陽子線治療のデメリットとは?費用・副作用・対象がんなど不安要素をわかりやすく解説

陽子線治療のデメリットとは?費用・副作用・対象がんなど不安要素をわかりやすく解説

身体への負担が少ないとされる陽子線治療は、がん治療の選択肢として注目されている治療法の1つです。一方で「自分に合う治療なのか」「費用や副作用はどうなのか」といった疑問を抱く方もいることでしょう。

本記事では、陽子線治療の特徴やメリット・デメリット、他の治療法との違いなどを詳しく解説します。治療法を検討中の方や、家族の選択をサポートしたい方はぜひ参考にしてください。

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目次

陽子線治療とは

出典:陽子線治療とは|筑波大学附属病院 陽子線治療センター

陽子線治療とは、がんを切らずに治療できる「粒子線治療」の一種です。

一般的な放射線治療で使われるX線は透過性が高いため、がんの手前や奥にある正常な組織にも放射線を浴びてしまいます。

一方、陽子線は「ブラッグピーク」という特徴を持ち、体内の特定の深さで止まり、その場所にエネルギーを集中させることが可能です。これにより、がんに的確な線量の放射線を届けつつ、周囲の正常な細胞へのダメージを最小限に抑えられます。

陽子線治療は身体への負担が少ないとされているため、高齢者や手術が難しい方にも選ばれる治療法です。ただし、全てのがんに対応していないため、がんの種類や進行度によって治療が適応外となるケースがあります。

陽子線治療のデメリットは?効果なしと言われる理由

ここでは、陽子線治療のデメリットや効果なしと言われる理由について詳しく解説します。

治療できるがんや対応施設が限られている

陽子線治療で適用可能ながんは、脳腫瘍や頭頸部腫瘍、肝細胞がん、前立腺がん、小児がんなど特定のがんに限られています。全身に転移しているような進行がんは対応できません。

また、陽子線治療を実施している医療機関は全国で約20施設と限られているため(※2025年7月時点)、地域によっては通院や宿泊の負担がかかるほか、治療開始までに順番待ちが必要なケースがあります(※1)

治療費が高くなる場合がある

陽子線治療は、治療費が高額になるケースがあります。保険適用外で先進医療として受ける場合は、照射技術料だけで約300万円かかるとされており、追加として診察・検査費(保険適用)なども発生します(※2)

ただし、頭頸部腫瘍、前立腺がん、小児がんなどといった公的医療保険が適用されるがんの場合は、高額療養費制度や民間保険の「先進医療特約」を利用することで、陽子線治療の費用が補償対象となる場合があり、自己負担を抑えられることも可能です。。

副作用のリスクがある

従来のX線を使った放射線治療と比べ、陽子線治療はがんの部位に集中的に放射線を照射できるようになりました。そのため、周囲の正常な組織への影響がなく、副作用が軽減されるといわれています。ただし、副作用のリスクが全くないわけではありません。

副作用の症状は、がんの種類や照射する場所などによって異なりますが、例えば、肝臓がんに対する治療では、肝機能の低下や、照射した部位の皮膚に日焼けのような赤みが表れることがあります。前立腺がんでは、治療中に頻尿や下痢、皮膚の赤みが見られるケースも見られます。

エビデンスがやや乏しい

陽子線治療は、頭蓋底腫瘍や​​骨軟部腫瘍、小児がんなどの特定がんに対し、従来のX線治療よりも良好な治療成績が報告されています。

ただし、設備やコストの制約から導入施設が限られている陽子線治療は、長期的なデータの蓄積がまだ十分とは言えません。また、科学的根拠においても十分でないケースも見受けられるため、臨床研究の数も限られている状態です。今後、長期的な効果や安全性に関するデータが蓄積されていけば、X線治療との違いや、どのような症例に適用できるかといった点が、より明確になることが期待されています。

陽子線治療のメリット

陽子線治療の最大の特徴は、放射線の効果が最大になるという物理的特性、いわゆる「ブラッグピーク」を有していることです。陽子線のエネルギーの調整によって、がんの細胞に直接照射できるため、周囲の健康な組織への影響を最小限に抑えられます。

