あまり聞きなれない治療方法だと思いますが、最近民間のクリニックなどで頻繁に行われている治療になるので、少し詳しく伝えたいと思います。
核酸医薬を行っているクリニックの医師なども、核酸医薬について詳しくない場合も多く、遺伝子治療という名前で行っている場合もあるので、そのあたりの違いなども伝えていければと思います。
核酸医薬といってもデコイやアンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマーなど種類がたくさんあるのですが、民間の自由診療で行われているのはRNA干渉(RNAi)という治療になります。
この記事でいう核酸医薬はすべてRNA干渉を使ったものという意味で使います。
目次
副作用のない分子標的療法
RNA干渉を使った治療は分子標的療法の1つになります。
ターゲットとするたんぱく質を決めてそれに対して働くお薬です。
従来のお薬は低分子化合物が中心でした。ただ最近は、サイラムザやオプジーボ、ヤーボイ、アバスチンといった抗がん剤で使われているような抗体医薬が多く使われています。
低分子化合物に比べて抗体医薬はがんに対する特異性が高く、最近の抗がん剤は抗体医薬によるものが多く保険承認されています。
ただ、低分子化合物や抗体医薬が生成されたたんぱく質に働きかける薬であるのに対して、核酸医薬であるRNA干渉は遺伝子レベルに働きかけてたんぱく質が出来る前に作用する薬になります。
なので、理論的には副作用がほとんどなく、効果の面でも従来のお薬に比べて期待出来る可能性が高いという夢の様な薬で今後中心的なものになっていくことが期待されています。
DNA、RNAとたんぱく質
DNAという名前を一度は聞いたことがあると思います。
DNAとは遺伝子の本体で、簡単に言うとたんぱく質を作る設計図になります。その設計図はすごく大切なもので、傷ついたりすると大変なので細胞の中の核という部分で厳重に守られています。
たんぱく質を作るときにDNAはその遺伝情報を一度RNAという物質にコピーします。そのコピーしたRNAの情報を元にたんぱく質を作ります。
たんぱく質には様々なものが存在します。
がんの成長を促すたんぱく質やがんの転移に関わるたんぱく質が存在する他、逆にがんを抑えるたんぱく質やがんを死滅に追い込むたんぱく質などが存在しています。
遺伝子治療と核酸医薬
遺伝子治療については別の記事で紹介しますが、がんを抑えたりがんを死滅に追い込むたんぱく質を作るDNAを外から補充する治療が遺伝子治療で、がんの成長を促すたんぱく質やがんの転移に関わるたんぱく質を阻害したり作らせない様にするのが抗体医薬やRNA干渉の様な核酸医薬ということになります。
遺伝子治療と核酸医薬はまったく逆の作用を持つ治療です。
副作用がない次世代医薬 RNA干渉を使った核酸医薬
仮にAというたんぱく質があったとします。
そのAというたんぱく質は凄く悪い物質で、がんの細胞分裂を早めたりします。がん細胞の細胞分裂が速いとがんの成長も早いということになります。
Aというたんぱく質に注目してがんの薬を作るとなると、当然そのAというたんぱく質を何とか抑える薬を作りたいという風になります。
従来の抗がん剤などで使われている低分子化合物や抗体医薬はそのたんぱく質を阻害したりすることで、がんの細胞分裂を抑えることを期待します。
がんは自分が成長する為にAというたんぱく質をいっぱい作ります。
その沢山存在するたんぱく質すべてに薬が作用することを期待するのは難しい話になります。
RNA干渉を使った核酸医薬は、そのたんぱく質が出来る前の設計図の段階で阻害する薬なので、上手に働くと高い効果が期待出来ます。
遺伝子レベルに働きかけてAというたんぱく質を作らせない様にすることを期待した薬になるので、当然従来の分子標的薬に比べて期待値は高いということになります。
かつ、遺伝子レベルに働きかけるので、副作用がほとんどない安全なものであるというのも凄く大きなメリットだと思います。
ターゲットとするたんぱく質によって効果が変わる
前述したがんの細胞分裂を促すたんぱく質AをRNA干渉で作らせない様にするとがんの成長を止める効果が期待出来ます。
がんの転移を促すたんぱく質をRNA干渉で作らせない様にするとがんの転移を抑える効果が期待できます。
がんの死滅を抑えるたんぱく質をRNA干渉で作らせない様にするとがんの死滅が期待できます。
ターゲットとするたんぱく質はその働きが多いほどその効果が期待できるということになります。なるべく多くの働きを持ち、かつなるべく重要な働きを持つたんぱく質をターゲットにした方が治療の効果が高い薬ということになります。
