このページをご覧の方の中には、手術や抗がん剤などの治療を終えたばかりという方がいらっしゃると思います。しかし、主治医からは今後も定期的に検査を続けるよう言われていらっしゃいませんか。やっと辛い治療を終えてがんから解放されるはずだったのに、というお気持ちかもしれません。
この記事をお読みになれば、なぜ検査をしなければならないのか、どうなったら完治なのか、いつまで続ければ安心なのかお分かりいただけると思います。この記事が皆様の不安と疑問を解決する一助となることを願っています。
目次
がん治療の目的
がんが治ったというのはどういうことか
がん治療の目的は当然がんを治すことです。がんが治るとは、がん細胞が体内から全てなくなった状態です。手術・放射線・抗がん剤という3種類の治療を効果的に使い分け、あるいは組み合わせてがんを根絶やしにし、完治を目指します。しかし、現在がんになった人の2人に1人は再発すると言われています。この「再発」が非常にやっかいで、がんが命にかかわる病気であることの所以なのです。
がんは広がったり大きくなったりする性質があるので、がんが見つかったタイミングでどこまで進んでいるかを表すステージというものが定められていて、基本的に1~4の4段階に分かれています。ステージ1だったら手術、2だったら手術と抗がん剤…などステージによって治療法が異なります。
ステージが上がれば上がるほど再発率が高いこともわかっているので治療は念入りにしておかなければなりません。それゆえ、ステージが上がればより大きな手術や治療の併用が必要になります。
このように、がん治療は今見えているがんをなくすことに加えていかに再発を防ぐかを念頭に組み立てられています。基本となる治療の特徴を見ていきましょう。
再発予防という点からみた各治療
各治療はそれぞれ再発予防の方法に特徴があります。
手術
がんを物理的に取り去る治療。がんを取り切るということに関して1番効果が高いと考えられています。
早期がんでは、手術だけで治療が終了する場合もあります。手術範囲外に小さながんが広がっている場合、それらが再発の原因となるので予防のため少し広めに切除したりリンパ節などを郭清したりします。
※郭清:がんが広がっている可能性のある部分(リンパ節など)を予防的に切除すること。がんの発生した部位によって転移の起こりやすいリンパ節はわかっておりそれらを所属リンパ節という。
放射線
がんに放射線をあてて小さくする治療。手術のように臓器を切除しないので臓器を残せることがメリットです。がんによって放射線の治療効果は異なります。再発予防のために手術とのセットで行い、手術で取り切れなかった可能性のある部位を放射線で念押しすることがあります。
抗がん剤
薬による治療です。薬が血流にのって全身を回るので、複数個所にあるがんにも効果があります。手術や放射線と組み合わせることで再発予防を狙います。
がんと診断されたときに既に転移が確認されている場合は抗がん剤だけで治療することが一般的ですが、抗がん剤のみでがんが消えることは難しいため、転移がんの場合は再発予防という概念は基本的にありません。
再発とは
なぜ再発するのか?
各治療の特徴を見ていただいたあとで、そもそもなぜがんは再発するのかお話ししたいと思います。
CTやレントゲンなどの写真を見て主治医から「これががんですよ」などと言われた方も多いと思います。がんというのは「がん細胞」という細胞の塊です。がん細胞は非常に小さく、一つが100分の1ミリ程度です。しかし、写真に写してわかるがんの大きさはせいぜい5㎜から1㎝以上であり、それ以下のがんは検査で確認することができません。そのため手術や放射線を行ったあとも、無治療のまま放置されることになります。治療終了後、放置されたがんが体内で成長し続け、検査で見つかる大きさにまでなったときに「再発」と言われるのです。
このように考えると、再発という言葉はとても紛らわしい言葉だと思います。がんが一度なくなり、その後また発生したかのような印象ですが、がんは一度も体から消えていません。最初にがんと診断された時点でステージ4、いわゆる転移がんだったのです。
再発率というのはがんの種類、ステージ、悪性度によって異なりますが、全て合わせておよそ2人に1人が再発しているとされています。
見えているがんだけでは不十分
がんは早期がんと言われる状態でも転移する可能性がありますが、大きかったり、臓器の深くまで進行している場合のほうが転移している可能性が高くなります。それゆえ先ほどもご説明したようにステージが高いほうが再発の可能性が高くなりますので、より再発予防に力を入れた治療をする必要があります。
大腸がんを例に挙げると…
ステージ1
内視鏡手術→がんだけ取ってくる
ステージ2
開腹手術→がんだけでなく大腸も一緒に切除する必要がある
ステージ3
開腹手術+抗がん剤→がんと大腸を切除し、さらに再発予防の抗がん剤
ステージ4
抗がん剤→大腸以外の臓器に転移しているため、手術不可。抗がん剤で複数にわたるがんを小さくする。(手術で取り切れる部位の転移なら手術することも)
これは、ごく単純にまとめたものですので例外もありますが、ステージが上がるほど念入りに再発予防をしていることがわかります。例えばステージ2はステージ1よりもがんが腸の深部まで進行している状態です。がんだけを取り除く内視鏡では不十分ですので大腸も一緒に切除する開腹手術が必要となるのです。
