がんの中でも、男性に特に多い食道がん。最新がん統計によると、2019年の1年間で食道がんと新たに診断された男性は21,000人以上に上ります。
一方、女性で新たに食道がんと診断された人は約4,600人です(※1)。
食道がんに罹患し克服した人が次に気にかかるのは、再発リスクではないでしょうか。大半のがんに再発リスクがあり、食道がんも例外ではありません。食道がんの再発率は他のがんと比較して高いのでしょうか。そして、どのような生活を送れば再発リスクを下げられるのでしょうか。過去に食道がんを経験し、経過観察中の方はぜひ参考にしてください。
目次
食道がんの再発
まずは、食道がんの再発について広く見ていきましょう。ほかのがんと比較して食道がんの再発率は高いのでしょうか。
再発と転移の違い
食道がんの再発率を見ていく前に、再発と転移の違いを改めて確認しましょう。
再発とは、治療により目で見えないほど小さくなったがん細胞が、再び増殖することをいいます。一方、転移とは、食道でできたがん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、体の別の部位や臓器に移動し、増殖することです。
食道がんでは、再発も転移も見られます。食道がんの再発で多いのは、頸部、上縦隔などで、転移で多いのは、リンパ節、肺、肝臓、骨などです。
再発率は30~50%に上る
がんの再発率は、原発のがんがどこでできたかで大きく異なります。それでは、食道がんの再発率は高いのでしょうか。
結論から言えば、食道がんの再発率は高いと言えるでしょう。
日本では、食道がんの根治手術後の再発は30~50%に上るといわれています。欧米においてはさらに高くなり、50%以上に再発が認められています(※2)。
再発の多くは治療から1年以内
治療後のどの時期に再発・転移が多いのかも原発がどこのがんなのかによって、異なります。食道がんの再発・転移で特に多いのが、初回の治療から1年以内です(※2)。
また、治療後2~3年後に再発が認められるケースも少なくありません(※3)。
そのため、特に最初の1~2年は3カ月に一度など、定期的に検査を受け、再発していないか確認する必要があります。初回の治療から年数が経てば経つほど再発のリスクは低下していき、徐々に検査のスパンは長くなっていきます。
再発した食道がんの症状と治療法
万が一、食道がんが再発してしまったときに備えて、あらかじめどのような治療が行われるのかを把握しておきたい方も多いでしょう。ここでは、食道がんの再発・転移時の治療方針を詳しくお伝えします。
症状は再発した部位によって異なる
まず気になるのは、再発・転移時にどのような症状が出現するかではないでしょうか。
出現した症状によって、再発や転移が見つかることも少なくありません。そのため、どのような症状が出るのかを自分で把握しておくことはとても重要なことです。
食道がんの再発時の症状は、再発・転移した部位によって異なります。
例えば、食道がんで多いのが肺への転移ですが、肺へ転移した場合は咳が続いたり、胸が痛くなったりといった症状が現れます。肝臓へ転移した場合、腹部の張りが出現することも少なくありません。また、骨への転移では転移した周辺に痛みを感じることもあります。いずれにしても、少しでも気にある症状が出たら、できるだけ早く主治医に相談しましょう(※4)。
内視鏡的粘膜切除術後の再発の治療法
ここからは、初回に行われた治療法別に再発した食道がんに対する治療法を見ていきましょう。
内視鏡の先端から出した電気メスでがん細胞を切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)の後の再発は1年以内に起こることが多いという特徴があります。
内視鏡治療後に再発したがん細胞が、粘膜筋板まで浸潤したり、がん細胞が血管やリンパ管に移動したりといったことが見られた場合、手術あるいは化学放射線治療(化学療法と放射線治療を組み合わせた治療法)が選択肢となります。
がん細胞の浸潤が粘膜下層以上の場合、治療法の選択の決め手となるのが、患者さんが手術に耐えられるかどうかです。手術に耐えられる場合は手術が行われますが、耐えられない場合は化学放射線治療または放射線治療が選択されます。
手術後の再発の治療法
初回の治療で根治的な手術が行われた場合、再発時の治療法は患者さんの全身状態や原発がんのステージ、再発部位が手術した範囲内なのか、術前術後に放射線治療が行われたかなどによって異なります。
再発したがん細胞が限局していて、ほかの部位や臓器に転移がないと認められた場合は、手術、化学放射線治療、放射線治療のうち、最もその患者さんに適した治療法が選択されます。
化学放射線治療後の再発の治療法
初回の治療法が化学放射線治療だった場合の再発には、定まった治療法がありません。ただし、再発したがんが限局していて、ほかに転移がないと認められた場合には手術や内視鏡的粘膜切除術などが行われることもあります。
食道がんを再発させないためにはどうすればいい?