民間で使われているターゲットとしているたんぱく質としては、p28、CDC6、MDM2、CDK4、IL6、EZH2などが使われています。遺伝子がショートヘアピン型の形をしているので、MDM2shRNAなどと呼ばれる薬になります。
それぞれに期待される効果は違いますが、ターゲットとして良いものを選んでいると思います。特にp28については、もっとがん治療の主役となってもおかしくないたんぱく質だと思います。
核酸医薬の問題点
ここまで読むと魔法の薬の様に感じます。
実際、RNA干渉はノーベル賞を取ったほどの技術で、次世代医薬としての期待も高いです。
ただ、「薬ががん細胞にきちんと届けば」という話になります。
薬ががんに届けば必ず効く訳ですから、すべての薬がきちんとすべてのがんに届けば期待通りの効果になります。それは証明されているので問題はありません。
問題はどうやって薬をがんに届けるのかということにあります。
同じたんぱく質をターゲットにした核酸医薬が2種類あったとします。10の薬を体に入れたときにがん細胞に3届く薬と8届く薬の場合、8届く方が良く効く薬ということになります。
その薬をがんに届ける仕組みを持った運び屋のことをベクターといいます。
核酸医薬の効果はいかに優れたベクターを使うかということと使う量に左右されます。
がんに薬を届ける運び屋ベクター
世界中の学者がいかに優れたベクターを作るかに切磋琢磨しています。
沢山の種類のベクターが存在しています。
変わったものでいくと卵巣がんに薬を届けるのに男性の精子を利用するベクターというのも研究されていたりします。
ただ、やはり一番優れているのはウイルスを使ったものになります。
ウイルスの病気の元になる部分を切り取って、細胞の中に入り込む能力だけを使って効率的にがん細胞に薬を届けるという優れた仕組みです。
ただ、ウイルスを使う場合はカルタヘナ法という国際法に抵触する可能性があるので、ウイルスを自己増殖が出来ない状態まで加工し、ウイルスと呼べないレベルのものを使います。
そのウイルスにも海外の一部の国の遺伝子治療で認可されたアデノウイルスであったり、レトロウイルスやレンチウイルスなどさまざまなウイルスが使われていますが、最近はレンチウイルスが一番優れているという評価で落ち着いており、国内の民間のがんの自由診療でもレンチウイルスのものが使われているところが多くあります。
そのレンチウイルスも第1世代から第4世代のものまであり、効果もさまざまということになります。
ウイルスを使わないベクターも数多く存在し、微小胞(マイクロベジクル)を使ったものや、リポソーム化したものなどがありますが、ウイルスを使ったものに比べて明らかにまだまだ劣っている技術という評価が一般的です。
このベクターはなかなか表には出てこない技術なので注意が必要です。
例えばMDM2というたんぱく質をターゲットにした核酸医薬があったとします。
アデノウイルスベクターを使った核酸医薬もレンチウイルスベクターを使った核酸医薬もリポソームを使った核酸医薬もMDM2shRNAとなり、まったく治療効果が違うのに同じもののように感じます。
そのあたりは注意が必要です。
量も問題
薬ががんに届けば必ず効くというのは前述しました。仮に優れたベクターが存在して、投与した薬がすべてがん細胞に届くと仮定したとします。
それですべてのがん細胞に期待した効果が出るのかというとそんなことはありません。
投与した薬の量も問題となります。
がん細胞が1000億個存在したときに100億個殺せる核酸医薬を投与しとしても、たいして効かなかったということになります。
投与した薬はがん細胞の表面には届くのですが、深部に届きにくいのも問題です。
なので、何回かに分けて投与せざるを得ないのですが、大きながん相手だと、死滅させるがんの数よりも成長して増えてくるがんの方が多くなるということもあり得ます。
なので、比較的大きながんにはなかなか効果が目に見えて出にくいということになります。
(薬が効いたとしてもがんが小さくならないかもしれないということ)
核酸医薬を受けるには
現状、核酸医薬はがん以外では保険認可されているものもあるみたいですが、がんではまだ保険認可されているものはありません。
なので、保険以外の治療ということになります。
保険診療を行っている大きな病院は基本保険以外の治療は行ってくれないので、こういった治療を受けるとなると主治医に相談しても無理な話になります。
(他の保険外の治療においても同じです)
保険以外の専門のクリニックに全国にいくつか行っているクリニックがあるので、そういったところに連絡をしていくということになります。
費用は薬の量と回数に依存しますが、遺伝子治療と組み合わせてだいたい80~300万円くらいが多いと思います。
治療を受ける際の参考にしてもらえればと思います。