乳がんの転移はどこに起こる?転移する場所や症状・治療法を解説

乳がんの転移はどこに起こる?転移する場所や症状・治療法を解説

乳がんは女性の9人に1人が発症する病気と言われ、女性のがんの中では最も患者数が多い疾患です(※1)

一方で、早期発見・早期治療を行うことで、治癒できる可能性が高い疾患でもあります。国立がん研究センターの報告によると、他の臓器に転移していない乳がん(限局)の場合、5年相対生存率は99.3%(※2)でした。

しかし、リンパ節転移がある場合(領域)は90.0%、遠隔転移がある場合は39.3%という結果が出ており、限局に比べて予後が悪いことがわかっています(※2)。そのため、乳がんは進行する前の段階で発見することが重要です。

本記事では、乳がんの転移する場所や症状、治療法について解説します。転移した場所に応じて適切な検査・治療を受け、改善を図りましょう。

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目次

乳がんの転移と再発の違い

乳がんの再発とは、乳がんになった時点から体内に潜んでいたがん細胞が、初期治療などをくぐり抜けて手術後に現れるものです。手術をした側の乳房やその周囲の皮膚・リンパ節に生じるがんを局所再発と呼び、肺や骨、肝臓や脳などに発生するものを転移もしくは遠隔転移と呼びます。

乳がんの再発は、手術後2〜5年経過したタイミングで起こる場合が多く、再発の時期は進行度や性質によって異なるのが特徴です(※3)
例えば、手術して5年後に肺にがんが発見され、乳がんの転移によるものであれば乳がんの肺転移と診断されます。

乳がんの再発については、下記の記事でも詳しく解説しています。

乳がんが転移する場所と症状

乳がんが転移する場所と起こりうる症状について解説します。万が一、該当する症状がある方は速やかに医療機関を受診してください。

骨転移の症状

乳がんの患者さんの約30%が骨に転移します。血液の流れに乗った乳がん細胞が骨に移り、分裂・増殖を繰り返しながらがんを起こします。骨の中でも主に以下の部位でがんが転移するケースが多いのが特徴です(※4)

  • 腰椎
  • 胸椎
  • 背骨
  • 骨盤
  • 肋骨
  • 頭蓋骨
  • 上腕骨
  • 大腿骨

一方で、膝から下の脚や足の骨、肘から先の腕や手にはほとんど転移は起こりません。

転移後の症状は主に次の4つです。

症状症状の具体例
痛み・転移した骨の箇所に痛みが起こり、数日にわたって続くとされている
骨折・特に体重のかかる部分の骨が弱まることで、激しい痛みを伴う
・腰椎・胸椎・大腿骨で骨折するケースもある
脊髄圧迫・がんが脊椎に転移し、神経である脊髄が圧迫され、手足のしびれや麻痺が起こる場合がある
・放置すると、しびれや麻痺が回復しなくなり、緊急治療が必要になる可能性あり
高カルシウム血症・乳がんが転移した骨からカルシウムが溶け出し、血液内のカルシウム濃度が高くなる場合あり
・主に喉の渇きや頻尿、膨張感や便秘などの症状が現れ、放置すると、脱水症状が起こり、腎機能が低下する場合もあり得る

肺・肝臓・リンパ節転移の症状

肺に転移した場合、咳や息切れが続く場合があります。肝臓の場合は、右側の腹部が張ったり、みぞおちあたりを押さえたときに痛みが生じたりします。リンパ節の場合は、首やわきの下付近に腫れが生じるのが特徴です。

脳転移の症状

脳転移は、初期治療からすぐに現れる場合や、10年経過したタイミングで起こるケースもあります。主な症状として、頭痛・ふらつき・嘔吐・麻痺・けいれん・意識障害などがあります(※5)

脳は、体を動かす司令を出す部位であり、転移巣が起こる場所によって症状が異なるのが特徴です。例えば、手を動かす司令を出す部位に転移巣が起こると、手が動かしにくくなったり、手がしびれたりします。

乳がんの転移を検査する方法

乳がんの転移を検査する方法を解説します。もし、気になる部位に違和感やしこりがある場合は、医療機関で適切な検査を受けましょう。

乳がんの検診については、下記の記事でも詳しく紹介しています。

MRI検査・CT検査・骨シンチグラフィ・PET検査

MRI検査・CT検査・骨シンチグラフィ・PET検査は、手術や放射線治療などを検討するときに実施します。病変の広がりや乳がんの転移を調べることが可能な検査です。

それぞれの検査の概要は以下の通りです。

検査項目概要
MRI検査磁気を使用し、超音波検査やマンモグラフィではわかりにくい小さな病変や広がりを確認する。
CT検査X線を活用し、おもに主に骨や肺などの臓器に転移するがんの有無を確認する。
骨シンチグラフィ骨に集まる放射線を出す薬を注射し、撮影することで、がんが骨に転移しているかを確認する。
PET検査放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を画像化する。MRI検査やCT検査で診断がはっきりしない場合に実施されることがある。