このように、今見えているがんをなくすことだけでなく、再発を防ぐ処置まで行うことががん治療の基本的な考え方となっています。
治療後も医師とつきあう
再発予防まですることが一連の治療だということがお分かりいただけたと思いますが、これらの治療を行ってもおよそ2人に1人が再発するという厳しい現状があります。
そこで、治療がいったん終了したあとも一定期間検査をすることが一般的です。これを「経過観察」とよんでいます。
経過観察は再発を早期に発見することができるためとても重要です。再発が起こっても再度手術することができ、完治を目指せる可能性がありますし、放射線や抗がん剤で生存期間をより長くすることができるからです。では、経過観察では具体的にどのようなことをするのでしょうか。
例として再度大腸がんの経過観察を挙げます。
- 問診・診察・血液検査(腫瘍マーカー
- 治療後、3年間は3か月ごと、それ以降5年目までは6か月ごとに実施。
- 胸部CT・腹部CT・骨盤CT(直腸がん)
- 治療後5年間は6か月ごとに実施。
- 大腸内視鏡検査
- 治療後5年間は1~2年ごとに実施。
- 直腸診(直腸がん)
- 治療後3年間は6か月ごとに実施。
これは大腸がんの例ですが、どのがんでもこのように、がんが発生した部位を中心に転移しやすい場所の画像検査や血液検査などが行われるのが一般的です。
見えているがんを取り除いたわけですから当然画像検査をしても何も写りませんし、がんが出す物質を感知する腫瘍マーカーも異常値は出ません。しかし、経過観察を怠ると再発の兆候があったときに発見が遅れ、有効的に治療を受けるタイミングを逃してしまうかもしれません。検査の種類や間隔はステージや患者さんの状態によって多少異なりますので、医師の指示に従って定められた期間きちんと受けることが大切です。
がんはいつ治るのか
検査はいつまで続けるの?
大腸がんの例を見ていただくとわかるように、経過観察は5年を目安に終了します。なぜ5年なのかというと、がんの再発率は治療後5年を境に減少するため、「5年を完治の目安」として設定しそれ以降は検査をする必要がないと考えられているからです。
しかし、この一般的な5年という期間はがんの種類やがん細胞の悪性度で異なることがあります。医師はこれまでの統計データと各患者さんの状態を基に経過観察の指示を出しますので、繰り返しになりますが、その期間中は定期的に検査を受け医師の管理のもとでチェックしてもらうことが大切です。
再発したらどうなるか
なぜ、これほど再発を予防するのでしょうか。それは再発に対する治療は初回の治療よりも圧倒的に困難になるからです。
手術、放射線、抗がん剤でも残ってしまったがんが再発の火種になるとご説明しましたが、このがん細胞は転移、浸潤しやすく、薬剤にも負けない強いがんであります。
さらに、再発した場所が手術できる場所であれば手術を検討しますが、手術ができない場所であれば、抗がん剤しか治療の手段がないことが多く、治療は非常に困難です。ゆえに、再発時には治療目的が完治からがんとの共存、延命、緩和治療へとシフトします。再発の診断と同時に余命宣告されることもあります。それだけ再発がんは難治性が高いので、できる限り再発を防ぎ、再発となった場合でもなるべく戦える武器が多いタイミングでがんを叩く必要があるのです。
再発しないためにできること
日常生活とがん予防
苦しい治療を終え、現在、経過観察中の方は多いと思います。再発するかもしれないと用心しながら生活することはがんの予防につながります。
日本対がん協会ががんを防ぐ12か条というものを提唱しています。
日本対がん協会ホームページ
これによるとたばこ、お酒を避け適度な運動を心がけることが大切だとわかります。
また、「肥満」もがんのもととなります。
重度の肥満の人の肝臓、すい臓、胆のう、大腸、胃などのがんの発生リスクは肥満でない人と比較して極端に高いことが知られています。ですので食生活の面でも気を付ける必要があります。
一度がんになると、健康な人よりがんになりやすいと言えます。ですので、経過観察中、あるいはその後もご自身でできる再発防止策として日常的に健康な生活を心がけることが大事です。
おわりに
がんは5年以上経過しないと完治と言えません。
がんとの闘いは長期戦です。この間に再発を心配しない方はいないと思います。少しでも体のどこかが痛い、体調が優れないということがあれば、すぐにでも「再発」という言葉が頭をよぎるのではないでしょうか。
万が一再発ということになっても、速やかに治療を行えるよう経過観察では様々な検査を行いますが、再発するかもしれないという恐怖はその状況に置かれた人でないとわからないと思います。きっとこの記事をお読みの方の中にもそんな孤独や恐怖と闘っている方がいらっしゃると思います。
経過観察で病院に行くときは、その気持ちをプロである医療従事者に話してみると良いと思います。主治医に話せるようであれば主治医に、看護師に、あるいは相談室のケースワーカーに。話すことで不安と恐怖から少しでも開放されれば、単純に再発の早期発見という以外に、定期的に病院に通うことが意味のあることになると思います。
また生活習慣の改善はご自身でもできることです。できることを少しでも取り入れることで前向きに生活できると思い、そのような点もこの記事でご紹介しました。がんとの長い闘いの中でご自身が少しでも明るく前向きになれることを試してみてください。