子宮体がんに関係する遺伝子

子宮体がんに関係する遺伝子

産賀 崇由

元モナシュ大学医学部上級研究員

子宮は、女性が妊娠した時に胎児を育てる器官です。女性の骨盤内にあり、成人女性では鶏の卵くらいの大きさです。子宮は、上部の袋状の子宮体部と下部の筒状の子宮頸部に分けられます。子宮体部の左右からは卵管が出ており、子宮の左右には卵巣があります。一方、子宮頸部は下で膣につながっています。

子宮は筋肉で出来ており、子宮の内側は子宮内膜と呼ばれる粘膜で覆われています。子宮内膜は、卵巣から分泌されるエストロゲンの作用を受けると厚くなり受精卵の着床に備えますが、妊娠しなければ剥がれ落ちます。これが月経であり、閉経するまで通常4週間の周期で繰り返されます。

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目次

子宮体がんとは

子宮体部にできるがんですが、子宮内膜から発生することから子宮内膜がんとも言われます。子宮筋層からも腫瘍が発生することがあり、良性のものを子宮筋腫、悪性のものを子宮肉腫と言います。

子宮体がんは、がんが出来た組織により、類内膜がん、漿液性がん、明細胞がん等に分けられます。この内、類内膜がんが最も多く、漿液性がんと明細胞がんは悪性度が高いと言われています。

子宮体がんのリスクファクター

エストロゲンの過剰状態、肥満、糖尿病、未経産、早い初潮、遅い閉経、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、タモキシフェン投与、子宮内膜異型増殖症、Lynch症候群が子宮体がんになるリスクを高めると言われています。

子宮体がんに関係する遺伝子

DNAのコピー数の多型を調べた結果

363人の子宮内膜がんの組織について、遺伝子の本体であるDNAのコピー数の多型を調べたところ、下の図aに示すように子宮内膜がんは4つのタイプに分けることが出来ました。

タイプ1(緑色)、2(紫色)、3(青色)の組織は、ほとんどは類内膜がんタイプで、4(赤色)の組織は漿液性がんと他の混合タイプでした。下の図では、DNAがタンパク質に巻き付いて畳み込まれている染色体の番号順に上から下に、増幅した部分を赤で、欠失した部分を青で示しています。縦の列がそれぞれの患者様の結果です。

Cluster1

1番目のタイプは、目立ったDNAのコピー数の多型はありませんでしたが、他のタイプと比較してDNAの遺伝情報がタンパク質のアミノ酸配列に翻訳されるときに異なったアミノ酸を指令する変異が顕著に多く見られました。

Cluster2 ・Cluster3

2番目と3番目のタイプの違いは、3番目では1番目の染色体の長腕(1q)に増幅が高頻度で見られたことです。また、図bでは4つのタイプについて横軸に生存期間(月)、縦軸に患者様の比率を示していますが、3番目のタイプは2番目のタイプより予後が悪いという結果になりました。

Cluster4

4番目のタイプでは、顕著に多くのDNAのコピー数の多型が見られました。DNAが増幅した部分には、MYC、ERBB2、CCNE1など以前から報告されていたがん遺伝子が含まれていました。また、4番目のタイプでは、代表的ながん抑制遺伝子であるTP53(p53)が高頻度で変異していました。一方、別のタイプのがん抑制遺伝子であるPTENの変異は低頻度にしか見られませんでした。4番目のタイプでは、図bに示されているように他のタイプに比較して予後が悪いという結果になりました。

遺伝子DNAを網羅的に解析した結果

下の図は、248人の子宮体がんの患者様について、子宮体がん組織と正常組織におけるタンパク質のアミノ酸配列を指令する遺伝子DNAを網羅的に解析した結果です。その結果、子宮体がん組織は以下の4つのグループに分けることが出来ました。

1.DNAの変異率の高いグループ

(1)異常にDNAの変異率の高いグループ[POLE (ultramutated)]このグループではDNAの複製に関わるPOLE遺伝子に変異がありました。

2.DNA複製時に核酸塩基のミスマッチがある場合

(2)DNA複製時に核酸塩基のミスマッチがある場合、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2等のミスマッチ修復遺伝子によるミスマッチ修復機構が働いて修復しますが、ミスマッチ修復機構の機能低下により腫瘍組織と正常組織でDNAの中で1~数塩基の塩基配列が繰り返すマイクロサテライトの反復回数にばらつきが生じ、これをマイクロサテライト不安定性(Microsatellite Instability:MSI)と呼びます。この2番目のグループでは、主にMLH1の発現が低下することによりマイクロサテライト不安定性が生じていました[MSI(hypermutated)]。

