男性乳がんは非常にまれで、「希少がん」に位置付けられる病気です。情報量が少ないため、「男性が乳がん?」と不安や戸惑いを抱く方もいるでしょう。治療の考え方は基本的に女性乳がんと共通していますが、症状の現れ方や受診のハードルは女性と異なる点があります。
本記事では、男性乳がんの特徴や症状、治療法について解説します。治療法や受診を迷っている方は参考にしてください。
目次
男性乳がんの特徴

男性乳がんは発症数が非常に少ない病気です。女性の乳がんと共通する点がある一方、男性ならではの要因もあります。発症率と原因、共通点や異なる点を見ていきましょう。
男性乳がんの発症率と「なぜ起こるか」
国内の人口10万人あたりの乳がん発症率(罹患率)は、女性が153例であるのに対し、男性は1.1例です(※1)。60代にさしかかると発症者は緩やかに増える傾向です(※1)。
発症リスクには、加齢や家族歴、過去の放射線治療、女性ホルモンが多い状態などが挙げられます。特に、BRCA1およびBRCA2と呼ばれる遺伝子に変異がある場合、発症との関連が示唆されています。
女性乳がんとの共通点と異なる点
男性乳がんは、病気の性質や治療の基本方針が女性乳がんと共通しています。乳がんの進行度(ステージ)に応じて治療法が選択され、外科手術や薬物療法、放射線療法などを組み合わせて治療を行う点も同様です。
一方で、男性乳がんは認知度が低く、乳がん検診やセルフチェックをする機会が少ないため、発見時に進行しているケースも見られます。また、ホルモン療法の選択肢が女性の乳がんと異なる場合があります。
男性乳がんの代表的な症状

男性乳がんと女性乳がんでは、症状の種類自体に大きな違いはありませんが、現れ方が異なります。男性は乳腺が少ないため、乳頭や乳輪付近にしこりができやすい傾向があります。しこりができても痛みを伴わないことも多く、進行してから気づくケースもあるため、注意が必要です。
男性乳がんで見られる代表的な症状
- 乳頭付近のしこり(腫瘤)
- 乳頭の変形
- 乳頭からの出血
- 皮膚の赤みやただれ、湿疹のような変化
- 脇の下のリンパ節の腫れ
上記の症状は、乳腺症などがん以外の疾患でも起こることがあり、見た目だけでの判断は困難です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
男性乳がんの主な治療法
男性乳がんの治療は、基本的に女性の乳がんと同様です。がんの進行の程度や性質(グレード・サブタイプ分類・遺伝子変異など)に応じた標準治療を基本とし、患者さんの身体の状態によって検討されます。手術、抗がん剤治療やホルモン治療などの薬物療法、放射線治療などを組み合わせるのが一般的です。
手術(乳房切除・リンパ節郭清)
男性乳がんは、乳輪・乳頭部に発症しやすく、乳房全切除術が行われるケースが一般的です。がんの広がりに応じて、腋窩(脇の下)のリンパ節を調べるセンチネルリンパ節生検や腋窩リンパ節郭清(かくせい)が行われます。
センチネルリンパ節とは、がん細胞がリンパ管に入り込んだ際、最初にたどり着く腋窩のリンパ節のことです。腋窩リンパ節にがんの転移が認められれば、リンパ節郭清が行われます。
手術後は、腕や肩の動かしにくさ(拘縮:こうしゅく)やリンパ浮腫を生じることがあり、リハビリテーションを継続することが大切です。
抗がん剤治療
抗がん剤治療は薬物療法の一つです。再発のリスクを抑える、手術前にがんを小さくする、あるいは手術が困難な場合に症状を緩和する、といった目的で行われます。
抗がん剤はがん細胞の増殖を抑制して、がん細胞を攻撃します。しかし、正常な細胞にも影響を及ぼすため、肝機能や腎機能の低下、吐き気や脱毛などの副作用が現れることもあるのです。免疫機能も弱まるため、感染に注意が必要です。
ホルモン療法
男性乳がんでは、ホルモン受容体(ER)陽性乳がんが多いとされているため、ホルモン療法が大切な治療の選択肢になります。これは、ホルモンの分泌や働きを抑制し、がん細胞の増殖を防ぐ効果が期待できる治療です。
治療薬には「タモキシフェン」が最初に使用されます。タモキシフェンの効果が乏しい場合、「アロマターゼ阻害薬」や「フルベストラント(抗エストロゲン薬)」などが選択肢として検討されます。主な副作用は、ホットフラッシュや気分変動、性欲低下などです。
放射線治療
放射線治療は、手術と組み合わせて実施されることがあります。手術後にがんが残っている場合にも行われ、リンパ節転移が認められた場合には、手術した胸の範囲全体と、必要に応じて鎖骨周辺のリンパ節領域に照射します。
通院での治療も可能です。皮膚が赤くなったり、ヒリヒリしたりすることがありますが、治療が終了すれば徐々に回復していきます。照射部位が肺にかかる場合は、治療中から終了した後の6カ月以内に発症しやすい放射線肺臓炎に注意が必要です(※2)。
再発した場合の治療
乳がんは再発することがあります。手術を行った側の乳房や周囲の皮膚、リンパ節に生じる「局所領域再発」と、骨や肝臓など離れた臓器に転移する「遠隔再発」として再発するケースがあります。
局所領域の再発のみであれば、治癒を目指して手術が行われ、必要に応じて放射線治療や薬物療法も組み合わせます。一方、遠隔再発では薬物療法が中心となり、ホルモン療法薬や分子標的薬が用いられることが一般的です。HER2(ハーツー:細胞の増殖に関係するタンパク質の一種)陽性の場合は、トラスツズマブなどの抗HER2薬が選択されます。
再発の部位や進行度、過去の治療歴によって適切なアプローチは異なるため、医師とよく相談し、日常生活への影響も含めて治療を選ぶことが大切です。
男性乳がんのステージ別の生存率

