骨髄異形成症候群(Myelodysplastic Syndromes:MDS)は貧血や出血、倦怠感などの症状が起こる血液のがんの一種です。自覚症状がほとんどない方もいますが、急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia:AML)へと進行する可能性もあります。
本記事では、治療を放置した場合はどうなるのか、治療しない選択肢についても詳しく解説します。骨髄異形成症候群を正しく理解したい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
骨髄異形成症候群(MDS)とは?

骨髄異形成症候群とは、「血液のがん」に分類される病気です。骨髄内で赤血球、白血球、血小板などの正常な血液細胞が適切に生成できなくなります。
造血幹細胞が成熟する途中で成長が止まり、細胞の機能が失われることで、血液細胞の減少や形状、機能に異常が生じます。その結果、貧血・出血傾向・感染症など、さまざまな症状が現れることがあります。
症状の現れ方や重さは個人差があり、全ての血液細胞が減少する場合もあれば、一部のみ減少する場合もあります。骨髄異形成症候群は、急性骨髄性白血病(AML)に進行する場合があるため、早期の診断とリスクの適切な評価が重要です。日本全国で1年間に約6,000例が診断され、70歳以上で急激に発症率が増加します(※1)。
骨髄・造血幹細胞の異常とは
骨髄異形成症候群に関与する血液細胞は、骨髄に存在し、血液のもととなる造血幹細胞から作られます。この細胞は自己複製と分化を繰り返すことで、骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞の2種類を生成し、血液を絶えず供給しています。
しかし、骨髄異形成症候群では血液細胞(白血球、赤血球、血小板など)に以下の異常が生じるとされています。
- 未熟な状態で成長が止まる
- 成長しても細胞が壊れる
- 異常な形態になる
その結果、正常な血液細胞が減り、貧血・皮下出血・倦怠感などの症状が現れます。
治療しないとどうなる?進行の経過と予後

骨髄異形成症候群を治療せずに放置すると、血液細胞の減少による症状が徐々に悪化していきます。さらに、進行すると急性骨髄性白血病へ移行するリスクもあります。
症状が軽い、あるいは無症状の方も少なくありませんが、「今は問題ない」と軽視しないようにしましょう。特に高齢者では体力の低下や合併症の影響も鑑みて、主治医と相談しながら経過や予後を確認することが大切です。
ここでは、治療せずに放置した場合のリスクや、進行した際に起こりうる変化について詳しく解説します。
放置した場合に起こること
骨髄異形成症候群を発症しても、初期には自覚症状がほとんどないという方も存在します。しかし、時間の経過とともに血液細胞が減少し、以下のような症状が現れることがあります。
- 貧血(息切れ、動悸など)
- 感染症にかかりやすくなる
- 出血しやすくなる
これらの症状は日常生活に支障をきたすだけではなく、感染症や出血が重症化すると命に関わる可能性もあります。軽い症状でも自己判断で放置せず、定期的に検査と経過観察を続けることが重要です。
前述の通り、骨髄異形成症候群の発症は70歳以上の高齢者が多い傾向といわれています。そのため、体調や他の病気との兼ね合いを考えながら、無理のない選択をすることが重要です。(※1)
急性骨髄性白血病に進行するケースも
一部の骨髄異形成症候群は、急性骨髄性白血病に進行する場合があり、その移行率はリスク分類によって異なります。
「骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和4年度改訂版」によると、IPSSの低リスク群の移行率が19%なのに対し、高リスク群の移行率は45%という報告がありました。
急性骨髄性白血病へ進行すると、急激な体調悪化を招き、生命を脅かす可能性もあります。したがって、定期的な経過観察のもと、主治医と治療方針を相談し、状況に応じた判断をすることが大切です。骨髄検査を受け、リスクを明確にしておくことが重要といえます。
骨髄異形成症候群(MDS)の主な症状

骨髄異形成症候群になった場合の主な症状は、以下の通りです。
- 貧血による息切れや動悸
- 血小板減少による皮膚の点状出血
- 鼻血や歯茎からの出血
- 倦怠感
- 発熱
一見軽い症状に思えても、放置すると悪化することがあります。実際に、健康診断などの血液検査の異常をきっかけに診断される方も少なくありません。
骨髄異形成症候群はさまざまな病態を持つ疾患であるため、一概にどのような症状が生活に支障をきたすのかは、人によって異なります。身体の異常を感じた場合は医療機関を受診することが大切です。
治療の考え方と選択肢

