厚生労働省が認めた新しい医療技術のことを「先進医療」といいます。先進医療に含まれる治療法や手術は、公的医療保険の対象にするかどうか検討している段階であるため、技術料は全額自己負担になります。
ではもし、がんになったときに先進医療を受けるためにはどうすればよいのでしょうか。
今回は、がんに対する先進医療の内容や費用、先進医療を受けられる場所などについてわかりやすく解説します。がんの先進医療を検討している方やご家族はぜひ参考にしてください。
目次
先進医療ってなに?受けられる場所は?
先進医療は、どこでも受けられるものではありません。先進医療の概要と先進医療を受けられる場所について説明します。
先進医療とは?
先進医療は、厚生労働省が認めた高度な医療技術のことで、がんや難病に対する新しい治療法や手術、検査などが含まれます。先進医療は、公的医療保険の対象にするかどうか検討している段階なので、技術料は全額自己負担になります。
厚生労働省が検討した結果、今まで先進医療として認識されていた治療法や手術が公的医療保険の対象になり、先進医療から除外される場合もあります。先進医療に含まれる内容は時間の経過とともに変更になる可能性があるので、現在どのような医療技術が先進医療に含まれているかは、厚生労働省のウェブサイトで確認することができます。
先進医療を受けられる医療機関と受診方法
では、先進医療を受けるにはどうすればよいのでしょうか。
厚生労働省は、先進医療が受けられる医療機関を指定しています。例えば、がんと診断された場合に、先進医療に含まれる治療法が適応になるかどうかは担当医が判断します。もし、先進医療が受けられる医療機関ではない場合には、担当医が紹介状を作成し、その紹介状を持って厚生労働省が指定している医療機関を受診して説明を受けます。
最終的に先進医療を受けるかどうか決定するためには、患者自身の同意が必要です。担当医と相談しながら、先進医療にかかる費用、先進医療を受けることによって得られる治療効果、先進医療を受けることによる副作用などを総合的に考慮し、意思決定することが大切です。
先進医療を受ける場合の注意点
先進医療は、一般的な保険診療を行うなかで、医師が必要性や適応の有無を判断し、患者の希望があった場合に行われるべきものです。
そのため、先進医療を受ける場合でも、一般の保険診療の場合と同様に、医療機関の窓口で被保険者証を提示する必要があります。先進医療の技術料は全額自己負担ですが、先進医療に関わる費用以外(検査、診療、入院料など)は公的医療保険の対象になります。
先進医療を受けた後は、先進医療に関わる費用や検査料、診療費、入院料、食事代などが記載された領収書が発行されます。税金の医療費控除を受ける場合に、領収書が必要になるので大切に保管しておきましょう。
先進医療の対象となる病気や具体的な治療法は?
先進医療の対象となる病気や具体的な内容は、厚生労働省によって決められています。具体的に、どのような病気が対象となるか、治療法にはどのようなものがあるのかご説明します。
先進医療の対象となる病気
先進医療には、診断技術や治療法、手術などが含まれます。先進医療の対象となる病気はさまざまで、アルツハイマー病やインフルエンザ、糖尿病、がんなどのような聞いたことのある病気から、ゴーシェ病、ライソゾーム病などの稀な病気、全身性エリテマトーデスや強皮症のような膠原病などがあります。
また、がんには、乳がん、胃がん、肺がん、卵巣がん、前立腺がん、すい臓がんなど、多くのがんが含まれており、それぞれ適応となる条件が詳しく決められています。詳細については厚生労働省のウェブサイトに先進医療の各技術の概要が掲載されているので、確認することができます。
ただし、先進医療の技術の概要や対象となる病気は、適宜変更になる可能性があることを理解しておく必要があります。
先進医療の具体的な治療法
では、具体的にどのような治療法が先進医療に含まれるのでしょうか。
例として、がんに対する重粒子線治療を挙げてみます。重粒子線治療とは、がんを切らずに治療する方法なので、体への負担が抑えられます。また、重粒子線治療では、放射線の1種である重粒子線をがんに集中的に照射できるので、手術で取り除くことの難しいがんや、重要な臓器の近くにあるがんの治療などで適応されます。
通常の放射線治療に比べて、重粒子線治療はがん細胞以外に与える影響を抑えながら、がん細胞を破壊する力が強いといわれているため、治療期間を短くできることもメリットと考えられています。重粒子線治療のデメリットは、治療できる医療機関が限られており、治療費が高額であることです。
厚生労働省は、重粒子線治療の適応は、肺・縦郭腫瘍、消化管腫瘍、肝胆膵腫瘍、泌尿器腫瘍、乳腺・婦人科腫瘍または転移性腫瘍としており、いずれも根治的な治療法が可能なものに限定しています。
先進医療にかかる費用は高額!保険は必要?
