのものがあるからです。具体的には、がんが前立腺のなかに留まっており、検査では前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA値が10ng/ml以下であること、なおかつ前立腺生検を行って10~12個採取した組織からがんの細胞が見つかるのが2個以下で、悪性度が低いもののみの場合です。

このような段階の前立腺がんは、早期治療をしなくても寿命に影響はないとのデータが様々な研究から明らかになっています。そのため、注意深く経過をみていく監視療法を行うことができるのです。

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目次

監視療法のメリット

早期発見・早期治療が基本のがん治療のなかで、なぜあえて早期治療を行わない監視療法が行われるのでしょうか。それは、監視療法ならではのメリットがあるからです。

監視療法の主なメリットは、「生活の質(QOL)の低下を避けられる」「最適なタイミングで治療を開始できる」の2点です。以下から監視療法のメリットを詳しくみていきましょう。

生活の質(QOL)の低下を避けられる

監視療法の最大のメリットは、患者さんの生活の質(QOL)の低下を避けられる点でしょう。

前立腺がんの主な治療方法は、前立腺を全摘出する「手術療法」と、前立腺がんに放射線を放射してがん細胞を死滅させる「放射線療法」に分かれます。

どちらの治療方法も、合併症や後遺症が起きる可能性が少なくないのです。手術療法の場合は、術後の感染症のほか尿失禁や勃起不全などを引き起こす可能性があります。放射線療法の合併症や後遺症には、排尿痛、排尿困難、頻尿、血尿、尿道狭窄、直腸潰瘍、勃起不全などがあります。

監視療法は、治療を必要としないごく早期の前立腺がんについては治療を行わなわずに注意深く経過観察を行っていくというものです。手術療法や放射線療法で起こり得る、合併症や後遺症の心配はありません。結果的に、患者さんの生活の質(QOL)の低下を避けられます。

最適なタイミングで治療を開始できる

最適なタイミングで治療を開始できる点も、監視療法のメリットです。がんのなかでも、前立腺がんは特にゆっくり進行することが多いがんとして知られ、一生治療しなくてもよい前立腺がんも少なくありません。一生治療しなくてもよい前立腺がんに対して、合併症や後遺症を起こし得る治療を行うことを、「過剰治療」といいます。

本来であれば一生治療しなくてもよいがんを、治療することで合併症や後遺症を引き起こしてしまう可能性もあるわけです。

監視療法は、過剰治療を避けつつ、3ヵ月や6ヵ月に一度など定期的な経過観測を継続し、その前立腺がんが命にかかわるリスクが高くなってきたところで、時期を逸せずに適切な治療を開始することができます。

監視療法の注意点

ここまで、監視療法のメリットをみてきましたが、監視療法には注意しなければならない点もあります。メリットだけではなく、注意点も把握してから治療方法を決定することが重要です。監視療法の注意点には、どのようなものがあるのでしょうか。

まだ十分に解明されていないことが多い

監視療法の一番の注意点として押さえておかなければならないのは、この方法はまだ長期的な予後の検討が進行中だということです。

年々、監視療法を受ける患者さんは増え、知見も集まってきているため、短期的・中期的な予後は監視療法を行うことと積極的な治療を行うことで大きな差はないことがわかっていますが、長期的な予後に関してはまだわかっていないというのが現状です。

患者さんの心理的負担が大きい

いくら医師から「現時点では治療の必要はないがん」と説明されても、患者さんにとってがんが見つかったというショックは大きいものです。それに加えて、がんであるとわかっているのに、長期間にわたって経過観測だけで何の治療も行われないことに不安を覚える患者さんもいます。

監視療法では、患者さんの体の負担は治療を行うより少ないですが、心理的負担は決して小さいものではありません。監視療法を行う場合は、患者さんの心のケアをどのようにしていくかという視点も重要です。

【まとめ】監視療法について

監視療法という治療方法をはじめて知ったという方も多いのではないでしょうか。監視療法とは、前立腺がんに用いられる治療方法で、ごく早期の悪性度が低い前立腺がんの治療方法のひとつです。

「早期発見・早期治療」ががん治療の基本的な考え方ですが、監視療法は慎重に経過観察をすることによって、すぐには手術療法や放射線療法などの積極的な治療を行わないというものです。患者さんの生活の質(QOL)の低下を防げる点や、「過剰治療」を避け最適なタイミングで治療を開始できる点がメリットです。

その一方で、監視療法は研究途中の段階で、長期的な予後についてはまだ検討段階となっています。さらに、がんとわかっていても何の治療も行わないことによる患者さんの心理的負担も決して小さいものではありません。

監視療法のメリットと注意点をきちんと把握したうえで、治療方法を選択してください。

・神奈川県「早期発見・早期治療(がん検診)」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/nf5/ganntaisaku/ganyobou/second-yobou.html
・日本メジフィジックス株式会社「「監視療法」とは?」
https://www.nmp.co.jp/seed/monitoring/monitoring.html#:~:text=「監視療法」とは、,して実施します。
・四国がんセンター「治療について」
https://shikoku-cc.hosp.go.jp/hospital/learn/results25/zenritusen/treatment07/
・武田薬品工業「前立腺がん」
https://www.takeda.co.jp/patients/p-cancer/care/4_2.html
・北海道大学病院|泌尿器科「前立腺がんの監視療法」
https://toms.med.hokudai.ac.jp/whatsnew/topics14/images/kouen_youshi02.pdf
・ブラキ・サポート「前立腺がん早期発見のためにPSA検診への理解を」
https://brachy.jp/blue-clover/early-discovery/06.html
参照日:2022年6月

成田 亜希子

内科医

2011年医師免許取得。一般内科医として幅広い疾患の患者様の診療を行っている。行政機関に勤務経験もあり、がん対策にも携わってきた。

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