骨髄異形成症候群の治療方針は、改訂国際予後スコアリング(IPSS-R:Revised International Prognostic Scoring System)と呼ばれる分類に基づいて決定されます。これにより、患者さんは低リスク群と高リスク群に分類され、それぞれのグループに適した治療方法が選択されます。
また、同じリスク群でも患者の年齢・体力・合併症の有無などによって治療方針が変更されるケースもあります。そのため、医師とよく相談しながら、一人ひとりに合った治療方針を設定することが大切です。
ここでは、タイプ別の判断や、治療をしないという選択肢についても詳しく解説します。
タイプ別の「治療すべき」目安
治療方針はリスク群によって異なります。以下で、リスク群別の治療方針について具体的に解説していきます。
低リスク群
まず、低リスク群の一番の目標は、血球減少への対応と改善です。例えば、貧血の兆候が見られた場合は赤血球輸血、血小板減少が見られた場合は血小板輸血や感染症対策を行います。自然経過を進めながら、QOL(生活の質)を維持する支持療法が中心です。
高リスク群
一方、白血病への転化リスクが高いとされる高リスク群は、治療が不可欠です。移植が可能な場合は、同種造血幹細胞移植が検討されます。ただし、実施には年齢や体力、患者さんの背景、ドナーの有無など、さまざまな条件を考慮することが必要です。
高齢や合併症などがある場合は、移植が難しいと判断される場合も少なくありません。移植が難しい例に対しては、抗がん剤であるアザシチジン投与などの薬物療法が選択されます。
治療しない選択肢。なぜ存在する?
骨髄異形成症候群の治療が「完治」だけを目的とするものではないため、「積極的な治療をしない」という選択肢が考えられる理由の一つとなっています。
骨髄異形成症候群の治療目的は「症状を改善してQOL(生活の質)を高め、白血病への進行を抑え、生存期間を延長すること」です。
根治を目指せる治療は同種造血幹細胞移植のみとされていますが、高齢での発症が多いため、移植が難しいケースが少なくありません。そのため、骨髄異形成症候群を治療することよりも、病気のリスクと全身状態(合併症)に応じた適切な治療を行うことが優先されます。
無症状で低リスクと判断された場合には、治療を行わず経過観察を選ぶこともあります。ただし、この場合においても定期的な通院や検査は必要とされています。「治療しない=放置」ではないことを、理解しておきましょう。
骨髄異形成症候群(MDS)のリスク別生存率
骨髄異形成症候群を発症した場合のリスク別生存年数の目安は、以下の通りです。
- Very low(超低リスク):約 8.8年
- Low(低リスク):約 5.3年
- Intermediate(中間リスク):約 3.0年
- High(高リスク):約 1.6 年
- Very high(超高リスク):約 0.8 年(約10カ月)
骨髄異形成症候群の生存期間は、リスク分類によって異なり、個人差があります。ご自身の状態を正しく理解したうえで、主治医と相談しながら方針を決めることが大切です。
診断を受けたら知っておきたい注意点
骨髄異形成症候群は、血液やリンパ系のがんで、免疫が低下しやすくなる病気です。そのため、健康な方ではさほど問題にならないような細菌やウイルスでも、感染して重症化してしまうことがあります。
白血球が少ないと、一般の方が感染しにくいような菌でも感染しやすく、重症化することがあります。例えば、人混みを避ける、マスクをつける、外出後は手洗いを徹底するなどの工夫も必要です。
また、定期的な通院と血液検査で経過を観察している中で、少しでも体調の変化を感じたら、早めに医師へ相談するようにしましょう。
リスクに応じた治療選択をしていこう
骨髄異形成症候群の適切な治療法は、年齢や体力、リスク分類などによって異なります。根治が期待できるのは同種造血幹細胞移植ですが、年齢や体調によっては難しいケースも少なくありません。
骨髄異形成症候群の診断を受けたときは、一人で悩まず、自分に合った治療法を医師と一緒に考えることが大切です。診断を受けて不安を感じたら、がんの専門家への相談も検討しましょう。
(※1)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業) 特発性造血障害に関する調査研究班|骨髄異形成症候群診療の参照ガイド 令和 4 年度改訂版


