先進医療の技術料は全額自己負担で、高額なことが一般的です。先進医療にかかる費用の目安や任意保険の必要性の有無についてご説明します。
先進医療にかかる費用の目安
先進医療にかかる費用は高額なことが多く、例えばがんに対する重粒子線治療や陽子線治療などは、約300万円かかるといわれています。
基本的に、先進医療の技術料は全額自己負担なので、自分で費用を準備する必要があります。また、先進医療は一般診療を行っているなかで必要と判断された場合に実施されるので、先進医療にかかる費用だけでなく、一般診療にかかる費用も追加されることを理解しておく必要があります。
負担額について具体例を挙げてみます。
医療費の総額が400万円として、先進医療にかかった費用が300万円で、一般診療にかかった費用が100万円と仮定します。
一般診療にかかった費用の100万円は、公的医療保険の対象になるので、3割負担で計算すると自己負担額は30万円になります。最終的な自己負担額は、先進医療にかかった費用の300万円と一般診療にかかった費用のうちの自己負担額である30万円の合計330万円になります。
先進医療に備えるための保険は必要?
もし先進医療を受けることになった場合のために、任意の医療保険やがん保険に加入しておく必要があるかどうか悩む方もいるのではないでしょうか。
厚生労働省が毎年発表している先進医療技術の実績報告によると、2020年7月1日から2021年6月30日までに先進医療を受けた人は、5,843人でした。この数字を見ると、先進医療を受ける確率は高いとはいえません。
一方で、日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで命を落とすといわれています。がんになる確率は高く、治療の選択肢のひとつとして先進医療を受ける可能性は高くはないものの、ありうることです。
あくまで個人の判断にはなりますが、もしものときのために任意の保険に入っておいてもよいかもしれません。そして任意の保険に入る場合には、先進医療に対する保障があるかどうか必ず確認しておきましょう。また、先進医療に対する保障の限度額や条件も必ず見ておく必要があります。一般的には、医療保険やがん保険に先進医療特約をつけることで、先進医療にかかった費用が支払われることが多いようです。
【まとめ】先進医療について
先進医療は、厚生労働省が認めた新しい医療技術のことで、技術料は全額自己負担になります。また、先進医療を受けられる医療機関は、厚生労働省によって指定されています。先進医療を受けるかどうか検討するときには、担当医と相談しながら先進医療にかかる費用や治療効果、デメリットなどを考慮して、最終的に患者が意思決定をすることが大切です。
がんに対する先進医療である重粒子線治療や陽子線治療などは、自己負担額が約300万円と高額であり、自分ですべて用意するのが心配な場合には、任意の医療保険への加入を検討してもよいかもしれません。医療保険やがん保険に加入する際には、先進医療にかかる費用の保障限度額や条件などをよく確認しましょう。
1.厚生労働省|先進医療の各技術の概要
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html
2.厚生労働省|第126回先進医療技術審査部会 資料7 令和3年度先進医療技術の実績報告等について
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000864098.pdf
3.QST病院(旧放射線医学総合研究所病院)|重粒子線治療(がん治療)とは
https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/radiotherapy/carbonion.php
4.国立がん研究センター中央病院|先進医療
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/d001/info/innovative_medicine/index.html
5.SOMPOひまわり生命|先進医療保険
https://www.himawari-life.co.jp/category_senshiniryo/
6.アクサダイレクト生命保険|先進医療保険とは?
https://www.axa-direct-life.co.jp/knowledge/fpcolumn/medical/08.html
参照日:2021年01月