骨シンチグラフィ 骨に集まる放射線を出す薬を注射し、撮影することで、がんが骨に転移しているかを確認する

PET検査 放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を画像化する。MRI検査やCT検査で診断がはっきりしない場合に実施されることがある

超音波(エコー)検査

超音波検査は、しこりの性質や大きさ、乳房内の病変の有無やわきの下のリンパ節への転移の有無を調べる検査です。

超音波を発する超音波プローブ(探触子)を乳房に当て、反射の様子を画像で確認します。高濃度乳房における乳がんの発見がしやすく、放射線による被ばくがないため、妊婦でも検査できます。

腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカー検査は、がんの診断のサポートや診断後の経過・治療効果を確認するために行う検査です。

腫瘍マーカーとは、がんによって作られるたんぱく質などの物質です。乳がんの再発や転移の際、治療効果を確認する参考情報として活用される場合があります。

転移した乳がんを治療する方法

乳がんは骨や肺、肝臓や脳に転移しやすいがんです。治療する場合は、薬物療法を基本とし、症状に応じて以下の治療を施す場合があります。

骨転移の治療法

骨転移の場合は以下の症状に応じた治療を受ける必要があります。

症状治療内容
痛みが強い場合・消炎鎮痛薬や麻薬系鎮痛薬などを服用して痛みを抑える
・痛みが狭い範囲に限定されている場合は、放射線療法を行う(60〜80%の方の痛みを和らげる効果が期待できる)(※4)
・大腿骨頸部・腰椎・胸椎・骨盤といった多重が加わる部位に転移が起きている場合は骨折予防の効果を期待する場合がある
痛みの強い部位がない、あるいは骨折のおそれ恐れがない場合・抗がん薬治療・分子標的治療・ホルモン療法などの全身治療をおこなう行う。
高カルシウム血症の場合・血清中のカルシウム濃度を下げるために、点滴を行うおこなう。

肺・肝臓転移の治療法

肺・肝臓転移の場合は、基本的に薬物療法を行います。

新たに肝臓や肺にがんが生じたのか、それとも乳がんが転移したのか区別がつかない場合は、肝臓の病巣を生検したり、肺の病巣を切除したりして治療します。

脳転移の治療法

脳転移の場合は以下の病状に応じた治療を受ける必要があります。

症状治療内容
病巣が1個・大きさが3cm以上で転移による症状がある場合(※5)・病巣が手術しやすい位置にあり、他の臓器にただちに直ちに生命を脅かすような転移がなく、全身状態が良ければ外科手術で切除する。
脳転移が1個で脳以外の場所に病巣(肺転移や肝転移)がない場合(※5)・手術または定位放射線照射(病巣のみに放射線を当てる)をおこなう。行う
脳転移が多発している場合・ステロイドを投与することで、約半数の患者さんの症状が改善する
・全脳照射(脳全体に放射線を照射する)を行うと、約7割の患者さんの症状が和らぎ、ストロイドを使用するときよりも持続期間が長くなるとされている(※5)

乳がんの転移で手遅れになる前に早期発見・早期治療を

乳がんは、骨や肺、肝臓や脳に転移しやすいがんです。転移する部位によってさまざまな症状が起こります。検査する際は、がんが転移する場所に応じて、MRI・CT・骨シンチグラフィ・PET・超音波(エコー)・腫瘍マーカー検査などを行わなければなりません。

乳がんが転移した部位を発見したら、症状に応じて薬物治療や放射線治療を受ける必要があります。転移によって症状が悪化すると、予後が悪くなり、治療するのが困難になる場合があります。痛みやしこりなどの違和感が生じた場合は、速やかに医療機関を受診し、検査を受けましょう。

(※1)一般財団法人女性労働協会|女性特有のがん
(※2)国立研究開発法人国立がん研究センター|乳房
(※3)日本乳癌学会事務局 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019版|Q40.再発・転移とは,どのような状態なのでしょうか。
(※4)日本乳癌学会事務局 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019版|Q44.骨転移について教えてください。
(※5)日本乳癌学会事務局 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019版|Q45.脳転移について教えてください。
参照日:2024年7月

井林 雄太

医師|日本内科学会認定内科医・日本内分泌内科専門医

福岡ハートネット病院勤務。国立大学医学部卒。日本内科学会認定内科医、日本内分泌内科専門医、日本糖尿病内科専門医の資格を保有。
「一般社団法人 正しい医療知識を広める会」所属。総合内科/内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。
臨床業務をこなしつつ、大手医学出版社の専門書執筆の傍ら、企業コンサルもこなす。「正しい医療知識を広める」医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。 

プロフィール詳細

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