GIST(消化管間質腫瘍)は、分子標的治療が大きな成功を収めたがんの一つです。
特にKIT変異を標的としたTKI(チロシンキナーゼ阻害薬)は、多くの患者さんで長期間、病勢を抑えることに成功してきました。
しかし治療を続ける中で立ちはだかるのが、「TKI耐性」です。
効いていたTKIが、次第に効かなくなってくる状態のことです。
近年では、KIT以外を標的とした新しい考え方も注目されるようになってきました。
今回は、TKI耐性GISTの本質と、その先に見えてくる治療戦略について整理してみます。
目次
GISTはKITに依存して増えるがん
GISTの多くでは、
・KIT
・PDGFRA
という遺伝子に異常があり、腫瘍細胞が増殖を続けています。
本来なら必要な時だけONになる増殖スイッチが、変異によって常にONになっている状態です。
そこで登場したのがTKIです。
日本で保険が使えるのは、次の4剤です。
1次治療:イマチニブ(グリベック)
2次治療:スニチニブ(スーテント)
3次治療:レゴラフェニブ(スチバーガ)
4次治療:ピミテスピブ(ジェセリ)
このうちTKIは、最初の3剤。
4次治療のピミテスピブは、少し違う考え方の薬です。
海外ではもう1剤、リプレチニブ(QINLOCK)が2020年から使われています。
日本では長く使えない薬でしたが、2026年3月に承認申請されました。掲載時点では、まだ未承認です。
レゴラフェニブとリプレチニブの違い
レゴラフェニブ
レゴラフェニブは「マルチキナーゼ阻害薬」です。
KITだけでなく、
・VEGFR
・RAF
・FGFR
なども阻害し、腫瘍本体だけでなく血管新生も抑えます。
いわば、“広く浅く叩く薬”と言えます。
リプレチニブ
一方、リプレチニブはKITとPDGFRAを狙い撃ちする薬です。
特に特徴的なのは、「KITの“活性化スイッチ”そのものを固定する」ように働く点です。
だから「スイッチコントロール阻害薬」と呼ばれます。
これにより、
・初期の変異
・耐性の原因になる変異
の両方を幅広く抑えることを目指して設計されました。
ただし前述の通り、日本ではまだ使えません。
TKI耐性とは何か
ここは非常に重要なポイントです。
TKI耐性とは、
「KITが無くなった」
わけではありません。
多くの場合は、
「KITが変化して、薬が効きにくくなった状態」
です。
なぜ耐性が起こるのか
最も多いのは「二次変異」です。
治療中にKITがさらに変化し、
・薬が結合できない
・薬が効きにくい構造になる
ことで耐性が生じます。
特に、
・exon13
・exon14
・exon17
・exon18
などの変異が知られています。
さらに進行すると起こること
標準の薬を一通り使った段階では、腫瘍はさらに複雑化している可能性があります。
ここで重要なのが、
「KIT非依存化」
です。
つまり、
・KITは残っていても
・腫瘍がKITだけに頼らなくなる
KIT以外の道筋で、がんが進行する状態です。
KITというタンパク質そのものが、消えてしまうこともあります。
PI3K/AKT/mTOR経路とは
ISTでは、KITの下流に
KIT
↓
PI3K
↓
AKT
↓
mTOR
という増殖シグナルが存在しています。
変異したKITは、この経路を再び動かすことで、腫瘍を支えていると考えられています。
そのため、TKI耐性後には、
PI3K/AKT/mTOR経路が重要化する
と考えられています。
mTOR阻害という考え方
KITの下流でmTORが増殖に関わっているのなら、mTORを阻害すればいいのではないか。
そう考えるのは、自然な流れです。
実際、
・エベロリムス
・シロリムスなどのmTOR阻害薬は、研究されてきました。
ただし日本では、GISTに対する効能・効果は承認されていません。
エベロリムス(アフィニトール)は腎細胞がんや神経内分泌腫瘍で使われている薬なので、薬そのものは国内にあります。GISTに使えば適応外となり、通常は保険の対象外です。
イマチニブとエベロリムスを併用する試験は、2010年に報告されています。
ただ、その後、大規模な試験には進んでいません。
理屈は通るのに、臨床の裏づけは10年以上止まったまま、というのが現状です。
もう一つ、押さえておきたいことがあります。
mTORを狙う理屈が成り立つのは、KITが残っていて、その下流でmTORが動いている段階です。
腫瘍が本当にKIT非依存化した段階では、増殖を動かしているのはmTORとは限りません。
