がんで闘病中の患者さんの中で、治療に伴う精神的・肉体的な苦痛に悩んでいる方もいることでしょう。がんの苦痛を和らげる治療やケアを行う施設として、緩和ケア病棟とホスピスがあり、いずれも患者さんの精神的・肉体的な苦痛を取り除くことを目的としていますが、両者に違いはあるのでしょうか。
本記事では緩和ケア病棟とホスピスの違いについてさまざまな角度から比較していきます。
目次
緩和ケアとホスピスケアの違いは?
緩和ケアとは、がん闘病中の患者さんの精神的・肉体的な苦しみを和らげることを目的としたケアのことです。緩和ケア病棟とは、一般的な治療を行う病棟とは異なり、緩和ケアに特化した病棟のことを指します。
一方、ホスピスケア病棟とは、余命の近いがん患者さんが命尽きるまで家族と一緒に自分の希望通り過ごすための療養の場です。緩和ケアとホスピスケアとでは名前は違うものの、治療やケアに相違ありません。どちらも精神的・肉体的な苦痛を緩和することをメインとしています。
両者の主な違いは、対象となる患者の症状や治療の段階です。ホスピスケアが、余命が近づいている患者さんを対象としている一方、緩和ケアは余命が近づいている末期のがん患者さんだけではなく、診断直後のがん患者さんにも幅広く適用されています。
緩和ケアとは
緩和ケアとは、がんのように命を落としかねない重病を患っている患者さんとその家族に対して、精神的、肉体的、スピリチュアル的、社会的な観点からQOL(生活の質)の改善と維持をすることです。
日本においては、がん患者さんに対して緩和ケアが施されることが多く、末期がんの患者さんはもちろん診断初期の患者さんでもケアが受けられます。緩和ケアは、がん治療と並行して行われるのが一般的です。
緩和ケアについてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
ホスピスケアとは
ホスピスケア(Hospice care)は、余命が短い患者さんに対して、精神的・肉体的な苦痛を和らげることを目的としたケアであり、1960年代にイギリスで始まったものです(※1)。日本では1981年に静岡県浜松市の聖隷三方原病院に独立型のホスピスケア病棟が国内で初めて誕生しました(※2)。
ホスピスケアについてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
ホスピスとターミナルケアの違い
ホスピスとよく似た概念として、ターミナルケアがあります。いずれも終末期医療とも呼ばれていますが、両者との相違点は対象となる患者です。
前述の通り、ホスピスは主に終末期のがん患者さんを対象としていますが、ターミナルケアの対象はがんだけでなく、認知症や心不全などの疾患の患者さんです。ターミナルケアでは、病気や老化により残り少なくなった余生を、自分らしく穏やかに過ごせるようなケアが施されます。
緩和ケアとホスピスケアの比較
緩和ケアとホスピスケアとでは、実際に行われる治療内容に相違点がないので、自分がどちらを受けるべきなのかわからないというがん患者さんもいると思います。
そこで、緩和ケアとホスピスケアについてさまざまな面から比較していきましょう。
対象となる患者
がんの場合の緩和ケアの対象は、ステージが進行し闘病している患者さんと、がんと診断された段階の患者さんです。
一方、ホスピスケアは余命が少ないがん患者さんに対して提供され、緩和ケアでがんと診断された患者さんに対して行われることが一般的ですが、ホスピスケアは認知症や老衰も対象となります。
サービス提供場所(病棟)の選択
緩和ケアとホスピスケアとでは、サービスを受けられる場所も異なります。
緩和ケアは病院だけではなく、自宅でも受けることが可能です。入院・通院・自宅(在宅療養)の中から、患者さんの希望や病気の状態、環境、治療方法などに合わせて最適な方法が選ばれます。
ホスピスケアの場合は、基本的に入院してサービスを受けます。
入院条件(症状や余命など)
緩和ケア病棟やホスピスケア病棟への入院条件について、法的基準や特別な決まりを定めていません。とはいえ、誰でも緩和ケア病棟・ホスピス病棟に入院できるわけではありません。入院に関する条件は、緩和ケア病棟やホスピスケア病棟を運営する各医療機関が定めています。入院を希望する場合は各医療機関にお問い合わせてください。
