がんの余命宣告って信頼できる?余命宣告後も治療を諦めてはいけない理由

がんの余命宣告って信頼できる?余命宣告後も治療を諦めてはいけない理由

完治を目指して一生懸命治療しているがん患者さんが、最も聞きたくないのが「余命宣告」。

医師から「あなたの余命はあと〇カ月です」と告げられることがありますが、余命宣告の本当の意味や余命宣告の確実性についてはよくわからないという方も多いのではないでしょうか。

そもそも、患者さんの体力や病気の進み方はそれぞれ異なるのに余命を正確に言い当てることなど、本当にできるのでしょうか。

ここでは、余命宣告の意味や、信頼性について解説します。

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目次

余命宣告の本当の意味

よくドラマや映画などで余命宣告のシーンがみられますが、実際に自分や家族が余命宣告を受けたことがあるという方以外、余命宣告の意味をきちんと理解している方は少ないと思います。

ここではまず、余命宣告の本当の意味を押さえておきましょう。

余命宣告とは

闘病中の患者さんに医師から予想される生存期間を告げるのが余命宣告です。余命宣告がなぜ行われるのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。

余命宣告を行う最大の理由が、患者さんがご自身の命と向き合い、どのような最期を迎えたいのか、そのためにはどのような治療を行っていくべきかを決めることです。また、ご家族に「心の準備をしてもらう」という一面もあります。

余命=寿命ではない

医師は、患者さんの余命をどうやって割り出すのでしょうか。医師は占い師ではありませんので、データを用いて客観的に判断していきます。

医師が、患者さんの余命を割り出す際に参考にするデータが、「生存期間中央値」です。ある病気にかかった患者さんがどれくらいの期間、生存していたかの中央値です。

胃がんで例えてみましょう。101人の末期がん患者さんがいたとします。そのなかで、生存期間が短い方から長い方まで順番に並べていき、ちょうど真ん中の51番目の患者さんの生存期間が、末期胃がんの生存期間中央値です。医師は、このデータに基づいて余命を予測します。

つまり、余命とは、ある特定の患者さんの寿命ではなく、あくまで特定の疾患にかかった患者さんにおける、生存期間の中央値でしかないのです。そのため、「余命6カ月」と宣告された場合でも何年も生きられる方もいます。

余命宣告には決まったルールがない

実は、余命宣告には学会などで決められたルールやガイドラインがありません。余命宣告は、個々の医療機関や医師の判断によって下されます。

そのため、余命宣告に際して参考にするデータも違うのです。先述した「生存期間中央値」を用いることが一般的ですが、これも必ず、このデータを使いなさいという決まりはありません。

ベテラン医師のなかには、自身の長い臨床経験を基に、大体の余命期間を伝える医師もいます。

余命宣告後に完治する人は少なくない

頑張ってつらい治療に耐えている最中に、信頼している医師から余命を告げられたときのショックは、非常に大きいものです。なかには、絶望してしまう方もいるでしょう。

しかし、告げられた余命宣告以上に長生きする方も多いどころか、完治する方も少なくありません。

なぜこういったことが起こるのでしょうか。

年単位で余命を予測することは不可能

医師が患者さんの余命を確実に予測することは困難です。特に、年単位での余命を正確に割り出すことは不可能といってよいでしょう。

たとえば、病名は同じ胃がんであっても、患者さんによって年齢も違いますし、もともとの体力も違います。さらに、持病の有無もまったく異なります。それらが違えば、当然、治療を行ったときの反応が異なります。

さらに、化学療法がどれくらい利くかも患者さんによって千差万別です。

こうしたさまざまな要素があるため、年単位で患者さんの余命を予測することは不可能なのです。宣告された余命より短い期間で亡くなってしまう患者さんもいる一方、年単位で生存したり、完治したりといった患者さんも少なくありません。

医師の余命宣告が当たらないという研究結果

実は、「医師の余命宣告が当たらない」という興味深い研究結果も出ています。

日本の国立がん研究所による研究で、「Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies?(腫瘍学者は、標準的な化学療法後の進行性疾患の患者の生存を予測できますか?)」というタイトルの論文で研究結果が発表されています。

標準治療を終えた75人のがん患者と14人の医師を対象に、医師の余命宣告が当たるかどうかを調べたものです。この研究では、誤差が予測期間の3分の1以内であれば「当たった」としています。つまり、余命予測が300日だった場合、患者さんが「200日から400日」の間に亡くなった場合、当たったとみなされます。

