2019年に国立がん研究センターから発表された情報によると、日本で年間を通して大腸がんと診断された人の数は、男性は約9万人、女性は約7万人に上ります(※1)。臓器別に見ると、男女ともに2番目に多いのが大腸がんです(※1)。また、大腸がんで命を落としてしまう方も多く、がんの臓器別の死亡者数で上位に入ります(※2)。そして、死亡リスクを上げてしまう要素の一つが、がんの転移・再発です。
こちらの記事では、大腸がんの転移や再発に焦点を当て、再発・転移した場合の症状や治療方法について詳しく解説します。
目次
大腸がんの転移と再発の違い
再発した大腸がんと、転移した大腸がんにはどのような違いがあるのでしょうか。
まずは、転移とはどういう状態なのか、再発とは何なのかといったことを考えていきましょう。
転移とは
転移とは、がんが最初に発生した場所から血管やリンパ管を通じて別の臓器や器官へ移動し、そこで増殖することを指します。大腸がんの転移で特に多いのが、肺や肝臓、脳、骨といった血流が多い場所への血行性転移です。
最初にできたがんの部位を原発巣(げんぱつそう)といいますが、転移したがんは原発巣のがんと同じ性質を持ちます。例えば、大腸がんが初めにでき肝臓に転移したがんは肝臓がんではなく、「大腸がんの肝転移」という扱いになるため、大腸がんとして治療が行われるのです。また、抗がん剤も大腸がんに効果のある抗がん剤でないと反応しにくいと言われています。
再発とは
再発とは、治療や手術がうまくいったように見えても、取り切れなかった小さながんや目に見えないほど微小ながんが再び出現したり、いったんは薬物治療や放射線治療で小さくなったがんが再び大きくなったりなどのことです。
原発巣と同じ場所に同じがんが出現することを指します。
大腸がんの再発の予防法についてより詳しき知りたい方は下記の記事をご覧ください。
再発と転移についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
大腸がんはなぜ転移する?
大腸がんは、大腸の内側の中でも最も表に位置する粘膜に発生し、とどまりますが、がんが進行しがん細胞が大きくなると、大腸の奥深い層へと食い込み徐々に広がります。
さらに、がん細胞が奥深くへ広がると、大腸の壁の中にある血管やリンパ管にがん細胞が流れ出し、血液やリンパ液の流れに沿って全身に運ばれ、他の臓器や器官に転移します。
大腸がんの転移のリスクを軽減するためにも、定期的に検診を受け、早期発見・早期治療につなげていきましょう。
大腸がんが転移しやすい場所と症状
大腸がんは全身のどこにでも転移しますが、中でも転移しやすいのは肝臓や肺、腹膜、脳、骨といった血流の流れが多い場所です。ここでは、転移した場所ごとに出現する症状を詳しく見ていきましょう。
肝転移の症状
肝転移の症状の特徴として挙げられるのは、初期症状がほとんどないという点です。大腸がんが肝臓に転移しても初期段階ではほとんど症状が現れないため、転移したことに全く気がつかず過ごしてしまう患者さんも少なくありません。
進行した場合の代表的な自覚症状の一つが黄疸です。黄疸とは、全身の皮膚が黄色くなる症状であり、肝臓や胆道、膵臓に病気があった際に発症します。また、腹部の右上に鈍痛が伴うこともあります。
さらに全身の倦怠感も代表的な症状です。きちんと休養や睡眠を取っても、だるさや疲れが取れない場合には肝臓に転移している可能性があります。
肺転移の症状
肺転移した場合にも、初期症状がほとんど現れないのが一般的です。
がんが進行すると、咳や血痰、息苦しさ、発熱、物を飲み込んだ際の違和感などの症状が現れます。
1週間以上、咳が長引くときには肺転移が疑われるでしょう(※3)。また、血痰が出た場合には、肺転移だけではなく、ほかの重篤な疾患に罹患している可能性があるため、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
腹膜転移の症状
大腸がんのがん細胞が剥がれ落ち、腹膜に散らばるように広がることを腹膜播種といいます。腹膜播種になると、腹痛、腹水がたまったことよるお腹の張り、嘔吐などの症状が出現します。
腹膜播種が進行すると起きやすくなるのが、がん性腹膜炎です。がん性腹膜炎が発症すると、食欲低下、吐き気、嘔吐、息苦しさ、体重減少などの症状が現れます。これらの症状により、食事や呼吸に重大な障害がもたらされることもあるでしょう。
脳転移の症状
大腸がんの脳転移は、脳のどの部分に転移したかによって出現する症状は異なります。
転移した場所によっては、うまくしゃべれない、物が二重に見える、けいれん、麻痺、ふらつきなどさまざまな症状が現れます。また、転移腫瘍で圧迫されることによって、頭痛、嘔吐、意識障害などが起こることも場合もあります。
骨転移の症状
大腸がんの骨転移は、罹患者全体の4%(※4)と決して多いものではありませんが、治療が難しいという特徴があります。
大腸がんが骨に転移すると、まず、骨が溶けて破壊されます。骨が崩れることで周辺の組織を圧迫し、痛み、しびれ、麻痺などの症状が現れます。また、がんが転移した骨は骨折しやすくなり、骨折をしたのをきっかけに大腸がんの骨転移が見つかる場合もあります。
なお、大腸がんの場合、骨だけに転移している例はまれです。多くの場合、肺や肝臓などのほかの臓器にも転移が見られます。そのため、臓器への転移に対しては化学療法などを行いつつ、骨転移に対しては放射線や薬などで主に痛みを和らげる治療が施されるのです。
転移した大腸がんの治療方法
転移した大腸がんの治療方法は、転移したがんの数や患者さんの状態、手術で取り切れるかどうかによって異なります。
転移したがんが一つの臓器や器官にとどまっており、手術で取り切れると判断された場合、手術が行われます。また、転移したがんが2つ以上の臓器や器官にわたる場合でも、それぞれのがんが手術で取り切れると判断された場合には手術を行う場合があるので、頭に入れておくと良いでしょう。
転移したがんが完全に取り切れないと判断された場合、あるいは患者さんの状態が手術に耐えられないと判断された場合、抗がん剤や放射線治療が選択されます。
とはいえ、近年は大腸がんに効果的な薬剤が続々と開発されており、初めは手術では取り切れないと思われていたようながんが切除できる大きさになる患者さんが増えている状況です。転移したがんの治療方法は、がんの状態や症状によってさまざまなので、医師からよく説明を聞いたうえで、納得の行く治療方法を選択しましょう。
大腸がんの治療方法と副作用について、より詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
定期的に検診を受け、大腸がから命を守ろう
がんは発見が早期であればあるほど、容易な治療で済ませることができ、命を守れる可能性が高くなるでしょう。ステージが進んでからの発見で再発してしまうと、治療が難しくなり、命を落としてしまうリスクは大幅に高まってしまいます。大腸がんから命を守る可能性を少しでも高めるようにするためにも、定期的に大腸がん検診をはじめとした各種検診を受けましょう。
(※1)国立がん研究センター|リキッドバイオプシーが大腸がん術後の 再発リスク測定に有用であることを確認 -世界最大規模の前向き研究により術後補助化学療法の個別化を目指す-
(※2)日本対がん協会|がんの部位別統計
(※3)東京慈恵会医科大学附属柏病院|転移性肺がんの基礎知識
(※4)神戸大学医学部附属病院 腫瘍センター
|転移性骨腫瘍ボード(Bone Metastasis Board : BMB)
参照日:2024年7月