甘いものを食べ過ぎるとがんになる?糖とがんの本当の関係とは

甘いものを食べ過ぎるとがんになる?糖とがんの本当の関係とは

甘いものは体に悪い――。

特に甘いもの好き方に耳が痛い、こういった話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。確かに甘いものの食べ過ぎは肥満につながり、肥満はがんや糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めることが明らかになっています。それでは、甘いものを食べ過ぎなければどうなのでしょうか。甘いものは少量でも体に悪いものなのでしょうか。

本記事では、がんとの因果関係を含めて甘いものの健康リスクについて詳しく解説します。

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目次

糖分とがんの関係

甘いものは少しの量でも体に毒なのでしょうか。まずは、「甘いもの=糖分」とがんの関係について見ていきましょう。

糖分=体に悪いというわけではない

結論から言えば、糖分が体に悪いというわけではありません。むしろ、体にとって適量の糖分は不可欠であり、糖分が不足すると集中力の低下、筋肉量の低下などが起こります。

また、意外なことかもしれませんが、糖分が不足すると逆に太りやすくなってしまいます。

肉体の活動のエネルギーのもとになる糖を作り出すために筋肉が分解され、筋肉量が減ることによって基礎代謝が低下するからです。糖分不足による体の不調の原因の一つとして、エネルギー供給に不可欠なブドウ糖にあります。

ブドウ糖の役割

私たちの最も身近な糖類といえば、料理やお菓子作り、コーヒーなどさまざまな場面で用いられるテーブルシュガーがあります。

テーブルシュガーの正式名称はショ糖であり、ブドウ糖と果糖の結晶から成り立っています。ブドウ糖は、脳と筋肉のエネルギー源です。ブドウ糖を摂取することにより、脳が活性化し集中力や記憶力も高まるとされています。また、に、筋肉を正常に動かすためにもブドウ糖の摂取は欠かせません。

そのため、ブドウ糖が不足してしまうと、集中力の低下や筋肉量の低下といった症状が見られます。このようなことから、糖分不足は体に良くない影響を与えるということがわかるでしょう。

「糖質はがんのエサ」に科学的根拠なし

がんと糖分の関係をインターネットなどで検索していると、「糖質はがんのエサ」という警告とも取れるような文言を見かけたこともあるでしょう。しかし、この文言には科学的な根拠がありません。

がん細胞のエネルギー源がブドウ糖であることから、このような文言が拡散されているかもしれません。しかし、糖分を摂取するとがん細胞の増殖スピードが速くなるという事実(情報)は確認されていません。また、糖質を制限することでがん細胞の増殖スピードが遅くなるということも証明されていません。

甘いものはいくらでも食べていい?

糖分は体の健康に必要不可欠なものであって、「がんのエサ」でもないことが分かりました。

しかし、それが甘いものを好きなだけ食べて良いということではありません。大切なことは適量を摂取することです。

サウスカロライナ大学などが行った研究によると、砂糖入り飲料を1日1本飲むと、月に3本以下しか飲まない方と比べて、肝臓がんになる確率が73%も高いことが報告されました。1日1本以上飲む方に至っては、78%も高くなるという結果が出ています。

糖分の摂り過ぎが、がんの発症リスクを高めてしまうことがこの研究から明らかになりました。とはいえ、糖分を断つのも健康上の問題があります。糖分はどれくらいを目安に摂取すればいいのでしょうか。

世界保健機関(WHO)のガイドライン「成人及び児童の糖類摂取量」では、エネルギー総摂取量の10%未満に減らすよう推奨されています。さらに、エネルギー総摂取量の5%まで減らすと健康効果は増大すると言います。エネルギー総摂取量の5%は、砂糖25g(ティースプーン6杯分)ほどです(※1)

がんの予防効果が期待できる甘いもの

近年の研究結果で適量であればがんの予防効果が期待できる甘い食品が明らかになりつつあります。がん予防効果が期待できる甘いものは以下の3つです。

黒糖

鹿児島大学が実施した、奄美群島の住民5,004人(男性2,057人、女性2,947人)の住民を13~14年にわたって追跡した調査によると、黒糖をおやつなどとして1日1回以上食べる方は、あまり食べていない方と比べると、全てのがんの罹患リスクが40%も低いことが報告されました。

部位別に見てみると、胃がんが約70%減、大腸がんが30%減、肺がんが約60%減、乳がんが約50%減、前立腺がんが約10%減という結果でした。男女ともに胃がんのリスクが最も低下して点が大きな特徴です。現時点(※2024年12月時点)、この原因はまだ明らかになっていませんが、黒糖ががんの予防効果に影響を与えている可能性が考えられます。

参考:日本の奄美群島地域における黒糖摂取とがんリスク低下との関連性

チョコレート

チョコレートでもがん予防効果を示す研究結果が出ています。フィンランドで、1985 年から2015年まで追跡された、2万7,111人の男性を対象とした研究によると、最も多くチョコレートを食べていた方(1日平均12g)は、食べなかった方と比べるとがんによる死亡リスクが12%も低下していることが報告されました。

死亡リスクが低下したのはがんだけではありません。チョコレートを最も食べていた方たちは、食べなかった方たちと比較して、心血管疾患(狭心症、心筋梗塞、心不全など)で13%、心臓病全体で16%の死亡リスクの低下が見られました。

その一方で、高血糖の方は糖尿病による炎症に伴い、がんに罹患しやすくなるともいわれています。血糖値が心配な方は、一般的なチョコレートではなく、糖質が低いダークチョコレートがおすすめです。

参考:Relationship between chocolate consumption and overall and cause-specific mortality, systematic review and updated meta-analysis

フルーツ(アサイー)

フルーツに豊富に含まれているビタミンやミネラルは、がんの予防効果が期待されています。世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究財団(AICR)が発表した報告書によると、肺がん、胃がん、食道がん、口腔・咽頭・喉頭がんのリスクが、フルーツを摂取することでほぼ確実低下するとも判明されました。

フルーツの中でも特に高いがん予防効果が期待されているのがアサイーです。アサイーとは、ブラジルアマゾン原産のヤシ科の植物に実る紫黒色の果実のことです。直径は約1~1.2cmで、ヨーグルトに混ぜたり、ミキサーにかけてスムージーにしたりして食べられています。

アサイーには、ビタミンやミネラルだけではなく、ポリフェノールや鉄分、カルシウムといったがん予防効果が期待できるさまざまな栄養素が含まれています。

適度に良質な糖分を摂ってがんを予防しよう

糖分は体に悪いというイメージを持っていた方も少なくありません。しかし、本記事でお伝えしたように糖分の摂取は体に悪いどころか、健康を維持するために必須のものです。糖分が不足してしまうと、集中力の低下や筋力の低下、太りやすくなるなどの良からぬ症状が現れてる可能性があります。

とはいえ、糖分を過剰に摂ってしまうと、内臓脂肪を伴う肥満の原因につながりやすいでしょう。肥満はがんの主要な発生因子の一つとされています。さらに、糖分の過剰摂取は、がんだけではなく、糖尿病や心疾患などの発症リスクを高める可能性があることも事実です。

大切なのは適度に糖分を摂取することです。

WHOは糖分の量を1日のエネルギー総摂取量の5%以下まで減らすことが望ましいと述べていますが、甘いもの好きな方からすると非常にハードルが高い数字です。まずは、推奨されているエネルギー総摂取量の10%未満に糖分の量を減らすことから始めてみてはいかがでしょうか。

(※1)WHO|Guideline: sugars intake for adults and children

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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