当たりとする期間が広く設けられていることから、ほぼ当たるのではないかと多くの関係者は思っていたそうです。しかし、ふたを開けてみれば、当たったのはわずか36%だったという驚きの結果が出ました。

余命宣告を受けたあとに準備しておくこと

余命宣告は当たらないとお伝えしましたが、残念ながら当たってしまう方も少なからずいることは事実です。さらに、宣告された余命より長く生きた方でも亡くなってしまう方もいます。

そこで、余命宣告を受けたあとにどうすればよいのか、患者さんが準備してくことについてみていきましょう。

保険会社との契約を確認する

まずは、患者さん本人の保険会社との契約を確認しましょう。保険会社の保険商品のなかには、「余命〇カ月」と宣告されたときに、死亡保険金の一部を存命中に受け取れる商品があるからです。

患者さんのQOL(生活の質)を落とさないことを主眼に置いた施設に、緩和ケア施設があります。QOLを最期まで維持することを目指し、身体的・精神的な苦痛を和らげることを中心とした治療が行われます。

終末期の患者さんのなかには、緩和ケア施設への転院を希望する患者さんも少なくありません。死亡保険金の一部を存命中に受け取れれば、その費用にあてることもできますし、先進的な治療の費用にあてることもできます。

相続の準備をする

相続の準備もしましょう。「亡くなる前から相続の準備なんて縁起でもない」と思う方もいるでしょうが、本人はもちろん家族にとっても相続は非常に重要なものです。

十分な準備ができなかったために、本人が亡くなったあと、家族間で相続を巡ってトラブルが発生してしまった。このような話は決してめずらしい話ではありません。

葬儀の準備をする

患者さんによっては、「どのような葬儀にしたい」と希望している方もいるでしょう。元気なうちにお世話になった人にあいさつしたいと、生前葬を希望する方も少なくありません。患者さん本人に葬儀に関する希望を聞き、少しずつ準備を進めていきましょう。

まとめ

がんと宣告され、一生懸命闘病している最中に医師から突然「余命〇カ月です」と余命宣告を受けたら、誰でも大きなショックを受けてしまいます。患者さん本人のショックも大きいでしょうし、ご家族のショックも大きいでしょう。

しかし、余命宣告に用いられるデータはあくまで、その病気にかかった方の生存期間の中央値でしかありません。余命宣告を受けたあとに、病気が完治したという方は数えきれないほどいます。

そもそも、医師のなかには患者さんの余命を割り出すことは不可能という医師や、患者さんに余命宣告をしても意味がないと考えている医師も少なくないのです。

余命宣告を受けたからといって、決して絶望する必要はありません。

また、ご家族は話し合ってどのような最期を迎えたいのか考え、どのように治療を進めていくべきか医師とよく相談して下さい。

1.がん診療、余命宣告は当たらない!?ー現場の医師は余命を聞かれたらこう伝える
https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/youtube_clinic/08/
2.福岡同仁クリニック「がんの余命宣告って、信頼できるの?」
https://dojin.clinic/column/3151/
3.Minds ガイドラインライブラリ「胃がん治療ガイドラインの解説 胃がんの治療を理解しようとするすべての方のために」一般用2004年12月改訂
https://minds.jcqhc.or.jp/n/pub/1/pub0023/G0000099/0035
4.よりそうお葬式「家族が余命宣告されたらするべき準備と心構え」
https://www.yoriso.com/sogi/article/yomeisenkoku/
5.がんの「余命宣告」の正しい意味を知っていますか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55616
6.Can oncologists predict survival for patients with progressive disease after standard chemotherapies?
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24764697/#:~:text=The%20factors%20affecting%20the%20accuracy,all%20patients%20in%20this%20study.
7.北のお葬式ブログ 余命宣告を受けた家族が行うべき準備や対応とは?心構えもご紹介
https://sohshiki.jp/blog/948-2/

成田 亜希子

医師|内科医・日本内科学会・日本感染症学会・日本公衆衛生学会・日本健康教育学会

2011年医師免許取得。一般内科医として幅広い疾患の患者様の診療を行っている。行政機関に勤務経験もあり、がん対策にも携わってきた。

プロフィール詳細

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