ストレスが溜まると頭痛や肩こり、下痢、胃・十二指腸潰瘍や円形脱毛症などの病気が発生することもあります。また、ストレスはうつ病や不安障害、認知症、統合失調症などの精神疾患を引き起こす要因とも考えられています。
このように、過剰なストレスが身体や心の不調の原因になることは多くの方が何となく知っているのではないでしょうか。それでは、ストレスはがんの発生リスクを高めてしまうのでしょうか。本記事では、ストレスとがんの関係について詳しく解説します。
目次
そもそもストレスとは
日常的にストレスという言葉はよく使われています。例えば、「最近、ストレスが溜まっている」「カラオケに行ってストレス発散しよう」など、さまざまな場面でストレスという言葉は使われています。
ストレスとは、もともと物理学の分野で使われていた言葉であり、外から受ける圧力で物体に歪みが生じる状態を意味していました。それが転じて、医学的や心理学的な意味では外部からの刺激に対する身体や心の反応のことを「ストレス反応」と呼ぶようになりました。
主なストレッサー
ストレスを生じさせる原因となる物事をストレッサーと呼びます。心身に影響を及ぼす主なストレッサーには、物理的ストレッサー、化学的ストレッサー、心理・社会的ストレッサーがあります。詳細については次のとおりです。
物理的ストレッサー
物理的な環境刺激によるストレス要因です。例えば、騒音、暑すぎたり寒すぎたりする室温、明るすぎたり暗すぎたりする照明などが物理的ストレッサーとしてあげられます。
化学的ストレッサー
化学物質が原因となるストレス要因です。タバコの煙、刺激の強い臭いがする食材、石綿(アスベスト)や鉛、有機溶剤などが化学的ストレッサーにあたります。
心理・社会的ストレッサー
社会生活や人間関係に起因するストレス要因です。一般に「ストレス」という場合は、心理・社会的ストレッサーを指していることが多くなります。
ストレスを感じやすい場面
それでは人はどのような場面で強いストレスを感じやすいのでしょうか。
厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレス、悩みと感じる事柄がある労働者の割合は53.3%に上りました(※1)。強いストレスを示す内容の上位3つは、「仕事の失敗、責任の発生等」が39.7%、「仕事の量」が39.4%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が29.6%という結果でした(※1)。
ストレスはがんの原因になる?

次に本記事のメインテーマであるストレスとがんの関係について詳しく見ていきましょう。強いストレスは心身に悪影響を及ぼすことは明らかになっていますが、ストレスはがんの発症要因となるのでしょうか。
がんの原因
がんの原因はさまざまですが、大きく分けると遺伝的要因と環境要因の2つです。
まず、遺伝的要因は親から受け継がれた、その人の持つ遺伝的ながんのなりやすさのことを指します。ほとんどのがんは遺伝しませんが、生まれながらにしてがんに関わる遺伝子の変化が生じると、次の世代にもその変化が遺伝する可能性もあるでしょう。その場合、そのタイプに当てはまる方はがんにかかりやすくなると言われています。
がんの発生リスクを高める環境要因は、以下の通りです。
- 喫煙
- 飲酒
- 肥満
- 発がん物質への曝露(ばくろ)(※芳香族アミン、アスベストなど)
感染症(※ピロリ菌、ヒトパピローマウイルス、B型/C型肝炎ウイルスなど) - 放射線曝露や紫外線曝露など
遺伝的要因や環境要因など多岐にわたる要因が絡み合ってがんが発生すると考えられていますが、現在のところ、ストレスががんの直接的な原因であるとする科学的根拠はありません。しかし、長期的なストレスは免疫機能を低下させるため、間接的にはがんのリスクが高まる可能性があると言われています。
ストレスが高いとがんの罹患率が高まるという研究結果も
前項では、ストレスが直接的ながんの原因であるとする科学的根拠はないと述べましたが、長期間にわたるストレスはがんの発生リスクを高めるという研究報告もあります。
国立がん研究センターがん対策研究所が行った多目的コホート研究(JPHC Study)によると、日常的に自覚するストレスの程度が低いグループと比べて、高いグループは全がん罹患リスクが11%も上昇しました(※2)。
ただし、現時点、ストレスががんの発生リスクを高めるかの科学的な裏付けはまだとれていません(※2025年1月時点)。
ストレスががんに与える影響のメカニズム
裏付けはまだとれていませんが、先述で紹介した研究によると、ストレスとがんの罹患リスクには関連がありそうな可能性は秘めています。なぜ、強いストレスががんの罹患リスクを高めるのでしょうか。
まず考えられるのが、活性酸素の影響です。心身に強いストレスがかかると、体内では活性酸素が発生します。この活性酸素が過剰になり遺伝子を傷つけることで、発がんを促進すると考えられているのです。
さらに、慢性的なストレスは身体の免疫力を下げることが分かっています。私たちの体では1日あたり6,000個ものがん細胞のもととなる異型細胞が産出されていると考えられています(※3)。
通常であれば、異型細胞は備わっている免疫機能によって死滅できますが、免疫力が低下するとこの機能がうまく働かなくなってしまいます。その結果、異型細胞を死滅させられず、がんの発生または進行が加速すると考えられているのです。
ストレスを溜めない生活とは

