卵巣がん治療と副作用について

卵巣がん治療の基本は手術でできるだけがんをとりのぞき、その後に薬物療法を行うという流れになります。切除する範囲や使用する薬にはいくつかの選択肢がありますが、特に手術後も妊娠を希望している場合には十分に医師と話し合う必要があります。

ここでは卵巣がんに対して行われる治療の基礎知識を紹介します。病院の説明を受ける前に目を通しておくと、多少病院での説明も理解しやすくなるでしょう。

病院で治療方針の説明を聞くときのポイントは、がんの場所やステージ、転移の有無など病気の状態、なぜその治療法がよいのか、その治療のメリットとデメリット、その治療以外の選択肢があるのかないのかといったことを聞くことが重要です。

目次

卵巣がんの主な治療法

卵巣がんの主な治療方法には手術と薬物療法があります。これらの治療は単独で行う場合もあれば、組み合わせて行なうこともありますが、基本は手術を行い、その後薬物療法という流れになります。

早期の卵巣がんは手術前の検査で良性や境界型との区別が難しい場合も多く、良性だと思って手術をしてみたら悪性だった、卵巣内に病変がとどまっていると思ってお腹を開いてみたら別の場所にも転移していた、ということも珍しくありません。

そのため、進行度(ステージ)や細胞の種類は手術を行って最終判断されます。結果によっては再手術が必要になる場合や、病院によっては手術でお腹を開いている間に細胞の検査を行い、その結果によって手術の範囲を変更することもあります。卵巣がんは再発が多いので、手術を行っても術後には薬物療法を行うのが一般的です。

卵巣がんの基本的な治療は手術を先に行ないますが、病気のひろがりが手術できる範囲を超えている場合や、体力的な問題などで手術を受けられない場合は薬物療法を先に行うこともあります。

手術のメリットとデメリット

卵巣がんの手術ではできるだけ病変を切除して、体内のがん細胞を極力減らすことがその後の経過に重要です。

手術は基本的に開腹手術で、両側の卵巣と卵管、そして子宮と大網(たいもう)を切除します。大網とは網目状の脂肪でできた膜で、胃からぶら下がり、腸と腹膜の間にひろがっています。大網は血液が豊富でここにがん細胞が転移すると容易にひろがってしまいます。

卵巣がんは大網に転移しやすいがんなので、手術では大網を切除することが一般的です。その他に病変のひろがりによっては転移の可能性があるリンパ節や大腸、小腸、脾臓なども切除することがあります。

手術のメリット

卵巣がんは術前検査だけで病気のひろがりや細胞の種類を断定することは困難です。卵巣がんの手術は他のがんと比較して治療だけではなく、検査の意味合いが強くなります。

そのため、場合によってはすべてが取り切れないとわかっていても先に手術で病気のひろがり具合や細胞の種類を確認しつつ、可能な範囲の病変を取り除いて、その後結果を踏まえてどのような薬物療法が効くか予測を立てて治療を進めていくこともあります。

つまり、卵巣がんにおける手術はがんを取り除くだけではなく、病気の状態を把握する重要な検査でもあります。

手術のデメリット

卵巣の周りには膀胱、直腸、尿管といった臓器があります。卵巣がくっついていたり、転移が疑われた場合、急遽これらの臓器を切除することもあります。そのため手術後の生活が大きく変わる場合があります。

また、閉経前の人が両側の卵巣を切除すると排卵が無くなり、妊娠することができません。手術後も妊娠を希望している場合には医師と十分に話し合って、再発の可能性などを考慮して、妊娠の可能性を残すことが可能かどうか検討する必要があります。

そして両側の卵巣を切除すると、分泌される女性ホルモンが急に減少するため、手術直後に更年期障害の症状が現れることがあります。これらの症状は長くても数カ月程度で改善します。そのほかに女性ホルモンが減少した影響で骨粗しょう症が進行したり、血液中のコレステロールが増えることもあります。

