抗がん剤を使うと必ず脱毛する?抗がん剤治療と副作用とは

抗がん剤を使うと必ず脱毛する?抗がん剤治療と副作用とは

抗がん剤治療について、「副作用が強い」などのネガティブなイメージを持つ方も多いと思います。また、抗がん剤治療の副作用としてよく知られているものとして脱毛がありますが、抗がん剤の治療によって髪が抜けてしまうことを一番心配している方もいるのではないでしょうか。

本記事では、抗がん剤治療と脱毛の関係を詳しく解説します。抗がん剤治療による脱毛が心配といった方や、脱毛したときの対策を知りたいという方はぜひ参考にしてください。

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目次

抗がん剤治療の副作用

がんの標準治療は、「手術」「抗がん剤治療(化学療法)」「放射線治療」の三つですが、抗がん剤治療は他の治療方法と比べると、ネガティブなイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。その代表例が「副作用が強い」ということ。

ここではまず、抗がん剤治療を行うとなぜ副作用が起きるのか、どういった症状が表れるかといった基本的なところを見ていきましょう。

抗がん剤の副作用が起きる理由

抗がん剤とは、無秩序ながん細胞の分裂に刺激を与え、最終的にはがん細胞を死滅させる作用を持つ薬剤です。

細胞を死滅させる作用が、がん細胞だけに効くのが適切ですが、抗がん剤は正常な細胞にも作用してしまいます。そのため、抗がん剤を投与・服用すると副作用が生じるのです。

がん細胞だけに作用し、正常な細胞には作用しない抗がん剤は、現在のところ開発に至っていません。

副作用の種類一覧

抗がん剤の副作用が現れやすいのは、一般的に細胞分裂が盛んな組織であり、人体の中で細胞分裂が特に活発なのは、口腔(こうくう)粘膜、消化管粘膜、骨髄、毛根などです。抗がん剤を投与・服用するとこれらの組織に副作用が生じます。具体的な症状としては、脱毛、感染症、吐き気・嘔吐、下痢、便秘、皮膚障害、味覚障害などがあります。

抗がん剤による脱毛

抗がん剤の副作用としてよく知られているものの一つに脱毛があります。

どのようなメカニズムで脱毛してしまうのでしょうか。症状や発生時期を理解し、治療前にきちんと準備しましょう。

抗がん剤の副作用によって脱毛が引き起こされる原因

抗がん剤の副作用が現れやすいのは、細胞分裂が盛んな組織です。髪の毛の元となる毛母細胞は細胞分裂が非常に盛んな細胞です。毛母細胞が細胞分裂を繰り返し、新しい細胞によって押し上げられたものが毛髪となります。

抗がん剤により、毛母細胞の細胞分裂に障害が与えられた結果、新しい髪の毛を作りづらくなるのです。さらに、抗がん剤で毛根がダメージを受けることから、脱毛が引き起こされると考えられています。

なお、脱毛するのは髪の毛だけとは限りません。毛母細胞の分裂がとりわけ活発な髪の毛は脱毛がしやすい部分といえますが、抗がん剤の種類や使用量によっては眉毛やまつげなどにも脱毛が生じる可能性があります。

いつまで続く?脱毛が引き起こされる期間

抗がん剤治療が始まり、髪の毛が抜け始めると「もしかしたら一生、生えないのでは」と心配になる方もいるでしょう。しかし、毛根が完全に死滅するわけではないため、抗がん剤による脱毛は一時的なものです。

抗がん剤治療開始後、一般的には1~3週間ほどで髪の毛が抜け始めます。治療後、1~2カ月もすると髪の毛の再生が始まり、治療後3~6カ月でほぼ回復します。

ただし、使用する抗がん剤の種類や投与量、個人差によって回復までの期間は多少前後することはあらかじめ押さえておきましょう。

脱毛を引き起こす抗がん剤の種類

抗がん剤と一口に言っても、数多くの種類があります。中には脱毛に影響の少ない抗がん剤もあれば、脱毛を引き起こしやすい抗がん剤もあります。脱毛しやすい抗がん剤は以下の通りです。