ストレスは、がんはもちろん、全ての心身の不調の原因となってしまうものです。心と身体の健康のために、できるだけストレスを溜めない生活を心がけましょう。では、どのような生活を心がければストレスが溜まりにくくなるのでしょうか。
睡眠をしっかりとる
ストレスを溜めないためには十分な睡眠をとることが重要です。睡眠不足が続くと疲労が蓄積され、ストレス耐性が低下します。自律神経やホルモンのバランスが崩れ、心身に不調をきたすことも考えられるでしょう。
なお、就寝前のお酒やカフェインは睡眠の質を下げてしまうため、摂取を避けましょう。また、スマートフォンの使用も入眠の妨げになってしまいます。
適度な運動をする
運動もストレス解消の有効な手段です。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」では、運動といった身体活動が生活習慣病を予防するとともにストレス解消につながるとしています。ストレス緩和でおすすめなのがウォーキングやジョギングといった有酸素運動です。運動の強度は、身体が温まり、軽く汗ばむ程度でも十分です。
湯船につかる
普段はシャワーだけという方もストレスがある場合には湯船につかるようにしましょう。湯船につかることで全身の血行が良くなり、疲労回復の効果が期待できます。湯船の温度は38度から41度の間に調整しましょう。
42度以上の設定をすると交感神経が刺激されて血圧が上昇し、心臓や血管に大きな負担がかかってしまいます。よく眠れるように就寝の2時間から3時間前までには入浴を済ませておきましょう(※4)。
甘いものを少しだけ食べる
甘いものを食べると、心の安定や安心感をもたらす神経伝達物質であるセロトニンが脳内で合成され、精神を安定させる効果があると言われています。
ただし、食べるのは少量にとどめておきましょう。甘いものを食べすぎてしまうと、血糖値が乱高下するため、ストレスがかえって増加する可能性があります。
自分なりのストレス解消法を見つけてがんを予防しよう

ストレスが直接的にがんを発生させるという科学的根拠はありませんが、間接的にはがんの発生に関係していると言えるでしょう。さらに、ストレスはがんだけではなく、さまざまな心身の不調の原因につながります。そのため、自分に合ったストレス解消法を見つけ、ストレスの溜まらない生活を心がけましょう。
(※1)厚生労働省|令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
(※2)国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト|自覚的ストレスとがん罹患との関連について
(※3)公益社団法人日本生化学会 |がんに強いマウスを作る:がんの分子標的予防医学の開発に向けて
(※4)e-ヘルスネット(厚生労働省)|快眠と生活習慣
参照日:2025年1月