「TKIが効かなくなったから、次はmTOR」
と単純につなげられる話ではない、ということになります。
どういった治療になるか
TKI耐性になると保険診療ではどうしても治療方法が無いということに近づいてきます。
そうすると自由診療も視野に入れて考えるということになります。
候補としてはいくつかありますが、mTOR阻害の核酸医薬(RNAi)などは理論上注目されるアプローチの一つになります。
一部の自由診療で行われている核酸医薬と呼ばれる薬のうち、mTORを阻害するものになります。点滴で複数回治療することが1クールになっていることが多いみたいです。
もしmTORを十分に阻害することが出来れば、一定の効果が期待出来る可能性はあります。
しかし、がん細胞は非常に適応力が高く、仮にmTOR経路を抑制出来たとしても、別の増殖経路を活性化させることで“逃げ道”を作ることがあります。
そのため、mTOR阻害単独では決定打になりにくいという課題もあります。
がん光免疫療法という別軸
もう一つ、まったく別の方向から考えてみます。
がん光免疫療法です。
ここまで見てきた治療は、すべて「分子を狙う」治療でした。
腫瘍が変化すれば、狙う分子も変えなければならない。
追いかける限り、追いかけられ続けます。
ここに、KIT耐性GISTの構造的な難しさがあります。
では、分子を狙うのをやめたらどうか。
光免疫療法は、光に反応する薬剤を腫瘍に集めた上で光を当て、がん細胞を壊す治療です。
自由診療で行われているがん光免疫療法は保険で認可されているものとは違いますが、最近HEMIN含有IR780リポソームを使ったものなど効果が期待出来そうなものも出て来ています。
KIT耐性後の腫瘍は別経路を叩く治療に限界があることが考えられるので、KIT依存性とは全く別方向から腫瘍へアプローチする考え方です。
免疫細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤はどうか
自由診療では樹状細胞(DC)療法、NKT細胞療法、NK細胞療法の様な免疫細胞療法やオプジーボなどのチェックポイント阻害剤の減量投与などを行っているクリニックも多くあります。
ただ、GISTは一般的に
• 肺がん
• 悪性黒色腫
• MSI-high大腸がん
ほどは、「免疫が強く働く腫瘍」ではありません。
免疫チェックポイント阻害薬は、 “異物感”が強い腫瘍ほど効きやすい薬です。
GISTは比較的、mutation burden(変異量)が少なめです。
また、GISTは
• M2マクロファージ
• Treg
• 免疫抑制性サイトカイン
が強いことが多く、免疫抑制環境が強いので免疫がそもそも効きにくいがん種になります。
単独の治療では厳しいことが予想されますが、組み合わせで使うと効果が期待出来る可能性はあります。
・がん光免疫療法+PD-L1阻害(アプタマーや免疫チャックポイント阻害剤)
・がん光免疫療法+樹状細胞療法
などは理論的には面白い組み合わせになると考えられると思います。
まとめ
GISTのTKI耐性とは、
「KITが消えた」
のではなく、
「KITが変化し、薬が効きにくくなった状態」
であることが多いです。
さらに進行すると、一部の腫瘍はKIT依存性そのものを失い、
• PI3K/AKT/mTOR
• MAPK
• 代謝経路
など、別の生存経路を使うようになります。
そのため、TKI耐性後のGISTでは、
• mTOR経路
• がん光免疫療法
など、“KITとは別軸”の治療戦略が今後さらに重要になっていく可能性があります。
もちろん、これらの治療の多くは、まだ標準治療として確立されたものではありません。
しかし、TKI耐性GISTという難治状態に対し、「KIT以外をどう狙うか」という視点は、今後ますます重要になっていく可能性があります。
GIST治療は今、「KITを止める時代」から、「進化する腫瘍にどう対応するか」という新しい段階に入りつつあるのかもしれません。
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・大鵬薬品工業「HSP90阻害剤 ジェセリ錠 40mg(ピミテスピブ)GISTに対する製造販売承認取得のお知らせ」2022年6月20日
・小野薬品工業「進行性の消化管間質腫瘍(GIST)に対する治療薬 ripretinib(DCC-2618)の国内での承認申請」2026年3月26日