入院期間
特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会の調査によると、緩和ケア病棟の平均在院日数は2018年度では平均29.6日でした(※3)。
一方、ホスピスケア病棟の平均滞在期間は平均して30日から45日ほどという情報です。
現時点、日本では、まだ緩和ケア病棟やホスピスケア病棟が少なく、多くの患者さんがサービスを希望している点や、短期入院の介護報酬の高い点などが影響し、長期入院は難しいのが現状です。
費用
緩和ケア病棟やホスピスケア病棟への入院を希望する方が最も気になることの一つが、入院費用ではないでしょうか。ちなみに、厚生労働省から「緩和ケア病棟」の承認済みのホスピスに入院する場合の費用を含め医療費は定額です。
ご参考までに、1日あたりの入院費用の内訳を医療費1割負担と3割負担の金額を以下の表にまとめています。(※4)。
入院費用 | ||
医療費1割負担 | 医療費3割負担 | |
30日以内 | 約5,000円 | 約15,000円 |
30日以上60日以内 | 約4,500円 | 約13,500円 |
60日以上 | 約3,300円 | 約10,000円 |
(※東京都保健医療局|ホスピス・緩和ケア病棟の入院費はどのくらいかかりますか?をもとに表を作成、数値は2024年5月27日時点)
※医療機関によって金額に差異があるため、おおよその入院費用の数値に「約」と記載
入院費用は入院期間によって定められており、パターンは30日以内、30日以上60日以内、60日以上の3つが用意されています(※5)。入院期間が長くなるほど、1日あたりの自己負担額が軽くなるように設計されています。
入院すると入院費とは別に食費も支払わなければなりませんが、厚生労働省から「緩和ケア病棟」の指定を受けたホスピスに入院する場合の食費は、1食あたり460円、1日1,380円と定額です(※6)。
注意が必要なのは、差額ベッド代は医療機関によって大きく異なる点です。
差額ベッド代とは、患者さんが希望して個室に入院する際の費用ですが、差額ベッド代を1日あたり1,000円ほどに設定している医療機関がある一方、10万円など高額な医療機関もあります。
個室を希望する場合は、事前に自分が入院する医療機関の差額ベッド代がいくらなのかを確認しておきましょう。金額の詳細については、医療機関が決定次第、直接問い合わせることをおすすめします。
緩和ケアやホスピスケアについて家族と話し合ってみよう
緩和ケアとホスピスケアは、いずれも患者さんやその家族の精神的・肉体的な苦痛を和らげることを目的とした医療ケアのことです。ただし、対象となる患者さんは異なります。
がんの場合の緩和ケアは初期段階から末期までのといった複数のステージのがん患者さんが対象で、がん治療と両立して行われることが一般的です。一方、がんにまつわるホスピスケアは基本的には終末期を迎えた患者さんのみが対象で、治療は積極的に行われていません。
日本では緩和ケア病棟もホスピスケア病棟も多くないのが現状であり、需要を十分に満たしているとは言えません。とはいえ、「最期まで自分らしく生きたい」「精神的・肉体的な苦痛を取り除いたうえで、積極的にがん治療に臨みたい」といった患者さんのニーズは年々高まっており、緩和ケア病棟もホスピスケア病棟も増え続けていることは事実です。
また、適切な緩和ケア・ホスピスケアによって余命が延びたというケースも報告されています。終末期のがん闘病時に、緩和ケアやホスピスケアを受けることをご家族と一緒に考えてみてはいかがでしょうか。
(※1)特定非営利活動法人 日本ホスピス緩和ケア協会|ホスピス緩和ケアの歴史と定義
(※2)聖隷三方原病院|ホスピス科
(※3)特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会|1.データでみる日本の緩和ケアの現状
(※4)東京都保健医療局|ホスピス・緩和ケア病棟の入院費はどのくらいかかりますか?
(※5)静岡県立静岡がんセンター|終末期を過ごす場所
(※6)特定非営利活動法人日本ホスピス緩和ケア協会|ホスピス緩和ケアQ&A
参照日:2024年6月