卵巣がんになりやすい人の特徴や原因リスクについて

卵巣がんは頻度は少ないものの、定期的に検査をしていても早期発見の難しい病気です。しかし、一部の卵巣がんは発症しやすい遺伝子の異常が明らかになっていたり、がんになる前の変化が分かっているものもあります。

ここでは卵巣がんに関連した遺伝子や発症の危険性を増やす可能性がある生活習慣などについて紹介しています。自分が卵巣がんになりやすいかどうかを知り、その予防や早期発見について知っておきましょう。

目次

卵巣がんとは

卵巣は子宮の左右に1個ずつある、ウズラの卵くらいの大きさの臓器です。生理周期に合わせて卵子を放出したり、女性ホルモンを分泌する役割があります。

卵巣がんの分類

卵巣がんは細胞の種類による分類があります。

上皮性

最も多い(90%)。卵巣の表面を覆う細胞から出現した腫瘍。
40-60歳代に発症しやすい。
上皮性はさらによくみられる順に漿液性、明細胞がん、類内膜、粘液性、に分けられる。
漿液性と類内膜がんは抗がん剤が効きやすいが、残りの2つは抗がん剤が効きにくいという特徴がある。

胚細胞性

卵細胞由来。若い世代(10-20歳代)に発症する。

性索間質性

間質細胞から発生する。

卵巣がんの頻度

2015年にがんと診断された人の中で卵巣がんは女性の第13位(10万人あたり15.8人)でした。また、2018年がんで死亡した中で卵巣がんは女性の第10位(10万人あたり7.5人)でした。

卵巣がんの主な原因とリスクファクター

チョコレート嚢胞

チョコレート嚢胞は卵巣にできた子宮内膜症です。子宮内膜症とは女性の10人に1人がもつ疾患で、子宮の内膜が本来あるべき子宮の内側だけではなく違う場所にできるものです。

そのうち子宮内膜症が卵巣に発症し、嚢胞を形成したものがチョコレート嚢胞です。チョコレート嚢胞のある人はない人と比較して約8倍卵巣がんになりやすいという報告や、最長17年間経過でチョコレート嚢胞のある人には卵巣がんが0.72%発生しましたが、ない人の発生率は0.012%と大きな差を認めたという報告があります。

チョコレート嚢胞から発症しやすいのは抗がん剤が効きにくい明細胞がんや類内膜がんです。実際にチョコレート嚢胞に対して手術を行ったところ、その3.4%に卵巣癌が合併しており、さらに年齢が上がるとその合併率が増えること、また嚢胞が大きいとがんを合併しやすいことがわかっており、40歳以上で嚢胞の大きさが10㎝以上である場合は精密検査を行い、がん発症のリスクを回避するために手術を考慮します。

女性ホルモン

ゴナドトロピンは性腺刺激ホルモンともよばれ、このホルモンが増加すると女性ホルモンの分泌が増加します。卵巣がんはゴナドトロピンが増加する閉経期の女性に発症し易いことや、ピルを服用するとゴナドトロピンが減少し卵巣がんのリスクが減ることから、ゴナドトロピンや女性ホルモンは卵巣がんに影響を与えていると考えられています。実際に卵巣がんの組織の40%程度にゴナドトロピンの受容体が認められています。

更年期に対するホルモン補充療法は卵巣がんの発症を有意に増やすと報告されていますが、その頻度はホルモン補充療法を行っている1700例のうち1人に発症したという程度であり、過剰に恐れる必要はないと考えられます。

肥満・動物性脂肪

卵巣がんを発症した人の生活習慣を調べた調査では、体重の多い人では卵巣がんの発症が多くみられました。食生活では肉や乳製品といった動物性脂肪の摂取が多かったと報告されています。環境の影響を調査した報告書では米国生まれの日系女性は日本生まれの日本人女性と比較して卵巣がんの発生率は高く、食事の欧米化は卵巣がんの増加の一因と考えられています。

糖尿病

糖尿病の人のがんになりやすさを調べた調査では卵巣がんの発生が2.42倍に増加していました。なぜ糖尿病になると卵巣がんになりやすいのか原因は明らかになっていませんが、糖尿病の人はインスリンが効きにくいタイプが多く、そのためインスリンやインスリン様成長因子1が増加しています。これらのホルモンが卵巣がんの発生に関与しているのではないかと推測されています。

卵巣がんになりやすい人の特徴

年齢・性別

卵巣がんは40歳代から発症が増加し、50歳代前半から60歳代前半が発症のピークとなっています。

卵巣がんに関連した遺伝子

卵巣がんの患者の17.8%は遺伝子異常があったと報告されています。卵巣がんに関連した最も頻度の高い遺伝子異常は遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因になるBRCA遺伝子です。BRCA遺伝子はがんを抑制する遺伝子で、細胞のDNAを修復することで細胞ががんになることを抑える働きがあります。DNAは日常生活における紫外線や化学物質などにより傷つきますが、BRCA遺伝子が正常に働いているとDNAの傷を適切に修復することができます。ところがBRCA遺伝子に異常があるとその修復が適切に行われず、卵巣がんの発症につながります。

BRCA遺伝子はBRCA1とBRCA2があり、どちらの異常でも卵巣がんの危険性が上がります。ある報告では一生涯に卵巣がんを発症する危険性はBRCA1遺伝子の異常で40%、BRCA2遺伝子の異常で18%とされています。

卵巣がんの一部は進行が早く、定期的に検査を受けていても進行がんで発見されることもあるため、BRCA遺伝子に異常があるとわかった場合は保険適応で予防的に卵巣・卵管の切除術を受けることができます。

最近の報告では遺伝性乳がん卵巣がん症候群と診断された人の約3割が卵巣・卵管の予防切除を行っており、手術を受ける時期としては妊娠・出産を終えた後の47歳前後が平均的となっています。BRCA遺伝子の異常は半分の確率で親から子に引き継がれるため、血縁者に乳がんや卵巣がんが多い人は遺伝子検査うけることが予防につながる可能性があります。

出産経験と卵巣がんの関連性

卵巣がんの一部は排卵によって卵巣の表面にキズがつき、その傷を治す最中に発症するものがあります。このタイプの卵巣がんは排卵の回数が多いと発症しやすくなるので、生理の開始が早かった人(早発初経)、閉経が遅い人(晩期閉経)、妊娠回数や出産回数が少ない人が該当します。排卵回数という視点では、授乳している人はしていない人と比較して卵巣がんの発生が少なかった、という報告もあります。経口避妊薬の服用も排卵を抑制するので、卵巣がんのリスクを減らし、その効果は服用中止後10年以上継続すると報告されています。

予防と早期発見のコツ

卵巣がんの予防につながる食べ物

果物や野菜

卵巣がんになった人の食生活を調べたところ、通常と比較して魚や緑黄色野菜、ベータカロチンやビタミンAの摂取が少なく、これらを摂取することが卵巣がんの予防になると考えられています。

アルコール

アルコールは卵巣刺激ホルモンであるゴナドトロピンを抑制し、卵巣がんの危険性を下げると報告されています。

適切な睡眠時間

卵巣がんの発症と睡眠時間を比較した日本の調査では、睡眠時間が7時間以上のグループでは6時間未満と比較して卵巣がんの発症率の低下がみられました。

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春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医