ピルは乳がんになりやすい?リスクを正しく理解しよう

ピルは乳がんになりやすい?リスクを正しく理解しよう

ピルは、避妊の他にも月経困難症や過多月経といった婦人科疾患の症状改善など、さまざまな用途で服用されています。ピルの服用によって生活の質が向上したという方も少なくありません。

一方で、ピルの服用とそれに付随する乳がんの発症に関する情報を目にすることで、ピルに対する不安や疑問を抱く方も少なくありません。

この記事では、ピルの服用と乳がんの関係性について、研究データに基づいて解説します。ピルの服用を検討している方や、実際に服用している方の参考になりましたら幸いです。

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目次

ピルと乳がんリスクの関係性

海外の研究によると、ピルを服用している方は、服用していない方に比べて、乳がんのリスクが約1.24倍になると報告されています。また、乳がんに加え、子宮頸がんのリスクが上昇したという報告も示唆されています。一方で、リスクの上昇を否定する報告もあるため、服用には慎重な判断が必要です。

参考:経口避妊薬(OC)の安全性についてのとりまと|厚生労働省

しかし、含有エストロゲンの量や製剤の種類によっては、乳がんリスクが上昇しない可能性もあるとされています。

海外の研究では、エチニルエストラジオールの含有量が30μgのピルは、乳がんの発症リスクがわずかに上昇するものの、含有量が20μg以下のものでは乳がん発症リスクの上昇が認められないという結果が報告されています。

参考:低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤 ガイドライン(案)|公益社団法人 日本産科婦人科学会

これらのデータからは、適正な量のピルによる乳がんリスクの増加幅は少ないと言えるでしょう。そのため、ピルの服用を検討する際には、乳がんのリスクだけに目を向けるのではなく、メリットとデメリットの両面も考慮することが必要です。

乳がんのリスクはピルの服用期間によって異なる

海外の研究では、ピルの服用期間が長くなるほど乳がんのリスクがやや高くなる傾向があり、服用期間が10年以上の場合、乳がんのリスクが1.38倍になる可能性があるとされています。
参考:Contemporary Hormonal Contraception and the Risk of Breast Cancer|NEJM

​また、ピルの服用を中止していても、過去に5年以上服用していた方はリスクの上昇が継続したという調査結果も示されています。​ただし、それと同時に、ピルによる乳がんリスクの絶対的な増加は小さいことも明言されているのです。

ピルの服用を中止すれば乳がんリスクは徐々に低下する

一方で、乳がんのリスクは、ピルの服用を中止することで徐々に低下することも明らかにされています。

服用中止後1~4年でリスクは1.16倍、5~9年で1.07倍、10年以降では1.01倍と徐々に低下し、非服用者と同じ水準となります。

​この数値からも、過去にピルを服用していた方も、時間の経過とともに乳がんのリスクが緩やかに下がる傾向が見られるでしょう。

ピルの服用でリスクが低下するがんもある

ピルの服用は、乳がんリスクをわずかに上昇させる可能性がある一方で、卵巣がんや子宮体がん、大腸がんの発生頻度を低下させることが明らかになっています。​

卵巣がんの場合はピルの服用期間に比例してリスクが減少し、子宮体がんではピルの服用の中止後も15年間にわたり、その効果が持続すると報告されています。

乳がんリスクはピル以外に遺伝や生活習慣も影響する

乳がんの発症には、女性ホルモンのバランスの乱れも関与していると考えられています。

特に女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れ、エストロゲンの作用が過剰な状態が続く場合、乳がんのリスクが高まるとされています。

以下のような項目に該当する方は、女性ホルモンの乱れが起こりやすく、乳がんのリスク因子であるとされています。

  • 40歳を超えている
  • 未婚である
  • 高齢出産、あるいは出産未経験である
  • 初潮を迎えた時期が早く、閉経が遅い
  • 閉経後に肥満になった
  • 血縁者に乳がんの罹患者がいる
  • 良性の乳腺疾患になったことがある

