神経内分泌腫瘍とはどんな病気?原因や症状、治療方法を解説

神経内分泌腫瘍とはどんな病気?原因や症状、治療方法を解説

がんは、体のあらゆる組織や臓器に発生しますが、内分泌細胞にもできる場合があります。内分泌細胞とは、消化管や膵臓、下垂体に存在するホルモン分泌の役割を持つ細胞のことです。これらの内分泌細胞に発生したがんのことを「神経内分泌腫瘍」と呼びますが、診断される人が10万人中6人未満の希少がんのため、「どのような病気なのかイメージできない」という方も多いのではないでしょうか(※1)

そこで本記事では、神経内分泌腫瘍の特徴や症状、治療方法などについて詳しく解説します。

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目次

神経内分泌腫瘍とは

神経内分泌腫瘍とは、内分泌細胞にできる腫瘍のことです。内分泌細胞は人間の体内に存在し、ホルモンを分泌して体内のバランスを整える役割を担っています。例えば、インスリンというホルモンは、膵臓に存在する内分泌細胞から分泌され、血糖値を下げる役割を果たしているのです。

神経内分泌細胞は体のさまざまな部位に存在しているため、がんは膵臓や消化管、肺など全身のさまざまな場所に発生します。

特に消化器に発生するがんが最も多く、全体の約60%であり、肺および気管支に発生するものが約30%を占めます(※2)

原因

神経内分泌腫瘍の原因は、現在のところ明確に特定されていませんが、遺伝的要因や環境的要因が関与していると考えられています。

また、神経内分泌腫瘍は体のさまざまな部位に発生しますが、その好発部位には民族間で差があることが特徴的です。日本人を含むアジア人では直腸に発生するケースが最も多く見られます。一方、アメリカの白人では肺、北欧では小腸に発生する腫瘍が最も多い傾向です(※3)

発症率

冒頭でも触れた通り、神経内分泌腫瘍は、年間の罹患者数が人口10万人あたり6人未満の希少がんの一つです(※1)

例えば、大腸がんの年間罹患者数は男性で人口10万人あたり約135人(※4)、胃がんは約122人とされており(※5)、これらを比較すると神経内分泌腫瘍は非常に珍しいがんであることがわかります。

余命

神経内分泌腫瘍と一口に言っても、さまざまな部位に発生し、人によって進行度合いも異なります。神経内分泌腫瘍の余命は、どこにできたか、ステージはどれくらい進んでいるのかによって大きく異なります。

例えば、膵臓にできた神経内分泌腫瘍ではステージⅠにとどまっている場合の5年生存率は94.8%です。しかし、ステージⅡは83.4%、ステージⅢは83.9%、ステージⅣは39.4%にまで5年生存率は下がります(※2007年の情報)

どのがんにも共通することですが、神経内分泌腫瘍から命を守るために最も重要なのは早期発見・早期治療です。

神経内分泌腫瘍の種類

出典:神経内分泌腫瘍の分類|国立がん研究センターがん情報サービス

神経内分泌腫瘍は、がん細胞がどの程度正常な細胞に近い形態を保っているか、すなわち「分化度」に基づいて分類されます。分化度が高い神経内分泌腫瘍を「NET:Neuroendocrine tumor」、分化度が低いものを「NEC:Neuroendocrine carcinoma」に分類しますが、そのうち、悪性度がより高いのは後者です。NETは、NET G1、NET G2、NET G3の3つに分けられ、一般的にNECの悪性度は、NETG3より高くなります(※6)

また、NETはホルモンの作用による、腕や脚の麻痺、触覚・視覚・聴覚の消失といった機能性症状がある「機能性NET」と、ホルモンの作用による症状がない「非機能性NET」に分類されます。

機能性NETはさらに、ホルモンの症状により、「インスリノーマ」「ガストリノーマ」「カルチノイド」「グルカゴノーマ」「ソマトスタチノーマ」「VIP(血管作動性腸管ペプチド)オーマ」の6タイプに分類され、タイプによって症状が異なる点も大きな特徴です(※3)

