女性が罹患する確率が最も高いがんが、「乳がん」です。日本人女性の乳がんの罹患数は年々、増加しており、国立がん研究センターの統計によると、2018年の女性の乳がん罹患数は9万3,858人に上ります。
また、1995年に8,000人弱だった乳がんでの死亡数は、2019年には約1万5,000人と増加傾向です。今や女性の9人に1人が罹患する乳がん。
治療には、どれくらいの費用がかかって、どのような流れで治療が行われるのでしょうか。この記事では、乳がんの抗がん剤治療について詳しく解説します。
目次
乳がん治療の流れ
乳がんは、早期の段階で治療を開始すれば、高い生存率が期待できるがんのひとつです。
しかし、乳がんと診断された場合、どのような治療が行われるのか、よくご存じない方も多いでしょう。ここではまず、乳がん治療の流れをみていきましょう。
乳がんの治療方法は大きく3つに分かれる
多くの人は、乳がん治療と聞くと、乳房を切除する「手術」を思い浮かべるのではないでしょうか。
乳がんの治療方法は、大きく3つに分かれます。
- 手術
代表的な治療方法であり、手術で乳房全体や一部を切除する。 - 放射線治療
抗がん剤を使ってがん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりする。 - 抗がん剤療法
病変部に特殊な放射線を照射してがん細胞を小さくする。
そのほか、女性ホルモンに反応して大きくなる性質を持つ乳がんに対して効果的な「ホルモン治療」や、HER2蛋白が過剰発現している乳がんに対し行う「抗HER2療法」などもあります。どのようなタイプの乳がんなのかによって、標準治療を元に治療方法を組み合わせていきます。
乳がん治療の代表的な流れ
乳がん治療は、局所治療(手術治療、放射線治療)と全身治療(抗がん剤治療)を組み合わせて行われるのが一般的です。
初期の乳がんであっても、抗がん剤治療が組み合わせられるのは、乳がんならではの特性にあります。乳がんはほかのがんと比較すると、初期であっても脇の下のリンパ節などにがん細胞が転移しやすい特性があるのです。
乳がん治療の進め方は診断されたときの進行度によって異なります。早期の段階であれば、手術で病変部や周囲のリンパ節を切除し、術後の病理検査などでリンパ節への転移などが見つかった場合は、放射線治療や抗がん剤治療が追加で行われます。
また、がんがある程度大きくなっている場合や、手術前に周囲のリンパ節転移があることが判明している場合は、手術前に抗がん剤治療を行ってがんを小さくしてから手術を行うこともあります。
そして、がんが進行して転移が広がっているような場合には、抗がん剤治療が主体となり、治療の経過によっては手術や放射線治療を行うことがあります。
温存か全摘かは必ず選択しなければならない
乳がんの手術をするときに決めなかればならないのが、乳房を温存するのか全摘するのかということ。いずれの方法にもメリット・デメリットがあり、どちらを選ぶべきとは一概に言えません。
いずれにしても、患者自身が治療後のライフスタイルをよく考えたうえで、医師とよく話し合って納得してから治療方法を決定していくことが重要です。
全摘のメリット・デメリット
全摘のメリットは、再発のリスクを減らせる点にあります。デメリットは乳房がなくなってしまうことのほかに、患者の心理的な負担が大きく、腕が動かしにくくなるなどの後遺症が出る可能性もある点です。
温存のメリット・デメリット
温存することのメリットは乳房が残ることと、患者の心理的な負担が少なくて済む点が挙げられます。早期の段階であれば温存することが可能です。ただし、再発のリスクは全摘よりも高くなってしまいます。
乳がんの抗がん剤治療による副作用
抗がん剤治療と聞くと、「副作用が心配」と思う方も多いのではないでしょうか。抗がん剤の進歩もあり、ひと昔前に比べると副作用は軽くなっています。
また、抗がん剤の副作用を抑える治療も行われていますので、過度に副作用を心配する必要はないでしょう。
とはいえ、抗がん剤の副作用はゼロではありません。自分でわかる副作用と検査でわかる副作用に分けて、抗がん剤治療の主な副作用をみていきましょう。
自分でわかる副作用
自分でわかる副作用は、時期によって異なります。
治療当日
治療当日の副作用としては、発疹、かゆみ、じんましん、呼吸困難、血圧低下、動悸といったアレルギー反応が挙げられます。 また、吐き気や嘔吐、血管痛、発熱、便秘なども治療当日に起こりやすい副作用です。
治療から1週間以内
抗がん剤治療から1週間以内によくみられる副作用は、疲れやすさ、だるさ、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢など。
治療から1週間~2週間
1~2週間ほど経過した頃には、口内炎、下痢、便秘、食欲不振、倦怠感などが起こりやすくなります。
治療から1ヶ月
治療から1カ月ほど経つ頃によくみられる副作用は、脱毛、皮膚の乾燥やしみ、手足のしびれなどです。
検査でわかる副作用
自覚症状はなく、検査をしてみて初めてわかる副作用もあります。治療後1週間後から1カ月後にかけて現れる副作用のひとつが、「骨髄抑制」です。骨髄抑制とは、血液をつくる骨髄の機能が低下することによって、白血球減少、貧血 、血小板減少などが起こります。
白血球減少が減少すると、ウイルスや細菌などに感染しやすい状態になってしまい、血小板が減少すると、血が止まりにくくなったり、あざができやすくなったりします。
ほかにも、心臓や腎臓、肝臓に影響を及ぼす抗がん剤も少なくありません。抗がん剤の種類によっては、生殖機能に影響を及ぼす可能性もあります。妊娠の可能性がある女性や、将来の出産を希望する人は、あらかじめ医師に確認しておきましょう。
乳がんの抗がん剤治療にかかる費用
乳がんの抗がん剤治療は、初期のステージで行われることもあります。
そこで、多くの方が気になるのは、「乳がんの抗がん剤治療にはいくらかかるのか」ということではないでしょうか。ここでは、乳がんの抗がん剤治療にかかる費用をお伝えします。乳がんの検査や検診にかかる費用と合わせてみていきましょう。
ステージや年齢によって治療にかかる費用は異なる
抗がん剤治療にかかる費用は、どの抗がん剤をどのくらいの期間、投与するかによって大きく変動します。どの抗がん剤をどれくらいの期間行うのかは、年齢や進行度合いによって、異なります。
EC療法
手術前治療や手術後(再発予防)の抗がん剤治療で代表的なEC療法は、3週ごとの投与を1コースとして通常4コース行われます。その際の治療費総額は約29万円で、自己負担額は3割負担の場合で約9万円です。