生活習慣においては、アルコールの摂取や喫煙も乳がんのリスクを高める要因とされています。​一方で、日常的に適度に運動する習慣は乳がんのリスクを低下させると言われています。

ピルに不安を感じたら乳がん検診と生活習慣の見直しを

乳がんの発症には、複数の危険因子が存在していると考えられています。​ピルの使用に伴うリスクだけでなく、遺伝的要因や生活習慣など、さまざまな要素が乳がんの発症に影響を与える可能性があります。​

したがって、乳がんの予防や早期発見のためには、生活習慣の改善を図り、検診を受けることが重要です。乳がんの予防のために日頃から意識したい主なポイントは以下の4つです。

  • 日常生活で適度に運動する習慣を心がける
  • 禁煙する
  • アルコールの摂取量や頻度を減らす
  • 閉経後の肥満を避ける

ピルの服用に関係なく乳がん検診が重要

乳がんの早期発見には、ピルの服用に関わらず、乳がん検診を定期的に受けることが重要です。

​2022年の日本の乳がん検診の受診率(40~69歳女性)は、47.4%でした(※1)。これは、アメリカやイギリスといった外国の乳がん検診受診率と比較しても低い水準です。また、乳がんは日本人の9人に1人が罹患するとされており(※2)、女性にとっては他人事ではない疾患だと言えるでしょう。

乳がんの5年生存率は、ステージⅠでは90%以上であるのに対し、ステージIVでは約50%にまで低下するとされています(※3)。これらの数値が示すとおり、乳がんは早期発見が重要です。検診によって早期にがんが見つかり、適切な治療を受けることで、予後の改善が見込まれるでしょう。

自己検診や自分の乳房に関心を持つ「ブレスト・アウェアネス」も大切

自己検診は、乳がんの早期発見に有効な方法のひとつです。​定期的に自分の乳房を観察し、しこりといった違和感を覚えた場合は、速やかに医療機関を受診することが求められます。​

また、「ブレスト・アウェアネス」は、自分の乳房を日常的に意識する生活習慣です。​鏡で乳房を観察したり、触れて違和感をチェックしたりすることで、乳がんの早期発見につながります。​特別な技術や手順はないため、日常生活の中に取り入れやすいでしょう。​

参考:ブレスト・アウェアネス|一般社団法人日本乳癌学会

「気になるから検診を受ける」ことももちろん大切ですが、「日頃から自分の体に関心を持つ」ことが、乳がん予防の第一歩となることを意識したいものです。

ピルのリスクだけでなくメリットも理解しよう

ピルには、月経前症候群、月経困難症、過多月経、子宮内膜症などの症状を改善する作用があります。用法・用量を守り、正しく服用すれば、さまざまな症状に悩まされている方のQOLの向上にもつながるでしょう。

ただし、乳がん発症のリスク以外にも、血栓症、吐き気、頭痛などの副作用が報告されています。正しい知識を持ち、医師とよく相談したうえで服用することが大切です。

ピルによる乳がんリスクが心配なときは、信頼できる医師に相談してみよう

今回の記事では、ピルと乳がんリスクの関係性について解説しました。

ピルは乳がんのリスクをわずかながらに上昇させる可能性があるとされていますが、そのリスクは比較的小さいと言われています。また、ピルの服用によってがんのリスクを低下させることや、または月経に関連した疾患の症状緩和が期待できるといったケースもあります。

ピルの服用に際しては、メリットとデメリット、リスクについて十分に理解して判断することが大切です。乳がんのリスクを過度に恐れず、一度信頼できる医師に相談してみましょう。

乳がんの早期発見には、定期的な乳がん検診が欠かせません。あわせて、自己検診やブレスト・ウェアネスにも目を向け、日常生活の習慣として取り入れてみましょう。

(※1)国立がん研究センター|がん検診に関する統計データのダウンロード
(※2)国立がん研究センター|最新がん統計
(※3)国立研究開発法人国立がん研究センター |がんの統計2021

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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