また、手術前にどんなに検査や準備をしても、手術や全身麻酔による合併症の危険性をゼロにすることはできません。そのため、病院はあらゆる想定をもとに予防や術後の診察を行い、偶発症を早期に発見し迅速に対応するようにしています。しかし、自分の体のことですからすべて病院任せにせず、自分でも偶発症が起きた場合にすぐ気づけるように、自分の手術ではどんな偶発症が起こりうるのかをきちんと聞いておきましょう。

比較的頻度の高い合併症は以下の通りです。

出血
傷口からの出血やおなかの中での出血などがあります。

縫合不全
縫い合わせた部分がしっかりくっつかないこと。

創部感染
手術の傷に細菌が感染すること。

腹腔内膿瘍
おなかの中に膿がたまること。

腹腔内癒着
癒着とは「くっつく」という意味で、手術の刺激などにより腸やおなかの中の臓器などが約半数の人で癒着すると推測されている。その多くは無症状で問題なることは少ないが、10%程度に腹痛の原因になったり、腸の動きが低下して腸閉塞の原因になることがある。

肺炎
全身麻酔時の人工呼吸器などの影響で肺に感染が起きること。
下肢深部静脈血栓・肺血栓塞栓症:足の動きが減ることで、足の血管に血栓(血の塊)ができること。もしくはその血栓が肺に飛んで、肺の血管が詰まること。
下肢リンパうっ滞:手術直後にはリンパの流れがとどまり、足がむくみます。手術直後の足のむくみは約8割の人に起こりますが、多くは一時的です。しかし約2割の人は慢性的なリンパうっ滞により足のむくみが長く続きます。慢性化したむくみは改善しにくくなるので、むくみ始めたときの治療が重要です。

せん妄
手術や入院のストレスなどの原因でおきる意識障害。意味不明な言動や幻覚・幻聴、暴れるといった異常行動がみられる。

薬剤アレルギー
手術で使用される麻酔薬や抗生剤、鎮痛剤などに過敏反応を起こし、蕁麻疹や吐き気、血圧低下や呼吸困難といった症状が現れることがあります。

薬物療法のメリットとデメリット

卵巣がんは再発しやすいため、多くの場合は薬物療法を行います。
卵巣がんで使用される抗がん剤は多くの種類がありますが、初めての治療で使用されることが多い薬はパクリタキセルとカルボプラチンです。その他にドセタキセルやシスプラチンなども使用されます。

抗がん剤

パクリタキセル・ドセタキセル
細胞分裂に関係している微小管に働きかけて、がん細胞の分裂を妨げる。

カルボプラチン・シスプラチン
二本鎖のDNAを結びつけることでがん細胞の複製を阻害する。抗がん剤は通常点滴で行われますが、ときには腹腔内に管を入れて薬を注入することもあります。

卵巣がんは細胞の種類によって抗がん剤の効き方が異なります。一般的に漿液性がんと類内膜がんは抗がん剤が効きやすく、明細胞がんと粘液性がんは効果が得られにくいという特徴があります。

2000年代に入り開発された分子標的薬は、がんが大きくなるために必要な血管新生や細胞増殖にかかわる因子を阻害することで効果を発揮する薬です。抗がん剤単独では効果が得られなかったタイプに対しても分子標的薬を追加することでさらなる効果が期待できます。卵巣がんに適応があるのはベバシズマブやオラパリブです。

分子標的薬

ベバシズマブ
がんが増殖する際に作る新しい血管をつくるのを阻害する

オラパリブ
がん細胞のDNAが傷ついたときに修復できないように阻害し、がん細胞を死滅させる

薬物療法のメリット

薬物療法は全身投与のため、画像検査では確認できないような小さながんに対しても効果を発揮します。

薬物療法のデメリット

薬による副作用の可能性があります。副作用には薬を投与してすぐに現れるものもあれば、後日症状が出たり、投与をやめた後でも症状が続くものもあります。また、症状としては現れなくても、血液検査やレントゲンなどで判明する副作用もあるので、定期的な検査が必要です。