  • アドリアマイシン
  • エトポシド
  • エピルビシン
  • イホスファミド
  • シクロホスファミド
  • ビンクリスチン
  • ブレオマイシン
  • メトトレキサート
  • ビンデシン

脱毛に関するよくある質問

最後に、がんメディ編集部によく寄せられる、抗がん剤と脱毛に関する質問とその回答を紹介します。これから抗がん剤治療を始める方は、ぜひ参考にしてください。

脱毛はどのくらいの速度で進行しますか?

脱毛がどのくらいの速度で進行するのかは、抗がん剤の種類や投与量などによって異なります。また、個人差も少なくありません。一般的には、治療開始後1~2週間で脱毛の症状が出始めます。また、1~2カ月ですべての髪の毛が抜けてしまうケースもあります。

脱毛した後、髪はまた生えてくるのでしょうか?

抗がん剤による脱毛は一時的なものです。たとえ、すべての髪の毛が抜けたとしても、髪の毛を生み出す毛母細胞や毛根がなくなったわけではありません。抗がん剤治療が終われば、髪の毛は元通りに生えてくることが多いでしょう。通常、抗がん剤終了後1~2カ月で髪の毛が再生し始め、3~6カ月もするとほぼ元通りに回復します。

脱毛したらどのように対策すれば良いですか?

抗がん剤治療による脱毛を確実に防ぐ方法は現在のところありません。それは、がん細胞だけに作用し、正常な細胞には作用しない抗がん剤が現状では存在しないないからです。とはいえ、治療を開始してから脱毛が始まるまで数週間の時間があり、その間にできる準備はあります。

抜けた髪の毛が絡まないように、脱毛が始まる前にあらかじめ髪の毛を短くカットしておく患者さんも少なくありません。また、髪の毛が短いと抜け毛の量が少なく感じられますし、ケアも楽になります。

多くの患者さんがウィッグ(かつら)や帽子を活用していますが、ウィッグや帽子は数多くの種類があります。自身の生活スタイルや好み、予算に合ったものを事前に決めておきましょう。なお、がん患者のためにウィッグの購入費用を公費で負担してくれる自治体もあります。自分が住んでいる自治体がウィッグの購入費助成をしているかどうかを確認してみましょう。

脱毛対策として、育毛剤は効果がありますか?

脱毛を少しでも防ぐため育毛剤を使いたいという方もいるでしょう。結論から言えば、治療中の育毛剤の使用は避けましょう。抗がん剤による脱毛には効果がないばかりか、育毛剤の刺激によって頭皮が荒れてしまう恐れがあります。育毛剤は治療を終えて、髪の毛が再び生え始めてから使用するのが適切です。使用を始めるタイミングは必ず抗がん剤を処方している主治医に確認しましょう。

抗がん剤による脱毛は一時的なもの、必ず元の姿に戻れる

髪の毛が抜けることで、見た目のイメージは大きく変わってしまいます。抜け始めた髪の毛を見て、「もう一生髪の毛が生えないのでは」と大きなショックを受ける患者さんも少なくありません。中には、髪の毛が抜けるのが嫌で抗がん剤治療を受けたくないという患者さんもいます。

とはいえ、抗がん剤治療はがんにおいて最も有効な治療方法の一つです。副作用を気にするあまり、有効な治療を受けないというのでは本末転倒です。それに抗がん剤治療による脱毛は一時的なものであることがほとんどです。髪の毛は、治療後3~6カ月もするとほぼ元通りに回復します。

今は医療用ウィッグや帽子もおしゃれなものもありますので、治療中の脱毛期間はウィッグや帽子をうまく活用して、前向きな気持ちで治療に臨みましょう。

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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