神経内分泌腫瘍の症状

先述したように、神経内分泌腫瘍の症状は、6つのタイプによって異なります(※3)

インスリノーマ

冷や汗、動悸、意識障害といった低血糖の症状

ガストリノーマ

胃・十二指腸潰瘍、慢性下痢、腹痛、胸焼け、体重の減少など

カルチノイド

皮膚の紅潮、下痢、むくみ、喘息、心不全など

グルカゴノーマ

皮膚の発赤を伴う発疹、体重の減少、高血糖など

ソマトスタチノーマ

体重減少、腹痛、高血糖、脂肪便、下痢、胆石症など

VIP(血管作動性腸管ペプチド)オーマ

下痢、脱力や不整脈などの低カリウム血症、胃酸分泌の低下など

神経内分泌腫瘍の診断と治療

神経内分泌腫瘍が疑われる場合、どのような検査が行われるのでしょうか。治療方法とともに見ていきましょう。

診断方法

ホルモンの作用による機能性障害がある機能性NETの場合、タイプごとの特有の症状を調べる検査が行われます。CT・MRI・超音波などを用いた画像検査、超音波内視鏡検査、超音波内視鏡による生検(※がん細胞の一部を採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査)、さらに必要に応じて腫瘍に栄養を届けている動脈に直接注入し反応性を見る「SASIテスト」、神経内分泌腫瘍の検出や診断に用いられる「ソマトスタチン受容体シンチグラフィ」などが行われます。

NETとNECを判別するために行われるのが、組織片を顕微鏡で調べる組織検査です。組織検査を行い、分化度などを調べます。がん細胞の形を顕微鏡で見ることによって、正常の細胞とどれくらい異なっているかで、高分化度、低分化度を判定します。

CT検査についてより詳しく知りたい方は下記の記事をご参照ください。

MRI検査についてより詳しく知りたい方は下記の記事をご参照ください。

治療方法

神経内分泌腫瘍の治療方法は、NETなのかNECなのかによって異なります。

NETの治療の第一選択肢は、手術です。腫瘍が原発巣にとどまっている場合はもちろん、遠隔転移していたとしても手術が考慮されます。手術によって腫瘍の全てを取り切ることが困難な場合、症状の緩和、予後の改善を目的に手術が行われることも少なくありません。

また、NETの特徴の一つに肝転移が多い点が挙げられますが、肝転移したがんを手術で完全に切除できないケースも少なくありません。そのような場合には、カテーテル治療やラジオ波焼灼術などの局所療法が検討されることもあります。

さらに、NETでは薬物療法も選択肢の一つです。具体的には、細胞内のシグナル伝達物質を阻害するエベロリムス、血管新生を抑制するスニチニブの2剤が用いられます。

一方、悪性度がNETより高いNECの場合、病気の進行度合いによって手術、薬物療法、放射線治療の中から患者さんに最適な治療方法が選択されます。

腫瘍が切除可能であれば手術が行われますが、手術が不可能な場合は「薬物療法+放射線治療」、遠隔転移がある場合は薬物療法が標準治療となるのです。

早期発見で神経内分泌腫瘍から命を守ろう

神経内分泌腫瘍は、発症率が人口10万人あたり6人未満の希少がんです(※1)。全身のさまざまな場所に発生する可能性があり、発症した部位やがんのタイプによって症状は全く異なります。そのため、症状を見落としていて気づいたときにはがんが進行していたというケースも少なくありません。

全てのがんに共通していることですが、神経内分泌腫瘍も早期発見であればあるほど、5年生存率は高まります。気になる症状があったときにはもちろん、症状がない場合でも定期的に検査を受けて、神経内分泌腫瘍から大切な命を守りましょう。

(※1)国立がん研究センター|神経内分泌がん
(※2)国立がん研究センター 希少がんセンター|神経内分泌腫瘍
(※3)国立がん研究センター|神経内分泌腫瘍
(※4)国立がん研究センター|大腸
(※5)国立がん研究センター|胃
(※6)国立がん研究センター|神経内分泌腫瘍の分類

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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