喫煙するとなぜがんにかかりやすくなる?喫煙者のがん発症率は?

喫煙するとなぜがんにかかりやすくなる?喫煙者のがん発症率は?

喫煙とがんには深い関わりがあることは、今や常識となっています。多くの方が「たばこを吸うとがんにかかりやすくなる」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。

しかし、喫煙するとなぜがんにかかりやすくなるのか、どういったメカニズムでがんを発症するのか詳しくは知らない方も多いと思います。

そこで本記事では、喫煙とがん発症の因果関係を詳しく解説します。現在喫煙していて、体のためにやめようと思っている方は必見です。

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目次

喫煙によるがんの発症メカニズムや原因

これまでのさまざまな研究結果から喫煙とがんの発症には強い因果関係があることがわかっています。とはいえ、なぜ喫煙が、がんに発症しやすくなるのかは詳しく知らない方も多いでしょう。

ここではまず、喫煙ががんを引き起こす仕組みや、がんの治療に対してたばこが与える悪影響について詳しくお伝えします。

喫煙ががんを引き起こす仕組み

がんは細胞内のDNAが傷つくことによって異常な細胞が増え発症しますが、喫煙するとDNAが傷つきやすくなります。

たばこには約5,300種類の化学物質が含まれていますが、そのうちの約70種類が発がん性物質です(※1)

喫煙することによって、これらの有害物質が肺に届き、血液に流れ出し血管を通じて全身に運ばれます。そして、有害物質が細胞内のDNAを傷つけることによってがんが発症するという仕組みです。

日常の喫煙が増大させるがんリスク

喫煙はがんの発症リスクを高めるだけではなく、がんの治療効果を低減してしまう作用があると考えられています。手術療法の際には、麻酔の効きが悪くなるだけでなく、皮膚を縫合している創部に感染が起こる創感染 や術後肺炎などの合併症のリスクも高まるのです。

さらに、喫煙する習慣があると、薬物療法や放射線療法の効果が下がることも科学的に明らかになっています(※2)加えて、喫煙は再発・転移とは別に新たに発症するがん(二次がん)の原因になることも報告されています。

このように、がんの治療にとってたばこは天敵のような存在です。がんと診断されたらすぐに禁煙するようにしましょう。

たばこに含まれる発がん性物質

たばこに含まれる発がん性物質は70種類に上りま(※1)

代表的なものとして挙げられるのは、ニコチンです。
中枢神経に作用する毒物で、心拍数の増加、血圧の上昇、末梢血管の収縮などをもたらします。「たばこをやめたいのにやめられない」という依存症をもたらす原因はニコチンです。

また、タールには何種類もの発がん性物質が含まれており(※3) 、呼吸器系のがんにとどまらず、あらゆる部位のがんの原因となることが明らかになっています。

喫煙者のがん発症率や死亡率

次に、現在喫煙している方が最も気になるであろう、喫煙者のがん発症率や死亡率について詳しく見ていきましょう。

全体の喫煙者中でのがん患者の割合

国立がん研究センターがん対策研究所が発表した「喫煙とがん全体の発生率との関係について」によると、約10年間の追跡期間中に約9万人の調査対象者のうち、約5,000人が何らかのがんに罹患(りかん)しました。この5,000人を、「たばこを吸ったことがない人」「やめた人」「吸っている人」の3グループに分け、約10年間のがん発生率を調査しました。

その結果、「吸っている人」のがん発生率は「たばこを吸ったことがない人」のグループに比べて、男性で約1.6倍、女性で約1.5倍高くなっています(※4)

この結果をもとに、同研究所が、「たばこを吸っていなければがんに罹患しなくて済んだ人数」を推計したところ、男性で29%、女性で3%となりました。研究では、「もしたばこがなかったら、毎年約9万人ががんにかからなくて済むはずだ」と結論づけています(※4)

死亡率の推移

同研究所の「たばこと死亡率との関係について」の調査では、喫煙状況と死亡率の関係も調査されています。それによると、10年間の追跡期間中に、「たばこを吸う人」の死亡率は、「吸ったことがない人」と比べて、男性では 1.6倍、女性では1.9倍と高いことがわかりました。