ほとんどのがんは再発リスクがあり、食道がんの再発率はほかのがんと比較して高いという特徴があります。また、再発のリスクをゼロにする方法はいまだ見いだされていません。
しかし、再発のリスクをゼロにはできなくても、確率を下げることは可能です。どのような生活を送っていれば、食道がんの再発リスクを下げられるのでしょうか。
食道への刺激を減らす
食道がんの再発リスクを低くするために大切なことは、食道がんになりにくい食生活、生活習慣を身につけることです。食道がんの主な原因は、食道への刺激です。
食道への刺激で代表的なものは、喫煙と飲酒です。喫煙は全てのがんの発生リスクを高めるといわれています。またアルコールに関しては、お酒に弱い人は特に、食道がんの発生リスクが高まると報告されています。
また、熱いものを飲んだり食べたりすることが、食道がんの発生リスクを高めるということもわかっています。食道がんを再発させないためには、できるだけ食道に負担をかけない食事や生活習慣を身につけましょう。
再発予防のために日常生活で気をつけること
がんにならないための生活習慣や食生活がまとめられていることをご存じでしょうか。国立がん研究センターを主体とする研究グループが、日本人とがんの相関関係を示すさまざまな研究をもとにまとめたのが、「日本人のためのがん予防法(5+1)」です。それによると、推奨されている食生活、生活習慣は以下の通りです(※5)。
- 禁煙する
- 節酒する
- 食生活を見直す(減塩する、野菜と果物をとる、熱い飲み物や食べ物は冷ましてから)
- 身体を動かす
- 適正体重を維持する
- 感染を予防する
この機会に以上の6つのポイントに気をつけて、食生活や生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
早期発見のための経過観察の重要性
もしがんが再発してしまっても、すぐに発見し、治療につなげられれば命を守れる可能性が高くなります。原発がんと同様に、再発したがんも早期発見であればあるほど、予後は良くなります。
そのために重要なのは定期的な検査です。食道がんは治療後1年以内の再発が多く、治療後2~3年以内の再発も少なくありません。
特にこの期間は必ず医師の指示を守って、定期的に検査を行いましょう。
食道がんの再発について【まとめ】
治療後、30~50%の人が再発する食道がん。どのがんでも同じですが、原発がんより再発がんの方が予後は悪く、治療も難しいものになってしまいます。再発がんから命を守るために重要なのは、再発したとしてもできるだけ早く見つけ、早期に治療に進むことです。
早期発見するためには、治療後の定期的な検査が欠かせません。特に食道がんは治療後1年以内の再発が多く、だんだんと再発率は低くなっていくという特徴があります。再発率が高い期間は医師の指示を守って、できる限り短いスパンで検査を繰り返しましょう。
(※1)国立がん研究センター|食道
(※2)虎の門病院|食道がん治療センター:再発率・生存率
(※3)特定非営利活動法人 日本食道学会|食道がん治療後の経過観察
(※4)国立がん研究センター|食道がんについて
(※5)国立がん研究センター|科学的根拠に基づくがん予防
参照日:2023年6月