がんは高齢になるほどかかりやすい病気です。ですので、小児がんへの認識はほとんど深まっていないのが現状でしょう。もし、子どもが小児がんになったらどの病院に行けば良いか、どんな治療をするのか、学校はどうするのか…さっぱりわからないという方も多いでしょう。今回はそのような方のために小児がんの基本的な知識についてご説明します。
目次
小児がんって?
小児がんは乳幼児から15歳までの小児がかかるがんの総称です。
小児がんの種類は多種多様ですが、白血病や脳腫瘍がその多くを占めています。毎年2000から2500人が発症し乳幼児が発症するのも稀ではありません。
がんは遺伝する?
父親か母親ががんになりやすい体質(遺伝子異常)を持っている場合、それが子供に遺伝してその子ががんになりやすいということはあります。大人は一定の確率でがんを発症しますので、親ががんだからといって必ずしも子供ががんになるわけではありませんが、家系的に、がんになる人が多かったり、若い年代でがんになっている場合は遺伝する可能性があると言われています。
小児がんの治療は遅れている?
2006年のがん対策基本法で国を挙げた取り組みを始めたあとも、大人のがんに比べてなかなか対策が遅れていると言われています。
小児がんの治療方法
大人のがんと同様に小児がんにおいても、手術・放射線・抗がん剤を組み合わせて治療します。
症例が少なく治療できる病院も限られますので、親としてはどこで治療を受けられるのか頭を悩ませているのが現状のようです。数はかなり少ないものの、厚生労働省が小児がん拠点病院として小児がんにおける位置付けている医療機関があります。(厚生労働用ホームページより)
小児がんの治療は、治るためとはいえ体が完全に成長していない子どもに毒性のある治療をしています。治療後の人生、結婚や出産、就労に影響が出る可能性があるので、治療して終わりではなく長期的な目で見守ることが必要となります。
小児がん特有の問題
性に関するがんの治療の場合
今後、結婚や出産をすることを考えると性臓器を切除する、あるいは悪影響を及ぼす治療をするということはとても大きな問題です。傾向としては臓器温存の方向に向かっていて、放射線など手術をしない選択肢が生まれています。しかし、晩期合併症などの注意が必要です。
女の子の場合、将来子どもを産めるかということも親としては重要なポイントだと思いますが、主治医から妊孕性の話が出ないこともあるようです。例えば化学療法などで妊孕性が損なわれる場合でも精子保存や卵子保存の話が出ないことがあるようですので、患者側から治療前に確認すると良いでしょう。
先進医療について
陽子線や重粒子線という治療があります。強いエネルギーをあてがんを叩くという治療です。これらは放射線をより高度にしたような治療で、例えば、放射線でがん以外のところに照射してしまうとその部位は成長できないということがありますが、陽子線はそれを最小限に抑えることができるのがメリットです。臓器を切除しないで治すということで注目されていますが、がんへの当て方や当てることのできる部位に制約がありますので受けられるかはケースバイケースとなります。
従来からある治療法にも副作用が少なく十分な効果が得られるものありますので、必ずしもこれらのほうが良いということはありません。どの患者さんにどの種類の治療が良いかは主治医との相談になります。
診療拠点病院では相談支援センターの設置が義務付けられています。治療に関して困ったとき、そちらの担当者に話してみると医者とは別のアドバイスがもらえることもありますので頼ってみましょう。
小児がんの医療費
大人のがんと同じように小児がんの治療にも多くの費用がかかります。先に述べたように、治療を受けられる医療機関が限られるため、遠方から通院する必要がありさらにお金がかかるようなこともあります。公的な制度として利用できる可能性があるものをいくつか挙げていきます。該当しそうだと思った方は詳しくお調べいただき自治体やソーシャルワーカーなどに確認してください。
医療費控除
治療するためにかかった費用が一定以上かかった場合、その一部が確定申告で税金の控除を受けることができます。対象となるのは入院、通院費、医薬品の購入費、差額ベッド代(希望した場合は対象外になります)、通院交通費などです。
高額療養費
月ごとにかかった費用を、自己負担限度額を超えた分について支給されます。入院時の食事や部屋代、先進医療の先進技術などは対象になりませんのでご注意ください。
高額療養費貸付 (全国健康保険協会)
現在は上記の通り、自己負担額のみの支払いで済むようになっていますが、手続きが間に合わなかった場合など高額療養費が支給されるまでの間、医療費の支払いに充てる資金として無利で貸付してくれる制度です。
特別児童扶養手当(所得制限あり)
障害のある20 歳未満の児童を養育している者に対する手当てです。内科的疾患や慢性疾患でも認定される可能性がある点が身体障害者手帳とは異なる点です。入院治療が長引く場合、合併症や後遺症がある場合が対象です。
身体障害者手帳
視覚、聴覚、平衡、音声、言語、そしゃく、手足、体幹、人工肛門、人工膀胱、尿路変更の手術を受けた場合、心臓、腎臓又は呼吸器の機能の障害が継続してあり、それらが日常生活に制限を受ける程度の場合交付されます。医療費、交通費、税などの軽減、その他日常生活を支えるさまざまな制度を利用できます。
精神障害者福祉手帳
脳腫瘍のように小児がんの疾患そのもの、あるいは治療の影響により脳に障害がおこり、日常生活に制限を受ける場合、医療費、交通費、税などの軽減、就労など日常生活を支えるさまざまな制度を利用できます。
療育手帳
知的障害の程度によって交付される場合があります。身体障害者手帳と同様、各種福祉サービスが受けられます。地域によって名称が異なります。
傷病手当金
病気やけがで会社を休み、十分な給収入が得られない場合に支給されます。就労をしている小児がん経験者が晩期合併症治療などのために欠勤をしなければならない場合に活用できる制度です。
子どもたちの就学について
体の状態や入院などの治療スケジュールの影響で学校にそれまでと同じように通えなくなることがあります。勉強や友達との交流が制限されるようになると、親はもちろんお子さんも不安になります。
がんであることからその詳細について、誰にどこまで話すかは本人や親の考え次第となりますが、担当教師などに状況を伝えておくことで、学校に通えない間のサポートや復帰してからの学校生活における配慮が得られると思います。また入院中に友達の訪問などがあれば本人も心が和らぎ闘病の支えとなるでしょう。
特別支援学校とは
特別支援学校は、病院に設置されている教育機関で小中学校とほぼ同様の教育課程を行います。これらが病院に設置されている場合は入院中の教育をこの特別支援学校で受けることができます。特別支援学校を利用するには元の学校から一時転入する必要があります。入院中の教育は特別支援学校ともとの学校が連携して進めてゆくことになります。
治療が始まれば、治療を優先しながら学校生活と両立することが理想です。
特別支援学校がない病院は、主治医や看護師と相談しながら日々の学習時間の設定などを考えてゆくことになります。ソーシャルワーカーや保育士に相談できる病院もあります。
終わりに
大人のがんに比べると遅いスピードながら、小児がんに対する支援や治療の幅も徐々に広がってきました。いろいろな情報を得て子どもにとっての最善策を練ることができれば良いと思います。
ご家族、特にご両親はお子さんの治療選択や将来のことに悩まれ、ときに自分を責めて苦しまれることがあるようです。お子さんの治療だけでなく、ご家族にもケアが必要なことは言うまでもありません。支援制度や病院、学校に頼れるところは頼って乗り越えていただきたいと思います。