睡眠不足だとがんになりやすい?がんと睡眠の本当の関係

睡眠不足だとがんになりやすい?がんと睡眠の本当の関係

睡眠は生活習慣の一部であるとともに、健康の保持や増進のために欠かせないものです。いくらバランスの良い食生活をして、適度な運動を取り入れていても睡眠が乱れていては、健康を維持していくことは難しいでしょう。

睡眠が健康増進のために欠かせないものであるなら、睡眠はがんとどのように関係しているのでしょうか。睡眠不足だとがんにかかりやすくなってしまうのでしょうか。

この記事では、睡眠とがんの関係や不眠・過眠の原因、不眠・過眠の対策をお伝えします。

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目次

がんと睡眠は関係ある?

まずは、睡眠とがんの関係について見ていきましょう。
結論から言えば、睡眠とがんの発症リスクは大いに関係しています。

睡眠が長すぎても短すぎても発症リスクは増大

2万5,000人を対象にした大規模調査では、睡眠時間が6時間以下の人は7時間以上の人と比べると、がんの発症リスクが40%上昇することが報告されています。

また、デンマークの女性看護師を対象にした研究では、日勤だけの看護師よりも夜勤ありの看護師の方が乳がんの発症リスクが高まると明らかになりました。これを受けて、WHO(世界保健機関)は、夜勤のある仕事について、「発がんリスクが高まる」と正式に表明しています。

ただ、睡眠時間が長ければがんのリスクは低減するかと言えば、それは違います。

日本癌学会は、1日の睡眠時間を7時間未満、7~8時間、8~9時間、9時間以上の4群に分け、がんによる死亡率とがん以外の原因も含めた死亡率を比較しています。

この結果、がんのリスクが最小だったのは、睡眠時間が7~8時間のグループでした。それよりも長くても短くても、がんの発症リスクが増大しています。

ジャンクフードや運動不足よりも睡眠不足が危険

がんの発症リスクとしてよく知られるのが、食事や運動習慣です。例えば、栄養バランスが偏った、ジャンクフードのような食事や運動不足はがんの発症リスクと考えられています。しかし、ジャンクフードと運動不足、さらに睡眠不足をがんの発症リスクで比べた場合、最もがんのリスクが高まるのは睡眠不足です。

たとえ栄養バランスに気を遣って、がんの発症リスクを下げると言われている食事をとっていても、毎日適度な運動を長く続けていても、睡眠不足になってしまうとそうした努力は水の泡になってしまうわけです。

がんだけではない!睡眠不足がもたらす悪影響

睡眠不足がもたらす悪影響は、がんの発症リスクが上昇するだけにとどまりません。睡眠不足は脳の機能に深刻な影響をもたらし、うつや統合失調症、双極性障害といった精神疾患のリスクが増大してしまいます。さらに、糖尿病や冠動脈性疾患や脳卒中のリスクも増大すると報告されています。

不眠や過眠の原因

睡眠時間が長すぎても短すぎても、がんのリスクが増大してしまいます。1日7~8時間の睡眠が心身ともに健康を保つために重要ですが、眠ろうとしても眠れない、起きようとしても起きられないという人も少なくないでしょう。そういった方は、不眠症や過眠症かもしれません。

不眠症とは

不眠症とは、文字通り、眠れない状態が1カ月以上続く疾患です。寝入ることが難しい入眠障害、真夜中などに起きてしまう中途覚醒、予定していた起床時間より2時間以上早く目覚めてしまう早朝覚醒、しっかりと眠ったはずなのに眠れたという満足感の得られない熟眠障害などさまざまなタイプに分かれます。

厚生労働省の調査によると、日本人の5人に1人が「睡眠で休養がとれていない」、「何らかの不眠がある」と回答しています。特に、60歳以上は3人に1人が睡眠に関する何らかの問題で悩んでいると言います。

不眠症の原因

不眠症の原因は一つではありません。不眠症にはさまざまな原因があり、それぞれの原因によって対策も異なります。

不眠症の原因の一つは、ストレスです。ストレスや緊張は良質な睡眠を妨げます。また、高血圧や心臓病、呼吸器疾患、糖尿病、関節リウマチ(痛み)、アレルギー疾患(かゆみ)といった身体的な疾患も不眠症の原因となります。

さらに、うつ病など精神的な疾患の多くは、不眠も伴います。早朝覚醒で、なおかつ朝は無気力なのに夕方にかけて元気になるという方は、単なる不眠ではなくうつ病の可能性もあります。早めに専門医を受診してください。