日本国内では、女性の乳がんについて臨床進行度別の生存率が集計されています。「限局(局所)」「領域」では生存率が高く、5年相対生存率は90%以上です(※1)。一方「遠隔」では40%以下と報告されています。
しかし、国内では男性乳がんは症例数が少なく、ステージ別の生存率データは十分にそろっていません。一方、アメリカで実施された男性乳がんの大規模調査(2007年から2016年)によると、がんが乳房内に留まっている「限局(局所ともいわれる、がんが乳房内に留まっている状態を指す)」「領域(近くのリンパ節や隣接組織に広がっている状態を指す)」の段階で、5年相対生存率は80%以上、他の臓器への遠隔転移がある場合は25.9%でした。これらの数値が示す通り、がんの進行度と広がりによって大きな差があることがわかります。
男性乳がんの再発率と再発しやすいケース
国内における男性乳がんは、女性と比べて情報やデータが少ないのが現状です。一方、アメリカの大規模調査によると、進行したステージで診断された場合や、初回治療が不十分だった場合に再発リスクが高くなると報告されています。また、再発の部位として、骨や肺、肝臓などに多い傾向があります。
ASCO(American Society of Clinical Oncology;米国臨床腫瘍学会)によると、男性乳がんは治療から15年以上の長期にわたり再発リスクが続くと考えられており、長期的なフォローが不可欠であると言及しています(※3)。遺伝的要因(BRCA変異など)を伴う場合は、再発と併せて他のがんのリスクも高くなるため、注意を払うことが求められます。
治療後の副作用と生活への影響
男性乳がんの治療後は、胸部の突っ張り感や、胸の左右差が生じるといった見た目の変化が、心理的負担になることも少なくありません。
また、抗がん剤治療の場合、倦怠感や脱毛、ホルモン療法ではホットフラッシュや気分の落ち込みが見られることもあります。体調には個人差もあるため、無理をしないことが重要です。
主治医と相談しながらスケジュールを調整していきましょう。勤務時間や業務内容については、職場や上司と相談するのも方法です。
男性乳がんの治療方法や予後に不安がある場合は専門家へ相談を

男性の場合、「女性のイメージが強い乳腺外来を受診するのは気が引ける」「周囲の目が気になる」と感じ、症状が気になっても受診をためらう方もいるでしょう。
自身の異常に気づいたときや不安があるときは、オンラインのがん相談窓口を利用するのも選択肢の一つです。受診の目安や適切な診療科についてアドバイスを受けることができます。また、セカンドオピニオンとしての利用も可能です。身体のお悩みは一人で抱え込まず、専門家に相談することをおすすめします。
(※1)国立がん研究センター がん統計|乳房
(※2)一般社団法人日本呼吸器学会|D-02 放射線肺臓炎 – D. 間質性肺疾患
(※3)ASCO|Management of Male Breast Cancer

