がん対策研究所は、たばこを吸う男性の死亡646名中の225名、たばこを吸う女性の死亡50名中の25名が、「たばこがなければ防げた死亡」と指摘しています(※5)

喫煙が関連する代表的ながんの種類

喫煙はあらゆるがんの発生リスクを高めますが、特に関連が強いのが口腔(こうくう)・咽頭がん、胃がん、肺がんです。それぞれのがんと喫煙との関係性を見ていきましょう。

口腔・咽頭がん

同研究所の「喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて」によると、たばこを吸わないグループと比べてたばこを吸うグループの口腔・咽頭がんの発生リスクは2.4倍、累積喫煙指数(1日の喫煙箱数×喫煙年数)が60以上のグループに至っては、発がんリスクが4.3倍になるという結果が出ています。

また、下咽頭がんへの影響が特に大きく、たばこを吸わないグループと比較してたばこを吸うグループは約13倍、累積喫煙指数が60以上のグループは下咽頭がんの発生リスクが約21倍も増加したという結果になりました(※6)

胃がん

同研究所が行った研究「たばこ・お酒と胃がんの関連について」では、たばこを吸わない人の胃がんの発生リスクを1とした場合、吸う人の発生リスクは2倍という結果でした。

また、日本人の胃がんで多い「分化型」(がん細胞がまとまって増殖するタイプの胃がん)では、たばこを吸う本数が多ければ多いほど、発生率も増すことがわかっています(※7)

肺がん

同研究所の「たばこ・お酒と胃がんの関連について」では、たばこを吸わない人に比べて、たばこを吸う人は男性で4.5倍、女性で4.2倍肺がんになりやすいという結果でした。

そして、たばこをやめた人は吸わない人に比べて、肺がんのリスクが男性で2.2倍、女性で3.7倍という数値となっています(※8)

がんの発症で後悔してからでは遅い!今からでも禁煙に取り組もう!

たばこは全てのがんの発症リスクを高めますが、中でも口腔・咽頭がんや胃がん、肺がんで特に発症リスクが高いことが、数々の研究で明らかになっています。これらのがんにかからないためには、何よりすぐに禁煙すべきでしょう。

禁煙の効果とがんリスクの低下

「もう何十年も吸っているのにいまさら禁煙なんてしても」と思う方もいるのではないでしょうか。喫煙年数が長く、喫煙本数が多いほどがんに罹患するリスクが高くなるのは確かです。

しかしその一方で、長期間の禁煙によって発がんリスクが大幅に低減することもわかっています。

例えば、10年の禁煙で肺がんの発症リスクが喫煙者の約半分に低減し、口腔・咽頭がんなどの各種がんの発生リスクも低減します(※9)。がん予防のための禁煙に遅すぎるということはありません。

検査と早期発見の重要性

また、禁煙をしても、現在の医学では発がんリスクをゼロにすることはできません。しかし、がんから命を守れる可能性を上げることはできます。

がんから命を守るために最も大切なのは、早期発見と早期治療です。たばこと関連が深い口腔・咽頭がんは早期に発見されれば80%以上は治癒するといわれています(※10 )。定期的に検診を受け、がんの早期発見につなげましょう。

(※1)厚生労働省|1 喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書 概要
(※2)国立がん研究センター|たばことがん
(※3) e-ヘルスネット(厚生労働省)|タール
(※4)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|喫煙とがん全体の発生率との関係について
(※5)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|たばこと死亡率との関係について
(※6)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|喫煙、飲酒と口腔・咽頭がん罹患リスクについて
(※7)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|たばこ・お酒と胃がんの関連について
(※8)国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|たばこと肺がんとの関係について
(※9)国立がん研究センター|がんの発生や治療へのたばこの影響
(※10)日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会|タバコを吸う男性は口腔・咽頭がんのリスクが2倍以上!
参照日:2024年01月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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