過眠症とは

過眠症とは、不眠症とは反対に、本来起きていなければならない時間に強い眠気が出現し居眠りをしてしまう、あるいは、夜間の睡眠時間が長くなりすぎてしまう状態を指します。運転中に事故などを起こしてしまうリスクもあるため、早期に専門医を受診する必要があります。

過眠症の原因

睡眠不足やアルコール、カフェインなどの摂取といった日常生活上の問題から、花粉症、脳血管疾患、頭部外傷などの身体疾患、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群といった疾患、ナルコレプシー、特発性過眠症といった中枢性過眠症という疾患まで、過眠症の原因はさまざまです。

不眠や過眠の対策

がんの原因にもなりうる、不眠や過眠。誰しも、質の良い睡眠をとりたいものですが、どのように対策していったら良いのでしょうか。

生活習慣を改善する

睡眠障害の多くは、生活習慣が原因となっています。例えば、休みの日だからと言って、お昼過ぎまで眠っていると、その日の夜は寝つけなくなってしまいます。できるだけ毎日同じ時刻に起床し、早寝早起きを心がけましょう。早起きの習慣が早寝につながります。

また、規則正しい生活を心がけ、3度の食事はできるだけ同じ時間にとってください。熟睡するためには、適度な運動も有効です。

眠るための環境づくりをする

快適な眠りのためには、寝室の環境づくりが重要です。質の良い睡眠のためには心身をリラックスさせる必要があります。眠る前に、リラックスできる音楽を聴くことなども有効です。さらに、温かいお風呂やマッサージ、ストレッチにもリラックス効果があります。

また、夜にリビングなどで煌々と明かりをつけているということもおすすめできません。明るすぎる照明は入眠の妨げになってしまいますので、夜の照明は明るすぎないようにしましょう。

食べ物や飲み物に気をつける

「お酒は寝つきが良くなるから」と、寝酒をする方も多いのではないでしょうか。確かにアルコールで寝つきは良くなるかもしれませんが、アルコールは寝ている間に体からゆっくり抜けていき、その反動で眠りが浅くなってしまうのです。

寝つきを良くするためにアルコールに頼っていると、だんだんとその効果が薄れていき、反対にアルコールが不眠の原因ともなります。そのため、寝酒の習慣はおすすめできません。

また、コーヒーや紅茶などに含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があります。就寝4時間前のカフェインの摂取、就寝1時間前の喫煙は控えましょう。

加えて、トウガラシなどを使った辛い食べ物も、良質な睡眠の妨げになることがあります。就寝前の過剰摂取は控えてください。

【まとめ】がんと睡眠について

睡眠時間が6時間以下の人は7時間以上の人と比べると、がんの発症リスクが40%上昇します。一方で、睡眠時間が長すぎてもがんの発症リスクを高めてしまいます。

国際的な研究では、1日の睡眠時間が7~8時間が最も発がんリスクが低減するという結果でした。とはいえ、仕事が忙しかったり、なかなか寝つけなかったりと理想的な睡眠時間を確保できないという方も多いと思います。そのような方は、今回お伝えした睡眠障害の対策を試してみてはいかがでしょうか。

がんサポート|がんと睡眠 睡眠ががんを防ぐか
日本オーソモレキュラー医学会(JSOM)|がんに負けない体づくりは|毎日8時間の睡眠から
小野薬品工業株式会|オノオンコロジー|睡眠障害(不眠、過眠)への対策
国立がん研究センター|がん対策研究所 予防関連プロジェクト|睡眠時間と死亡リスクとの関連について
厚生労働省|e-ヘルスネット|不眠症
田辺三菱製薬株式会社/吉富薬品株式会社|スイミンネット|過眠症とは
|睡眠障害対処 12の指針
済生会|しっかり寝ても眠い……これって過眠症?
NINDS|Hypersomnia
長寿科学振興財団|健康長寿ネット|快眠のための環境作り
参照:2022年8月

大塚 真紀

総合内科専門医

東京大学大学院医学系研究科卒。医師、医学博士。博士号は、マウスを用いた急性腎障害に関する研究で取得。専門は、腎臓内科、透析。都内の大学病院勤務を経て、現在は夫の仕事の都合でアメリカ在住。医療関連の記事の執筆や監修、医療系動画監修、企業戦略のための医療系情報収集、医療系コンテンツ制作など幅広く行なう。保有資格:医学博士、総合内科専門医、腎臓内科専門医、透析専門医

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