卵巣がんでよく使われる薬の副作用

抗がん剤

パクリタキセル・ドセタキセル
しびれ、発疹、アレルギー反応、汎血球減少、便秘、下痢など

カルボプラチン・シスプラチン
吐き気、下痢、発疹、聴力障害、汎血球減少、急性腎障害など

分子標的薬

ベバシズマブ
高血圧、蛋白尿、消化管穿孔など

オラパリブ
吐き気、倦怠感、貧血、下痢、味覚異常など

放射線治療のメリットとデメリット

卵巣がんは放射線よりも抗がん剤のほうが効果が得られやすいため、卵巣がんに対して放射線治療を行うのはまれです。しかし骨に転移して痛みが強い場合や、脳に転移して神経の症状が現れた場合は症状の緩和目的で放射線照射を行うことがあります。

放射線のメリット

転移先の症状の緩和が可能です。例えば脳転移による麻痺や痺れといった神経症状や、骨に転移した際の痛みなどには放射線療法は有効です。
放射線治療そのものはじっと寝ているだけで行うことができるので、高齢者や体力低下がある場合でも治療を行うことが可能です。また全身状態がよければ通院での治療ができます。

放射線のデメリット

放射線治療の副作用としては放射線が通る皮膚の部分に日焼けのような変化が見られます。そのほかに放射線の通り道に肺や肋骨、腸管がある場合は肺炎や肋骨骨折、腸管出血、腸管穿孔などの副作用が出る場合があります。
また、放射線治療のできる施設は限られており、どこの病院でも可能な治療ではありません。

その他の治療法

腹腔内への抗がん剤投与

厚生労働省が認めた先進医療として点滴によるパクリタキセル投与に加えて、お腹の中に管を留置してカルボプラチンを投与する治療があります。

臨床試験

標準的な治療として確立されてはいませんが、理論上卵巣がんに効果が期待できる治療を受けることができます。限られた病院で実施されています。

緩和ケア

一昔前、緩和ケアは治療法のないがん患者に対して行われるといったイメージでしたが、最近ではすべてのがん患者において肉体的・精神的サポートを行うために緩和ケアが重要と考えられています。そのため、「あなたには緩和ケアが必要です」と言われても、早とちりして「私はもう治療できないんだ」と思わないでください。治療が順調に進んでいても、がん患者さんの多くはがんと宣告されたときから様々な不安を持っています。そしてがんによる症状、治療による副作用、治療後の後遺症に悩む方もいます。そのような肉体的・精神的ケアを行うのが現代の緩和ケアです。

「がんと言われて不安だ」「抗がん剤の治療をしているから吐き気くらいは我慢しなければならない」「治療費がどのくらいか心配だ」といったがんにまつわる様々な不安・症状を取り除くのが緩和ケアです。

卵巣がんの再発や転移について

卵巣がんの再発

卵巣がんは抗がん剤が効きやすいものの、再発しやすいという特徴もあり、半数以上の人が再発します。再発は治療終了後2年以内が多く、再発した場合の生存期間の中央値は約2年と報告されています。

再発時の治療は薬物療法が主体となり、生存期間の延長や症状の緩和が目標となります。使用する薬剤は前回の治療終了後から再発までの期間によって異なります。前回の治療終了から半年以内に再発した場合は前回使用した薬剤に対して抵抗性があると判断され、違う種類の薬を使用します。

卵巣がんの転移

卵巣がんは骨盤内リンパ節や傍大動脈リンパ節、そして大網に転移しやすいので、手術の際にはこれらの臓器を切除することが一般的となっています。その他の転移先としては大腸や小腸、脾臓や肺、骨、脳などがありますが、お腹の中にがん細胞がばらまかれた状態になる腹膜播種(はしゅ)もよく起こります。

卵巣がんは他のがんと比較して転移しやすい病気です。そのため、卵巣がんの治療は目に見えている病変をなくすだけではなく、目に見えないレベルの病変も想定して手術を行ってもその後薬物療法を行うことがほとんどです。その他に、症状緩和を目的として転移先に放射線療法が行われることもあります。

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https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html
https://jsgo.or.jp/guideline/img/ransou2015-04.pdf
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春田 萌

日本内科学会総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医