3.マイクロサテライトが安定している類内膜がんタイプ

(3)DNAの変異率は低く、マイクロサテライトが安定している類内膜がんタイプ[Copy-number low (endometrioid)]。

4.マイクロサテライトが安定している漿液性がんタイプ

(4)DNAの変異率は低く、マイクロサテライトが安定している漿液性がんタイプ[Copy-number high (serous-like)]。

上の図dにまとめたように、これら4つのグループ[(1)POLE(青色)、(2)MSI(緑色)、(3)Copy-number low(オレンジ色)、(4)Copy-number high(赤色)]では、がんに関係する遺伝子の変異率に違いがありました。

それぞれの棒グラフにおいて濃い色はタンパク質のアミノ酸配列が途中で止まる変異(Truncating)、薄い色はタンパク質のアミノ酸配列が変わる変異(Missense)を示しています。

例えば、がん抑制遺伝子の一つであるPTEN遺伝子は、(1)、(2)、(3)のグループで多く変異していましたが、(4)のグループでは変異率は高くありませんでした。一方、別のがん抑制遺伝子であるTP53(p53)遺伝子は(4)のグループで多く変異していました。

子宮体がん組織におけるがんに関係する遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現

遺伝子は、DNAの核酸塩基配列がメッセンジャーRNA(mRNA)の核酸塩基配列に転写され、さらにタンパク質のアミノ酸配列に翻訳されることにより発現し機能しますが、下の図は子宮体がん組織におけるがんに関係する遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)の発現(図a)とタンパク質の発現(図b)を子宮体がんの4つのグループ[(1)POLE(青色)、(2)MSI(緑色)、(3)Copy-number low(オレンジ色)、(4)Copy-number high(赤色)]について、発現量が高ければ赤色、通常であれば黒色、低ければ緑色で示したものです。左から右に各患者様の結果を縦に並べ、上から下に遺伝子やタンパク質の名前を示しています。

ここで注目すべきは、がん抑制遺伝子の一つであるPTEN遺伝子は、(1)、(2)、(3)のグループで多く変異し、(4)のグループでは変異率は高くありませんでしたが、PTENタンパク質の発現は(1)、(2)、(3)のグループで低く、(4)のグループで高いと言うことがです。一方、別のがん抑制遺伝子であるTP53(p53)遺伝子は(4)のグループで多く変異していましたが、タンパク質の発現も高いと言うことが分かりました。

子宮体がん組織の解析

以上の子宮体がん組織の解析から、子宮体がんで主に変化する細胞内シグナル伝達機構についてまとめたのが下の図です。子宮体がん組織のグループごとに示していますが、POLEグループについては例数が少なかったためここでは省略しています。

上のa図は、がん細胞の増殖に関わるRTK/RAS/β-cateninシグナル伝達機構の変化について示しています。左の図は、各遺伝子の相互作用を、一方が他方を促進する場合は→で、抑制する場合は⊥で示しています。遺伝子名の下には左から順にMSI (hypermutated)、Copy number low (類内膜がん)、Copy number high (漿液性がん)の子宮体がんのタイプで、各遺伝子が不活化した場合は青色で、活性化した場合は赤色で、不活化・活性化の程度を色の濃さで示しています。右の図では、各遺伝子が変異していた場合は緑色のバーで、増幅していた場合は赤色の太いバーで示しています。

PI3Kシグナル伝達経路の変化について

上のb図は、がん細胞の増殖、生存、タンパク質合成に関わるPI3Kシグナル伝達経路の変化を示しています。左の図は各遺伝子の相互作用を、右の図は各遺伝子が変異していた場合は緑色のバーで、欠失していた場合は青色の太いバーで示しています。

1.国立がん研究センターがん情報サービス>病名から探す>子宮体がん(子宮内膜がん)>子宮体がん(子宮内膜がん)について
https://ganjoho.jp/public/cancer/corpus_uteri/about.html
2.国立がん研究センター内科レジデント編、がん診療レジデントマニュアル、第8版、医学書院、2019年。
3.Douglas A. Levine & The Cancer Genome Atlas Research Network. Integrated genomic characterization of endometrial carcinoma. Nature volume 497, pages67–73 (2013). https://www.nature.com/articles/nature12113#MOESM83
参照日:2021/10/25

産賀 崇由

元モナシュ大学医学部上級研究員

1964年、岡山県生まれ。広島大学大学院生物圏科学研究科において、神経内分泌学に関する研究により学術博士取得。その後、カリフォルニア大学バークレー校、東京医科歯科大学、早稲田大学、モナシュ大学マレーシア校において研究・教育に携わる。米国留学中に岡山大学医学部名誉教授であった父が大腸がんにより他界したことにより、がんは何故生じるのか、がんを治癒することは可能なのかについて考え始める。主に、がん細胞の遺伝子異常に着目して患者様の疑問に答えて行きたいと思っている。

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