そのため、陽子線治療が高齢者や体力面に不安がある方でも治療の選択肢となり、小児や若年者に対しては、治療後の二次がんリスクを抑える効果も期待されています。

また、陽子線治療は原則として通院する形をとっているため、治療を受けながら仕事や日常生活を継続しやすいという利点もあります。副作用も比較的少ないため、生活の質を維持しながらがん治療に取り組めるのも陽子線治療の大きなメリットといえるでしょう。

陽子線治療が向いている人

陽子線治療は、がんが限られた部位にある方や、身体への負担をできるだけ軽くしたい方(高齢者や体力面に不安がある方など)に適しています。

例えば、肝臓がんの場合、病巣が3個以下で肝臓以外に転移がなく、肝機能が比較的保たれている方が治療の対象です(※3)。肺がんの保険適用はⅠ期〜ⅡA期の早期肺がんに限られます(※4)。リンパ節転移がある場合は通常化学放射線療法が主流であり、陽子線治療は保険適用外となることが多いため、医師との十分な相談が必要です。。

なお、陽子線治療は、がんの種類によって公的医療保険の対象となります。具体的には、小児の限局性固形がんや術後に再発した局所大腸がん、直径4cm以上の肝細胞がん、限局性または局所進行性前立腺がんなどがあります(※5)

陽子線治療と他の治療法との違い

「陽子線治療・手術療法・X線治療」の違いは以下の通りです。費用や治療期間は、がんの種類や治療内容によって異なります。

陽子線治療手術療法X線治療
効果がん病巣に集中して放射線を届け、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、高い治療効果が期待できる完全切除できれば根治の可能性が高く、早期がんであれば完治も可能がん細胞のDNAを破壊し縮小・死滅させる。正常組織も影響を受けるが、回復力の差を利用して治療する
メリット正常な組織を保護でき、副作用が少ない。通院での治療も可能。高齢者や合併症のある人にも適応確実な切除が可能で、効果が即時的。転移がなければ治癒の可能性が高い切らずに治療でき、臓器の形や機能を温存しやすい。通院治療可能で、QOLを保ちやすい
費用の目安約280万〜300万円(自由診療)
*一部疾患は保険適用
肺がん:約60万円、大腸がん:約40万円(3割負担)肺がん(定位照射):約22万円、前立腺がん(IMRT):約3万円(3割負担)
治療期間の目安肺がん:10〜22回肺がん(肺葉切除の場合):入院8日間肺がん(定位照射):入院7日間

重粒子線治療との違い

陽子線治療と重粒子線治療は、どちらも先進的な粒子線治療であり、身体の外から放射線をがんに照射して治療を行います。

陽子線には水素、重粒子線には炭素の原子核が使われます。重粒子線の方が細胞を消滅させる力が2〜3倍と高く、従来の放射線が効きにくい腺がんや肉腫に対しても、高い治療効果が期待されています(※6)

一方で、重粒子線は正常な細胞への影響が陽子線により強まる可能性があり、費用も自己負担で約350万円と高額です。ただし、1回の照射による効果が高いため、治療回数が少なく、短期間で終えられるというメリットがあります。

治療法の選択に迷ったときは、専門の医師と十分に相談し、自分が納得できる方法を選びましょう。

陽子線治療の不安はしっかり医師に相談しよう

陽子線治療は、身体への負担が比較的少ない治療法といわれています。年齢や体力面で手術や抗がん剤治療が難しい方々にとっても、治療の選択肢が広がるため、多くの患者さんにとって希望を与える可能性もあります。

一方で、「効果は本当にあるのか」「実際の費用はどれくらいかかるのか」「自分のがんに適応するのか」といった不安や疑問を抱く方も少なくありません。

そうした不安や疑問は、一人で抱え込まずに、専門の医師に相談しましょう。治療の適用や詳細情報、費用のことを踏まえて、自身の状況に踏まえた適切な治療法を見つけるヒントになります。

(※1)厚生労働省|先進医療を実施している医療機関の一覧
(※2)京都府立医科大学附属病院|受診希望の方へ
(※3)筑波大学附属病院陽子線治療センター|治療の対象となる主ながん
(※4)中部国際医療センター|陽子線がん治療センター陽子線治療の対象となるがん
(※5)九州大学大学院医学研究院 臨床放射線科科学分野|重粒子線治療

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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