EC療法と目的は同じでも、薬剤が変わると費用も変わります。
AC療法
AC療法の自己負担額は3割負担の場合で約4万円。
トラスツズマブ(分子標的薬)
「HER2」と呼ばれるタンパク質ががんの表面に現れるタイプの乳がんは、このHER2に作用する特殊な分子標的薬であるトラスツズマブという薬剤を使用し、自己負担額は3割負担の場合で約71万円になります。
パクリタキセルとベバシズマブ
一方、転移や再発などで手術ができない場合にも、抗がん剤治療は行われます。この場合、抗がん剤治療は長期にわたり、費用負担も大きくなります。たとえば、パクリタキセルとベバシズマブという薬剤を使用した場合、自己負担額は3割負担で約220万円ほどです。
検査にかかる平均費用
ここで、検査にかかる費用も確認していきましょう。自覚症状の有無によって検査に健康保険が適用されるかどうかが決まります。
自覚症状がない場合、健康保険の適用範囲外です。全額を自己負担する必要がありますが、人間ドックの場合は「超音波検査+マンモグラフィ検査+乳房視触診」で1万円ほど。
超音波検査のみの費用は4,000円ほど、マンモグラフィ検査のみの費用は5,500円前後ほどです。
一般の医療機関で検査を受ける場合は、上記のほかに診察料や初診料がかかるため、総額は2万円から3万円ほどになります。
しこりが触れるなどの自覚症状がある場合は、保険適用されるため、上記の金額の3割が自己負担額となります。
検診にかかる平均費用
自治体や健康保険組合では、乳がん検診を用意していることが一般的です。自治体や健康保険組合が指定する病院で検診は行われます。費用は、無料もしくは数千円程度です。
【まとめ】乳がんの抗がん剤治療について
乳がんの抗がん剤治療について、治療の流れ、副作用、抗がん剤治療を行う際の費用も含めて詳しくご紹介してきました。
乳がんに罹患する女性は年々増えており、今や日本の全女性の9人に1人はかかると言われています。乳がんの予後をよくするためには、一にも二にも早期発見・早期治療が大切です。
自治体や健康保険組合の多くは、無料もしくは数千円で受けられる検診を用意しています。また、自覚症状がなくても乳がんの検査は受けられ、自覚症状があった場合には健康保険も適用されます。
「何か変だな」と思った方はもちろん、何の異変も感じない方でもこの機会に、乳がんの検査を受けてみてはいかがでしょうか。
1.島津製作所|乳がんを知ろう
https://www.shimadzu.co.jp/pinkribbon/learn/index.html#:~:text=%E2%80%9C9%E4%BA%BA%E3%81%AB1%E4%BA%BA,%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82&text=%E3%81%BE%E3%81%9F%E3%80%81%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%AD%BB%E4%BA%A1,%E4%BE%9D%E7%84%B6%E5%A2%97%E5%8A%A0%E5%82%BE%E5%90%91%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
2.国立研究開発法人国立がん研究センター|最新がん統計
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
3.おしえて乳がんのコト|乳がんの治療~治療の流れとステージ・サブタイプ別の治療法~
https://oshiete-gan.jp/breast/diagnosis/treatment/
4.がんの種類別情報 乳がんを学ぶ|治療の流れ
https://ganclass.jp/kind/breast/cure.php
5.おしえて乳がんのコト|治療の全体像
https://oshiete-gan.jp/breast/diagnosis/treatment/overview.html
6.日本乳がんピンクリボン運動|放射線はからだに悪い?/乳がんの放射線治療
https://www.j-posh.com/activity/prnj/1520/#:~:text=%E4%B9%B3%E3%81%8C%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%AE%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E6%B2%BB%E7%99%82,%E3%81%8F%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%A7%E7%85%A7%E5%B0%84%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
7.患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版|Q19.初期治療の考え方と全体の流れについて教えてください。
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g4/q19/
8.Doctor book 医療の今を知る|乳房温存術と全摘術、それぞれのメリット・デメリットは?生存率・再発率に差があるの?
https://doctorbook.jp/contents/285
9.All About 乳がん.Info|抗がん剤の副作用を軽くするための治療はありますか?
https://nyugan.info/allabout/qa/qa5_pharmacotherapy/qa5_2.html
10.薬物療法(抗がん剤治療)のことを知る|■ 化学療法
https://ganjoho.jp/public/qa_links/book/public/pdf/31_139-149.pdf
11.広瀬病院|副作用と日常生活のポイントについて
http://hirose-hp.or.jp/effect.php
12.がん治療費.com|抗がん剤の治療費:乳がん
https://www.ganchiryohi.com/cost/28#link_02
13.がんプラス|乳がんの「治療費」治療法別に知るの費用の一例
https://cancer.qlife.jp/breast/breast_feature/article90.html
参照日:2022年2月